カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

ワンナウツ24話脚本:話作りの基礎

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成が高屋敷英夫氏。
今回のコンテ/演出は細田雅弘氏で、脚本が高屋敷氏。

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http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%83%84

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  • 今回の話:

(22~23話で)ようやくブルーマーズ(巧みなイカサマを行う球団)の盗聴作戦を攻略した渡久地(球団・リカオンズの謎めいた投手)は反撃に転じ、更なるイカサマと相対する。一方、彩川(リカオンズオーナー)は渡久地潰しを企む。

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ブルーマーズ(巧みなインチキを行う球団)が使う、ナックルが投げられる特殊球では牽制球が投げられないのを逆手に取り、渡久地(球団・リカオンズの謎めいた投手)は悠々と盗塁する。
ブルーマーズ捕手・沢村は、特殊球がバレたかどうか思考を巡らせる。ここは内容がよくまとまっている。
まとめの上手さは、高屋敷氏の長所。

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更に渡久地は盗塁し3塁へ。沢村は、このとき特殊球と普通球を入れ替えたことに一先安堵。だが渡久地は内心「安心してんじゃねーぞ」と、ほくそ笑む。テンポの良い心の探り合いは、あしたのジョー2(脚本)でも見られた。

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渡久地は、この3連戦において買収してある三原(リカオンズ監督)に、自分の作戦を伝える。
買収の件で凄む渡久地に気圧され、三原は彼に従う。
愛嬌ある中高年キャラは、ルパン三世2nd(演出/コンテ)、1980年版鉄腕アトム(脚本)ほか、高屋敷氏担当作につきもの。

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渡久地が何をやろうとしているのかわからない今井(リカオンズ遊撃手)や藤田(同・三塁手)はキョトンとする。この二人は地味ながら、原作より目立つ。高屋敷氏は脇役を光らせるのが上手く、めぞん一刻カイジ(脚本)でもそれが存分に発揮されていた。

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渡久地の作戦は、無死3塁の状況でスクイズという奇策。間に合いそうに無いのに本塁へ走る渡久地に、今井と藤田は驚愕。ここも二人が原作より目立つ。コンテやアフレコでのアドリブもあるかもしれない。

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当然アウトと思われたが、球がこぼれておりセーフに。これでリカオンズは同点に追い付く。渡久地は、特殊球と普通球を使い分けるために沢村が隠していた球を取り出し、落球のように見せかけたのだった。
これを渡久地がリカオンズの皆に解説する下りも、原作内容が上手くまとめられている。

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沢村は、渡久地の悪どさに戦慄する。ここの沢村のモノローグが少しアレンジされているほか、彼の思考の見せ方が序盤から上手かったためドラマが濃厚になっており、構成の妙が感じられる。

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そして、インチキナックルを封じられたブルーマーズ投手・ウィリアムスは打たれ続けて降板し、リカオンズは逆転。

一方、試合を見る彩川(リカオンズオーナー)が何か企んでいるのを感じた及川(リカオンズ広報部長)は渡久地に電話しようとするが、彩川に見つかって携帯を取り上げられる。ここもまとめ方が上手く、かつBパートへのヒキが巧み。

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及川は、ワンナウツ契約(1アウト毎に渡久地に+500万円、1失点毎に渡久地が-5000万円)での彩川の負け額(42億円)を帳消しにする秘策を彩川が思い付いたとし、自分の推測を語る。キャラが喋っているだけでも緊張や面白さを感じさせる技術は、グラゼニ(脚本)でも光る。

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及川は、当人の事情でベンチの指示に従えない場合、違約金5億円を渡久地が支払うという契約内容を活用するべく、彩川が渡久地潰し(怪我等)を狙っているのでは…と自分の考えを述べる。
及川の瞳に彩川が映るが、同じような表現(鏡や瞳などに真実を映す描写)はF-エフ-・蒼天航路グラゼニ(脚本)にも見られた。

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及川の話を聞いている間、彩川は煙草に火をつける。原作通りだが、相当に強調されており、間の取り方が上手い。
煙草や葉巻を使った感情表現は多い。MASTERキートンめぞん一刻(脚本)と比較。

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彩川は、及川の推測は正解だとしながらも、どういう手段か言い当てられたら百点満点だったと不敵に笑う。ここも、煙草を使った感情/状況の表現が上手い。グラゼニ・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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そして9回表、リカオンズの攻撃。打席に立った渡久地に対し、(ウィリアムスに代わって登板した)南芝は死球寸前の危険な球を投げる。
それを見ながら彩川は邪悪な面を見せる。原作通りだが、豹変は色々な作品で印象に残る。MASTERキートンカイジ2期・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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彩川は、南芝が抜群の制球力を持ち、的確に危険な球を投げられる投手であることを語る。ここも彩川の解説がうまくまとめられている。とにかく高屋敷氏は、原作をアニメの尺に落とし込む技術が凄い。

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危険な球を投げ続ける南芝に対し渡久地は、すっぽ抜けに見せかけてバットを飛ばす。
なんとなく、チエちゃん奮戦記(脚本)の酒瓶飛ばしと比べると面白い(どちらもスピンがかかっているためか)。

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それを見た及川は、思わず喝采してしまう。
高屋敷氏は、主人公や物語を見守る存在を上手く配置するシリーズ構成をする傾向があり、それはカイジ2期やグラゼニのシリーズ構成・脚本でも光る。

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再び渡久地はバットを飛ばし、また危険な球が来たらバットが飛んじゃうかも…と南芝を威圧し、彼の戦意を喪失させる。
監督(佐藤雄三氏)が同じなのも手伝い、カイジ(脚本)において、覚醒して人を圧倒するカイジを彷彿とさせる。

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そしてリカオンズ3点リード(原作では4点リード)の9回裏、ブルーマーズの攻撃。1塁についていた(ピンチ時には登板)渡久地は、巧妙に足をぶつけてきた走者に吹っ飛ばされる。
どちらも原作通りだが、グラゼニ(脚本)における走者と投手の交錯と比べると面白い。

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地面に突っ伏して動かない渡久地を見ながら、「戦いは終わらない…これからさ」と彩川は言うのだった。「これからさ」はアニメオリジナル。これと、実況の「大変な事になってきました」で終わるあたり、次回へのヒキや構成が上手い。

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  • まとめ

まず注目したいのは、沢村の心理描写。テンポがよく、原作の長いモノローグがよくまとまっている。かつまた、これを行ったことで、沢村が渡久地を「悪」だと畏怖する顛末を印象付ける効果を生んでいる。
この事からも、構成の上手さが感じられる。

つくづく思う事であるが、高屋敷氏は原作要素の取捨選択や改変のセンスが凄い。
同氏の脚本は、原作をダラダラ書き写すわけではなく、アニメのテンポと尺を考慮した作りになっており、それが実に見事。

彩川と及川の会話も、原作の長台詞が所々簡潔になっているほか、場が間延びしないようにする工夫が見られる。この技術は、特にグラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)の172324話で遺憾なく発揮されており、凄まじいものがある。*1

今回は、渡久地、沢村、ウィリアムス、南芝、リカオンズの面々、彩川、及川などなどの動向や心理が様々に描かれているわけだが、複数の状況・進行をテンポよく捌く器用さは、じゃりン子チエの脚本ほか、多くの作品で見られる。これも驚異的な技術。

メインキャラを十分に立たせた上での、脇役のキャラ立ちにも注目したい。原作で名無しだったキャラに名前を与える事もあるほど、高屋敷氏のモブや脇役への愛は深い。このあたりも、カイジ(シリーズ構成・脚本)の10番や11番の活躍に活かされていると思う。

忍者戦士飛影にて、高屋敷氏は(後にレギュラーとなる)ダミアンの初登場回の脚本を担当しているが、「ダミアン」という名前が明かされるのは終盤。それでも、彼が好人物である事が存分に描かれた。この事からも、名前が無くともキャラをしっかり立てられる才が、同氏にあると言える。

主人公やレギュラーキャラをしっかり描きながらも、脇役やゲストキャラを引き立たせる…つまるところ、高屋敷氏は全員のキャラを立てている。話作りはキャラ作りから、という論もあるくらいキャラ作りは重要。だからこそ話もビシッと締まっているのかもしれない。