カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

まんが世界昔ばなし14A話:火の演出の源

『まんが世界昔ばなし』は、1976年~1979年まで放映されたテレビアニメ。タイトル通り、世界の童話をアニメ化した作品。
今回は『動物たちと火』。脚本が首藤剛志氏で、演出/コンテが高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、まんが世界昔ばなしの記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%BE%E3%82%93%E3%81%8C%E4%B8%96%E7%95%8C%E6%98%94%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%81%97

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  • 今回の話:

今回は、『動物たちと火』。人類が何故火を使えるようになったか、動物が何故火を恐れるのかを伝える、ネイティブアメリカンの昔話。

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開幕、月が映る。全てを見ているような月の描写は頻出。ストロベリーパニック・RAINBOW-二舎六房の七人-・ガンバの冒険(脚本)と比較。

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ネイティブアメリカンの、火と動物を称える儀式が描写される。エキゾチックな芸能表現は、あしたのジョー2(脚本)、空手バカ一代(演出)、おにいさまへ…(脚本)にも見られる。

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時は人類誕生前まで遡る。当時は、山の頂上に火を管理する悪魔がいて、他の生き物は火を使うことができずにいた。火の意味深なアップ・間は、よく出る。あしたのジョー2(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)、家なき子(演出)と比較。

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火を管理する悪魔トリオは愛嬌がある。
ワンナウツカイジ2期・忍者戦士飛影(脚本)などなど、憎まれ役/敵役の愛嬌は目立つ。

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鷲は、上空から火を取ろうとするが、悪魔の火魔法を食らって頭が禿げてしまう。これが禿鷲の始まりとされる。
鳥の活躍や表現は目を引く。ハローキティのおやゆびひめ・太陽の使者鉄人28号おにいさまへ…(脚本)、宝島(演出)と比較。

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動物達は、なんとかして火を手に入れたい…と頭をひねる。そこへ賢いコヨーテが現れ、作戦を提案。頭がキレる者がチームを引っ張るのは、カイジ2期・ワンナウツ(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)、MASTERキートン(脚本)などでも強調されている。

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コヨーテの作戦に従い、まず動物達は葡萄酒を作る。葡萄を採取するリスが可愛い。高屋敷氏は、演出作、(不思議だが)脚本作とも、キャラの可愛い描写に長ける。ガンバの冒険ハローキティのおやゆびひめ(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。

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葡萄酒作りは進み、クマが葡萄を踏む。高屋敷氏は、小さい者だけでなく、大きい者を可愛く見せるのも上手い(老若男女に可愛さを付与できる)。ハローキティのおやゆびひめ(脚本)、宝島(演出)、ルパン三世2nd(脚本)と比較。

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動物達は、できあがった葡萄酒を山へと運ぶ。酒好きの悪魔達はそれに飛び付き、早速酒盛りを始める。美味しそうに飲み物(特に酒)を飲む場面は多い。ど根性ガエル(演出)、はだしのゲン2・カイジ2期(脚本)と比較。

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酔った悪魔達は眠りこける。酔って寝る場面は、色々な作品で印象に残る。カイジ2期(脚本)、ど根性ガエル(演出)、ガンバの冒険(脚本)、宝島(演出)、おにいさまへ…(脚本)と比較。

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悪魔達が眠っている隙に、コヨーテは火を入手する。ここでも火のアップ・間がある。RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)、ど根性ガエル(演出)、コボちゃんおにいさまへ…(脚本)と比較。

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火が取られた事に気付いた悪魔達は氷魔法を放つ。コヨーテは滑走しながら逃げる。
雪山や氷上を滑走するのは、しばしば見られる。ハローキティのおやゆびひめ(脚本)、家なき子(演出)、忍者マン一平(監督)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)と比較。

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さらに悪魔が火魔法を放った結果、コヨーテの尻尾の先が焦げる(それ以来、コヨーテの尻尾は黒い)。それでもコヨーテは豹に火を渡す。ここも、コヨーテが可愛い。元祖天才バカボン(演出/コンテ)、宝島(演出)ほか、可愛い描写は実に多い。

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コヨーテからバトンタッチされた豹は、悪魔の風魔法を食らい、毛皮の斑点を失う。以来、アメリカ大陸の豹(ピューマ)には斑点が無くなった。
風が色々な役割を果たす事は多々ある。ハローキティのおやゆびひめ・グラゼニめぞん一刻(脚本)・ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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火は、豹から鹿に渡され、鹿は角の先を悪魔に溶かされながらも(ヘラジカの起源)、火を蛙に渡す。ここの連携も可愛い。微笑ましいコンビは、ガンバの冒険・RAINBOW-二舎六房の七人-・あしたのジョー2(脚本)、ど根性ガエル(演出)などにも見られる。

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蛙は悪魔に尻尾(当時はあった)を掴まれるも、なんとか逃げる。以来、蛙には尻尾がない。
ここも、小さい者の描写が可愛い。元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。

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悪魔は蛙を追い詰めるが、その時、枯木に穴が開いたので、蛙は火(ほぼ炭)を穴に投げ込む。すると穴は塞がる。魂があるような木の描写は、数々出る。じゃりン子チエ(脚本)、宝島(演出)、RAINBOW-二舎六房の七人-・おにいさまへ…(脚本)と比較。

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悪魔達は木を調べるが、諦めて帰る。
その後コヨーテは、その木と枯れ枝を使って火を起こすことに成功。
やはり頭がキレる者が皆を勝利に導くあたり、カイジ2期やワンナウツ(いずれもシリーズ構成・脚本)を彷彿とさせる。

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動物達が火を手に入れたのを受け、悪魔のボスは部下二人を叱り飛ばす。
中間管理職的な立場の者の悲哀は、カイジ(脚本)などでも強調される。

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悪魔達はケジメをつけるため、自分達の命と引き換えに、1000年後に動物達が火を恐れる呪いをかける。
マイメロディ赤ずきんカイジ2期(脚本)、宝島(演出)、ワンナウツ(脚本)などでも、敵役や憎まれ役が可哀想に見える。

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呪いが発動する前に、動物達は、新しい種族である人間に火を伝える。
動物達の団結力が光る。
チームとしてのかっこよさは、ガンバの冒険・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)も印象に残る。

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こうして火を使えるようになった人間達は、動物達に感謝する儀式を行うようになったのだった。像のアップ・間は結構見られる。カイジ(脚本)、空手バカ一代(演出)、じゃりン子チエ(脚本)と比較。

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  • まとめ

演出側からの参加のため、動作や演出などで、高屋敷氏がキャラの可愛さを出しているのがわかる。不思議なのは、脚本作でもキャラが可愛くなること。(可愛くなる)状況作りが上手いのだろうか。

今回の高屋敷氏は演出側なので、あくまで全体の印象での話になるが、頭がキレる者がチームを導く痛快さは、カイジワンナウツ(いずれもシリーズ構成・脚本)に活かされていると言えなくもない。少なくとも、同氏の好みに合うと考えられる。

忍者マン一平(監督)や、ルパン三世2nd(脚本や演出、コンテで参加)でも、細かく、順序立った作戦が結構出てくる。こういった事から考えても、今回の話は高屋敷氏とマッチする。

そして、演出・脚本ともに頻出する、意味深な「火」の描写が剥き出しの形で出てくる。何しろ、人類が火を如何にして手に入れたかの話である。
今回も、画面全体が火のアップになる意味深な「間」があり、興味深い。

高屋敷氏が何故こんなに「火」にこだわるのかは謎だが(多分パーソナルな領域)、寒い冬がある北国出身(岩手県)であることも、もしかしたら関係があるかもしれない。雪や氷の描写も、結構出てくる。

あと、敵役(今回は悪魔)の可愛さや悲惨さも目を引く。今回は演出側での参加なので、キャラの芝居付けや全体のコンセプトからのアプローチになるが、それにしても敵役の「愛嬌」は、あらゆる担当作で見受けられる。

高屋敷氏は、善悪のラインを明確に引かない傾向にある。宝島(同氏演出参加)では、人間の色々な側面を描くことが出来たとコメントしており(宝島ロマンアルバムより)、その一環として、敵役の苦労や愛嬌を強調していると思う。

今回は、火、知略、チームワーク、愛嬌、敵役の苦労…と、高屋敷氏の「好み」が如実に表れている内容だったわけだが、そもそも、同氏は作品の中から、自身の好みを抽出するのが巧み。この才能や技術に、これからも注目したい。

ちなみに、脚本の首藤剛志氏は、2002年までアニメ版ポケットモンスターのシリーズ構成・脚本を務めた。今回は動物が活躍しているので、その繋がりも面白い。首藤氏が亡くなっているのが悔やまれる。