まんが世界昔ばなし18B話演出/コンテ:武器となる作風
『まんが世界昔ばなし』は、1976年~1979年まで放映されたテレビアニメ。タイトル通り、世界の童話をアニメ化した作品。
今回は『洋服がごはんをたべた話』。脚本が朝倉千筆氏で、演出/コンテが高屋敷英夫氏。
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- 今回の話:
今回は、トルコの民話『洋服がごはんをたべた話』。ぶどう農家の飄々とした若者・ナスルが、村の権力者であるハリルを、頓知を使って諭す。
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開幕、太陽が昇る。開幕に太陽が出ることは多い。ワンナウツ・F-エフ-(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。いずれも開幕場面。
トルコの片田舎に、ぶどう畑を営むナスルという若者がいた。彼は朝が弱く、飼い犬のちびこに起こされる毎日。
動物と人との可愛い触れ合いは、めぞん一刻(脚本)、ど根性ガエル(演出)などにも見られる。とにかく、高屋敷氏はキャラの可愛い描写に長ける。
ちびこはフライパンでナスルを叩き起こす。演出のクセなのか、ジャンプして頭をどつくのは、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、家なき子(演出)にも見られる。
ちびこはナスルを引っ張り出し、井戸水をかける。
しっかり者で有能な動物といえば、じゃりン子チエ(脚本)の小鉄(猫)が強烈。
ナスルとちびこは、ぶどう畑で真面目に働く。ここも、ちびこが有能で、じゃりン子チエ(脚本)の小鉄や宝島(演出)のベンボー(豹)を思わせる。
そんな中、村の権力者のハリルと、秘書のクリルが村を通って行く。この場面のような、横からの遠景は結構見られる。高屋敷氏が共に仕事した出崎哲・統両氏も、よく使う。
宝島(演出)、ベルサイユのばら(コンテ)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)と比較。
このうち、宝島は出崎統氏のコンテで、ベルサイユのばらは出崎哲氏の演出。
ハリルは税金の取り立てが厳しく、村人から恐れられていたが、この日ハリルは誕生日なので機嫌がいい。どこか愛嬌のある金持ちの描写は、ワンナウツ・カイジ(脚本)、宝島(演出)などなど目立つ。
クリルは、ハリルに挨拶するよう村人に強要する。ここの村人は地味に目立つ。高屋敷氏はモブを印象づける傾向がある。
ハローキティのおやゆびひめ・ストロベリーパニック(脚本)と比較。
次に、クリルは昼寝中のナスルに声をかける。キャラが眠りこける場面は、原作つき・オリジナルともども強調される。ガンバの冒険(脚本)、宝島(演出)、陽だまりの樹(脚本)と比較。
起こされても、とぼけた態度を取るナスルにクリルは怒るが、ハリルはそれを制し、次にガッポリ税金を取り立てればよいと言う。上長と側近の面白い関係は、忍者戦士飛影・ワンナウツ(脚本)なども記憶に残る。
その後、ナスルは隣人からの話で、ハリルの誕生パーティーに行かなければならない事を思い出す。この隣人も個性的。とにかく、高屋敷氏はモブや脇役への愛が強い。
ハローキティのおやゆびひめ・グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。
パーティーが始まり、ハリルはご機嫌だったが、(思い出したのがパーティー直前だったため)仕事着のまま現れたナスルに腹を立てる。
ここもハリルが可愛い。ワンナウツ・カイジ(脚本)などもだが、中高年の子供っぽい感情表現は数多ある。
ハリルは隣にいた人に、ナスルを無視するよう皆に伝えよと言い、その人はそれに従う。ここもモブが目立つ。カイジ2期・ストロベリーパニック・グラゼニ(脚本)ほか、とにかくモブの個性が強い。
何も気付いていないナスルは、運ばれるご馳走に舌なめずりする。食いしん坊描写や飯テロ描写は頻出。あんみつ姫・カイジ2期・おにいさまへ…(脚本)と比較。
晩餐会が始まるも、ナスルは無視され、席が用意されない。集団による陰湿な嫌がらせは、カイジ2期(脚本)でも強烈に描かれた。
ナスルはようやく、自分の服装に原因があることに気付き、なにやら閃く。
カイジ2期・ワンナウツ(シリーズ構成・脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテや脚本)など、圧倒的閃きで事態を転じさせるのは、色々な作品で肝となっている。
ナスルは屋敷を出る。ハリルは、ナスルが恥ずかしくて出て行ったのだと思い高笑いする。ここも愛嬌がある。憎まれ役の愛嬌は、とにかく前面に出される。空手バカ一代(演出)、らんま1/2・忍者戦士飛影(脚本)と比較。
だが、ナスルは一張羅を着てパーティーに戻ってくる。もてなさないわけにも行かず、ナスルに席が用意される。すると、ナスルは次々と食べ物を服や帽子に入れる。
ここも飯テロ。元祖天才バカボン(演出/コンテ)、カイジ2期・グラゼニ・コボちゃん・MASTERキートン(脚本)と比較。
この行動の理由を聞かれたナスルは、皆は人ではなく服が気になる様子だから、服に食事させたのだと言い、他の招待客はシュンとする。カイジ2期(脚本)で、カイジに痛い所を突かれて皆が気まずくなる場面と重なるものがある。
ナスルは、ウィットに富んだ言葉を並べ、颯爽と屋敷を出て行く。
カイジ2期(脚本)でも、陰湿なイジメをする大槻達に対し、痛快な対応をしたカイジが強調されている。
クリルは、「ナスルのバカバカバカ!くやしーい!」と地団駄を踏む。個性の強い側近や腰巾着は、カイジ2期・ワンナウツ・じゃりン子チエ(脚本)などでも前面に出される。
ハリルは、ナスルに一杯食わされたとして笑い出す。
若者を認める中高年キャラというコンセプトは、グラゼニ・F-エフ-・忍者戦士飛影(脚本)ほか、数々の作品で印象深い。
ハリルに釣られて、皆も笑う。朗らかなモブの描写は、とにかく高屋敷氏の担当作で目を引き、大きな特徴となっている。ベルサイユのばら(コンテ)、カイジ・ワンナウツ(脚本)と比較。
屋敷の外で待っていた、ちびこはナスルに飛びつく。抱きつきやハグによる愛情表現は多い。ど根性ガエル(演出)、1980年版鉄腕アトム・グラゼニ・ストロベリーパニック(脚本)と比較。
それからというもの、村の皆は外見で人を判断するのをやめ、ハリルも威張らなくなったのだった。
ラストで、月が水面に映る。
月は頻出。RAINBOW-二舎六房の七人-・あしたのジョー2(脚本)と比較。
- まとめ
原典は、頓知に長けるナスレッディン・ホジャを主人公とした笑い話の一編。そのため、圧倒的閃きで相手を打ち負かす話であるカイジやワンナウツ(高屋敷氏シリーズ構成・脚本)と重なるものがある。
また、今回はモブが多く出るため、モブや脇役が光る。今回のような演出作の場合は、動作づけや雰囲気作りで、脚本作の場合は台詞運びや状況設定などで、モブの個性を出していると考えられる。
今回の場合は集団心理も重要なので、モブの描写は大切。それがしっかりできているため、話全体も引き締まっている。
何故これほどまでに高屋敷氏がモブに拘るのかは謎だが、同氏が愛する野球(元球児で、高校野球部監督経験あり)がルーツの一つかもしれない(野球はチームスポーツであり、観客も大事)。
また、動物やモブ、憎まれ役に至るまで、キャラの可愛さが相変わらず目立つ。これは本当に、特筆すべき高屋敷氏の才の一つと言える。シリーズものの場合、他の人の演出や脚本とガラリと変わっていることも多い。
演出作のみならず、脚本作までキャラの可愛さが滲み出るのが不思議だが、前述の通り、演出作の場合は絵の管理(動作づけなど)、脚本作の場合は言葉や話の持っていき方などでそうなるのかもしれない。
高屋敷氏は出崎演出の一派であったわけだが、同氏が「出崎派の一人」で終わらなかったことの一つに、「キャラの愛嬌」があるのではないだろうか。かっこよさやシリアスさが強い出崎統氏と、対極な所さえある(可愛くてコミカル)。
家なき子や宝島などは、出崎統監督のもと、竹内啓雄氏と高屋敷氏とで演出を回していたわけだが、高屋敷氏の演出は、苦み走ったかっこよさやケレン味を重視する竹内氏と対極だった(コミカルで可愛いが、覚醒するとかっこいい)。
出崎統氏は多くのクリエイターを育てたわけだが、家なき子や宝島は、出崎統・竹内・高屋敷氏の三者三様の個性が出ていて非常に面白い。この中で最年少だった高屋敷氏が埋もれなかったのも凄いと思う。
今回のような演出作にしろ、脚本作にしろ、キャラの可愛さは高屋敷氏の武器になっている。また、こういった可愛さを活かして、キャラ覚醒時のかっこよさを際立たせることにも秀でている。
こういった才は、特にシリーズ構成作で炸裂し、名作も多いわけだが、本作のような短編や、数々の担当作の経験の蓄積があってこそだと感じられ面白い。