カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

宝島8話演出:信じるもの

アニメ・宝島は、スティーブンスンの原作小説を、大幅に改変してアニメ化した作品。監督は出崎統氏。高屋敷英夫氏は、偶数回の演出を務める(表記はディレクター)。
今回の脚本は篠崎好氏で、コンテが出崎統氏、演出が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、宝島の記事一覧: http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E5%AE%9D%E5%B3%B6

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  • 今回の話:

宝島を目指す船・ヒスパニオラ号が霧と無風で立ち往生する中、副船長・アローが反乱を起こすが、料理長のシルバーが彼を取り押さえる。
その後、アローは海に落ち死亡。疑惑渦巻く中、幽霊船が出現。シルバーは幽霊船に一人赴き、アローの幻影を打破するのだった。

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副船長・アローがスモレット船長に銃を突きつけ、船内は騒然。
ジムが船員達の足の間をくぐって状況を見ようとする場面は、ベルサイユのばら(コンテ)の一場面に似る。

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シルバー(料理長)はボートを使って船室の裏に回り込み、背後からアローを取り押さえる。
そこそこ頭を使う作戦で、綿密な作戦を好む高屋敷氏の片鱗が見える。あんみつ姫MASTERキートンカイジ1・2期などの脚本作でも、知略の重要性を強く表現している。

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夜、シルバーとジムはリンゴを食べる。リンゴ演出は出崎統氏の代表的なものだが、本作と同じく出崎統監督作の、あしたのジョー2における高屋敷氏脚本回でも、丈とカーロスがリンゴを食べる名場面がある。あしたのジョー2は、本作より後。出崎統氏・高屋敷氏が、本作を活かしたのかもしれない。

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この、出崎統氏譲りの「リンゴを使ったコミュニケーション」であるが、F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)と、あしたのジョー2(脚本)を比べると面白い。どちらも友達を見舞うシーンであり(F-エフ-の方がコミカルだが)、リンゴが、気持ちを伝える役を担っている。

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シルバーがリンゴの芯を捨てるのが意味深に描写されるが、状況や感情と連動する「物」は高屋敷氏の演出・脚本作に頻出。F-エフ-・らんま・めぞん一刻(脚本)と比較。

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シルバーは、海の男が意外と迷信深い(口笛は不吉、など)ことを話すが、海の上で頼れるのは自分しかいないとも説く。F-エフ-(脚本)にて「最後は自分を信じて行くしかない」という、アニメオリジナル台詞があるほか、「自分」にまつわるテーマを、高屋敷氏は多くの作品で描く。

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そこへアローが現れ、国に帰ったら自分は裁判にかけられて死刑になるかもしれない、と号泣。大人のガン泣きは、よく出てくる。あんみつ姫(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、カイジ2期(脚本)と比較。

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その後、アローは海に落ちて死んでしまう。状況から、疑惑の目が向けられるシルバーだが、「じゃあ、ひょっとしてオレが突き落としたかもしれねえな」と笑い飛ばす。キャラクターが満面の笑顔を見せる状況は、色々な作品で印象に残る。忍者戦士飛影あしたのジョー2・DAYS(脚本)と比較。

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そして天候は嵐になる。不吉や波乱を告げる嵐や稲妻は頻繁に登場し、原作つき作品でも、アニメオリジナルで追加されたりする(つまり、天候、太陽、月など「天」に重要な役割を与える)。花田少年史・アカギ(脚本)と比較。

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嵐の中、揺れるランプが描写される。意味深なランプ描写は、実に多い。
空手バカ一代(演出/コンテ)、ワンナウツカイジ2期(脚本)と比較。どれもこれも、出す意味・意義が見られ、時代を経るごとに意味が深くなっていく。

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そして、幽霊船が出現する。そこにはアローの亡霊らしき者がおり、シルバーを手招きする。こういった「手」による感情表現や意思表示も、あらゆる作品で出る。グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。

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アローの亡霊の指名に従い、一人で幽霊船に行ったシルバーは、亡霊に苦しめられる。F-エフ-・カイジ2期(脚本)でも、幻影に苦しめられる場面がある。特にF-エフ-はアニメオリジナルの場面であり、興味深いところ。

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シルバーは、「このジョン・シルバー様はな、神も悪魔も、そして迷信も信じたことはねえんだ」と言い、杖をアローの亡霊に投げつける。すると亡霊は白骨となり崩れ落ちる。
F-エフ-・カイジ2期(シリーズ構成/脚本)も、主人公が最終的に幻影に打ち勝つ所を強く印象づけている。

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船に戻ったシルバーは、雨の中佇む。ドラマを盛り上げる雨は、数々の作品で目立っている。F-エフ-(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)、蒼天航路あしたのジョー2(脚本)と比較。

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雨が上がり、ジムとシルバーは、一緒にジャガイモの皮むきをする。
少年/青年と中年男性の情緒溢れる2ショットは多い。
カイジ2期・チエちゃん奮戦記(脚本)と比較。

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シルバーはナイフで少し指を切ってしまい、幽霊より、この小さなナイフの方が怖いと言うのだった。やる時はやるキャラクターが、コミカルだったり幼かったりする一面を見せる場面もよく出る。F-エフ-・カイジ2期(脚本)と比較。

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  • まとめ

今回は、高屋敷氏が長年取り扱っているテーマが見え隠れする。まず、「頼れるのは自分しかいない」という点。
後年の脚本・シリーズ構成作になると、高屋敷氏は「自分」にまつわるテーマを強烈に投げてきているので、本作の経験も大きいと考えられる。

次に、神・悪魔・迷信を信じないという、シルバーの姿勢。これは出崎統監督の信条でもあるが、高屋敷氏の場合も、これに近いというか、オカルトに対する怒りや反発が、多くの作品で出ている。
ただ同氏の場合、太陽や月など、いわゆる「お天道様」に対する信仰は窺える。

高屋敷氏の、オカルトに対する反発は、元祖天才バカボン(演出/コンテ)に出てくるインチキ拝金坊主や、ルパン三世2nd(脚本)における、泥棒の隠れ蓑になっている偽教団、カイジ2期(脚本・シリーズ構成)の、念力を騙る大槻をカイジが理で打ち破る場面の強調などに見られる。

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そして大抵の場合、幻影や幻覚は自分の弱さや脆さ、コンプレックスによるものなのだということが描かれている。これを打破することで「自分」の心身が強くなることが表現されている(シルバーは元々強いが)。

カイジ2期(脚本)では、(原作通りの)カイジの格言「奇跡なんて望むな。勝つってことは、そんな神頼みなんかじゃなく、具体的な勝算の彼方にある現実だ」を、1クールの節目(13話)に持ってきて、非常に強く印象づけており、高屋敷氏の反オカルトの意志を感じる。

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あと、どんなにかっこいいキャラクターであっても、コミカルだったり幼かったりする一面を差し挟む傾向が高屋敷氏にはある。これは同氏の強みであり、出崎統監督作品においても目立つというか、家なき子(演出)で、私が最初に気付いた、同氏の特徴だった。

とにかく高屋敷氏は、「かっこよさ」に全振りしない。ここは、視聴者がキャラクターに親しみを感じる手助けになっている。
ただ、初期の演出作(エースをねらえ!など)は、キャラ崩壊スレスレを綱渡りしている。言い方を変えれば、若い頃から出ている強烈な個性なのではないだろうか。

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こうした、「かっこよさ」と「コミカルさ」の同居は、年数を重ねるにつれ上手くはまって、キャラクターの魅力を強める働きをしている。時には、話は原作に沿いながらもキャラクターの性格や魅力について、まるごと改変している場合も見られる程である。

これ(キャラクターの性格や魅力を、原作から丸ごと改変)は、高屋敷氏の、(いい意味で)相当に恐ろしい能力で、F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)で強く出ている。
この強烈な個性が、私が同氏の担当作に惹かれる点の一つでもある。それがあらためて認識できた。

F-エフ-についての記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-