カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

家なき子17話演出:「伝達」の重要性

アニメ『家なき子』はエクトール・アンリ・マロ作の児童文学作品をアニメ化した作品。過酷な運命のもと旅をする少年・レミの成長を描く。
総監督は出崎統氏。

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本記事を含めた、当ブログの家なき子に関する記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E5%AE%B6%E3%81%AA%E3%81%8D%E5%AD%90

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  • 今回の話:

サブタイトル:「さようなら白鳥号」

脚本:山崎晴哉氏、コンテ:出崎統監督、演出:高屋敷英夫氏。

ビタリス(レミの芸の師匠)の刑期が終わる。それはミリガン夫人(富豪)やその息子・アーサー(ミリガン夫人の息子)とレミの別れの時でもあった。

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あと数日でビタリス(レミの芸の師匠)の刑期が終わるという頃。月明かりの中、レミは白鳥号(富豪・ミリガン夫人の船)の寝室で眠る。
光が射す描写は色々な作品にある。
ハローキティのおやゆびひめ・おにいさまへ…(脚本)と比較。

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翌日。アーサー(ミリガン夫人の息子)は、レミとの別れの日が近づいているのを憂う。
布団や毛布をかぶる所作は結構出る。あしたのジョー2・怪物くん(脚本)と比較。

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その後、レミと動物達と、白鳥号の皆はピクニックを楽しむ。動物達に翻弄されるレミの仕草が子供らしい。高屋敷氏は、可愛くコミカルな芝居付けが上手い。ガイキング・宝島(演出)と比較。

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レミと動物達の騒動を見て、アーサーとミリガン夫人は笑う。
笑顔は、様々な作品で印象的。原作つきでもアニメオリジナルで笑顔を入れることが多い。DAYS・ストロベリーパニックじゃりン子チエ(脚本)と比較。

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秋を示す、木葉が舞う。木葉を使った描写はよくある。コボちゃんグラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。

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眠ってしまったアーサーに、ミリガン夫人は優しく毛布をかける。眠るキャラに優しくする描写は数多あり、高屋敷氏のこだわりが感じられる。めぞん一刻(脚本)、宝島(演出)、ストロベリーパニック(脚本)と比較。

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ミリガン夫人はレミに、アーサーの兄となって、ずっと自分達と一緒にいてくれないかと提案する。白鳥のイメージが出るが、ほぼ同じ演出がベルサイユのばら(コンテ)にあり、比較すると面白い。

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ミリガン夫人は、レミの手を握る。手から手への感情伝達は多くの作品で印象的に描写される。ワンナウツMASTERキートン(脚本)と比較。

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ミリガン夫人はレミに、すぐに返事をしなくてもいいから、よく考えて欲しいと言う。木々が印象深い。「並木」が「人生」の暗喩なのは、しばしば見られ興味深い。グラゼニ蒼天航路ストロベリーパニック(脚本)と比較。

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一方、ビタリスは刑務所での最後の夜を迎え、自分でつけた日付の目印を見て微笑む。微笑もまた、色々な作品で強く表現される。DAYS・RAINBOW-二舎六房の七人-・おにいさまへ…(脚本)と比較。

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ビタリスは、同室の囚人から刑期終了を祝福される。カイジハローキティのおやゆびひめ(脚本)ほか、味のあるモブはあらゆる作品で目立つ。

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ビタリスは、ミリガン夫人からの手紙を読む。手紙には白鳥号が停泊している港町のセットまで来てほしいと書かれ、汽車賃が同封されていた。状況と連動する夜明けは数々ある。空手バカ一代(演出/コンテ)、ストロベリーパニック(脚本)と比較。

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そしてついに、ビタリスは釈放される。娑婆の光を浴びる彼の姿と、カイジ2期(脚本)の、地下を出て久々の日光を浴びるカイジの姿が重なってくる。

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ミリガン夫人達は、セットのホテルに宿泊する。ミリガン夫人はアーサーの傍で刺繍をする。縫い物と母性を繋げる描写は時折見られる。まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、陽だまりの樹はだしのゲン2(脚本)と比較。

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目覚めたアーサーは、レミは海辺の散歩に出かけたと聞き安堵する。
無邪気な欠伸描写は、多々見られる。
宝島(演出)、あしたのジョー2(脚本)と比較。画像は全て杉野昭夫氏が総作監、監督が出崎統氏であるので、その点でも面白い。

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ミリガン夫人は窓辺に立って、レミへ言った提案のことを考える。窓辺に立つ動作は様々な作品で見られる。ベルサイユのばら(コンテ)、おにいさまへ…(脚本)と比較。

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一方レミは、初めての海を楽しむ。ここの無邪気な芝居づけは、後にほぼ同じスタッフで作られた宝島(演出)にも活かされている。

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夜になり、ランプが灯る。意味深なランプ描写は頻出。まんが世界昔ばなし・空手バカ一代(演出/コンテ)、ワンナウツ(脚本)と比較。

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夕食の席でレミは、ミリガン夫人の提案を断った場合、これがミリガン夫人達との最後の食事になると考える。会食の大事さは、アンパンマンストロベリーパニック(脚本)ほか、あらゆる作品で強調される。

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アーサーは自分の分の料理をレミにあげ、その際にレミの袖を引っ張る。ここも、手による感情表現。DAYS・おにいさまへ…ルパン三世3期(脚本)と比較。

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アーサーは、レミと別れたくない、ずっと一緒にいたいと訴え泣き出す。
チエちゃん奮戦記・カイジ(脚本)ほか、胸を打つ涙は様々な作品で印象に残る。

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何とかアーサーが寝た後、レミは、ミリガン夫人もビタリスも大好きだとして、二人の間で思い悩む。窓からの風の描写は、ベルサイユのばら(コンテ)や、おにいさまへ…(脚本)などにも見られる。

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そこにミリガン夫人が来て窓を閉め、レミを悩ませた事を謝る。
レミは、今後のことはビタリスに判断してもらうとミリガン夫人に告げる。
ここも窓辺に立つ描写が、おにいさまへ…ストロベリーパニック(脚本)と重なる。

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翌日、セットにビタリスが到着。駅でレミはビタリスに抱きつき泣く。
ハグ描写は結構ある。ワンダービートSストロベリーパニック(脚本)と比較。

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レミとビタリスは、海岸で楽しい時を過ごす。ここも無邪気でかわいく、微笑ましい表現が目立つ。あしたのジョー2・トンデケマン(脚本)と比較。

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その後レミは、ビタリスとミリガン夫人の二人で話し合ってもらうことにし、その間待つ。橋の描写は数々あり、意味深。MASTERキートンめぞん一刻・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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しばらくするとビタリスがレミのもとに来て、ミリガン夫人と話すよう促す。レミがミリガン夫人のいる部屋に行くと、彼女は寂しげな笑顔を浮かべる。ここも窓辺に立つ描写。ストロベリーパニック(脚本)と比較。

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残りの人生全てレミのために使い、レミに人生の厳しさを教えたいというビタリスの思いを聞いたミリガン夫人は、何も言えなかったと涙を流す。ここも印象的な涙。カイジ(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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ビタリスと共に行くことが決まったレミは、ゆっくり身支度をする。
レミの道具が映るが、キャラを象徴する物が映る表現は要所要所にある。F-エフ-・カイジ2期(脚本)と比較。

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レミは、昼寝中のアーサーに、お別れのキスをする。ここも、眠るキャラに優しくする描写。ストロベリーパニック(脚本)と比較。

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ミリガン夫人は餞別に、自作の白鳥の刺繍が入ったハンカチをレミに渡し、手を握る。やはりここも頻出の、手による感情表現。F-エフ-・怪物王女(脚本)と比較。

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レミの未来に、自分とアーサーの愛を送るとミリガン夫人は言う。ステンドグラスの描写があるが、この表現はしばしばある。ストロベリーパニックおにいさまへ…あしたのジョー2(脚本)と比較。

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レミは、橋で待つビタリスのもとへ走る。ここも意味深な橋の描写。MASTERキートン(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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レミは少し振り返るも、ビタリスと共に再び旅に出るのだった。
MASTERキートン(脚本)でも、キートンが少し振り返ってから歩を進める場面が印象的。

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  • まとめ

 手による感情表現は、今回のような演出作でも、脚本作でも強烈に出ていて驚かされる。本当に、やりたいこと、伝えたいことが演出でも脚本でも同じで、高屋敷氏の思いの強さが窺える。

 並木を人生に喩える演出もまた、70年代から現代に至るまで一貫し、演出作でも脚本作でも絵面が重なってくるのがゾクっとさせられる。この表現は実に興味深いところだ。

 あと、「橋」の演出も意味深。運命や状況と連動させている。しかも時代を経るにつれ意味が濃くなっている。
最初期はレイアウト的な好みに過ぎなかったものが、重みが増していくのが面白い。演出のみならず、脚本でも同じことができるのが不思議でならない。

 思うに、高屋敷氏の「伝達力」が優れているからこそ、演出にせよ脚本にせよ画として似たものが「出力」されるのではないだろうか。

 何をどのように伝えたいか、表現したいか。演出でも脚本でも、それをハッキリ伝えることができなければ、作画や美術など、他の工程の人々を困らせてしまう。高屋敷氏は表現力や伝達力がかなり強いのだと推察する。

 それにしても、やはり演出でも脚本でも、やりたいことができていて、スタッフも年代も違うのに最終映像が似てくる現象は本当に、高屋敷氏の担当作を追っていく醍醐味。

 「脚本のような演出」、「演出のような脚本」の両方ができるというのは、高屋敷氏のユニークな所であり強み。いわば演出と脚本の二刀流。そのカラクリは謎だが、同氏の膨大な経験が成せる技なのだろう。

 また、喜怒哀楽の描写にも注目したい。キャラがよく笑い、よく泣くのをはじめ、ふとした笑顔、激しい怒り、複雑な感情など、実に多彩で繊細だ。これもまた、高屋敷氏の伝達力の強さを感じる。

 殆どの場合、アニメにおける脚本や演出は、作画や美術に「描いてもらう」立場である。なのに出力されるものが共通なのは、何を表現したいかの伝達が上手くできているということだ。

 高屋敷氏の並々ならぬ表現力・伝達力が起こすミラクル(時代もスタッフも違うのに最終映像が似てくる)には、いつもながら感銘を受けるし、やはり同氏の担当作を追ってよかったと、つくづく思うのである。