1980年版鉄腕アトム31話脚本:「魂」が宿る機械の「愛」
(Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)
1980年版鉄腕アトムは、白黒の初代の後、1980年に制作された第二作目。 監督は、後にマクロス監督となる石黒昇氏。
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今回のエピソードはアニメのオリジナルで、演出・コンテが出崎哲氏(出崎統氏の兄)。高屋敷氏とは、統氏同様に関わりが深い。
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とある山間部に、老人と、孫のさくらが経営するロッジがあった。
ロッジの主人である老人は、展示してある蒸気機関車を眺めるのが日課。
高屋敷氏の作品は、味のある老人が多いが、彼もその一人。監督作忍者マン一平や、MASTERキートン・花田少年史脚本と比較。
アトム、クラスメイト、担任のヒゲオヤジは、遠足として老人のロッジに向かう。
道中の列車内で、シブガキ達は自分の大切な物を賭けてゲームをする。高屋敷氏の作品に頻出の博打。元祖天才バカボン演出、チエちゃん奮戦記・カイジ2期脚本と比較。
ロッジに到着したアトム達だったが、あいにく天候は悪く、嵐になる。これも、天を重要キャラと捉える高屋敷氏の特徴が出ている。
めぞん一刻・花田少年史・アカギ脚本と比較。他も多数で、展開や演出に大きく関わる。
クラスメイト達は嵐や雷を怖がるが、リアクションが可愛い。これも高屋敷氏の特徴で、抱きついたりもよくある。演出だけでなく、脚本でもそうなるのが毎回不思議。
DAYS・怪物くん脚本と比較。ちなみに怪物くんも、雷を怖がる。
嵐はどんどん酷くなり、ロッジは土砂崩れなどで孤立してしまう。
古いダムの様子を見に行っていたアトムだったが、足のジェットが不調で、腕のジェットで飛ぶしかなくなる。鉄人28号太陽の使者の脚本もだが、同氏のロボットアニメ脚本は、ロボットが満足に動けなかったり、思い通りにならなかったりする展開が多い。
アトム達は、ロッジに飾ってある蒸気機関車に乗り脱出する計画を立てる。老人は最終的に承諾。
実は老人は、蒸気機関車のAIをベースにしたロボットだった。同氏特徴の、ありのままの自分を示す脱衣演出。ど根性ガエル・ルパン三世2nd演出、カイジ脚本と比較。
また、老人が機関車のAIであるという設定は、同氏の特徴である「物に魂」を、もろに体現していて興味深い。
老人のAIユニットを機関車にはめこむと、命が灯って生きているような描写になり、特徴が出ている。MASTERキートン・めぞん一刻脚本と比較。
アトムが障害物を除去したり、レールを支えたりしながら、機関車は走行。目的地は、建設中の新規ダムを越えた地点。
機関車AIは全ての力を出しきり目的地に着くも、オーバーヒートでブレーキが利かなくなる。
一方アトムは足のジェットの不調の原因を突き止め(序盤に伏線あり)、それを除去。足のジェットが使えるようになる。
止まらなくなってしまった機関車を正面から止めようとするアトムだったが、エネルギー不足で失敗。しかも、先の線路が分断されておりピンチに。ここでヒゲオヤジが十字を切るのだが、元祖天才バカボン・ルパン三世2ndの高屋敷氏演出回でも十字を切る場面がある。
アトムは、先が無くなった線路を上方向に曲げて、列車をジャンプさせる。
この、列車をジャンプさせるネタも、高屋敷氏のルパン三世2nd演出コンテ回に出ており、脚本でも演出でも同じ事ができる高屋敷氏の不思議さが出ている。
ようやく列車は止まり、アトム達は窮地を脱する。しかし、機関車AIは力尽きてしまっていた。高屋敷氏特徴の、体を張る年上男性(ロボットだが)。ルパン三世3期・忍者戦士飛影・キートン脚本と比較。特にルパン三世3期のキャラは、死んでしまっている。
さくらは祖父を探しに機関室へやって来るが、祖父がロボットだったとは信じがたく、祖父を探しまわる。高屋敷氏特徴の、ぼっち描写。ど根性ガエル演出、MASTERキートン脚本と比較。
また、さくらと老人の、疑似家族の愛を描いているのも同氏特徴が出ている。
さくらの姿を見て、アトムとヒゲオヤジは、お茶の水博士に、機関車AIを元の老人の姿に直してもらえるよう頼むことにするのだった。
雲の隙間から射す光が、一応の希望を感じさせる(特徴:天は重要キャラ)。家なき子演出、二舎六房の7人脚本と比較。
- まとめ
アニメのオリジナル話である事もあり、高屋敷氏の特徴というか、何が好みなのかが非常によく出ている。
可愛かったり優しかったりする老人は、高屋敷氏の作品に数多く登場するわけだが、オリジナル話にまで出るあたり、相当に中高年キャラが好きなようだ。
今回の演出コンテである出崎哲氏は、本作の自身の脚本・演出回にて、家族がロボットだったという回を手がけている。その回では、ゲストキャラの妹がロボットだったのだが、今回は、祖父がロボット。いかに高屋敷氏が中高年キャラが好きかわかる。
高屋敷氏と出崎哲氏のタッグ関連作は多く、
ど根性ガエルでは、高屋敷氏が演出・出崎哲氏がコンテ。
ベルばらでは、高屋敷氏がコンテ・出崎哲氏が演出。
他も、役職が色々違えど、色々な作品で連携している。今回も、互いの好みを熟知している感。
あと、高屋敷氏の過去作ネタも結構出てくる。前述の、十字を切る動作や列車ジャンプもだが、雌牛や蒸気機関車ネタは、家なき子演出から来ていると思われる。また、老人(ロボット)が命を張って、血の繋がっていない子を守るのも、家なき子のビタリス的。
そして、高屋敷氏の大きな特徴である、「自然や物に魂」。
機関車の魂が意思を持って活躍するというコンセプトが、なんとも高屋敷氏らしい。
しかも、最初は老人の姿で喋るが、中盤から機関車AIになると喋らなくなる。
ここが正に高屋敷氏的で、「もの言わぬものが意思を持つ」という同氏のポリシーに則っている。
数々の作品で描かれてきた要素だが、ロボットが喋るのが当たり前のアトム世界でも、それが出て来た事に驚かされる。
また、人間(またはロボット)の本質を問う「脱衣演出」としての脱衣や裸を出す要素も入っている。老人がAIユニットを見せる場面はじめ、冒頭でも、ゲームに負けたアトムが剥かれて胸の中身を友達に見られる場面がある。なんとなく、賭けに(あえてだが)負けて裸にさせられたカイジと比較。
今回、蒸気機関車が活躍するわけだが、1980年代は、実際に蒸気機関車がどんどん退役していった時代でもある。
また、今回活躍した機関車・D51(デゴイチ)は沢山のファンがいる名機。
そういった時事ネタも絡んでいると思われる。
ところで、手を握って親愛の情を示す同氏特徴もよく出てきた。ど根性ガエル演出、キートン脚本と比較。
とにかくアニメオリジナル回なのも手伝い、高屋敷氏の特徴の宝庫になっている。同氏の好みを熟知しているっぽい出崎哲氏が演出なのもドラマチック。
高屋敷氏は、出崎哲氏の弟である出崎統氏とも長年一緒に仕事しているが、出崎統氏との仕事の場合も、互いの好みを熟知している様子が作品に出ている。
高屋敷氏と出崎兄弟の繋がりとしても、興味深い回だった。