カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

宝島24話演出:男から男への敬意

アニメ・宝島は、スティーブンスンの原作小説を、大幅に改変してアニメ化した作品。監督は出崎統氏。高屋敷英夫氏は、偶数回の演出を務める(表記はディレクター)。
今回の脚本は山崎晴哉氏で、コンテが出崎統監督、演出が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、宝島の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E5%AE%9D%E5%B3%B6

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  • 今回の話:

シルバー(元海賊)一派壊滅後、宝のありかを示す暗号を解ける一員として生かされたシルバーは、暗号を解くことに協力。皆はヒントを集め、ついに宝を発見するのだった。

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開幕、太陽が映る。高屋敷氏の担当作にて非常に多く確認できる演出。万物を見ているような、独特の「間」があり、重要な役割を与えられているのがわかる。
F-エフ-(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)、らんま(脚本)と比較。いずれも開幕に映る。

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序盤にてジムが果物を集めるシーンは、子供らしさが出ている(13歳に見えないほど)。幼さを表現するのは、高屋敷氏の得意分野。元祖天才バカボン(演出/コンテ)、1980年版鉄腕アトム・チエちゃん奮戦記(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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皆が果物を食べる様子が美味しそうに描写される。飯テロは、高屋敷氏の定番の特徴。陽だまりの樹・1980年版鉄腕アトム(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)、カイジ2期(脚本)と比較。

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ジムがココナッツの果汁を飲むあたりは、まるでビールを飲むような動作づけ。
ビールテロもまた、あらゆる作品で確認できる。グラゼニMASTERキートンカイジ2期・ミラクルガールズ(脚本)と比較。

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宝の場所を示す暗号のヒントを探して、ジム達が海の中を泳ぐ場面は、ルパン三世2nd(演出/コンテ)や、あしたのジョー2(脚本)が思い出される。画像が用意できなかったが、太陽の使者鉄人28号(脚本)にも、大事な物を探しに海へ潜る展開がある。

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海に潜るのを純粋に楽しむトレローニ(船のオーナー)やジムに愛嬌がある。高屋敷氏は、老若男女に可愛さ・幼さを適用する。グラゼニ・F-エフ-(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)と比較。

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満月の夜に、暗号に書いてあることを読み解き、それを実行しなければ宝を見つけることはできない。高屋敷氏は、(太陽だけでなく)月にも重要な役割を与え、意味深に描写する。F-エフ-・はじめの一歩3期・蒼天航路(脚本)と比較。

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シルバーはジムに、男としての敬意を払い、暗号に書いてある最後の行動の実行を任せる。男が男を認める場面を、高屋敷氏は非常に印象深く描く。F-エフ-やグラゼニ(いずれもシリーズ構成・全話脚本)でも、それは色濃い。

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ジムは、暗号が指示する最後の行動を実行。成長した主人公が大きな一手を決めるのもまた、高屋敷氏の演出や脚本の大きな魅力。グラゼニカイジ・はじめの一歩3期(脚本)でも、ドラマチックに表現された。

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そして、皆は遂に宝を見つけるのだった。

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  • まとめ

今回の肝は、なんといってもシルバーがジムに、男として敬意を払うシーン。
このために、今までの積み上げがあったような所もあり、劇的。
高屋敷氏は、他の作品(特にシリーズ構成作)でも、こういった盛り上げの仕方を心得ている節がある。

物語も終盤にさしかかっており(全26話)、ジムの成長という点においてもクライマックス的な要素がある。
今回の序盤に、ジムの幼さを見せておいたのも、後半の盛り上がりに一役買っている。このあたりは、(本作では演出面において)高屋敷氏の妙技を感じる。

あと、太陽や月の「活躍」が今回も大きい。全てを見ているような迫力があり、高屋敷氏が「お天道様」を重要視しているのがわかる。これは、演出作でも脚本作でも前面に出ており、同氏の面白いところ。
脚本作でも、こういった「喋らないもの」を重用しているのがユニーク。

主人公が大きな一手を決める所の盛り上げも、今回含めた色々な高屋敷氏の担当作を比べてみると面白い。特にシリーズ構成作では、シリーズ序盤で主人公の幼さを見せておきながら、中盤で節目や盛り上げ所を作り、終盤で主人公を大きく成長させる。その手腕には、いつも「やられた」と唸らされる。

高屋敷氏がそういった成長譚を得意とするのは、家なき子や本作の演出経験が大きいのだと思える。実際この2作を見ていると、めぞん一刻(最終シリーズ)、F-エフ-、カイジグラゼニといった同氏シリーズ構成作品のルーツを見ているような感覚に陥る。

これを踏まえると、高屋敷氏は自身の経験を存分に後の作品に活かせるタイプなのだと、つくづく思う。だからこそ、年代を追って比較するのが楽しい。これからも同氏の担当作を追って、色々な作品のルーツや共通点を見出だしていきたい。