カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

おにいさまへ…33話脚本:命と夕陽

アニメ・おにいさまへ…は、池田理代子氏の漫画をアニメ化した作品で、華やかな女学園を舞台に様々な人間模様が描かれる。
監督は出崎統氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成(金春氏と共同)や脚本を務める。
今回のコンテは出崎統監督で、演出が廣嶋秀樹氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。

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当ブログの、おにいさまへ…に関する記事一覧(本記事含む):

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%8A%E3%81%AB%E3%81%84%E3%81%95%E3%81%BE%E3%81%B8%E2%80%A6

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  • 今回の話:

原作を大幅に改変したエピソード。
好きという理由で、れい(謎めいた上級生)の秘められた家庭事情を打ち明けられた奈々子。一番夕陽が綺麗に見える場所に連れて行くと、れいは奈々子と約束するのだが…

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開幕、夕陽が映る。夕陽の「活躍」は非常に多い。特に今回の役割は重要。
宝島(演出)、コボちゃん・F-エフ-(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)、蒼天航路(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、忍者戦士飛影(脚本)と比較。

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夢の中で、れい(謎めいた上級生)は、亡き母との、夕暮れの中でのやりとりを思い出していた。
優しい母の描写は結構ある。
ベルサイユのばら(コンテ)、家なき子(演出)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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翌朝。ソロリティ(学園の社交クラブ)廃止派は、全校の2/3以上の署名を集め、学園はそれを受けて審議に入った。

ソロリティ会長である蕗子は、それでも毅然と振る舞う。姓が異なるが蕗子の妹であるれいは、割れた窓の隙間からそれを見守る。窓辺まわりは、しばしば印象的に描かれる。空手バカ一代(演出/コンテ)、はじめの一歩3期(脚本)と比較。

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れいは、いつになく上機嫌で薫(れいの親友。体育会系だが病を抱える)の前に現れる。キャラクターが晴れやかな態度/笑顔を見せる様子は強調される。グラゼニじゃりン子チエあんみつ姫(脚本)と比較。

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更衣室にて、れいは薫に、誇りと気高さを失わずにいる蕗子の姿を見れた喜びを語る。れいはボールを持ちながら話すが、気持ちを込める物として、ボールはよく使われる。DAYS・グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。

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夕刻、奈々子と智子(奈々子の幼馴染)は、父の不倫が元で、傷害事件を起こし停学中のマリ子(奈々子の級友)宅を訪ねる。
駆けっこする二人が幼い。無邪気で可愛い友情は、高屋敷氏の得意分野。グラゼニ(脚本)、ど根性ガエル(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。

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マリ子と、彼女の母は、以前世話になった貴(蕗子の兄)とすっかり仲良くなっており、マリ子の母の離婚後の引っ越し先を一緒に見て回る程。
皆が朗らかに笑い合う場面は、色々な作品に見られる。宝島(演出)、あんみつ姫(脚本)と比較。

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マリ子の母は、皆にクレームブリュレをふるまう。飯テロは高屋敷氏の定番。
グラゼニ(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、MASTERキートン(脚本)と比較。

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すっかり元気を取り戻したマリ子の母は、笑顔を見せる。コミカルで和やかな雰囲気作りは、同氏の得意とするところ。
ベルサイユのばら(コンテ)、エースをねらえ!(演出)と比較。

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その夜、蕗子は父からの電話を受け、気丈に振る舞う。ここも窓辺描写。ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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作劇としても、原作未登場の、蕗子の父親が出たのは驚き(声は出てないが)。
キャラクターを掘り下げるアニメオリジナルが、同氏は上手い。

一方、れいは奈々子を呼び出し、一緒に夜景を眺める。
タワーのある情景は、数々の作品で強調される。グラゼニ・アカギ(脚本)と比較。

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ルーツは、無記名で脚本参加した、あしたのジョー1最終回の東京タワーかもしれない。

れいは、蕗子は生まれてすぐに本家に引き取られた、実の姉なのだと奈々子に語る(表向きは異母姉妹)。
奈々子は驚き、何故自分に話すのかと、れいに問う。
れいは「あなたが好き」と言い、奈々子を抱擁する。抱擁やハグは多い。グラゼニ・F-エフ-(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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れいは、明日、夕陽が一番綺麗な場所に連れて行くと奈々子に約束する。
翌朝、目覚めたれいは窓を開ける。
運河を船が行く。船描写は出崎統監督の定番だが、高屋敷氏もよく出す。アカギ・F-エフ-・めぞん一刻(脚本)と比較。

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浮き足立つ奈々子は、約束の時間より大分早く家を出て、一緒に時間を潰して欲しいと智子にお願いする。
ここも友情が微笑ましい。エースをねらえ!(演出)と比較。

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れいは気分よく薫と電話で話し、薫はれいが元気な事を喜ぶ。薫はボールを持ちながら話す。コミュニケーションツールとしてのボールもまた、色々出る。グラゼニ・DAYS(脚本)と比較。

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借りていたヴェルレーヌの本を月曜に返すと、れいは薫に言う。
その後、れいはシャワーを浴びる。シャワーシーンは、原作を改変してでも出てくる。グラゼニカイジ2期(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。

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身支度をしながら、れいは蕗子との接点である大切なブレスレットを手にする。
大切なものを持つ手のアップは、よく出る。F-エフ-・カイジワンダービートS(脚本)と比較。

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その頃蕗子は、レコードを聞きながら紅茶を飲んでいた。
れいは元々は素直で明るい子だと、蕗子は貴に語る。
レコードのアップが出るが、「物」の意味深アップは多い。あしたのジョー2・アカギ・グラゼニ(脚本)と比較。

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れいとの約束の時間が近づき、奈々子は智子に髪飾りを直してもらう。
とにかく高屋敷氏の友情描写は幼く愛嬌がある。グラゼニ・F-エフ-(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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智子は、からかいながら奈々子を見送り、奈々子はあかんべーする。ここも幼い。
舌を出す仕草もまた、色々な作品に見られる。宝島(演出)、めぞん一刻(脚本)と比較。

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花屋に寄ったれいは、蕗子の好きな赤いバラを、彼女の家に配送するよう頼み、奈々子のためにも花束を買う。
状況やキャラと連動する花描写は、沢山出てくる。あしたのジョー2・コボちゃん(脚本)と比較。

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待ち合わせの駅に若干早く着いた奈々子は、ベンチに座って海を眺める。
海を眺めるのは、宝島(演出)にもあり、どちらも、後に切ない展開となる。
「海を見ていました」という奈々子のナレーションの声が震え、これから起こる悲劇を示唆する。

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奈々子に会いに行く途中、風に飛ばされた花束を取ろうとして、れいは橋から落ち、電車に跳ね飛ばされる(原作では薬の過剰摂取による自殺)。
花束が印象に残る。魂が宿ったような「物」の描写は多い。F-エフ-・あしたのジョー2(脚本)と比較。

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そして、れいのブレスレットが飛ぶ。こちらも、魂がこもった「物」の描写。
グラゼニ・F-エフ-・カイジ2期(脚本)と比較。

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今渡の際、れいは夕陽のイメージを見る。
全知全能的で、生死を司るような夕陽は頻出。宝島・家なき子(演出)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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「きれいな夕陽ね」と言う母(イメージ)に、「はい」と答え、れいは絶命する。

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蕗子は警察から、れいの死を知らされショックを受ける。
奈々子は、夕暮れの中れいを待ち続けるのだった。
情感ある夕暮れは多く出る。宝島(演出)、アカギ・F-エフ-・蒼天航路(脚本)と比較。

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  • まとめ

大筋以外、いや大筋すら原作と大分違う。原作に沿っているのは、

  • マリ子と貴が仲良くなった
  • マリ子の引っ越し
  • ソロリティ廃止関連
  • れいが奈々子に秘密を打ち明ける

あたりぐらいで、それすら台詞が大幅に変更・追加されている。

れいの死因が事故死に変更された(原作は自殺)のも、死の直前まで、れいが生きる事に前向きになっているのも、あまりにも大胆な原作改変で驚愕。
原作クラッシャーな出崎統監督と、やるとなると原作を大改変する高屋敷氏が合わさり、凄い事態になっている。

蕗子の改変も凄い。原作では、ソロリティ廃止の署名運動や家庭の事情がらみで、彼女はれいを激しく罵倒しているのに、アニメでは若干、れいに対する感情が軟化している。
いわば180度事態が変わっている。
この大胆さにも驚く。

F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)*1では、キャラクターの行動・言動を原作と正反対にしたり、原作で自殺未遂するキャラが、アニメではそうしなかったりしていたが、それに近い事が行われている。

グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)*2でも、原作のネガティブな事象を、あっという間にポジティブなものに変えてしまった手腕に驚かされた(23話)。

とにかく、原作に非常に忠実なものもあれば、原作と激しく異なるものもあるのが驚異的。

言い出したのが誰なのかわからないが、れいが生きる事に前向きになるのは原作と違いすぎる。
出崎統監督の、死の雰囲気漂う寂寥感ある作風とも大分違うような気がする。
まるで、高屋敷氏と出崎統監督の衝突と融合が起こっているような感覚を受ける。

何故そう感じるかというと、まず、高屋敷氏が数々の作品にて、精神疾患やネガティブ思考による自殺を否定していることと、「生きる」事について強いメッセージを発していることが挙げられる。
そこから考えると、今回の前向きなれいは、高屋敷氏的と言える。

一方で出崎統監督は、寂寥感ある「死」を幾度となく描いてきた(特に、監督作である後期ベルサイユのばら)。れいの死に方は、あまりに残酷であるが、美しさも描かれる。
突如やってくる理不尽な死という点では、出崎統監督的と言える。

ベルサイユのばら後期に、もし高屋敷氏が参加していたら(同氏が参加したのは前半の長浜忠夫監督期)、もっと「前向き」な要素や、ロザリーの成長要素が加わるのではないかと想像したことがある。
本作では、それに近い感覚を受ける。

つまり、事故死する前の、前向きなれい=高屋敷氏要素、そんな彼女に理不尽な死が襲いかかる=出崎統監督要素なのではないか…と思えてくる。あくまで感覚としてではあるが。
どちらも相当に自己主張が強そうなのは確か。

他の箇所に目を向けてみると、可愛い友情描写や、皆に笑顔が広がるあたりは非常に高屋敷氏的。
特に、マリ子の母が笑顔を見せるあたりは、原作より大分救済されており和む。

また、れいが「あなたが好き」と奈々子に言うのは、原作と大分違う。原作では、彼女は「死」の世界を見ていて、結局は他者を置き去りにする(自殺する前に、奈々子に人形をあげたりするが)。
「好きならハッキリ言う」は、高屋敷氏のポリシーなので、ここも同氏的。

そして夕陽。出崎統監督と同様、高屋敷氏も夕陽に並々ならぬこだわりがあるようで、生死を見つめたり、願いを聞き届けたり、旅立ちを見送ったり、成長を見守ったりする。同氏の「お天道様」信仰の徹底が見られ、面白いところ。

れいの死に話を戻すと、やはりここは高屋敷氏と出崎統監督の個性のぶつかり合いが見られ興味深い。ともすれば、両氏の死生観の違いに発展しそうである。
これにも注目しつつ、今後見て行きたい。