カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

『あしたのジョー2』31話脚本:「変容」を捉える

アニメ『あしたのジョー2』は、高森朝雄梶原一騎)氏原作、ちばてつや氏画の漫画をアニメ化した作品(第2作)。風来坊の青年・矢吹丈がボクシングに魂を燃やし尽くす様を描く。監督は出崎統氏。

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  • 今回の話:

コンテ:出崎統監督、演出:竹内啓雄氏・大賀俊二氏、脚本:高屋敷英夫氏。

ハワイでの東洋太平洋タイトル防衛に成功した丈は、同じくハワイで行われるホセ(バンタム級世界王者)のノンタイトルマッチを観戦する。

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ハワイの人気ボクサー・イアウケアとのノンタイトルマッチを前に、ホセ(バンタム級世界王者)は、マスコミにVサインを見せる(丈に向けたメッセージ)。Vサインで挑発する場面はF-エフ-(脚本)にもあり、オマージュが感じられる。

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同じくハワイで行われた、東洋太平洋タイトル防衛戦に勝った丈は、ホテルのプールで余暇を楽しみ、段平(丈の属するジムの会長)はビールを飲む。ビールテロは頻出。カイジ2期・MASTERキートングラゼニ・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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そこに須賀(ジャーナリスト)が現れ、ホセが丈に向けて示したVサインについて丈に伝える。アニメオリジナルでジャーナリストを上手く動かす技術は、RIDEBACK(脚本)でも使われている。

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その後、丈はプールから段平を驚かせて笑う(アニメオリジナル)。まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、ガンバの冒険・RAINBOW-二舎六房の七人-・ハローキティのおやゆびひめ(脚本)ほか、高屋敷氏はキャラを笑顔にする状況を大切にする。

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ドヤ街(丈の地元。東京の下町)の子供達の一人・キノコ(帽子姿)は、丈に手紙を送る(アニメオリジナル)。文体が子供らしい。宝島(演出)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、怪物くん(脚本)、ガイキング(演出)ほか、高屋敷氏はキャラの幼さを引き出すのが上手い。

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丈と段平は、ドヤ街の皆への土産を買いに免税店に行く。エキゾチックな像が映るが、像はよく出る。カイジじゃりン子チエ(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)と比較。特に、まんが世界昔ばなしの「幸福の王子」は印象的。

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丈と段平は、ドヤ街の皆への土産を爆買いする。ここは原作もアニメも、丈がドヤ街の皆に愛着を持っているのがわかる場面であり、丈の心理を紐解く上で重要な気がする。

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そして夕刻、丈と段平は夕陽を眺める(アニメオリジナル)。情感ある夕暮れの場面は、数々の作品にある。おにいさまへ…・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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丈は、砂浜の砂をいじる。手による感情表現は頻出であるほか、同じように砂をいじる場面が、忍者戦士飛影(脚本)にある。

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そして夜、ホセとイアウケアの試合が始まる。ライトのアップ・間は、色々な作品に見られる。RIDEBACKグラゼニ(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。

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月が雲に隠れる。意味深な月の描写は多々ある。ストロベリーパニックガンバの冒険・はじめの一歩3期(脚本)と比較。

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ホセはイアウケアにわざと打たせ、自分の打たれ強さを誇示。そして反撃に転じると、イアウケアを2発でKOする(Vサインはこれも意味していた)。実況が上手い。グラゼニ・1980年版鉄腕アトム(脚本)ほか、名実況はよく出る。

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試合後、雨が降り出す。観客が足早に立ち去るなか、丈とホセは見つめ合う(アニメオリジナル)。おにいさまへ…・F-エフ-(脚本)ほか、雨でドラマを盛り上げる場面は数多ある。

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互いに言葉が通じないながらも、ホセと丈は“See you again! ”と言い合い、再会を誓う。ここは名アニメオリジナル場面だと思う。

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そして丈は、帰国の途につく。飛行機内で、丈はハワイでのあれこれ(主にホセについて)思い出し、窓を見つめる。鏡描写は、色々な作品で印象に残る。めぞん一刻・F-エフ-(脚本)と比較。

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日本に着いた丈と段平は、記者会見を受ける。葉子(白木ジム新会長)とホセの契約はまだ秘密なため、余計な事を言わないように丈は段平の足を踏む(アニメオリジナル)。コミカルなコンビネーションは、グラゼニ(脚本)にも見られる。

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そして長旅と、機内での飲酒がたたり、丈は記者会見中に眠りこけるのだった(原作では、勝手に会場を脱け出す)。キャラがあどけなく眠る場面は多い。カイジ2期(脚本)、宝島(演出)、ストロベリーパニック(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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  • まとめ

夕陽や月、雨といった「天」がドラマを盛り上げている。これは高屋敷氏の担当作に多く見られる特徴で、数々の名場面に繋がっている。

雨は、空手バカ一代(演出/コンテ)の頃から印象的に使われており、演出でも脚本でも、こだわりが感じられる。
とにかく高屋敷氏は、「お天道様」に対する独特な信仰があるようだ。

「お天道様」だけでなく、「自然」や「物」についても独特の価値観が見られる。演出だけでなく、脚本においても、状況描写に心情を重ねる手法がよく見られるのは、「万物には魂がある」という考えがあるからかもしれない。

また、先述の通り、ホセのVサインによる挑発は、F-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)19話にそのオマージュが見られる。(以前書いたブログ記事: https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2018/09/23/135113 )つくづく本作は、高屋敷氏を探る上で重要だと思う。

あと、丈は謎が多く、いまだ「正解」が無いキャラであるが、ドヤ街の皆を思って土産を買う場面は、彼なりに周囲の人間に愛着があるのが感じられる。高屋敷氏はキャラの掘り下げが上手いので、丈の心理を探る上で、視聴者を助けている側面がある。

思えば、カイジ(脚本・シリーズ構成)においても高屋敷氏は、カイジの常軌を逸した面と、親近感のわく面を上手く交互に見せる構成をしている。人間の色々な側面を見せたいという、同氏の意向が感じられる。

人間の心理も、高屋敷氏が信仰しているらしき「お天道様」も、状況によって変容するものである。その「色々」をしっかり捉え、表現する技術が同氏にはある。これは大いに作品に深みを与えていると、改めて思うのである。