カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

MASTERキートン8話脚本:「義」を貫くには「理」を

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

MASTERキートンは、かつて英国特殊部隊SASで活躍したキートンが、ある時は保険会社調査員として、またある時は考古学者として世界を周り、様々な事件に遭うドラマ。

舞台はイギリスのウェールズ
日本企業・ヤザワエレクトリック社のウェールズ工場長・滝田修二と、その運転手ギアが誘拐される事件が発生。
誘拐話は、元祖天才バカボン演出回にもある。また、カイジ2期脚本も、拉致まがいの方法でカイジが地下に落とされる。 

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事件は、イギリス警視庁のコスナー警視と、誘拐犯罪担当のダグラス警視が取り仕切ることに。
キートンも、保険会社からの交渉人として派遣される。一見柔和な凡人のキートンだが、すぐに有能ぶりを発揮(特徴:豹変)。カイジ脚本と比較。 

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今後、修二の夫人・ダグラス警視・コスナー警視(とその部下)・キートン・孝三(修二の父)・久山(ヤザワ英国支社長)が一同に会し、犯人との交渉にあたることに。犯人との唯一のつながりは電話。ジョー2脚本の、葉子が丈に電話しまくる回が思い出される。 

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キートンは、犯人と電話で話す役を、夫人に振る。
だが犯人と話した夫人は、すっかり怯えてしまう。カイジ2期脚本と比較。どちらも、電話相手が冷酷無比な人間。

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コスナー警視は、キートンの判断に疑問を持つが、ダグラス警視はキートンを称賛。近親者が相手をする方が、人質の生存率が上がるという統計があるためだ。ダグラス警視は、キートンがプロ中のプロだと見抜く。煙草を吸う姿が渋い(特徴)。カイジ2期脚本と比較。

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ただ、犯人が提示する身代金は2500万ポンドと、法外。
キートン達は、何とか相場の300万ポンドまで下げるよう交渉しなければならない。
カイジ(シリーズ構成・脚本)での、“命の値段”を彷彿とさせる。

キートンは、最初の判断通り、犯人からの電話を全て夫人が取るよう指示。怖がる夫人だったが、キートンの説得に応じ、その役を引き受ける。
その後もキートンは的確な指示を出し、交渉は進む。画像は覚醒する人達。元祖天才バカボン演出、カイジ脚本と比較。

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犯人との会話で、修二の生存が確認される。また、犯人がアキレスとアポロの伝説内容を知っていたことから、犯人に教養がある事が判明。
だが、身代金の値下げ交渉は難航。しかも、もう一人の人質である運転手は殺されてしまう。

それでもキートンは、犯人との信頼関係を築く事が大事だと、皆を落ち着かせる。カイジ(シリーズ構成)の「オレは(利根川を)信頼したんだ」が思い出される。
だがしかし、保険会社は誘拐保険金の支払を拒否。誘拐前日に修二が辞表を出していたためである。

そのため、キートンがいる意味が無くなってしまう。孝三は、どうか残ってほしい、とキートンにすがりつく。
キートンは、そんな孝三の手を握って落ち着かせる(特徴:手から手へ思いを伝える)。
ジョー2・めぞん一刻カイジ2期脚本と比較。 

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キートンは居残りを決意。まず、憔悴しきった夫人の面倒を見る。
夫人は、次々と駐在員が帰国したことや、夫が多忙すぎることで、孤独感を覚えたと吐露(特徴:孤独は万病の元)。夫の誕生日にケーキを用意しても、夫の帰宅が早朝だった事などを話す。

その時夫人は、我慢の限界に達し、夫に誕生日ケーキを投げつけてしまったという。
誕生日ケーキが台無しになってしまう場面は、元祖天才バカボンの演出回にもある。

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それでも夫を助けて欲しい、と夫人はキートンに懇願。キートンはそれを快諾。 

キートンは、保険会社の半分の日当で、個人として交渉業務を続行する(特徴:義理人情)。
しかし、身代金の値下げ交渉は、またも難航し、犯人は「人質の指を切った」と宣言、写真を送りつける。だがその写真がインチキであることを、キートンはすぐに見抜く。

キートンは、犯人が手詰まりになってパフォーマンスに打って出ている現況を利用し、自陣もパフォーマンスをしようと提案(特徴:知略)。
そこでヤザワ社の労組リーダー・キャロルに、大規模なストを行って欲しいと頼む。
キャロルは作戦を理解し、ストを実行。

夫人は、犯人に対し「ストで会社が傾き、金が無い」と話す。そして「既に夫は死んでいるのでしょう」と号泣(演技)。犯人は、人質が生きていることを伝え、また連絡する事を確約。再度電話をかけて来た犯人は、交渉の末、身代金を292万ポンドにする事を了承する。

犯人は、修二の解放を約束。丁度、その日は夫人の誕生日。犯人によれば、「プレゼントは自分の身一つで我慢してくれ(特徴:贈り物)」と修二が言っているという。
夫人は、夫に愛されている事、自分が夫を愛している事に気付き、身代金を置く役を買って出る。
ジョー2脚本と比較。葉子も、丈を愛している事に気付き始める。

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久山は、そんな夫人の手を握り、身代金の入ったアタッシュケースを渡す。
ここも特徴の、手から手へ思いを伝える場面。ど根性ガエル演出と比較。

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その後、修二自身から電話がかかって来て、彼が無事に解放された事が確認できた。

交渉チームは喜び、孝三はキートンに礼を言おうとするが、既にキートンは何処かへ消えていた。そしてキートンの座っていた椅子が映り、間が発生する(特徴:魂のこもった物)。
家なき子演出と比較。 

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ダグラス警視は、誘拐交渉人というキートンの立場を理解する。交渉人は、犯人との直接交渉や身代金運びなどはやらない。そして自分の正体を隠すものなのだと…
そして、これからが(犯人捜索など)警察の仕事。

車が巻き起こす風のせいで、一旦キートンは足を止める。めぞん一刻脚本と比較。どちらも、「風」が引き止めるように吹き(上段)、「天」が事象を見守っている(下段)。

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キートンは少し振り向いて微笑むも、また歩を進めるのだった。

  • まとめ

まず、キーキャラとして「電話」が活躍する(特徴)。
そして殆どの場面が、犯人と電話で話す部屋なのだが、緊迫感が持続する構成になっている。
カイジ2期脚本7話の、班長が実質3回サイコロを振るだけなのに緊迫感が凄い回を思わせる。

そして、またまた「お年寄りに優しい」という同氏のポリシーが出ている。やはりこれも、はだしのゲン2脚本の、孤独なお爺さんをゲン達が救う話と比較したい。

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とにかく、優しい中高年・または主人公に優しくされる中高年は、挙げればキリが無いほど出てくる。

あと、「孤独は万病の元」というポリシー。どんどん一人ぼっちになっていく夫人の過去話も、その一つ。下記画像でも、夫人が一人で食事をしているが、「皆で食べるご飯は美味しい」という同氏のポリシーと逆の状況で、夫人の孤独感を強く表現している。

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また、「身代金」という「命の値段」。身代金相場は1億円を超えているが、カイジ(脚本・シリ構)の鉄骨編では、一人頭1000万。会長編では、指4本+2千万と、1億円を賭けての勝負となる。
更に利根川曰く「金は命より重い」。
中々正解は見えない。

これもまた、同氏特徴である「単純ではない善悪の判断。
(参照: https://twitter.com/i/moments/901473716667695104 )

キートンカイジも、「その時設定された値段」に、ある程度従う。特にカイジは、命の値段が変動しても、助ける行動に出ている。

だがキートンカイジも、「根拠のある論理」に基づき行動して知略を巡らす。ただただ正義論をわめく行動には出ない。しかしカイジは会長戦ではこれを忘れ、激しく悔やむ。
元祖天才バカボン演出・脚本でも、善悪問わず、知略に長けた者が勝つ展開が多い。

元祖天才バカボン演出や脚本は、誰が一番悪いのかを断定しない話が多い(1980年版アトム脚本も、その傾向があるようだ)。
アカギも、ある程度は相手に敬意を払う。カイジは、利根川の焼き土下座を見て涙を流す。
これも、対戦相手が絶対悪ではない、あしたのジョーの脚本の経験が生きている。

今回キートンは、犯人と信頼関係を築き交渉を成功させる努力を、具体的な手段を駆使して行った。
カイジの場合、「勝つってことは、具体的な勝算の彼方にある現実だ」と言い、具体的な作戦を立てる。
一見、全然違う二人に共通項があるのが面白い。

一方、温かい義理人情も特徴の一つ。キートンは半額の日当で、カイジは全てを失って、人を救う。
だがそういった義理人情も、具体的な手段を行ってこそ達成できるもの。つまり、義を貫くには理が必要ということ。
そういったシビアさも感じた回だった。