カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

家なき子35話演出:対極の二人

アニメ『家なき子』はエクトール・アンリ・マロ作の児童文学作品をアニメ化した作品。過酷な運命のもと旅をする少年・レミの成長を描く。
総監督は出崎統氏。

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本記事を含めた、当ブログの家なき子に関する記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E5%AE%B6%E3%81%AA%E3%81%8D%E5%AD%90

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  • 今回の話:

サブタイトル:「レミを救え!」

脚本:山崎晴哉氏、コンテ:出崎統監督、演出:高屋敷英夫氏。

成り行きで、炭鉱で働くことになったレミだが、炭鉱事故に巻き込まれ、炭鉱仲間と共に地下に取り残されてしまう。

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炭鉱事故で、生存者の中にレミが見つからず、マチヤ(レミの親友。風来坊)は単身炭鉱に入ろうとするが制止される。
雨の中のドラマを、高屋敷氏は脚本になっても重視する。あしたのジョー2・F-エフ-(脚本)と比較。

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炭鉱事故は、死者50名以上、怪我人130名以上の大惨事。ある者は遺体で、ある者は生きて炭鉱から出てくる。
「死」の扱いについては、宝島(演出)や、おにいさまへ…(脚本)も印象深い。

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炭鉱の責任者達は、レミを含む行方不明者達の救出をどうするか話し合う。
会議や話し合いの場面は、高屋敷氏は脚本に回った場合、MASTERキートングラゼニ(脚本)など、非常に上手い。好きなのかもしれない。

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レミ達を救出するには、氾濫して炭鉱に入り込んだ川の水を排水しなければならない。マチヤは必死に排水を手伝う。
水面にキャラが映りこむ表現は、よく見られる。宝島(演出)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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レミ達は、水から避難はしたが動けずにいた。貴重なランプが映るが、ランプの描写は頻出。RIDEBACK・F-エフ-(脚本)と比較。

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地上では総出で排水作業が行われる。カピ(芸をする犬。賢い)やジョリクール(芸をする猿。二代目)も手伝う。
賢い動物の描写は、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)も秀逸。

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炭鉱の所長は、ポール(技師。レミの知人)に、レミ達がいるとおぼしき場所に辿り着くまで何日かかるか問う。
生死不明者を探すドラマは、太陽の使者鉄人28号ガンバの冒険(脚本)にもあり、重なってくる。

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レミは、たまった水に石を投げて暇を潰す。同じ所作は、ベルサイユのばら(コンテ)、おにいさまへ…(脚本)にも出てくる。

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空腹のベルグール(鉱夫。巨漢)は、カロリ(鉱夫)が何か食べているのを目ざとく見つける。
ガンバの冒険(脚本)や元祖天才バカボン(演出/コンテ)ほか、食いしん坊描写は多い。

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カロリは、帽子の中に干し葡萄を隠し持っていた。パジェス(「先生」と呼ばれるベテラン鉱夫)は、これを皆で均等に分け合うことにする。
高屋敷氏は飯テロが実に多いが、サバイバル下での食事場面も結構ある。1980年版鉄腕アトム(脚本)、宝島(演出)と比較。

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地上では、難航する捜索作業でマチヤが焦燥していた。キャラの喜怒哀楽の「怒」も、高屋敷氏は丁寧な感じがある。宝島(演出)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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一方地下では、ランプの火を付け替えている間に、ベルグールが水たまりに落ちてしまい、レミが救出する。
溺れる者を助ける場面は、宝島(演出)や、おにいさまへ…(脚本)にもある。おにいさまへ…については複雑な状況だが。

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レミは、自分が育ったシャバノン村の川で、よく泳いだと言い、マチヤにもそこを案内する予定だと語る。
背中で語る表現は、色々な作品に見られる。グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。

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レミは、絶対に生き延びると決意を固め、皆も、諦めないと気力を高める。
顔つきが引き締まる「豹変」は、様々な作品でインパクトがある。宝島(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。

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地上では、捜索作業を不眠不休で手伝っていたマチヤが倒れてしまう。
親友を失うことは死ぬほど辛いことであるというのは、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)でも強調されている。

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地下では、ベルグールが水をすくって飲み、なんとか飢えをしのぐ。他の者も空腹が限界に来ていた。
飯テロだけでなく、極限状態で何か飲む場面も、印象に残る描写が多い。宝島(演出)、ハローキティのおやゆびひめ(脚本)と比較。

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レミは、パジェスの秘密部屋にある食糧を取ってくると言って水に飛び込む。だが、体力が消耗し、途中で気絶するように寝てしまう。
奇しくも宝島でも、高屋敷氏は主人公が独り奮闘する回の演出を担当している。

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レミは、皆とお別れする夢を見る。夢の中ではあるが、子供の子供らしい描写が上手い。宝島(演出)、柔道讃歌(コンテ)と比較。

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夢の中でレミは、亡きビタリス(レミの芸の師匠)から、まだこちらに来てはいけないと言われ、穴に落とされる。
死者との対話は、あしたのジョー2・おにいさまへ…(脚本)も印象的。

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気がつくとレミは、イカダを作って追ってきた仲間達に助けられていた。
ここもランプが強調されている。カイジ2期・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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レミ達はイカダで進み、パジェスの秘密部屋から食糧を取ることに成功する。
極限状況での「食」の重要性も、様々な作品でクローズアップされる。ガンバの冒険MASTERキートン(脚本)と比較。

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地上では、所長が、(事故から一週間が経過しているため)レミ達が生きている可能性が低いとして排水作業を一旦止める。苦渋の決断をする局面は、蒼天航路ワンナウツ(脚本)にもあり、色々な立場の苦労が切り取られている。

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それを聞きつけたマチヤが、レミが死んでいてたまるかと激怒する。
ここも喜怒哀楽の「怒」の描写に拘りが見られる。あしたのジョー2・カイジ(脚本)と比較。

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マチヤは、もう頼まないと言って、一人で坑道を掘り進めようとする。
満身創痍になりながらも最後まで諦めない姿勢は、カイジ・はじめの一歩3期(脚本)などでも強調されている。

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マチヤに心打たれた所長は、レミ達の生存を再度信じ、排水作業の再開をポールに告げる。
若者に感じ入る中高年男性の姿も、あしたのジョー2・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)ほか、前面に出される。

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鉱夫達は総出で、再び排水と捜索作業を行う。ここも、状況・心情とリンクするランプの描写が強めに出ている。
おにいさまへ…グラゼニ(脚本)と比較。

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鉱夫達の物音に気が付いたレミは、トロッコの線路を石で叩いて合図を送る。
手による感情表現は頻出。ワンナウツストロベリーパニック(脚本)と比較。

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音が聞こえたマチヤは、それがレミだと確信して、線路を石で叩いて返信する。
以心伝心の友情は、F-エフ-(脚本)のアニメオリジナル場面でも、じっくり描写されている。

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場所が特定できたことで、救出作業が進み、ついにレミ達5人は救出される。レミとマチヤは再会を喜ぶ。
男同士の熱い友情描写は、グラゼニ忍者戦士飛影(脚本)ほか、多くの作品に見られる。

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生還したレミは、マチヤと共に朝陽を浴びるのだった。
全てを見ているような太陽の描写は頻出。おにいさまへ…・F-エフ-(脚本)と比較。

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  • まとめ

 サバイバル回で、ドラマチックにまとまっており、本作の山場の一つと言える。とにかく高屋敷氏は、生と死のドラマにおいて「生」を力強く打ち出す。

 また、熱い友情についても、非常に拘りが見られる。石で線路を叩き合って心を通わせるレミとマチヤの場面は名場面。
高屋敷氏が脚本に回っても、台詞に頼らない感情描写を多用するのは、こういった演出経験の賜物かもしれない。

 お互いの存在を意識し「生」を確認するのは、カイジ(高屋敷氏シリーズ構成・脚本)でも強調されている。高屋敷氏の直接脚本回ではないが、カイジの鉄骨渡りでの、佐原(カイジの元バイト仲間)とカイジの友情場面と、かなり重なる。

 アニメのカイジ(高屋敷氏シリーズ構成・脚本)の副題には、Ultimate Survivorと付いているが、今回のレミのサバイバルの演出で培ったものも、カイジにかなり入っている気がする。「生」への拘りを、高屋敷氏は数多くの作品で主張している。

 カイジ(1、2期とも高屋敷氏シリーズ構成・脚本)に通じると言えば、今回の、皆で干し葡萄を分け合う場面は、カイジ2期の、皆で柿ピーを分け合う場面と重なってきて面白い。

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 高屋敷氏は「食」にも並々ならぬ拘りがあり、同氏のライフワークの一つとも言える。今回、食糧を求めてレミ達が行動するのも、かなりインパクトがある。

 生きることは食べること、食べることは生きること。これはおそらく高屋敷氏の掲げる大原則。それを主張するために、演出や脚本を長年やってきたと言っても過言ではない。

 高屋敷氏の(いい意味で)恐ろしいところは、その主張を、オリジナルでも原作つきでも前面に出してくる技術と才覚だ。
どんな強力な原作や、名監督の下でも、同氏の主張は完成映像に滲み出ている。

 そもそもクリエイターは、何か作品を通して主張したいことがあるからクリエイターなのではないだろうか。
高屋敷氏は長年、その情熱を作品に注ぐことができる、熱い作家だと思う。

 また、何回か書いたが、「死」にこだわる出崎統監督と、「生」にこだわる高屋敷氏は、いわば対極。でも、二人が長年一緒に仕事しているのは興味深いところ。

 「生」と「死」はワンセットであることは、出崎統監督も、高屋敷氏も、互いに意識していたのではないだろうか。両氏の主張が、作品の中で対立や融合をしているのもまた、作品に深みが出ていて面白い。