カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

カイジおよび福本作品、そのアニメが好きで、シリーズ構成の高屋敷英夫さんが、子供の頃からアニメのクレジットで凄くよく見る名前なので調べてみたものの膨大すぎてまとめきれなくなってきたので、自分のブログよりここに切り離してまとめることにしました。ツイッターアカウントは@makimogpfbです

F-エフ-17話脚本:指輪が語る思い

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、コンテが小島多美子氏、演出が茂木智里氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

レース資金不足を打開すべく、軍馬は一人で郷里に行き、「もしもの時に使って欲しい」と、亡き母が遺した指輪を掘り起こす。だが、高値は付かず。
その後、指輪をチンピラにバカにされた軍馬は激昂し大暴れ。
一方で、岸田(軍馬を慕うインテリ青年)は、軍馬にマシンを譲ってくれる。
色々な思いを胸に、軍馬は車のアクセルを踏む…

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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

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ユキ(軍馬を慕う、元赤木家の使用人)を「囲って」いる異母兄・将馬(前回参照)に憤る軍馬は、赤木家に行き、ユキと結婚する気があるのか、将馬に問い詰める。
二人の対峙は、カイジ脚本の、カイジ利根川を思わせる(将馬が赤木家のNo.2だからだろうか)。

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そこへ総一郎(軍馬の父)が現れ、杖で軍馬を滅多打ちにする。こちらはラスボス感があり、カイジ脚本の、会長とカイジが重なる。

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両者が睨み合う間に、鳥が飛ぶ。長年一緒に仕事した出崎兄弟ゆずりの鳥演出は、高屋敷氏の担当作に頻出。陽だまりの樹・らんま・めぞん一刻脚本と比較。

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本気で自分を殺す勢いの総一郎に、軍馬は様々な感情が湧き上がり、その場を去る。

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その後、総一郎に打たれた所を痛がる軍馬が幼い(アニメオリジナル)。どこか幼くあどけないキャラ付けを、高屋敷氏はよく行う。

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そこにユキが現れ、軍馬と行動を共にすることに。

東京では、タモツ(軍馬の親友で、メカニック)が軍馬を心配していた。
同じ夢に向かえども、自分と軍馬の意識の相違に、タモツは思い悩む。
アニメオリジナルで、赤い風船が飛ぶ。
赤い風船は、今まで見た限り、元祖天才バカボン演出/コンテ、怪物くん(第2作)脚本で登場している。

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タモツは、スカウトを諦めずに電話をかけて来た聖(軍馬のライバル)についても悩む(資金難で、一回OKしてしまっている)。
ここは、色々と構成を練って、聖を登場させるようにする工夫が見られる。また、ここでもテニスボールが意味深に映る(高屋敷氏特徴:物が「語る」)。

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一方、軍馬は赤木家の墓を訪れ、「もしもの時に売りなさい」と亡き母が遺した指輪を掘り起こす。軍馬が郷里に来た、本来の目的はこれだった。母の遺骨が意味深に「語る」のは、はだしのゲン2脚本の、ゲンの母の遺骨を思わせる。

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母の遺言を思い出す軍馬は、悲しさを噛み締めながら「走るっきゃねえんだ」と、自らを奮い立たせる。
はだしのゲン2脚本では、「麦のように強くなれ」という、亡き母の言葉を胸に、ゲンが走り出す。
軍馬とゲン、二人が重なるのは感慨深い。

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宝石買い取り店にて、軍馬は指輪を鑑定してもらうものの、せいぜい5~6万円、甘く見積もって7万円と言われる。
ショックを受ける軍馬だったが、こうなったら100億でも売らない…と指輪を握りしめる。
ここも、指輪が「語る」ようなアップがある。

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茶店にて、軍馬はユキに、東京に来るよう促し、将馬が追いかけてきても守る、と言う。これはアニメオリジナルの台詞で、少しばかりの、ユキへの救済になっている。
だがユキは、純子(もう一人のヒロイン)に悪いから…と、軍馬の誘いを断る(アニメでは、純子とユキは、この時点で面識がある。7話参照)

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深刻な面持ちになるユキと軍馬であったが、後ろの席の煩いチンピラ達に会話を邪魔される。軍馬とチンピラ達は言い争いになり、チンピラの一人が指輪を踏みつける。軍馬は、その油臭い水虫の足をどけろ、とチンピラを睨む。「水虫」はアニメの追加台詞。ど根性ガエル演出でも、よく水虫ネタが出ていた。

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チンピラ達と軍馬は大乱闘を繰り広げる。ど根性ガエル演出、空手バカ一代演出/コンテの乱闘シーンと比較。若者の鬱憤という点で、空手バカ一代と共通するものがある。

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原作もアニメも、乱闘の間、母の遺言がオーバーラップし、物悲しさが漂う。

東京では、もしかしたら軍馬が来ているかもしれない…と純子が岸田(軍馬を慕うインテリ青年)を見舞う(アニメオリジナル)。レース予選で大怪我をした彼は、レースをやめるよう家族に言われており、自分のマシンを軍馬に譲りたいと言う。かくして資金難の危機は、思わぬ所で解決。

その後純子は、高崎警察からの連絡で、チンピラとの喧嘩で留置された軍馬を引き取る。いつになく元気が無い軍馬を見て、純子は、金の工面に失敗したことを悟る。
そこで純子は、岸田がマシンを譲ってくれることになったと話す。岸田も、軍馬を迎える。
岸田がいるのは、アニメオリジナル。高屋敷氏は、皆がいるから自分がいる…という仲間愛を、あらゆる作品で強調している。

軍馬は岸田に駆け寄って「ホントか、ホントに車…!」と彼の肩を揺さぶり、一旦沈黙した後、自分が乗ってやるから感謝しろ、と何とか(いつもの)不遜な態度を取る。
この会話(アニメオリジナル)は、「男の可愛い友情」を描くのに長ける高屋敷氏の本領が遺憾無く発揮されている。

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車に乗り、東京に帰っていく軍馬達を、ユキが密かに見送る。彼女は指輪を見つめながら涙し(アニメオリジナル)、軍馬の母(総一郎の愛人)のような生き方はしない…と誓う。
「大切な物を持つ手」も、高屋敷氏は多く描写する。あしたのジョー2脚本と比較。

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様々な思いを、そしてユキへの思いを胸に、軍馬はアクセルを踏む(アニメオリジナル)。
ここも、はだしのゲン2脚本にて、母の死を乗り越えて走るゲンと重なってくる。

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一方、ユキは一人で立ち尽くすのだった。

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  • まとめ

前回に引き続き、多くのドラマが展開された回。目を引いたのは、はだしのゲン2脚本とのシンクロ。どちらも、母の愛を噛み締めながらも、その死を乗り越え、未来に向かい走る。
今回のサブタイトルも、「故郷との決別! 軍馬 明日に向って走れ!!」であり、直球。

ところで序盤の、軍馬と総一郎の対峙を見て思ったのだが、原作もアニメも「エデンの東」っぽい所があると思った。どちらも、兄弟や父親との確執・愛憎が、若者の青春を交えながら描かれている。
ふと思っただけなので、何とも言えないが。

そして、いつもながらアニメオリジナルパートが、ドラマを更に盛り上げる役を担っており、感心させられる。
特に、何とか少しでもユキが救済されるように気を配っているように感じる(原作では非常に悲惨な運命)。
例えば、軍馬が「守ってやる」と言ったり、東京へ戻る際、軍馬がユキを思うあたりなど。

原作では、警察署まで軍馬を迎えに来るのは純子一人であり、少々いい雰囲気になる軍馬と純子を、ユキが陰ながら見守り涙する。
アニメでは岸田が投入され、岸田と軍馬の友情の方が大分強調されており、ユキのダメージは幾分か減っている。

前述の通り、終盤の軍馬と岸田のアニメオリジナル会話は、「男の無邪気さ」「男の可愛い友情」を描くのを得意とする高屋敷氏の真骨頂が見られ、脱帽。こういった「男の友情」をこうまで上手く、ほほえましく表現できる人は中々いないと思う。こういった所も、同氏担当作の魅力の一つ。

また、今回は「指輪」という「もの言わぬもの」がキーとなっており、これも、高屋敷氏の得意とするところ。いや、意図的にキー「キャラクター」としていると書くべきか。原作には無い、ユキが指輪を見つめる描写なども、そういった計算の一部と言える。この指輪は、今後も重要アイテムとなるようなので覚えておきたい。

アニメでは少しだけ救済が成されているとはいえ、ユキの「孤独」自体は、原作もアニメもシビア。「孤独」「孤独救済または失敗」は、高屋敷氏の大きな特徴であるが、7話16話に続き、孤独救済失敗の方へ大きく舵を切っている。今後も経過を見守りたい。

構成としては、シリーズ半分を過ぎた所で、サブタイトル通り「故郷と決別」し、「明日へ向かい走る」軍馬が描かれており、テーマの一つである「軍馬の成長」の重要ポイントをクリアしている。
あらゆる作品で「成長」を描く高屋敷氏の技術も、特筆に値するものなので、こちらも楽しみにしていきたい。