カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

RAINBOW-二舎六房の七人21話脚本:真の愛

アニメRAINBOW-二舎六房の七人-は、安部譲二氏原作・柿崎正澄氏作画の漫画のアニメ化作品で、戦後間もない少年院に入所した七人の少年達のドラマ。監督は神志那弘志氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・脚本を務める。
今回のコンテは島津裕行氏で、演出が米田和博氏。そして脚本が高屋敷氏。

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http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E4%BA%8C%E8%88%8E%E5%85%AD%E6%88%BF%E3%81%AE%E4%B8%83%E4%BA%BA

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  • 今回の話:

龍次(元・少年院の二舎六房の一人。頭脳派)は、初体験の相手である娼婦・エリに入れあげてしまい、他の二舎六房の仲間に嘘をついてまで金を借り、エリに会いに行く。それを知った皆は…

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元・少年院の二舎六房の皆は、同じく二舎六房の一人だった若手歌手・丈(美形)のステージを見る。
その後、龍次(頭脳派)は昇(小柄)を家に誘う。川面に月が意味深に映るが、月は頻出。F-エフ-・蒼天航路(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。

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龍次は、双子の弟や母と暮らしている。
龍次の母は昇を温かく迎え、夕飯を食べさせてくれる。
優しい母といえば、ど根性ガエル(演出)の、ひろしの母が思い出される。
また、どちらも父親が亡くなっている。

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龍次の母の優しさに、昇は満面の笑みを見せる。笑顔はアニメの改変。高屋敷氏の担当作は、こういった「笑顔」が重視される。また、ここも、ど根性ガエル(演出)が重なってくる。

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昇を送る途中、龍次は、皆に何かあった時に助けることができる法律家になりたいと語る。ここでも、全てを見ているような月の描写がある。おにいさまへ…・F-エフ-(脚本)と比較。

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貧乏で参考書が買えないと言う龍次に、返すのは大学に受かってからでいい…と昇は金を貸す。
おまけに、利子は今晩のお礼で無しにすると言う(原爆孤児の昇は、家族の温かさに触れて嬉しかった)。
カイジ2期(脚本)の、優しいおじさんが重なる。

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後日、昇は仕事(米軍から物資を仕入れ、街で売りさばいている)を活かし、外国製のハンドクリームを龍次の母にプレゼントする。ここも、原作に無い、満面の笑顔が追加されている。
宝島(演出)、グラゼニ(脚本)、エースをねらえ!(演出)と比較。

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その頃、龍次は女郎屋にて、初体験の相手である娼婦・エリ(本名は絵里子)と寝ていた。
エリが不幸な身の上話をしている間、手が映る(視聴者は真実を察することができる)。手で感情を表す場面は実に多い。おにいさまへ…・F-エフ-(脚本)と比較。

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龍次の弟達の話により、龍次が女郎屋に通い詰めている事を知った昇は、龍次を居酒屋に呼び出す。
コップの意味深な「間」があり、こういった描写は多々ある。グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。

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昇は、女郎ならまた紹介するから、これ以上入れあげて家族に心配をかけるなと、龍次に助言する。
龍次の手が僅かに動く。ここも「手」による感情表現。グラゼニカイジ2期・おにいさまへ…(脚本)と比較。

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恋で周囲が見えない龍次は、昇に酷い事を言ってしまう。
昇は静かに「ダチだと思ってた」と言い、その場を去る。

その後、昇は真理雄(元・二舎六房の一人。熱血漢)の勤めるバーで飲んだくれるようになる。酔った姿に愛嬌があるのは、よくある。宝島・ど根性ガエル(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。

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そこへ、忠義(元・二舎六房の一人。いかつい自衛官)が来る。彼も、龍次に金を貸してしまっていた。昇から事情を聞いた忠義と真理雄は驚く。
ここで灰皿の「間」がある。この表現もよく出る。アカギ・DAYS(脚本)と比較。

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龍次は、エリと一緒に逃げる事を決意し、真理雄にまで金を借りようとするが、真理雄は断る。
忠義は龍次を呼び出し、殴りつける。裏切り行為への制裁は、カイジ忍者戦士飛影(脚本)が思い出される。

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忠義は、自分もエリを抱いたと龍次を煽り、娼婦と付き合う程の度量があるのかと龍次に問う。ボコボコにされた龍次は、それでもエリを愛している、と這い上がる。ここも「手」がクローズアップされる。おにいさまへ…(脚本)、宝島(演出)、グラゼニめぞん一刻(脚本)と比較。

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エリと逃げたとして、追手に捕まったらどうなるかわかっているのかとも、忠義は龍次に問うが、彼の決意は揺るがず。
それを聞いた忠義は龍次を殴り飛ばし、彼は気絶。それを見届けた真理雄や昇も、龍次の本気度を知るのだった(次回へ続く)。
ここでも月が見守る。おにいさまへ…・はじめの一歩3期(脚本)、宝島(演出)と比較。

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  • まとめ

最初も最後も、「月」が見守る構成になっている(月についてはアニメオリジナル)。真実も嘘も、全てを見通す月は、あらゆる作品に「出演」しており、高屋敷氏の相当なこだわりが感じられる。

次回についても特集するが、少しネタバレすると、エリの身の上話はデタラメ。これは、今回の「手」が表す「真の感情」(アニメオリジナル)で、視聴者にも薄々わかるようになっている。これも、同氏の担当作を追う上で面白いところ。

ただ、エリは悪女というわけではなく(これも次回で衝撃的展開となる)、龍次もまた、真のクズというわけではない。
このあたりは、善悪をハッキリ分けない同氏のポリシーに合うし、実際、そこを強調している。

友達に嘘をついて金を借りるという龍次の行為は、外野から見れば許し難いが、だからといって二舎六房の面々は龍次を見捨てない。F-エフ-・カイジ(シリーズ構成・脚本)でも、こういう最低行為が出るが、やたらめったら「悪」と断定されるわけでもない。

龍次を決して見捨てず、気にかける二舎六房の面々の固い絆は、これまた外野から見れば理解不能の域にある。カイジ2期13話(脚本)でも、坂崎に対する、カイジの優しさは常軌を逸している。そういった究極の愛についても、色々な作品で描かれている。

忠義が龍次を殴るあたりも、常人には真似できない域の愛情が描かれている。
これはカイジ(シリーズ構成・脚本)でも同様。端的に言えば、高屋敷氏は(恋愛に限らない)「真の愛」を強調することに長けている。

これに関しては、劇場版スーパーマリオ(脚本)でも、「勇気とは真の愛から生まれる」という直球台詞があり、興味深いところ。ルーツは、あしたのジョー1(無記名脚本)や2(脚本)における、丈が力石に抱く感情からではないかと考えている。勿論、もとから好きという線もある。

実は本作は、忠義の重要エピソードがカットされている(やるとなれば長いからだと思う)のであるが、その代わり、今回含めて忠義の仲間思いな面が前面に出ている。高屋敷氏の緻密な構成技術が発揮されているポイントだと思う。

今回、前半は昇の、後半は忠義の、龍次に対する愛情が描かれており、そこも構成が上手い。シリーズ全体としても、「真の仲間とは、愛とは何か」を軸の一つとする意図が見えて来る回だった。