カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

『あしたのジョー2』40話脚本:経験とアップデート

アニメ『あしたのジョー2』は、高森朝雄梶原一騎)氏原作、ちばてつや氏画の漫画をアニメ化した作品(第2作)。風来坊の青年・矢吹丈がボクシングに魂を燃やし尽くす様を描く。監督は出崎統氏。

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  • 今回の話:

コンテ:出崎統監督、演出:竹内啓雄氏・大賀俊二氏、脚本:高屋敷英夫氏。

ホセ(バンタム級世界王者)との試合の段取りが進むなか、丈にパンチドランカー症候群の兆候が(徐々にだが)表れ始める…。

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丈が東洋太平洋タイトルの2度目の防衛に成功し、ホセ(バンタム級世界王者)と丈との日本での試合の段取りが進むなか、丈はパチンコに行こうとし、つまづく。アニメはアニメのペースで、パンチドランカーの話の進行のさせ方が上手い。

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葉子(白木ジム新会長)は幹之介(葉子の祖父)に、パンチドランカー症候群研究の権威・キニスキー博士の事を話す。
車のバックミラーに葉子が映るが、鏡の意味深描写は多い。RAINBOW-二舎六房の七人-・おにいさまへ…・F-エフ-(脚本)と比較。

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段平(丈の属するジムの会長)はドヤ街(丈の地元。東京の下町)の子供達に、丈の居所を尋ねる。彼等は、丈は新装開店したパチンコ店にいると答える(アニメオリジナル)。アンパンマンマイメロディ赤ずきんストロベリーパニック(脚本)ほか、高屋敷氏は、キャラの幼さを引き出すのに長ける。

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丈はパチンコを打ちながら、パンチドランカーとなり廃人になったカーロス(丈の好敵手)と再会したことを回想する(アニメオリジナル)。パチンコを打つ場面は、ワンナウツ(脚本)にもあり(こちらは原作通り)、重なるものがある。

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段平はパチンコ店まで丈を迎えに行き、カーロスは葉子に保護され箱根のサナトリウムにいることを知らせる。
ジムに帰ると、丈は後輩の河野をスパーリングに誘う。F-エフ-・ルパン三世2nd(脚本)ほか、高屋敷氏はモブキャラにインパクトを持たせる。

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一方葉子は、来日したキニスキー博士にカーロスの様子を見せる。
温室にてカーロスは、虚ろな目で蝶を追う。蝶を追う場面は、ガイキング(演出)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)にもある。

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(パンチドランカーに関するキニスキー博士の解説をバックに)カーロスは、蝶を追い続ける。温室での印象深いシーンは、ストロベリーパニック(脚本)にもあり、オマージュが感じられる。

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キニスキー博士は、カーロスはもう手遅れであると言い、あとは葉子に依頼された通りの事(丈を診る)をすると話す。鳥が飛ぶが、状況と連動する鳥の描写は頻出(出崎統監督も好む)。宝島(演出)、おにいさまへ…(脚本)と比較。どれも監督は出崎統氏。

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一方、丹下ジム(段平のジム)では、段平がガタつく洗濯機を押さえる。物の意味深な動きや「間」は、さまざまな作品に見られる。おにいさまへ…RIDEBACK(脚本)と比較。

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そんな折、西(丈の旧友)と紀子(丈のガールフレンド)が丹下ジムを訪ねてきて、自分達は結婚することになったと報告。それを聞いた段平は祝福する。
グラゼニおにいさまへ…(脚本)などなど、高屋敷氏は結婚話に縁がある。

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そこへ河野が駆け込んできて、丈がロードワーク中に倒れたと段平に知らせる。ここも河野が目立つ。おにいさまへ…めぞん一刻(脚本)など、とにかく高屋敷氏はモブキャラ、サブキャラをクローズアップするのが上手い。

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時は、丈が倒れた時点に戻る。鏡が丈を映すが、ここも頻出の、鏡の意味深描写。
ベルサイユのばら(コンテ)、おにいさまへ…グラゼニ(脚本)と比較。

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段平が倒れた丈のもとに駆けつけるが、丈は、自分は大丈夫だと言い続ける。丈の手が映る。手による感情表現は頻出。はじめの一歩3期・おにいさまへ…(脚本)と比較。

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丈が倒れたのはスクラップ場で、廃車が意味深に映る(アニメオリジナル)。意味深だがそんなに難解ではない暗喩は、グラゼニRIDEBACKカイジ(脚本)ほか、数々の作品に見られる。

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大丈夫だと言い張る丈の嘘を見つめるような、太陽が映る。全てを見ているような太陽の描写は多い。RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)、宝島(演出)と比較。

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一方葉子は、キニスキー博士が語るパンチドランカーについての論を思い出す。
レコードが映るが、状況と連動するレコード描写は、おにいさまへ…(脚本)にもある。

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夜、段平は川面に石を投げて考え込む。
水面に石を投げる場面は、おにいさまへ…(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)ほか、結構見られる。

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月が映る。こちらも、前述の太陽と同じく、全てを見ているような迫力がある。はじめの一歩3期・RAINBOW-二舎六房の七人-・ガンバの冒険(脚本)と比較。

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段平は、廃人となったカーロスについて書かれた記事が載っている新聞を握りしめる。ここも頻出の、手による感情表現。グラゼニ・RAINBOW-二舎六房の七人-・ワンナウツ(脚本)と比較。

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翌日、段平は河野に、ロードワーク中の丈を連れてくるよう命じる。漫画を読んでいたり、ドヤ街の子供達にイタズラされたりと、ここも河野が目立つ。はだしのゲン2(脚本)やベルサイユのばら(コンテ)などなど、高屋敷氏はモブへの愛が深い。

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段平は丈に、パンチドランカーになってないかどうかの様々なテストを課す。ここは原作より時系列が遅いのだが、アニメなりのパンチドランカー話の繋がりが考慮されており、上手い。また、アニメオリジナルでドヤ街の子供達が見ているのが、子供の扱いに長ける高屋敷氏らしい。

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丈はパンチドランカーではないと判断した段平は、ホセとの試合の段取りを進める。
一方、丈は箱根に赴いてカーロスに会う(アニメオリジナル)。
水辺で友情を深める場面は結構ある。おにいさまへ…・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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丈はカーロスと林檎を食べる。林檎を介したコミュニケーションは、宝島(演出)、F-エフ-(脚本)にも見られる。

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二人の頭上に、小鳥が飛ぶ。ここも頻出の、状況と連動する鳥描写。宝島(演出)、おにいさまへ…ガンバの冒険(脚本)と比較。このように、一羽一羽のクローズアップも多い。

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船が映る。船描写は、とにかく多い(長年一緒に仕事した出崎統監督も好む)。RAINBOW-二舎六房の七人-・おにいさまへ…(脚本)、空手バカ一代(演出)と比較。

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カーロスは、たどたどしい言葉づかいながらも、リング上で丈と全力で戦ったことを懐かしむのだった。
ここは、アニメオリジナルの名場面だと思う。

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  • まとめ

試合が無いながらも、密度が濃い回。
多くの人が結末を知っている原作であるが、不穏要素の積み上げが上手い。
また、丈がカーロスを見舞うアニメオリジナル場面は視聴者の胸を打つものがあり、物語を深めている。

物や鳥、自然、太陽や月なども、ドラマを盛り上げている。こういった細々とした装置を存分に使い、作品を作りあげていく様は見事。こういった積み上げが、本作を名作たらしめている。

徐々に丈を蝕んでいくパンチドランカー症候群と、先に廃人となったカーロスを、アニメオリジナルをまじえて絡ませていくのも上手い。アニメなりのペースに落とし込んでおり、(シリーズ構成不在ながらも)文芸面の連携がしっかり取れている。

ところで、丈とカーロスの、林檎を使ったコミュニケーションは、宝島(演出)がベースにあり、オマージュがF-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)に見られる。高屋敷氏の、その時その時の作品に全力で取り組む姿勢が見えてきて、比較すると面白い。

このように、高屋敷氏の担当作の、縦の繋がり・横の繋がりを見ていると、やはり同氏は自身が持てる経験を目一杯使い、綿密に要素を積み上げていくことができる、プロフェッショナルな手腕の持ち主だと思う。

また、経験に頼るだけでなく、アップデートとブラッシュアップも怠らないのが、同氏の長所でもある。近年のグラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)も、才能と技術が冴え渡っていて嬉しい限り。

こういった同氏の姿勢と軌跡を追うのは、本当に面白く、かつ感慨深い。年を経るごとに劣化するタイプは、どんな巨匠にもいるが、高屋敷氏は、年を経るごとにアップデートがある。
それを見る度、尊敬の念を強くする。

本作は、まごうことなき名作だが、そこで高屋敷氏が終わったわけでもなく、アップデートは現在も終わらない。
できうる限り、高屋敷氏の仕事の「過去・現在・未来」を見つめていきたい。