カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

じゃりン子チエ40話脚本:“高畑流”の取り込み

アニメ『じゃりン子チエ』は、はるき悦巳氏の漫画をアニメ化した作品。小学生ながらホルモン屋を切り盛りするチエを中心に、大阪下町の人間模様を描く。監督は高畑勲氏。

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本記事を含めた、じゃりン子チエに関する当ブログの記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%98%E3%82%83%E3%82%8A%E3%82%93%E5%AD%90%E3%83%81%E3%82%A8

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  • 今回の話:

演出:秋山勝仁氏、脚本:高屋敷英夫氏。

夏真っ盛り、チエ達は海水浴に行くことに。

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開幕、暇になったチエは体操をする。
ストロベリーパニック(脚本)、ガイキング(演出)ほか、キャラの幼さ、無邪気さは強調される。

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チエはテツ(チエの父)に「遊んだろか」と言うが、テツは断る。ここも幼い。ガイキング(演出)ほか、子供と大人の微笑ましいやりとりは多い。

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チエが、おバァはん(チエの祖母)の所に出かけた後、ヒラメ(チエの親友)がテツにこっそり会いにくる。ここも、二人のやりとりが可愛い。宝島(演出)、太陽の使者鉄人28号(脚本)など、年の差があるキャラの、名コンビネーションは際立つ。

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ヒラメとテツは、泳げない者同士ということで、徒党を組んでいた。二人はエア泳ぎを見せ合う。ここも可愛い。
元祖天才バカボン(演出/コンテ)、アンパンマン(脚本)ほか、やはり大人と子供の無垢な関係性を描写するのが高屋敷氏は上手い。

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一方、百合根(お好み焼き屋)は、池で泳いだために全身が痒くなってしまったジュニア(百合根の飼い猫)と小鉄(チエの飼い猫)のため、塗り薬を買う。ここは後の展開の伏線となっており、テンポやリズムがいい。

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チエは、おバァはんと、かき氷を食べる。おバァはんは、テツが泳げなくなったのは拳骨(テツの恩師)のスパルタが原因と語る。飯テロは実に多い。カイジ2期(脚本)と比較。

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テツとヒラメも、プールに行った帰りに、かき氷を食べる。ヒラメは徐々に泳げるようになっており、テツはいじける。
ここも飯テロ。ストロベリーパニックおにいさまへ…(脚本)と比較。

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ヒラメとテツは、チエと鉢合わせする。チエは何となく事情を察する。ヒラメは正直に、泳ぎの練習の進展を話す。テツは益々いじける。ここはテツが幼い。ワンナウツ(脚本)や宝島(演出)ほか、子供っぽい大人は色々な作品で印象に残る。

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そこに百合根が通りかかる。テツが八つ当たりに百合根をどついた拍子に、猫達のための塗り薬がテツに付着。非常に刺激がある薬のため、テツは悶絶。ここは前の伏線が回収されており、テンポがいい。

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後日。チエ・ヒラメ・テツ・ヨシ江(チエの母)・拳骨は海に行くことに。そこに偶然、猫達の療養のために海に行くことにした、百合根が居合わせる。薬の恨みもあり、テツは百合根に絡む。グラゼニ・F-エフ-(脚本)ほか、同性同士のじゃれ合いは多い。

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百合根が箱に空気穴を開け忘れたせいで、移動中に箱に入っていたジュニアと小鉄はフラフラになるが、すんでの所で助かる。情緒ある2ショットは、しばしば見られる。カイジ2期・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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百合根は反省し、猫達だけでなく、以前は息子(別居中)を自転車に乗せた時に危険な目にあわせた事をヨシ江に語る。おじさんの悲哀は、ガイキング(演出)やカイジ2期(脚本)でも印象的。

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一方、テツはヒラメを砂遊びに誘う。テツに気を使うヒラメの気持ちを察し、拳骨とチエも付き合うが、白々しいのですぐテツにばれる。元祖天才バカボン・まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)ほか、子供っぽいおじさんは数々の作品に出る。

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テツをなだめるため、チエ、ヒラメ、テツはラムネを飲む。美味しそうな飲み物も頻出。グラゼニカイジ2期(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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テツは、たまたま屋台を開いていたカルメラ兄弟(テツの弟分)を見つけ、八つ当たり気味に、ヤクザにカルメラ兄弟を襲うよう命じるが、カルメラ兄弟はヤクザを撃退する。MASTERキートン(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)ほか、味のあるモブは色々な作品に見られる。

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その頃、百合根はヤケ酒を飲んで酔っ払っていた。酒で失態を演じるシチュエーションは結構ある。宝島(演出)、あしたのジョー2(脚本)と比較。

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一方、カルメラ兄弟にやられたヤクザは仲間を引き連れてカルメラ兄弟を襲う。
テツはそれを面白がり、乱闘に参加する。
ここもモブに色々と味がある。ど根性ガエル(演出)、ストロベリーパニック(脚本)のモブと比較。

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乱闘に夢中で、海に落ちても平気だったテツだったが、ヒラメの指摘で我に帰り、溺れる。すかさず拳骨が、テツの救出に向かう。はじめの一歩3期・F-エフ-(脚本)など、血の繋がりはなくとも温かい大人の存在は強調される。

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百合根はというと、まだ酔っ払っており、ヨシ江を(別れた)妻と勘違いして追いかけ回していたのだった。終盤で追いかけっこになるのは、ルパン三世2nd(演出/コンテ)、新ど根性ガエル(脚本)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)と重なる。

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  • まとめ

話の圧縮具合が凄い。普通は2話くらいかかりそうな話(実際、原作は2話かかっている)を、1話内にまとめている。高屋敷氏は、おにいさまへ…やRAINBOW-二舎六房の七人-など、後に凄まじく密度の濃い脚本を書くが、その片鱗が見える。

細やかな技巧もさることながら、テツとチエ、テツとヒラメ、テツと拳骨など、微笑ましい人間関係の描写が上手く、ほっこりさせられる。キャラの可愛さを引き出す高屋敷氏の能力が、存分に活かされていると思う。

高屋敷氏はキャラの掘り下げにも秀でるが、今回もその能力が遺憾なく発揮されている。特にヒラメ、百合根に関してグッと深みが増す構成になっている。

いつもテツやチエを見守り、いざとなれば助けてくれる拳骨の温かさも、今回気付かされる。やはり血の繋がりだけでない、人と人(および猫)の絆が強調される作りになっているのが良い。

こんなにキャラを色々と動かしているのに、ごちゃごちゃしていないのも凄い。これだけ本作の脚本をこなしていることを考えれば、高屋敷氏が他作品で異様に密度の濃い脚本を書けるのも納得する。

本作の監督である高畑勲氏は、常人では理解できない程に頭が切れる人物。もともと高屋敷氏も、非常に理詰めの作劇をするが、高畑氏の下で、おそろしくそれに磨きがかかったと考えられる。

長年一緒に仕事していたため、高屋敷氏は出崎統氏に強い影響を受けているが、同氏は本作に参加したことで、“高畑流”も大いに身につけたと思うし、それがなければ今の高屋敷氏も無いと思う。あらためて高畑氏にも感謝したい。