カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

じゃりん子チエ26話脚本-子供達の幼さが描かれる中盤以降の展開を示唆

  • はじめに
じゃりん子チエという作品は、高畑勲監督の恐ろしさが非常に出ている。一見1~2話完結のように見えるが、最初から最後までシナリオは数珠つなぎにつながっており、伏線をライターが継承し続けなければならない。そして、原作通りでありながら、各演出・脚本・作画などのテーマや個性が出ており、最終的に高畑監督がいつも出すテーマに収束されていく。
 
チエ以外の高畑作品でわかりやすい例を出すと、「火垂るの墓」は、原作者である野坂氏が予告編を見ただけで号泣するほど*1原作通りなのに、何年か後に見ると、プライドが邪魔してコミュニティに溶け込めず朽ちていく清太の悲劇や愚かさなどが描かれ、高畑監督のいつものテーマにどっぷり浸かっていることがわかる。
 
じゃりん子チエも同様で、シリーズを通しで見ると、いつもの高畑監督のテーマが封入されており、時限爆弾のように視聴者の頭に、高畑監督のテーマが炸裂する。ある意味、わかりやすい原作クラッシュより規模がでかい原作クラッシュ。なにしろ原作者まで原作通りと満足したままなのだから。高畑監督は非常に計算高い策士(いい意味で)であることが認識できる。
 
高屋敷氏と宮本昌孝氏で脚本をローテする中盤より以前は、劇場版の再構成と、様々なキャラの登場、イベントなどが描かれ、ヨシエとテツの関係がじわり修復していく様子が描かれる。この構成も見事で、
  • チエとヨシエ、チエとテツだけの交流→
  • チエ・ヨシエ・テツが遊園地へ行き、チエのおかげでテツとヨシエの仲が修復し始める→
  • 色々なイベントがあるなか、序盤最大イベントである相撲大会でテツとヨシエがチエを応援→
  • テツが相撲大会でケガしたことが切欠で、ヨシエが家に戻り、テツ・ヨシエ・チエがぎこちないながらも親子3人で再度暮らし始める
までが描かれる。ここまで来るのに、とりこぼした伏線が殆どなく、全部のシナリオが数珠つなぎになっている。これは中盤から脚本を引き継いだ高屋敷・宮本氏になっても変わらず、各スタッフの個性を出しながら最後まで行く。そうすると、高畑監督のテーマが作品全体を通して見えてくるようになっている。
 
この作品構成の見事さは、今の、映画専門になった高畑監督とは違うロングラン構成で、今見ると新鮮。だが、チエを見るに、高畑監督は映画においても4クールを2時間に縮めているのではないかと思えてくる。また、後継者不足と言われるジブリだが、チエだけでも、高坂希太郎・辻初樹氏をはじめ、輩出した名手の数は膨大。ワンマンかと思えた高畑監督のイメージは大分覆された。
他のチエ情報についての過去ツイートは、膨大すぎて書ききれないので、下記twilog参照
 
さて、高屋敷氏が宮本氏と共に脚本を開始する中盤は、テツ・ヨシエ・チエが、ちゃんと一つ屋根の下で同居しはじめ、チエが少し子供らしさを取り戻していくあたりから。
高屋敷氏はキャラクターの童心や幼さを引き出す手腕があるので、ここからの展開にはうってつけ。また、宮本氏は、シリアスな部分や大人の面を表現することが多い。そのため、出崎統監督作で、竹内啓雄氏(男のかっこよさ・シリアス)&高屋敷氏(かわいく幼い・コメディ)が巻き起こした2重人格演出が、本作でも脚本上で起きている。実況でも「今日のチエちゃん、前回と雰囲気違う」と言われてしまうほど。
 
さて今回は高屋敷氏脚本初出の26話。
 
  • 1回目検証の過去ツイート(アニマックス放送時)

じゃりん子チエ26話高屋敷氏脚本回見たとこだが凄い。

  • 出崎統式水面描写、船、
  • ベルばら・家なき子式洋館、
  • 坂道遠近、
  • 出崎調止め絵(絵画)からの出崎鳥。

と、同氏特徴である、

  • 紙、
  • ごちそうアップ、
  • お母ちゃん子、
  • 優秀穏和モブ、
  • 情感ある間や景色、
  • 上着を優しくかける、
  • 早口長台詞、
  • ナレとかけ合い、
  • 超連呼。

 などなど、特徴山盛り。

posted at 23:01:08

 

あとは頻出のジャンケンも出るし、投票用紙と箱が、カイジティッシュくじに似てる。

更に特徴である、ペロペロ、贈り物、高速回想、時系列操作も出る。

ヒラメの絵が上手い話と、学級委員選挙の話を入れる圧縮術。

今までの継承としては、テツとマサルツンデレ、ヒラメは怒ると凶暴、マサル母とヨシエの交流等。
posted at 23:15:11

演出の御厨恭輔さんは高屋敷氏とガンバ、赤ルパン、柔道讃歌等で一緒に仕事してるし、作監北原健雄さんも、ど根性ガエル、赤ルパンで一緒。

原画の尾形重夫さんも、ど根性ガエル、赤ルパン原画してる。

縁が縁を呼び、高屋敷氏が脚本からの謎力で高畑家に出崎式を導入。
posted at 23:24:07

今までの複数平行プロット継承に加え、今回、初めて小鉄(永井さん)のナレが入るのだが、これが同氏シリ構アカギ、カイジのナレに生きる。どちらもキャラとのかけ合いのようにすんなり入る。今までも小鉄達、猫の視点で人間を俯瞰で見てたが小鉄ナレで更に強調された。
posted at 23:38:08

天才的画力かつ、お弁当を食べる時も描くのをやめない集中力のヒラメに、チエはお弁当を取りやすくしてあげたり上着をかけてあげたりして、常人とは違う芸術家の領域を感じている。これ、出崎統氏はじめ絵が超上手く集中力が凄い人に囲まれてた高屋敷氏の実体験?
posted at 00:59:09

  • 画像編(モバイルの場合はURLをクリックするとツイッターの大きな画像で見れます)

一番震撼したのが、出崎統的美術描写(ヒラメちゃんの絵)からの出崎鳥(上段)。上段右端が家なき子演出における出崎鳥。

あと同氏「演出」のエースをねらえ!家なき子最終回との比較。

おまけに急に池周辺にベルばら的な城が出現 pic.twitter.com/YR5Vbl6ZrD

posted at 04:42:20

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さらに脚本からなのに最終映像が似てくる、いつもの怪現象集。今回の脚本と、ど根性ガエルエースをねらえ!演出、カイジ脚本・シリ構、ベルばらコンテ。今回のチエの演出御厨さんも作監の北原さんも、高屋敷氏との思い出が同氏の脚本から蘇るのか? pic.twitter.com/qugwlBJ6fh
posted at 04:47:38

 

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今回の高屋敷氏脚本は、特にエースをねらえ!演出からの怪現象が多め。ひろみとマキ、チエとヒラメ、どちらも仲良し女の子の話だからかな?

あとマサル・タカシコンビと、結局4人でわいわい絵を描いたり、Bパートでチエとマサルが互いを気遣ったり、やっぱり友達思い、可愛い友情が描かれる。
posted at 04:59:31

高屋敷氏特徴のペロペロ、カイジのはいつも破戒録1話のビール舐めるの比較対象にしてるけど、ど根性ひろし(新含む)、はだしのゲンジョーのサチ、めぞん一刻惣一郎さん(犬)などなど沢山ある。カイジはこの中で一番年上なのに同レベルwまあ会長も同氏脚本回でステーキ肉汁ペロペロ。会長最年長w
posted at 05:06:30

 

  • 現時点(2016・7月)からの追記

冒頭、チエは宿題の写生のための画材を買いに行く。その際ヨシエとチエは会話しながら歩くが、チエはヒラメの絵の上手さを楽しそうに語り、ヨシエもそれを楽しそうに聞く。親子3人揃って住む環境が出来たことで、チエが子供らしさを大分取り戻した様子が見て取れ、序盤から積み重ねて来たプロットが上手く引き継がれている。

また、ヨシエとテツの復縁の過程も、引き続き描かれている。今回、ヨシエが作った、チエとヒラメのための弁当を、テツが自分のための朝食と勘違いして食べてしまう。チエには怒られるが、テツは「アイツ(ヨシエ)好かんけど美味かった」と言い、テツが大分ヨシエに対しデレ始めていることがわかる。ツンデレレベルが小学生のマサルと大して変わらない、おっさんの幼さ・可愛さも出ており、それを描写するのが得意な高屋敷氏の特徴が生かされている。

チエとヒラメの写生の場面では、二人やマサル、タカシの幼さ、可愛さが出ている。その際、マサルが「子供の絵はのびのび描かないかんのや」と「のびのびのびのびのび…」と1分近く超連呼するシーンがあるが、ジョー1脚本デビューあたりの必死の尺稼ぎから出て、怪我の功名で長所・個性となった超連呼が如何なく発揮されている。(近年の例ではカイジ2期脚本の「一条一条一条一条一条…」)

色々な高屋敷氏の担当作や、監督作の忍者マン一平を見てきたところ(http://togetter.com/id/makimogpfb)、同氏のポリシーの一つに「自然や無機物は重要なキャラクターである」というのがあることが判明した。これが、特徴である太陽・月・ランプや無機物の意味深な間の正体。キャラクターとして状況を見ているから殺気がある。今回も写生ということで、まるで木が子供達を見守っているような間が発生している。

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Bパートは学級委員長選挙の話であるが、Aパートと関係ないかと思えば、Aパートでちゃんと「負けたら級長に選ばれへんど」「楽しみや」という、タカシとヒラメの台詞で伏線が張ってある。これも、このシリーズのライター陣が伏線を張りまくり取りこぼさない周到さが出ている。

Bパート冒頭、マサルが母親の萩旅行のお土産をチエ宅に持ってくる。そっぽ向きながら長々と理由を語るマサルが可愛く、同氏の特徴が出ている。また、贈り物やお土産がよく出てくるのも特徴。心がこもっていたり、義理だったり、キャラクターをつなぐ役割を担っており、贈り物もキャラクターとして扱っている。

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残念ながらお土産は、そっぽを向きながら喋っていたせいでテツが受け取る。しかも「喋るときは目ェ見て話さんかい」と、マサルはテツにどつかれる。行き過ぎたツンデレのせいでとんだとばっちりを受けたマサルだが、これも後に伏線となり、オチに使われる。

委員長選挙で、チエは、マサルがお土産をもって来たのは選挙のせいかと、それとなく聞く。勿論そんなことはなく、母親に言われたからだとブツブツ言うマサルだが、明らかに落ち込んでいる。チエはそんなマサルを見て悪いことを言ってしまったと思いつつ、投票用紙に向かう。

結果は一票差でマサルが当選するが、ヒントとして、チエは今まで一回もマサルに投票したことがない・マサルは初めて自分以外に投票した、という情報が出るので、チエが初めてマサルに投票してあげたことが推測される。

お土産に関する誤解や自分の失言でモヤモヤするチエだが、そんな懸念を吹き飛ばしたのはテツであった。テツがお土産を全部食べてしまっており、このお土産はなかったことになっていた(小鉄ナレも入る)。このゴミ箱にも意味深な間があり、お土産のゴミが重要なキャラ、しかもオチを司るキャラであることがわかる。

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この回、シリーズ内で初めてナレーションが入るが、高屋敷氏はナレーターも重要なキャラクターと見ていることが判明してきた。近年ではカイジの立木ナレがキャラと絶妙なかけあいをしているかのようだし、監督作の忍者マン一平では、学校仮面というキャラがナレーションを務め、ナレーションが実体化している。

チエを見守るような小鉄の初ナレーションといい、ABパートともメインは子供達の話な所といい、家庭が修復されていったことで、これからは、チエ達の子供らしさが今までより多く描かれていくことが示唆される回だった。

*1:私の記憶だが、確か公開時の朝日新聞記事