カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ワンナウツシリーズ構成:「謎めいた男」を探る

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成・脚本が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、当ブログのワンナウツ関連記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%83%84

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今回は、ワンナウツのシリーズ構成について考察し、本作を総括する。

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まず主張したいのは、高屋敷氏の(実際の)野球経験。
同氏は、ど根性ガエル(演出)、ワンダービートS(脚本)で野球回を担当したほか、野球アニメであるグラゼニのシリーズ構成・全話脚本を担当しており、野球愛が強い。

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同氏の野球経験については、以前調べた下記を参照:
https://min.togetter.com/iUQxCbe

とにかく野球を愛する高屋敷氏がシリーズ構成・脚本を務めた本作とグラゼニは、同氏の原点が見られる(同性同士の仲睦まじさや以心伝心、喜び方の可愛さなど)。これらの要素は、アカギやカイジなどにも適用されている。

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本作・グラゼニとも投手が主人公で、金が絡んでいるのも面白い。金に関しては、どちらも間違いなくアカギやカイジのシリーズ構成・脚本経験が活かされているほか、古くは宝島(演出)や、空手バカ一代(演出/コンテ)にも見られる要素。

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本編のシリーズ構成に目を向けてみると、概ね「3話区切り」になっている。これは、あしたのジョー2最終3話(対ホセ戦)の脚本を担当したことが大きいのではないだろうか。つまり、シリーズの最小単位を3話としている可能性がある。

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この「3話区切り」、まず、沖縄での児島(天才打者)と渡久地(主人公)の勝負が3話で終わり、プロ野球編へとシフトする話運びを見ても感じられる。そして凄いのが9話。3の倍数であり、対マリナーズ(作中最強球団)戦決着を描いている(サブタイトルも「決着」)。

この、9話に決着回が来る事の何が凄いかというと、カイジ1・2期(シリーズ構成・脚本)も9話が決着回なのである(1期はエスポワール編、2期は地下編が決着)。

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このために、相当な計算が成されていると思う。詳しくは、以前書いた下記を参照:
https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2019/12/15/134856

更に、この9話が凄いのは、渡久地も、カイジ(シリーズ構成・脚本)9話のカイジも、自分の考えや思いを強く主張している点。性格もジャンルも全然違う二人が重なって見えるのは、(いい意味で)非常に恐ろしい。
それだけ、シリーズ構成が巧みと言える。

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また、シリーズ全体を通したサブキャラの配置も上手い。本作の場合は及川(渡久地が属する球団・リカオンズの広報部長)、カイジ1・2期(シリーズ構成・脚本)の場合は石田父子を、物語を見守る者として描写しており、シリーズを支えているものの一つになっている。

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サブキャラといえば、今井(リカオンズ遊撃手)と藤田(同・三塁手)にもスポットが当たっていたことを挙げたい。もともと高屋敷氏はモブや脇役への愛が深いため、彼等は非常に目立っていたし、最終回のアニメオリジナル場面では成長も見られ、感慨深い。

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レギュラー格である出口(リカオンズ捕手)の掘り下げも見事で、渡久地の指示を実行できる手腕があることや、思考やリードの細やかさが描かれた他、敵軍のイカサマに怒り、悔しい心情を吐露するなど、彼が愛すべき人物である事がわかるようになっている。

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一方、憎まれ役でもある彩川(リカオンズオーナー)も、魅力たっぷりなキャラとして上手く表現されている。憎まれ役でも憎めないキャラは、忍者戦士飛影ルパン三世2nd(脚本)などでも印象深い。そもそも高屋敷氏は、善悪のラインを明確にしない作風。

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この「善悪のラインを明確にしない」ポリシーを貫くためなのか、渡久地を評した原作の言葉「悪魔」「悪党」を、アニメでは「勝負師」「冷血漢」に差し替えている。また、本作(アニメ)は「勝負」がキーワードなので、「勝負師」は、そのための改変とも考えられる。

本作のキーワード「勝負」は、序盤・中盤・終盤で、児島と渡久地の関係を通してクローズアップされ、本作を支える柱であることがわかる。この構成は実に見事で、本作がビシッとアニメ作品として完結している要因の一つとなっている。

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渡久地は、序盤は「勝負をなめてる」、中盤は「本気で勝負ってモンと向かい合ってるのか」、終盤は「勝負の世界の掟(により、リカオンズを優勝させる)」と口にする。どこまでも彼は「勝負」に対し真っ直ぐ向き合っている男であることがわかる。

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テーマとなる「勝負」を絡めた児島と渡久地の関係を前面に出すため、序盤(3話)のクライマックスにて児島が渡久地の手を握る場面を大きく強調しているのも唸る。手による感情表現を高屋敷氏は多用するが、その中でもここは屈指の名場面。

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その後も渡久地と児島の関係を強調するための工夫が端々に見られ、アニメオリジナルで児島の場面や感情描写を増やしている。だからこそ中盤・終盤の児島と渡久地の会話が活きる。
いきなりテーマを投げつけないよう、綿密な計算が行われている。

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レギュラーや脇役、モブに至るまで、高屋敷氏は「キャラの掘り下げ」が上手いわけであるが、それは勿論、主人公・準主人公にも適用される。原作では長い時間をかけて、アニメでは緻密な計算によって、渡久地と児島が如何なる人物なのかが突き詰められている。

高屋敷氏は、「自分とは何か」をテーマの一つにすることが多々あるが、だからこそキャラの掘り下げが上手いのかもしれない。得体が知れず謎めいたキャラである渡久地とは何なのかを、同氏なりに探ったのではないだろうか。

アニメなりの掘り下げの着地点として、渡久地は「勝負というものと、厳粛に向き合っている男」となっている。グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)では、主人公の夏之介を「好きで選んだ道(プロ野球)を、誇りと夢を持って進む男」としている。

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このあたり、本作もグラゼニも原作より少し「熱い」。この「熱さ」の塩梅が、高屋敷氏は絶妙。両作とも、一見ドライに見える原作から、ウェットで熱い部分が上手く抽出されており、結果「同じカテゴリの作品を見ている」と、視聴者が両作を見た時感じるようになっている。

最終回の(アニメオリジナルの)締め方が、本作とグラゼニとで殆ど同じなのも感慨深い。今まで登場したキャラが、主人公を見つめる構図は胸が熱くなる。それもこれも、登場人物全員の「掘り下げ」が完了しているからこそだと思える。

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カイジワンナウツ・RAINBOW-二舎六房の七人-・グラゼニ(いずれもシリーズ構成・脚本)とも、状況設定は変化球だが、(アニメでの)テーマは直球。そこには、高屋敷氏の個性と主張も強く表れていると言っていい。

とにかく原作つきにしろアニメオリジナルにしろ、高屋敷氏の担当作(特にシリーズ構成作品)は、最終的に同氏の個性が爆発するようにできている。やはりその技術に脱帽しきり。

本作は間違いなく名作だと言えるし、万人におすすめできる。
レンタルや配信サービスで視聴できるので、是非多くの人に見てもらいたい。

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こちらも紹介:

当ブログの、グラゼニに関する記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%BC%E3%83%8B

ワンナウツ25話(最終回)脚本:「勝負」の世界

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成が高屋敷英夫氏。
今回のコンテ/演出は佐藤雄三監督で、脚本が高屋敷氏。

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  • 今回の話:

ブルーマーズ(巧みなイカサマを行う球団)のイカサマを次々と打破してきた渡久地(球団・リカオンズの謎めいた投手)に、更なる罠が待ち受けるも、渡久地はそれを跳ね返す。そして…。

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まず、サブタイトル「勝利の先に…」であるが、あしたのジョー2(最終回含め、高屋敷氏脚本参加)の、サブタイトルに“…”を入れる法則が適用されている。これは、めぞん一刻カイジ2期最終回(脚本)のサブタイトルにも見られる。

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ブルーマーズ(巧みなイカサマを行う球団)の選手・林と交錯した渡久地(球団・リカオンズの謎めいた投手)は無事だったが、林は痛がり、ファンは不安がる。
高屋敷氏はモブの扱いが上手く、はじめの一歩3期・カイジ2期・あしたのジョー2(脚本)などでも、それは見られる。

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林は担架で運ばれたが、実は全て演技であった。
故意にぶつかりに来た自分をかわした、渡久地の勘の良さを林は評価するも、自分達が仕掛ける更なる罠に自信を覗かせる。
ここは何となく、カイジ2期(脚本)の、大槻達の悪どさに雰囲気が重なる。

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ブルーマーズ一のコーチは、林のラフプレーを謝罪し、渡久地の尻を軽く叩く。
この動作もブルーマーズの罠の一端であることが、アニメではわかりやすくなっている。場面場面をわかりやすくしたり、簡潔にしたりするのは、高屋敷氏脚本作に多々見られる。

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試合をテレビで見る彩川(リカオンズのオーナー)と及川(同・広報部長)の会話も、要点を押さえながら簡潔にする工夫が施されている。
とにかく高屋敷氏は尺の使い方が巧みで、密度の濃い構成が目を引くわけだが、こういった工夫の積み重ねがあるのかもしれない。

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対ブルーマーズ3連戦の前、彩川はブルーマーズヘッドコーチの城丘(バガブーズ球団の城丘監督の弟)と密会していた。
原作とロケーションが違うため、アニメオリジナルでワインが映る。敵役がワインを嗜むのは、忍者戦士飛影(脚本)にも見られた。

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この時、ワンナウツ契約(1アウト取る毎に渡久地に+500万円、1失点毎に渡久地が-5000万円)で負け込んでいる彩川は、城丘(弟)に渡久地潰しを(金で)依頼したのだった。アニメでは、この密会を早めに匂わせている(16話)。器用な時系列操作は、高屋敷氏の十八番。

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時は現在に戻る。9回1死から登板した渡久地(1塁にいて、必要時に登板する)は、球に細工しているのではないかと、ブルーマーズ打者の川端に難癖をつけられる。
アニメオリジナルで放送席が映るが、高屋敷氏は実況・解説への愛が深い。あしたのジョー2・グラゼニらんま1/2(脚本)でも目立つ。

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ここぞとばかりに、ブルーマーズベンチは渡久地に罵声を浴びせる。ここも、モブが生き生きしているし、台詞にバリエーションがある。カイジ2期(脚本)と比較。

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彩川の秘書は、ブルーマーズのコーチが渡久地の尻を叩いた際、彼の尻ポケットに(球に細工するための)紙ヤスリを入れた事を解説。原作もアニメも、この秘書は地味に目立つ。
こういった立場のキャラは、忍者戦士飛影カイジ2期・おにいさまへ…(脚本)等でも目を引く。

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渡久地の提案で、ボールに触った者全員のボディーチェックが行われる事に。川端は、何故か自分のポケットに紙ヤスリが入っていることに気付く。
審判が川端に声をかけるが、彼のイノセントさも印象に残る。はじめの一歩3期・グラゼニあしたのジョー2(脚本)でも、審判に味がある。

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川端は、慌てて自分の訴えを引っ込める。彩川の秘書は、紙ヤスリに気付いた渡久地が、出口(リカオンズ捕手)にそれを渡し、出口が川端の尻ポケットに入れた事に気付く。ここも秘書が優秀。おにいさまへ…あんみつ姫(脚本)ほか、とにかく優秀な部下や腹心は、高屋敷氏担当作で印象深い。

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何もかも見通している渡久地は、川端にボディーチェックを受けろと迫る。川端は謝罪するが、渡久地は土下座しろと言う。
結果、川端は土下座。原作通りだが、ど根性ガエル(演出)、カイジ1・2期(脚本)ほか、高屋敷氏は土下座に縁がある。

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この事態を受け、実況は渡久地を「まさに冷酷、まさに冷血漢!」と評す。原作では「悪党」。
アニメでは以前も、原作の「悪魔」を「勝負師」に変更しており、拘りを感じる。どうあれ、高屋敷氏は善悪の区別を明確にしないポリシーがある。

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「万策尽き果てた」と、城丘(弟)はダラリと手を下げる。手による感情表現は頻出。おにいさまへ…グラゼニ(脚本)と比較。

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こうなると後続も倒れ、リカオンズは勝利。晴れて最下位脱出となる。

リカオンズの皆は、勝利を喜ぶ。喜ぶ姿が可愛く微笑ましいのは、色々な作品に見られる。あんみつ姫(脚本)、宝島(演出)、グラゼニ・DAYS(脚本)と比較。

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渡久地をずっと見守っていた及川も、つられて万歳する。はじめの一歩3期・グラゼニカイジ2期(脚本)ほか、見守り役のキャラを上手く目立たせ構成するのは、高屋敷氏の十八番。

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渡久地のプラスは43億6000万円に。彩川は悔しがって灰皿を投げ、それが及川に当たる(アニメオリジナル。原作だと、まだ彩川には策がある様子)。
上司のヒステリーによる部下の災難は、カイジ・チエちゃん奮戦記(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)等でも強調された。

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一方、リカオンズの皆の歓喜は続く(アニメオリジナル)。
グラゼニ(脚本)と比較すると面白い。

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喜ぶ姿が微笑ましいのは、高屋敷氏自身の野球経験(元球児かつ、高校野球部の監督だった)から来ているのかもしれない。

リカオンズベンチは更に盛り上がり、今井(リカオンズ遊撃手)と出口は喜び合う。ここも可愛い。グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。いずれもアニメオリジナル。

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シリーズ全体を通して、今井は本当に目立っていた。色々なスタッフに愛されていたのかもしれない。

児島(リカオンズのベテラン天才打者)は、自信を取り戻した皆を見て感じ入り、そして渡久地に視線を向ける(アニメオリジナル)。シリーズ全体の軸の一つとして、ずっと児島と渡久地の関係を映し出してきたわけだが、ここでも徹底している。

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児島は渡久地に礼を言うが、渡久地は、まだ浮かれるのは早いとし、沖縄での児島との勝負に負けた結果、自分は(敗者が勝者に従う)「勝負の世界の掟」に則って、(児島が頼んだ)リカオンズ優勝を実現させねばならないと語る(この会話は、原作ではかなり後)。ここは(アニメでの)テーマの核心になっていて、構成の妙に唸る。

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そして…(ここからラストまで全てアニメオリジナル)ペナントレースは続き、今井はグローブを叩いて気合いを入れる。同じ動作は、グラゼニにも見られる(こちらもアニメオリジナル)。

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リカオンズの面々はじめ、様々なキャラが映る。この雰囲気はグラゼニ(二期)最終回(脚本)ラストパート(こちらもアニメオリジナル)とシンクロを起こしており、高屋敷氏の「物語の締め方」が両作に如実に表れていると言える。

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そして、今日も渡久地がマウンドに上がる。リカオンズを優勝させ、児島との決着をつけるために…。
最後に主人公の投球で終わるのは、グラゼニ(1期)最終回(脚本)ラスト(こちらもアニメオリジナル)と共通。これも構成が緻密に計算されているのを感じる。

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  • まとめ

まず、サブタイトルに(あしたのジョー2サブタイトル法則である)“…”を入れる事からも、最終回にあたり、高屋敷氏の気合いの入れようが見られる。
また、まさに「勝利の先に…」というサブタイトル通りの話になっているのも上手い。

実は原作では、このブルーマーズ戦後一波乱、二波乱あるのだが、アニメでは、リカオンズは破竹の快進撃を続けていることになっており、物語のキラキラしている所を切り取って永遠のものにしている。これはF-エフ-やグラゼニのシリーズ構成にも見られる。

アニメで原作の展開に追い付けない、または話数が足りない場合、どこかで原作を区切らないといけないわけだが、本作、F-エフ-、グラゼニ、RAINBOW-二舎六房の七人-のシリーズ構成は、それが抜群に上手く、アニメはアニメとして綺麗に終わっている。

高屋敷氏の(いい意味で)恐ろしい所として、アニメオリジナルのはずの最終回が後々の原作展開を先取りしていたり、原作に忠実なのに、アニメ独自のテーマにすりかわっていたりする事が挙げられる。本作(アニメ)の場合、両方が半々に表れている。

再三述べているが、これは「原作に非常に忠実なのに、監督やスタッフの掲げるテーマや個性が表れている」作品である、じゃりン子チエの脚本を高屋敷氏が多く執筆していた事が大きいと考えられる。同氏の脚本は、じゃりン子チエ以降、より熟練されたものになっている。

じゃりン子チエにシリーズ構成は存在しないが(高畑勲監督がそれをしていた?)、シリーズ全体のコントロールは絶妙だった。
本作の場合も、一貫したテーマのもとに、全話の統制が取れている。

本作(アニメ)は、児島と渡久地の関係を軸に「“勝負”とは何か」を描いている。これを序盤、中盤…と段階的に見せていき、最後の最後(今回終盤の、児島と渡久地の会話)で大強調している。
このあたり、計算が非常に綿密。

今回終盤の児島と渡久地の会話は、原作ではブルーマーズ戦後ではなく、(彩川の陰謀で)渡久地がチームから離されるかもしれない状況になった時に出て来たもの。アニメではそれを、作品にとって非常に重要なものとしてピックアップしている。

高屋敷氏は、この「原作からのピックアップ」のセンスが本当に凄く、毎度唸らされる。同氏は、「原作つきアニメは、原作の販促に過ぎない」という偏見を大きく跳ね返す威力と技術を持っていると言えるし、私はそれを主張していきたい。

そもそも、高屋敷氏と長年一緒に仕事した出崎統氏は、原作つきアニメを多く手掛け、それを芸術の域に高める力を持っていた(そのために大きく原作を変える事でも有名)。高屋敷氏もまた、そういった力があるのは自然な流れ。

また、キャラに目を向けてみると、脇役から主役に至るまでキャラが立っている。
高屋敷氏はキャラを成長させることに長けるが、本作では今井や藤田(リカオン三塁手)の成長も描かれたと思う。今回ラストの、彼らの姿勢や台詞(アニメオリジナル)は感慨深い。

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私的には、本作(2008~2009年放送)は2000年代の高屋敷氏のピークにあたると思うくらい、話数単位でもシリーズ全体でも、構成が見事。2018年放送のグラゼニ(高屋敷氏シリーズ構成・全話脚本)でも、更なるピークが見られ、本当に敬服する。そして同氏の担当作を見るのは、やはり面白い。