カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

家なき子51話(最終回)演出:輝く道

アニメ『家なき子』はエクトール・アンリ・マロ作の児童文学作品をアニメ化した作品。過酷な運命のもと旅をする少年・レミの成長を描く。
総監督は出崎統氏。

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本記事を含めた、当ブログの家なき子に関する記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E5%AE%B6%E3%81%AA%E3%81%8D%E5%AD%90

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  • 今回の話:

サブタイトル:「新たな旅立ち」

脚本:山崎晴哉氏、コンテ:出崎統監督、演出:高屋敷英夫氏。

スイスで、ついにレミはミリガン夫人(以前レミと交流した富豪で、レミの実の母)と再会。満ち足りた時を過ごすが、マチヤ(レミの親友。風来坊)は意外な事を言う。

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スイスで、ついにレミはミリガン夫人(以前レミと交流した富豪で、レミの実の母)と再会。
夕陽が映るが、全てを見守るような太陽の描写は頻出。あしたのジョー2(脚本)、宝島(演出)、F-エフ-(脚本)と比較。

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風で、レミの帽子が飛ぶ。
帽子が飛ぶ表現は、おにいさまへ…グラゼニ(脚本)ほか、しばしば見られる。

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ミリガン夫人は、レミの髪が伸びたと言い、優しく抱きしめる。
頭をなでる親愛表現は、チエちゃん奮戦記・F-エフ-(脚本)ほか、要所要所で見られる。

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レミはミリガン夫人と共に、アーサー(ミリガン夫人の息子。足が不自由)の寝室に入る。アーサーはレミに気づかず、レミと会った夢の話をし、皆がそれを見守る。
仲間愛は、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、めぞん一刻(脚本)ほか、強調される。

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横を向いたアーサーは、レミに気付き、手を握り合って喜ぶ。
鳥が映るが、状況と連動する鳥の表現は頻出。ベルサイユのばら(コンテ)、宝島(演出)と比較。そもそも出崎統監督が鳥演出を好み、高屋敷氏も(単独でも)出す(脚本作含む)。

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そしてレミは誕生日を迎え、皆に祝福される。
飯テロは実に多い。ど根性ガエル(演出)、RIDEBACK(脚本)と比較。
数多い飯テロの中で、ど根性ガエルのクリスマスケーキは、高屋敷氏がクレジットされた作品中、今のところ最古。

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ヨットが映るが、出崎統監督は船の横切りを好み、高屋敷氏もその流れを汲む。
ルパン三世2nd(演出/コンテ)、あしたのジョー2(脚本)、空手バカ一代(演出)と比較。

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宴で、ミリガン夫人は、亡きビタリス(レミの芸の師匠。元オペラ歌手)の席を用意する。
空席描写は、グラゼニMASTERキートン(脚本)などでも印象深く描写されている。

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さらにミリガン夫人は、いずれイギリスにバルブラン(レミの養母)を呼んで一緒に暮らそうと話し、レミは感激する。
手による感情伝達は頻出。めぞん一刻(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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そしてミリガン夫人は、マチヤ(レミの親友。風来坊)に新しい服を贈る。
優しく身だしなみを整えてあげたり、コーディネートしてあげる仕草は、ストロベリーパニックじゃりン子チエ(脚本)ほか、色々な作品に見られる。

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よければミリガン家に迎えたいというミリガン夫人に感涙し、マチヤはそれを受ける。レミは大喜びする。
微笑ましいハグは多い。グラゼニ・DAYS(脚本)と比較。

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皆は、マチヤとレミを祝福し胴上げする。胴上げは、ど根性ガエル(演出)、グラゼニ(脚本)などにも見られる。
ちなみに高屋敷氏は元球児で、高校野球部の監督を務めた野球好き。野球アニメや、アニメの野球回にも多く携わっている。

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ミリガン夫人はレミに、本名のリチャードではなく、これからもレミと呼ぶことにすると言ってくれる。
ベランダや窓辺の表現は、おにいさまへ…(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)、ハローキティのおやゆびひめ(脚本)ほか、結構ある。

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その後アーサーは、手術後の歩行訓練に入る。途中転んだ彼はレミに抱きつき弱音を吐くが、マチヤが発破をかける。
ここもハグ。元祖天才バカボン(演出/コンテ)、1980年版鉄腕アトム(脚本)と比較。

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レミはアーサーをおぶって励まし、再挑戦を促す。
おんぶは、はだしのゲン2(脚本)で重要な要素として描かれ、RIDEBACK1話(脚本)でも、人をおんぶするように走るロボットにより、活力を取り戻した主人公の姿に重点を置いている。

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ミリガン夫人は、執事のアランに、春になったらレミとマチヤを学校に行かせようと話す。
飲み物による「間」はよくある。おにいさまへ…忍者戦士飛影(脚本)と比較。

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アーサーの歩行訓練は続き、彼は転んでもへこたれなくなる。
子供らしくコミカルな所作は、宝島(演出)、じゃりン子チエ(脚本)ほか、高屋敷氏の得意分野。

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アーサーの歩行訓練が一通り済むと、レミ達は冬の遊びを満喫する。
ここも子供らしい無邪気さに溢れている。
あんみつ姫(脚本)でも、内気だった雪女の娘が皆で雪合戦を楽しむ回が印象的。

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レミ達がソリ遊びをする場面では、コースの途切れを利用する大ジャンブの表現があるが、エースをねらえ!(演出)やルパン三世2nd(演出/コンテ)などで似た感じのものがあり、比較すると面白い。

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吹雪の夜。レミは、旅での苦労を思い出し、終わったのだと言う。
ここも窓辺を使った表現。ストロベリーパニック(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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マチヤは愛用の知恵の輪をいじりながら、終わっていない、悪いけど楽しくないと意味深発言する。
手による感情表現は頻出。ワンナウツおにいさまへ…(脚本)と比較。

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その後もレミ達は、アーサーの歩行訓練に付き合い、一緒に転んで大笑いする。
皆に笑顔が広がる表現は、トンデケマン(脚本)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)ほか、あらゆる作品で目立つ。

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楽しい時は続き、片足スキーに挑戦したレミとマチヤは転ぶ。
ここも子供らしくコミカルなアクション。ど根性ガエル・宝島(演出)と比較。

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夕暮れ、本当に楽しくないのかとレミはマチヤに問う。
マチヤは、勿論楽しいが、何かが楽しくないと複雑な表情を浮かべる。
友達同士の、複雑な心と心の機敏は、グラゼニ(脚本)などでも巧みに描かれる。

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夕食時、歩けるようになれば、春にレミ達と共に学校に行けると知ったアーサーは張り切り、マチヤに影響された所作をする。
ここも子供らしい無邪気さが上手い。あんみつ姫・新ど根性ガエル(脚本)と比較。

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寝室にてマチヤは、学校に行けば仲間が沢山できて楽しいだろう、とレミと話し、知恵の輪を解く。
ここも意味深な、手による感情表現。RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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どうも自分は、幸せすぎるという状況に慣れない性分かもしれないと、マチヤは言う。
暖炉が映るが、状況と連動する火の表現は多い。ベルサイユのばら(コンテ)、F-エフ-(脚本)と比較。

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そしてスイスは春を迎える。
花の表現は、様々な作品に見られる。あしたのジョー2(脚本)、エースをねらえ!(演出)、ストロベリーパニック(脚本)と比較。

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リーズ(レミが世話になったアキャン家の末娘。口がきけない病気だったが、ミリガン夫人の厚意により治癒した)は、アーサーが歩いた、とミリガン夫人に知らせる。
似た階段の構図が、ベルサイユのばら(コンテ)、忍者マン一平(監督/コンテ/脚本)にあり面白い。

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ミリガン夫人が駆けつけると、確かにアーサーは歩けるようになっていた。
感極まり、ミリガン夫人はアーサーを抱きしめる。
ここも、親愛のこもったハグ。ストロベリーパニック(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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その後リーズは、再会したら歌を披露するとレミに約束し、フランスへ帰る。
野外で微笑ましく愛を育む表現は、ストロベリーパニック(脚本)、宝島(演出)ほか、多々ある。

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マチヤは、二人きりで話したいと、レミを雪山登山に誘う。
人生の厳しさや試練を表す雪山は、カイジ2期(シリーズ構成)のイメージ場面や、MASTERキートン(脚本)、忍者マン一平(監督)などで強く描写される。

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本当に幸せかとマチヤに問われ、レミは幸せだ、だが幸せになりたいと思っていた頃の方が幸せだったかもしれないと答え、マチヤは同意する。
背中で語る表現はよく出る。RAINBOW-二舎六房の七人-・MASTERキートン(脚本)と比較。

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マチヤは、親のおかげで幸せなうちは半人前で、自分達は半人前を脱しようとする時期なんだとレミに説く。
一方、チエちゃん奮戦記(脚本)では、独立心を養おうと山登りするも挫折ばかりのマサル(チエの同級生)の話があり、対比が面白い。

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レミは、「男はいつか一人で生きていくもの」というビタリスの教えを呟く。
「男の子」から「男」への変貌は、様々な作品で前面に出される。
宝島(演出)、F-エフ-・DAYS・めぞん一刻(脚本)ほか、これは高屋敷氏のライフワークの一つとも言える要素。

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自分の力で精一杯生きることが大切なんだとレミは悟り、雪山にビタリスの姿を重ねる。
ここも、意味深な雪山の表現(大分わかりやすいが)。MASTERキートン・チエちゃん奮戦記(脚本)と比較。

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そしてレミとマチヤ、カピ(芸をする犬。賢い)、ジョリクール(芸をする猿。二代目)は再び旅に出る。
ここも、意味のある花の表現。めぞん一刻・F-エフ-(脚本)と比較。

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レミは、ミリガン夫人・バルブラン・リーズに手紙を書き、幸せとは何なのか、旅をして考えたいと伝える。
手紙は重要アイテムとして扱われる。宝島(演出)、カイジ2期・ワンダービートS陽だまりの樹(脚本)と比較。

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歩きながら、マチヤとジョリクールは、ジャンケンして負けた方がどつかれるという遊びをする。
コボちゃんめぞん一刻番外編(脚本)のほか、ジャンケン要素はちょくちょく出てくる。

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続いてレミがジョリクールに挑戦するも負ける。
幼くじゃれる描写は、ガンバの冒険(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)ほか、とにかく数多の作品で目立つ。

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今度は、レミとマチヤでジャンケン勝負をする。ここも幼い。
年齢問わず幼い描写は多い。めぞん一刻番外編(脚本)のジャンケン勝負場面(アニメオリジナル)との対比が面白い。

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レミもマチヤも、(自分が勝ったら)相手をどつく。
どつく描写が、元祖天才バカボン(演出/コンテ)やルパン三世2nd(脚本)と重なる。

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レミ達は夕陽に向かって走る。
はだしのゲン2(脚本)ラストは、ゲンが母の死を乗り越え、仲間達と走り出す。
F-エフ-最終回(脚本)ラストは、亡きライバルの思いを胸に、軍馬(主人公)が友と共に未来へ、世界へと歩みだす(アニメオリジナル)。

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歌いながら、レミ達は並木道を行く。
人生の暗喩たる並木道は、様々な作品に出ており、興味深い。
蒼天航路めぞん一刻グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。ちなみにF-エフ-のは、名画『第三の男』の明らかなパロディ。

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後にマチヤは名バイオリニストになり、レミは弁護士となってリーズと結婚する。
主人公が成長または未来へ向かう姿は、最終回で劇的に描かれる。
宝島(演出)、おにいさまへ…めぞん一刻・RAINBOW-二舎六房の七人-・F-エフ-・カイジ2期(脚本)の最終回と比較。

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レミ達が新しい旅で何を得たのかはわからない、というナレーションと共に、レミの旅道具が映る。魂がこもった物は、効果的に表現される。
蒼天航路グラゼニあしたのジョー2・F-エフ-(脚本)、宝島(演出)と比較。

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ナレーションは語る。あなたが旅に出た時、運が良ければビタリスの「前へ進め」という言葉が聞けると。
ここも、全てを見守る太陽で締め括られる。おにいさまへ…(脚本)、宝島(演出)、F-エフ-・RAINBOW-二舎六房の七人-・あしたのジョー2(脚本)と比較。いずれも最終回。

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  • まとめ

 高屋敷氏は、演出においても脚本においても、最終回を任される事が多く、そしてその手腕は実に見事。まさに「最終回請負人」的な所がある。

 比較的キャリア初期の、エースをねらえ!(本作家なき子と同じく、監督は出崎統氏)の最終回も、高屋敷氏は演出を任されており、打ち切りとは思えないほど爽やかで希望溢れる出来になっている。

 本作家なき子の後に、ほぼ同じ布陣で制作された宝島も、最終回の演出は高屋敷氏。こちらもアニメ史に残る名最終回である。

 出崎統・高屋敷両氏ともにマッドハウスを退社しても信頼関係は続いたのか、あしたのジョー2・おにいさまへ…(出崎統監督作品)の最終回の脚本を、高屋敷氏が担当している。こちらも見事で、特に、あしたのジョー2のラストシーンは有名すぎる。

 また、不遇の打ち切りとなったワンダービートSでも、高屋敷氏は(シリーズ構成でないのに)最終3本の脚本を担当し、作品を乗っ取る勢いで自身の書きたいことを炸裂させながらも、綺麗にまとめている。

 演出の仕事を止め、脚本に絞った後も、高屋敷氏はシリーズ構成作にて、カイジ含めて見事な最終回を連発している。特にワンナウツやRAINBOW-二舎六房の七人-は、原作の途中なのに珠玉のラストで、唸らされる。

 特殊なのはアカギ(高屋敷氏シリーズ構成・脚本)で、原作で10年以上続いた鷲巣(アカギのライバル)との対決を、アニメでは途中で切り上げたが、最終回ラストに、東京タワーをバックに50代のアカギの姿を見せ、1話の未完成の東京タワーと対比させる独自構成が光る。

 あと、F-エフ-(高屋敷氏シリーズ構成・全話脚本)では、先述の通り、最終回ラストシーンがアニメ独自のものになっている(友と共に未来へ踏み出す→後にF1ドライバーになったことが記される)。シリーズ短縮もあるが、神がかった構成。

 これらどれもに共通しているのは、「生きる」「希望」「未来」だ。本作OP歌詞に「生きることは戦いさ」とあるが、まさにそうで、もがきながらも戦い、苦境を乗り越え、生きていく先に希望と未来があることを、強く訴えている。

 カイジ(高屋敷氏シリーズ構成・脚本)に「死んだ皆のためにも前だ、もっと前に行くんだ」というカイジの独白、F-エフ-(同氏シリーズ構成・全話脚本)に「前に行くんだ」という軍馬の台詞がある。どちらもアニメオリジナルで、高屋敷氏の思いが込められている。

 人生は旅であり、旅は前に進まなければ終わらない。本作で高屋敷氏が得たもの、表現したものは後に多くの同氏担当作で活かされている。同氏の力強い「希望」に満ちた「生きる」ことへの讃歌は、いつまでも輝きを失わないのだ。