カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

F-エフ-15話脚本:キャラの魅力を引き出す「構成」

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、コンテ/演出が澤井幸次氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

FJ1600レース初戦で、軍馬は大健闘したものの、マシンは破損し、タモツ(軍馬の親友で、メカニック)は修理代(50万円)に四苦八苦。軍馬もそれを察し、密かに白タク紛いをして金を稼ぐ。タモツはタモツで、資金難を打開すべく、聖(軍馬のライバル)のスカウトに乗り、聖のメカニックを兼任する決意をする…

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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

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マシンの修理代が50万円と判明し、資金不足に悩むタモツ(軍馬の親友で、メカニック)は、夕陽を見やる。「全てを見ている」ような夕陽は、高屋敷氏の作品に頻出。めぞん一刻脚本、ベルサイユのばらコンテ、忍者戦士飛影脚本と比較。

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タモツは、家賃の支払いを待って欲しいと、さゆり(アパートの大家)に頼み込む。さゆりは事情を察し、了解してくれる。優しかったり、味があったりする老人を、高屋敷氏は強調する傾向がある。花田少年史脚本と比較(優しいお婆さんつながり)。

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状況に呼応するように、街灯が点る。ランプは、高屋敷氏の演出・脚本作に非常に多く出てくる。グラゼニあしたのジョー2脚本、空手バカ一代演出/コンテと比較。

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軍馬は軍馬で、資金難を気にしており、昼間の森岡モータースでのバイト(←殆ど働かないが)の他に、夕方~夜間にかけて、改造トラクター(原作では純子達のレースチーム車)を駆って、急ぎの客を目的地まで特急で送り届ける、白タクまがいの稼業を始める。

最初の客は、空港まで急ぐ新婚夫婦。原作では不倫中の男性だったが、アニメオリジナルキャラクターに変更されている。
夫(ちなみに声は二又一成氏)は妻のことを「ダーリン」と呼ぶので、軍馬は二人を送り届けた後、「きっちり15分だぜ、ダーリン」と言う(原作から少しアレンジ)。台詞まわしが軽妙で、高屋敷氏の筆のノリの良さを感じる。

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次の客は、病院へと急ぐ妊婦(ちなみに声は林原めぐみ氏)と、その夫。

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一行は軍馬の超人的運転技術&改造トラクターのとんでもない性能で病院に着き、妊婦は無事出産。
ところで、「千葉様」と書かれているのは、木下啓太(軍馬の住むアパートの住人)役の千葉繁氏ネタなのだろうか?

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赤ちゃんを見た軍馬は顔が綻び、こんなめでたい日に金を貰う訳に行かない…と、金を取らない(原作では取る)。この違いには驚いたが、非常に高屋敷氏らしい改変(義理人情も特徴の一つ)。

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父の幻影を打破した(アニメオリジナル)13話もそうだったが、アニメは、軍馬の成長スピードが、原作より若干速めな気がする。話数が限られているためだろうか?

この、軍馬の義理人情あふれる行動を、「お天道様が見ていた」ということだろうか、太陽が映る(高屋敷氏は、太陽に重要な役割を与える)。

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原作の軍馬は、後に正規タクシー業者達に目を付けられてリンチされ、稼いだ金すべてを没収されてしまうのだが、先の善行のおかげか、アニメではそうならず、金も無事(10万円)。

一方タモツは、聖(軍馬のライバル)とコンタクトを取る。タモツのメカニックの腕が欲しい聖は、こうなることを見越して、契約書まで準備していた。原作では、この場面はもう少し後になる(そもそも、聖がF3に行くタイミングが異なる)。話数が限られているためか、アニメでは色々とまとめられている。

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軍馬の次なる客は、競馬で大勝ちしたおじさん(アニメオリジナル)。バカボンのパパに似た格好をしており、明らかに、元祖天才バカボン(高屋敷氏は演出や脚本で参加)のオマージュ。

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絵をいじれない脚本で、こうまで過去作オマージュが出てくるのは驚異的だが、監督に意向を伝えるのが上手いのだろうか?

おじさんを送り届ける途中、軍馬はハンバーガーを頬ばり、おじさんの口にもハンバーガーを突っ込む。高屋敷氏特徴の、食いしん坊描写。元祖天才バカボン演出/コンテ、めぞん一刻コボちゃん脚本と比較。

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電車と電車の間を通り抜けるなどの大爆走の末(作画も凄い)、軍馬は、おじさんを千葉まで送り届けるが、爆走の衝撃で、おじさんの金は全額吹き飛んでしまう。

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ちなみに、ルパン三世2nd脚本に、こういった骨折り損のくたびれ儲け的な話が(1回のみだが)あり、それを彷彿とさせる。

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改造トラクターを損傷させた軍馬は、タモツに電話をかける(原作では、タクシー業者達からリンチされた後、タモツに電話)。
馬なりに資金難を心配している事を察したタモツは、金なら借りたから心配するなと言う。

軍馬はすぐに、借りた相手が聖だと気付く。
タモツは意を決して、聖のメカニックも兼ねることにしたと軍馬に告げる。

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あまりのことに、軍馬は受話器のコードを引きちぎり、愕然とするのだった。

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  • まとめ

軍馬が、白タクまがいの事をして稼ぐのは原作通りなのだが、前述の通り、赤ちゃんを見て、赤ちゃんの父母から金を取らないと決断するアニメオリジナル展開は驚き。軍馬の成長スピードを、原作より少し速める構成であることが窺える。

13話にて、「自分=皆や自分の夢を乗せて走るレーサー」であると自覚し、父の幻影を打破した(アニメオリジナル)軍馬もそうだったが、今回の、赤ちゃんの父母に対し義理人情を見せる軍馬も非常に魅力的に描かれており、キャラクターの魅力を引き出す、高屋敷氏の構成の上手さを感じる。これは、カイジのシリーズ構成にも使われている技術。

カイジの場合も、序盤は、カイジに対する視聴者の心象はよろしくない(1期は外車にイタズラ、2期はパチンコ屋から出て来る)。それが、段階的にかっこよくなり、節目節目で大覚醒を見せるか、とてつもない優しさを見せることで、魅力が爆上がりするように出来ている。

こういった、キャラクターの魅力を引き出す高屋敷氏の手腕には、いつも「やられた」と思う。

私がカイジを魅力的だと強く思ったのは2期13話の、カイジが坂崎に優しい回であり、F-エフ-にて軍馬の魅力が爆発したと感じたのも13話。偶然ではなく、高屋敷氏の構成計算パターンなのかもしれない。

計算といえば、純子とユキ、二人のヒロインが軍馬に惹かれる回は6話(純子)と7話(ユキ)であり、1クールの半分の節目にあたる。また、1クールの節目の12話~13話にて、純子が更に軍馬に惹かれる描写がある。そして、14話にユキが少し登場する(アニメオリジナル)。この構成も見事。

あと、驚いたのは、バカボンのパパっぽい(格好含む)ゲストキャラが出てきたこと。格好までは、脚本で指定しにくいはずだが、キャッツアイ脚本でも、ど根性ガエル(高屋敷氏演出参加)の梅さんぽいキャラが出てくる。キャッツアイの竹内啓雄監督は、高屋敷氏と(出崎統監督作を通じ)縁深いから、まあわからなくもないのだが、本作の真下監督とも、意志疎通がうまく行っていたのかもしれない。

また、ここで、タモツと軍馬の絆の危機が描かれる構成も上手い。1話では「友達だよな」とタモツに何度も念押しする軍馬が強調されており、4話では、上京してきたタモツに、軍馬が抱きつく(アニメオリジナル)。要は、タモツに依存気味な軍馬が序盤に描かれ、徐々に、その関係が崩れつつある事が、中盤に描かれる。

原作でもそうだが、タモツとの関係の危機により、軍馬の更なる成長が促されることになる。本作は、軍馬の成長もテーマの一つ。それが丁寧に、アニメオリジナルも入れ込みつつ描かれており、毎回楽しみである。

そして回を重ねる毎に、高屋敷氏の構成意図が明らかになっていくのも、驚かされっぱなし。

近年の高屋敷氏の作品に比べ、本作はアニメオリジナル部分が、かなりのウェイトを占めており、原作を読んでいても先が読めない面白さがある。とにもかくにも毎回、構成の上手さに唸らされる作品である。