カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ワンナウツ25話(最終回)脚本:「勝負」の世界

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成が高屋敷英夫氏。
今回のコンテ/演出は佐藤雄三監督で、脚本が高屋敷氏。

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  • 今回の話:

ブルーマーズ(巧みなイカサマを行う球団)のイカサマを次々と打破してきた渡久地(球団・リカオンズの謎めいた投手)に、更なる罠が待ち受けるも、渡久地はそれを跳ね返す。そして…。

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まず、サブタイトル「勝利の先に…」であるが、あしたのジョー2(最終回含め、高屋敷氏脚本参加)の、サブタイトルに“…”を入れる法則が適用されている。これは、めぞん一刻カイジ2期最終回(脚本)のサブタイトルにも見られる。

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ブルーマーズ(巧みなイカサマを行う球団)の選手・林と交錯した渡久地(球団・リカオンズの謎めいた投手)は無事だったが、林は痛がり、ファンは不安がる。
高屋敷氏はモブの扱いが上手く、はじめの一歩3期・カイジ2期・あしたのジョー2(脚本)などでも、それは見られる。

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林は担架で運ばれたが、実は全て演技であった。
故意にぶつかりに来た自分をかわした、渡久地の勘の良さを林は評価するも、自分達が仕掛ける更なる罠に自信を覗かせる。
ここは何となく、カイジ2期(脚本)の、大槻達の悪どさに雰囲気が重なる。

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ブルーマーズ一のコーチは、林のラフプレーを謝罪し、渡久地の尻を軽く叩く。
この動作もブルーマーズの罠の一端であることが、アニメではわかりやすくなっている。場面場面をわかりやすくしたり、簡潔にしたりするのは、高屋敷氏脚本作に多々見られる。

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試合をテレビで見る彩川(リカオンズのオーナー)と及川(同・広報部長)の会話も、要点を押さえながら簡潔にする工夫が施されている。
とにかく高屋敷氏は尺の使い方が巧みで、密度の濃い構成が目を引くわけだが、こういった工夫の積み重ねがあるのかもしれない。

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対ブルーマーズ3連戦の前、彩川はブルーマーズヘッドコーチの城丘(バガブーズ球団の城丘監督の弟)と密会していた。
原作とロケーションが違うため、アニメオリジナルでワインが映る。敵役がワインを嗜むのは、忍者戦士飛影(脚本)にも見られた。

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この時、ワンナウツ契約(1アウト取る毎に渡久地に+500万円、1失点毎に渡久地が-5000万円)で負け込んでいる彩川は、城丘(弟)に渡久地潰しを(金で)依頼したのだった。アニメでは、この密会を早めに匂わせている(16話)。器用な時系列操作は、高屋敷氏の十八番。

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時は現在に戻る。9回1死から登板した渡久地(1塁にいて、必要時に登板する)は、球に細工しているのではないかと、ブルーマーズ打者の川端に難癖をつけられる。
アニメオリジナルで放送席が映るが、高屋敷氏は実況・解説への愛が深い。あしたのジョー2・グラゼニらんま1/2(脚本)でも目立つ。

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ここぞとばかりに、ブルーマーズベンチは渡久地に罵声を浴びせる。ここも、モブが生き生きしているし、台詞にバリエーションがある。カイジ2期(脚本)と比較。

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彩川の秘書は、ブルーマーズのコーチが渡久地の尻を叩いた際、彼の尻ポケットに(球に細工するための)紙ヤスリを入れた事を解説。原作もアニメも、この秘書は地味に目立つ。
こういった立場のキャラは、忍者戦士飛影カイジ2期・おにいさまへ…(脚本)等でも目を引く。

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渡久地の提案で、ボールに触った者全員のボディーチェックが行われる事に。川端は、何故か自分のポケットに紙ヤスリが入っていることに気付く。
審判が川端に声をかけるが、彼のイノセントさも印象に残る。はじめの一歩3期・グラゼニあしたのジョー2(脚本)でも、審判に味がある。

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川端は、慌てて自分の訴えを引っ込める。彩川の秘書は、紙ヤスリに気付いた渡久地が、出口(リカオンズ捕手)にそれを渡し、出口が川端の尻ポケットに入れた事に気付く。ここも秘書が優秀。おにいさまへ…あんみつ姫(脚本)ほか、とにかく優秀な部下や腹心は、高屋敷氏担当作で印象深い。

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何もかも見通している渡久地は、川端にボディーチェックを受けろと迫る。川端は謝罪するが、渡久地は土下座しろと言う。
結果、川端は土下座。原作通りだが、ど根性ガエル(演出)、カイジ1・2期(脚本)ほか、高屋敷氏は土下座に縁がある。

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この事態を受け、実況は渡久地を「まさに冷酷、まさに冷血漢!」と評す。原作では「悪党」。
アニメでは以前も、原作の「悪魔」を「勝負師」に変更しており、拘りを感じる。どうあれ、高屋敷氏は善悪の区別を明確にしないポリシーがある。

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「万策尽き果てた」と、城丘(弟)はダラリと手を下げる。手による感情表現は頻出。おにいさまへ…グラゼニ(脚本)と比較。

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こうなると後続も倒れ、リカオンズは勝利。晴れて最下位脱出となる。

リカオンズの皆は、勝利を喜ぶ。喜ぶ姿が可愛く微笑ましいのは、色々な作品に見られる。あんみつ姫(脚本)、宝島(演出)、グラゼニ・DAYS(脚本)と比較。

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渡久地をずっと見守っていた及川も、つられて万歳する。はじめの一歩3期・グラゼニカイジ2期(脚本)ほか、見守り役のキャラを上手く目立たせ構成するのは、高屋敷氏の十八番。

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渡久地のプラスは43億6000万円に。彩川は悔しがって灰皿を投げ、それが及川に当たる(アニメオリジナル。原作だと、まだ彩川には策がある様子)。
上司のヒステリーによる部下の災難は、カイジ・チエちゃん奮戦記(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)等でも強調された。

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一方、リカオンズの皆の歓喜は続く(アニメオリジナル)。
グラゼニ(脚本)と比較すると面白い。

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喜ぶ姿が微笑ましいのは、高屋敷氏自身の野球経験(元球児かつ、高校野球部の監督だった)から来ているのかもしれない。

リカオンズベンチは更に盛り上がり、今井(リカオンズ遊撃手)と出口は喜び合う。ここも可愛い。グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。いずれもアニメオリジナル。

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シリーズ全体を通して、今井は本当に目立っていた。色々なスタッフに愛されていたのかもしれない。

児島(リカオンズのベテラン天才打者)は、自信を取り戻した皆を見て感じ入り、そして渡久地に視線を向ける(アニメオリジナル)。シリーズ全体の軸の一つとして、ずっと児島と渡久地の関係を映し出してきたわけだが、ここでも徹底している。

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児島は渡久地に礼を言うが、渡久地は、まだ浮かれるのは早いとし、沖縄での児島との勝負に負けた結果、自分は(敗者が勝者に従う)「勝負の世界の掟」に則って、(児島が頼んだ)リカオンズ優勝を実現させねばならないと語る(この会話は、原作ではかなり後)。ここは(アニメでの)テーマの核心になっていて、構成の妙に唸る。

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そして…(ここからラストまで全てアニメオリジナル)ペナントレースは続き、今井はグローブを叩いて気合いを入れる。同じ動作は、グラゼニにも見られる(こちらもアニメオリジナル)。

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リカオンズの面々はじめ、様々なキャラが映る。この雰囲気はグラゼニ(二期)最終回(脚本)ラストパート(こちらもアニメオリジナル)とシンクロを起こしており、高屋敷氏の「物語の締め方」が両作に如実に表れていると言える。

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そして、今日も渡久地がマウンドに上がる。リカオンズを優勝させ、児島との決着をつけるために…。
最後に主人公の投球で終わるのは、グラゼニ(1期)最終回(脚本)ラスト(こちらもアニメオリジナル)と共通。これも構成が緻密に計算されているのを感じる。

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  • まとめ

まず、サブタイトルに(あしたのジョー2サブタイトル法則である)“…”を入れる事からも、最終回にあたり、高屋敷氏の気合いの入れようが見られる。
また、まさに「勝利の先に…」というサブタイトル通りの話になっているのも上手い。

実は原作では、このブルーマーズ戦後一波乱、二波乱あるのだが、アニメでは、リカオンズは破竹の快進撃を続けていることになっており、物語のキラキラしている所を切り取って永遠のものにしている。これはF-エフ-やグラゼニのシリーズ構成にも見られる。

アニメで原作の展開に追い付けない、または話数が足りない場合、どこかで原作を区切らないといけないわけだが、本作、F-エフ-、グラゼニ、RAINBOW-二舎六房の七人-のシリーズ構成は、それが抜群に上手く、アニメはアニメとして綺麗に終わっている。

高屋敷氏の(いい意味で)恐ろしい所として、アニメオリジナルのはずの最終回が後々の原作展開を先取りしていたり、原作に忠実なのに、アニメ独自のテーマにすりかわっていたりする事が挙げられる。本作(アニメ)の場合、両方が半々に表れている。

再三述べているが、これは「原作に非常に忠実なのに、監督やスタッフの掲げるテーマや個性が表れている」作品である、じゃりン子チエの脚本を高屋敷氏が多く執筆していた事が大きいと考えられる。同氏の脚本は、じゃりン子チエ以降、より熟練されたものになっている。

じゃりン子チエにシリーズ構成は存在しないが(高畑勲監督がそれをしていた?)、シリーズ全体のコントロールは絶妙だった。
本作の場合も、一貫したテーマのもとに、全話の統制が取れている。

本作(アニメ)は、児島と渡久地の関係を軸に「“勝負”とは何か」を描いている。これを序盤、中盤…と段階的に見せていき、最後の最後(今回終盤の、児島と渡久地の会話)で大強調している。
このあたり、計算が非常に綿密。

今回終盤の児島と渡久地の会話は、原作ではブルーマーズ戦後ではなく、(彩川の陰謀で)渡久地がチームから離されるかもしれない状況になった時に出て来たもの。アニメではそれを、作品にとって非常に重要なものとしてピックアップしている。

高屋敷氏は、この「原作からのピックアップ」のセンスが本当に凄く、毎度唸らされる。同氏は、「原作つきアニメは、原作の販促に過ぎない」という偏見を大きく跳ね返す威力と技術を持っていると言えるし、私はそれを主張していきたい。

そもそも、高屋敷氏と長年一緒に仕事した出崎統氏は、原作つきアニメを多く手掛け、それを芸術の域に高める力を持っていた(そのために大きく原作を変える事でも有名)。高屋敷氏もまた、そういった力があるのは自然な流れ。

また、キャラに目を向けてみると、脇役から主役に至るまでキャラが立っている。
高屋敷氏はキャラを成長させることに長けるが、本作では今井や藤田(リカオン三塁手)の成長も描かれたと思う。今回ラストの、彼らの姿勢や台詞(アニメオリジナル)は感慨深い。

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私的には、本作(2008~2009年放送)は2000年代の高屋敷氏のピークにあたると思うくらい、話数単位でもシリーズ全体でも、構成が見事。2018年放送のグラゼニ(高屋敷氏シリーズ構成・全話脚本)でも、更なるピークが見られ、本当に敬服する。そして同氏の担当作を見るのは、やはり面白い。