カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ワンナウツ24話脚本:話作りの基礎

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成が高屋敷英夫氏。
今回のコンテ/演出は細田雅弘氏で、脚本が高屋敷氏。

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  • 今回の話:

(22~23話で)ようやくブルーマーズ(巧みなイカサマを行う球団)の盗聴作戦を攻略した渡久地(球団・リカオンズの謎めいた投手)は反撃に転じ、更なるイカサマと相対する。一方、彩川(リカオンズオーナー)は渡久地潰しを企む。

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ブルーマーズ(巧みなインチキを行う球団)が使う、ナックルが投げられる特殊球では牽制球が投げられないのを逆手に取り、渡久地(球団・リカオンズの謎めいた投手)は悠々と盗塁する。
ブルーマーズ捕手・沢村は、特殊球がバレたかどうか思考を巡らせる。ここは内容がよくまとまっている。
まとめの上手さは、高屋敷氏の長所。

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更に渡久地は盗塁し3塁へ。沢村は、このとき特殊球と普通球を入れ替えたことに一先安堵。だが渡久地は内心「安心してんじゃねーぞ」と、ほくそ笑む。テンポの良い心の探り合いは、あしたのジョー2(脚本)でも見られた。

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渡久地は、この3連戦において買収してある三原(リカオンズ監督)に、自分の作戦を伝える。
買収の件で凄む渡久地に気圧され、三原は彼に従う。
愛嬌ある中高年キャラは、ルパン三世2nd(演出/コンテ)、1980年版鉄腕アトム(脚本)ほか、高屋敷氏担当作につきもの。

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渡久地が何をやろうとしているのかわからない今井(リカオンズ遊撃手)や藤田(同・三塁手)はキョトンとする。この二人は地味ながら、原作より目立つ。高屋敷氏は脇役を光らせるのが上手く、めぞん一刻カイジ(脚本)でもそれが存分に発揮されていた。

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渡久地の作戦は、無死3塁の状況でスクイズという奇策。間に合いそうに無いのに本塁へ走る渡久地に、今井と藤田は驚愕。ここも二人が原作より目立つ。コンテやアフレコでのアドリブもあるかもしれない。

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当然アウトと思われたが、球がこぼれておりセーフに。これでリカオンズは同点に追い付く。渡久地は、特殊球と普通球を使い分けるために沢村が隠していた球を取り出し、落球のように見せかけたのだった。
これを渡久地がリカオンズの皆に解説する下りも、原作内容が上手くまとめられている。

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沢村は、渡久地の悪どさに戦慄する。ここの沢村のモノローグが少しアレンジされているほか、彼の思考の見せ方が序盤から上手かったためドラマが濃厚になっており、構成の妙が感じられる。

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そして、インチキナックルを封じられたブルーマーズ投手・ウィリアムスは打たれ続けて降板し、リカオンズは逆転。

一方、試合を見る彩川(リカオンズオーナー)が何か企んでいるのを感じた及川(リカオンズ広報部長)は渡久地に電話しようとするが、彩川に見つかって携帯を取り上げられる。ここもまとめ方が上手く、かつBパートへのヒキが巧み。

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及川は、ワンナウツ契約(1アウト毎に渡久地に+500万円、1失点毎に渡久地が-5000万円)での彩川の負け額(42億円)を帳消しにする秘策を彩川が思い付いたとし、自分の推測を語る。キャラが喋っているだけでも緊張や面白さを感じさせる技術は、グラゼニ(脚本)でも光る。

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及川は、当人の事情でベンチの指示に従えない場合、違約金5億円を渡久地が支払うという契約内容を活用するべく、彩川が渡久地潰し(怪我等)を狙っているのでは…と自分の考えを述べる。
及川の瞳に彩川が映るが、同じような表現(鏡や瞳などに真実を映す描写)はF-エフ-・蒼天航路グラゼニ(脚本)にも見られた。

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及川の話を聞いている間、彩川は煙草に火をつける。原作通りだが、相当に強調されており、間の取り方が上手い。
煙草や葉巻を使った感情表現は多い。MASTERキートンめぞん一刻(脚本)と比較。

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彩川は、及川の推測は正解だとしながらも、どういう手段か言い当てられたら百点満点だったと不敵に笑う。ここも、煙草を使った感情/状況の表現が上手い。グラゼニ・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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そして9回表、リカオンズの攻撃。打席に立った渡久地に対し、(ウィリアムスに代わって登板した)南芝は死球寸前の危険な球を投げる。
それを見ながら彩川は邪悪な面を見せる。原作通りだが、豹変は色々な作品で印象に残る。MASTERキートンカイジ2期・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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彩川は、南芝が抜群の制球力を持ち、的確に危険な球を投げられる投手であることを語る。ここも彩川の解説がうまくまとめられている。とにかく高屋敷氏は、原作をアニメの尺に落とし込む技術が凄い。

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危険な球を投げ続ける南芝に対し渡久地は、すっぽ抜けに見せかけてバットを飛ばす。
なんとなく、チエちゃん奮戦記(脚本)の酒瓶飛ばしと比べると面白い(どちらもスピンがかかっているためか)。

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それを見た及川は、思わず喝采してしまう。
高屋敷氏は、主人公や物語を見守る存在を上手く配置するシリーズ構成をする傾向があり、それはカイジ2期やグラゼニのシリーズ構成・脚本でも光る。

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再び渡久地はバットを飛ばし、また危険な球が来たらバットが飛んじゃうかも…と南芝を威圧し、彼の戦意を喪失させる。
監督(佐藤雄三氏)が同じなのも手伝い、カイジ(脚本)において、覚醒して人を圧倒するカイジを彷彿とさせる。

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そしてリカオンズ3点リード(原作では4点リード)の9回裏、ブルーマーズの攻撃。1塁についていた(ピンチ時には登板)渡久地は、巧妙に足をぶつけてきた走者に吹っ飛ばされる。
どちらも原作通りだが、グラゼニ(脚本)における走者と投手の交錯と比べると面白い。

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地面に突っ伏して動かない渡久地を見ながら、「戦いは終わらない…これからさ」と彩川は言うのだった。「これからさ」はアニメオリジナル。これと、実況の「大変な事になってきました」で終わるあたり、次回へのヒキや構成が上手い。

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  • まとめ

まず注目したいのは、沢村の心理描写。テンポがよく、原作の長いモノローグがよくまとまっている。かつまた、これを行ったことで、沢村が渡久地を「悪」だと畏怖する顛末を印象付ける効果を生んでいる。
この事からも、構成の上手さが感じられる。

つくづく思う事であるが、高屋敷氏は原作要素の取捨選択や改変のセンスが凄い。
同氏の脚本は、原作をダラダラ書き写すわけではなく、アニメのテンポと尺を考慮した作りになっており、それが実に見事。

彩川と及川の会話も、原作の長台詞が所々簡潔になっているほか、場が間延びしないようにする工夫が見られる。この技術は、特にグラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)の172324話で遺憾なく発揮されており、凄まじいものがある。*1

今回は、渡久地、沢村、ウィリアムス、南芝、リカオンズの面々、彩川、及川などなどの動向や心理が様々に描かれているわけだが、複数の状況・進行をテンポよく捌く器用さは、じゃりン子チエの脚本ほか、多くの作品で見られる。これも驚異的な技術。

メインキャラを十分に立たせた上での、脇役のキャラ立ちにも注目したい。原作で名無しだったキャラに名前を与える事もあるほど、高屋敷氏のモブや脇役への愛は深い。このあたりも、カイジ(シリーズ構成・脚本)の10番や11番の活躍に活かされていると思う。

忍者戦士飛影にて、高屋敷氏は(後にレギュラーとなる)ダミアンの初登場回の脚本を担当しているが、「ダミアン」という名前が明かされるのは終盤。それでも、彼が好人物である事が存分に描かれた。この事からも、名前が無くともキャラをしっかり立てられる才が、同氏にあると言える。

主人公やレギュラーキャラをしっかり描きながらも、脇役やゲストキャラを引き立たせる…つまるところ、高屋敷氏は全員のキャラを立てている。話作りはキャラ作りから、という論もあるくらいキャラ作りは重要。だからこそ話もビシッと締まっているのかもしれない。

ワンナウツ21話脚本:軸となる二人

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成が高屋敷英夫氏。
今回のコンテ/演出は池田重隆氏で、脚本が高屋敷氏。

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本記事を含めた、当ブログのワンナウツ関連記事一覧:

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  • 今回の話:

リカオンズ(謎めいた投手・渡久地の属する球団)対ブルーマーズ(組織的なイカサマを行う球団)の第3戦が始まった(ここまで1勝1敗)。リカオンズは、3パターンのサインを上手く使い分けてブルーマーズを撹乱しようとするが、悉くサインを読まれてしまう。

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1勝1敗で迎えたブルーマーズ(組織的なイカサマを行う球団)との第3戦を前に、リカオンズ(謎めいた投手・渡久地の属する球団)はミーティングを行う。冴島(リカオンズコーチ)の台詞が色々追加されており、愛嬌がある。愛嬌ある中高年キャラは定番で、ど根性ガエル(演出)にも見られる。

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児島(リカオンズのベテラン天才打者)は、勝てば最下位脱出の可能性があると気負う。児島が渡久地を見るという行動がアニメオリジナルで追加されており、シリーズ全体で渡久地と児島の関係を際立たせる方針が貫かれている。こういった、人と人との関係の強調は、宝島(演出)やカイジ2期(脚本)にも出ている。

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この3連戦の間、渡久地に買収されている三原(リカオンズ監督)は、指示通りに動くよう渡久地に念押しされ茫然とする。ここも三原が可愛い。可愛い中高年キャラは高屋敷氏担当作で実に目立つ。グラゼニ(脚本)、宝島(演出)、F-エフ-(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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渡久地は、3パターンあるサインを、攻撃時は自軍の、守備時は敵軍の選手の背番号を3で割った時に出た余りの数によって切り替えていく事を提案する(割りきれた場合はパターン3)。なんとなく雰囲気が、ど根性ガエル15話A(演出)と重なる。

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今井(リカオンズ遊撃手)や藤田(同・三塁手)は、渡久地の提案を面白がり、賛成する。この二人は、シリーズを通して原作より目立つ。脇役やモブを引き立たせるのは、高屋敷氏の十八番。ここも、ど根性ガエル15話A(演出)の可愛いモブ二人と比較すると面白い。

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荒井(リカオンズ1塁/左翼手およびDH)は計算が苦手なため不安を口にするが、渡久地から算数トリビア(例えば112÷3の余りは、1+1+2を3で割った余りと一緒)を教えてもらい納得。彼も原作より目立つ。
ど根性ガエル15話A(演出)のモブにも、おバカキャラとして目立つキャラがいた。

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この算数トリビアには皆も沸き立つ。皆があまりに子供っぽいので、児島は呆れる。
高屋敷氏は、キャラの幼さ・無邪気さを引き出すのに長ける。ここも、ど根性ガエル15話A(演出)と比較すると面白い。

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渡久地は、このサイン切り替え作戦は三原が言っていたことだと嘘をつき、皆を納得させる(渡久地・児島・捕手の出口以外は、ブルーマーズのサイン盗みを知らない)。ここも今井と藤田が無邪気で幼い。ど根性ガエル(演出)、はだしのゲン2・MASTERキートン(脚本)と比較。

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試合が始まり、リカオンズは4回からサイン切り替え作戦を開始。
出口は、上手くサインを飛ばすが打たれてしまう。ここでも今井・藤田が目立っている。再び、ど根性ガエル(演出)と比較。おそらく個々のキャラを立てるのが、昔から上手いのだと思う。

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それでも出口は色々と思考を巡らせ、先発投手の石山をリードする。高屋敷氏は、捕手と投手の以心伝心描写が上手く、同氏の野球経験(元球児で、高校野球部監督もしていた)も活かされている感じがする。ど根性ガエル(演出)、グラゼニ(脚本)でも、それは見られる。

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ところが、またも打たれてロドリゴ(ブルーマーズ主砲)を迎えてしまう。出口はロドリゴの行動や打ち方から、サインが読まれていると実感し、ミットを持つ手を震わせる。手による感情表現は多い。おにいさまへ…・はじめの一歩3期・F-エフ-(脚本)と比較。

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出口はタイムを取り、児島と渡久地に相談する。そこで一旦、サインパターン1にリセットすることに。渡久地は、三原にそれを指示。三原に犬の尻尾がついており(アニメオリジナル)、愛嬌が増している。キャッツアイ・あんみつ姫グラゼニ(脚本)ほか、とにかく中高年キャラの魅せ方が上手い。

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プレー再開後、出口は理論立てた良いリードをし、石山もそれに応えるが、それでもサインを読まれ、ロドリゴにタイムリーを打たれてしまう。
ここは、出口の思考が原作からよくまとめられていてテンポがいい。まとめ方の上手さも、高屋敷氏の長所の一つ。

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また、放送席が効果的にアニメオリジナルで差し挟まれているが、高屋敷氏は相当に実況が好きと見られ、グラゼニあしたのジョー2・1980年版鉄腕アトム(脚本)ほか、名実況が多い。

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リカオンズは更にサインパターンを変えるが、それも読まれて打たれる。
児島は、そもそも今までの作戦自体が、敵に通用していないのでは…と渡久地に相談するが、渡久地は「何もわかってないのな」と口にする。ここでも、シリーズの軸となっている児島と渡久地の関係を強調する意図が感じられる。

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リカオンズは、今度は1球ごとにサインパターンを変えることに。上手く行っているようだ…と児島は渡久地に声をかけるが、渡久地は「どうだか」と懐疑的。ここも児島と渡久地の関係性のクローズアップが見られる。ルパン三世3期・太陽の使者鉄人28号(脚本)でも、二人単位の関係は強く描かれた。

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そして、1球ごとにサインパターンを変えても、サインを読まれて打たれる結果に。渡久地はそれを見て、リカオンズ間のやり取りが盗聴されている事を確信したと児島に言う。つまり、スタジアム自体がイカサマの巣。建物が生きているような描写は、めぞん一刻はだしのゲン2(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)にもある。

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盗聴の事を意識したのは、この時点で渡久地と児島の二人。ここも、この二人の関係性を印象づける効果を生んでいる。また、緊迫した状況で次回へと続く構成の仕方も上手い。

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  • まとめ

前述の通り、ミーティングルームでのやり取りが、ど根性ガエル15話A(演出)と重なってくるのが興味深い。どちらも、レギュラーから脇役まで、個性を発揮して生き生きとしているのがわかる。

更に、ど根性ガエル15話A(演出)と今回を比較すると、誰がどういう性格なのかが、どちらも一瞬でわかるようになっている。高屋敷氏は、群像を描きつつ個々を光らせる事に長け、ガンバの冒険・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)でも、それは遺憾なく発揮されている。

それに加えて、年齢問わず子供っぽさ・無邪気さを出していくという高屋敷氏の特徴が如実に表れている。今回で言えば、大のプロ野球選手が少年のように無邪気で、一方ど根性ガエル(演出)では、中学生が小学生並に幼い。

1話のみ脚本の超獣機神ダンクーガ(5話)でさえ、キャラの幼さを引き出しており、その手腕には驚くばかり。
つまりは、キャラ立て・キャラ作りに秀でていると言える。メインを引き立てながらも、脇役のキャラ立ても完了させているのは、つくづく凄い。

あと、今回は出口の思考がテンポよく描かれていて、彼の人間性や能力(敵にイカサマをやられていなければ有能)が見られる。実際、サインを盗まれていると出口が体感したことが、今回の話運びの重要なポイントになっている。

また、いつもの事であるが中高年キャラの愛らしさも目立つ。ルーツはデビュー作の、あしたのジョー1(無記名脚本)の段平あたりと考えられるが、あまりに頻出する特徴なので、高屋敷氏がもともと持っている持ち味だと思っている。

そして、シリーズ全体で重要な、渡久地と児島(渡久地をプロ野球に誘った張本人)の関係の描写にも余念がない。この二人は、互いの行動や言動を見ており、本作に横たわるテーマに深く関わっている。この事からも、しっかりしたシリーズ構成が感じられる。

今回は劣性を強いられる展開ではあるが、出口のお陰でバッテリー間のコミュニケーションや、サインのやりとりをテンポよく楽しむ事ができる(出口役の山口勝平氏も名演)。そこに渡久地と児島の関係性の重要さも絡まり、いつもながら見事な構成だった。