『あしたのジョー2』35話脚本:孤独と伝達
アニメ『あしたのジョー2』は、高森朝雄(梶原一騎)氏原作、ちばてつや氏画の漫画をアニメ化した作品(第2作)。風来坊の青年・矢吹丈がボクシングに魂を燃やし尽くす様を描く。監督は出崎統氏。
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- 今回の話:
コンテ:出崎統監督、演出:竹内啓雄氏・大賀俊二氏、脚本:高屋敷英夫氏。
アニメオリジナル回。
丈は、ラスベガスで行われるホセ(WBC王者)対ゴメス(WBA王者)のバンタム級王者統一戦を観戦する。
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朝、丈はジムの後輩である神田に、スポーツ新聞を取ってくるよう頼む。おにいさまへ…・めぞん一刻・ストロベリーパニック(脚本)ほか、高屋敷氏は脇役にインパクトを持たせる。
ホセ(WBC王者)対ゴメス(WBA王者)の世界統一戦が気になる丈は、スポーツ新聞を読み耽り、段平(丈の属するジムの会長)につっこまれる。コミカルなコンビネーションは、グラゼニ・ストロベリーパニック・F-エフ-(脚本)などにも見られる。
ホセは葉子(白木ジム新会長)と丈を試合に招待。丈は試合の行われるラスベガスへと向かう。
ジムの皆が丈を見送る。カイジ2期・あんみつ姫(脚本)、ど根性ガエル(演出)など、温かい仲間愛は前面に出される。
ラスベガスの試合会場にて、葉子は、ホセの主治医でありパンチドランカー研究の権威であるキニスキー博士を丈に紹介する。アニメはアニメなりのペースで、パンチドランカーの話についての伏線を張るのが上手い。
試合の立ち上がりは静か。丈は、勝負の前の静けさと、それが破れる瞬間が好きだと語る。F-エフ-(脚本)でも、勝負の前の静けさが好きと純子(ヒロインの一人)が語る(アニメオリジナル)。高屋敷氏自身の好みかもしれない。
丈は紙飛行機を飛ばす。紙飛行機は、F-エフ-(脚本)、エースをねらえ!(演出)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)にも出てきており、これも高屋敷氏の好みが感じられる。
さらに、丈はポップコーンを食べ始める。
カイジ2期・おにいさまへ…(脚本)などなど、飯テロは高屋敷氏担当作の定番。
試合展開に一喜一憂する丈は、ポップコーンを握りしめる。手による感情表現は頻出。宝島(演出)、おにいさまへ…・はじめの一歩3期・ストロベリーパニック(脚本)と比較。
試合は後半、コークスクリューパンチを数発決めたホセがゴメスを圧倒。ホセのKO勝ちとなる。その後、カジノの片隅で、ホセはメダルをいじる。ここも手による感情表現。おにいさまへ…・グラゼニ・ワンダービートS・F-エフ-(脚本)と比較。
言葉が通じないながらも、丈はホセに話しかける。じゃりン子チエ・F-エフ-(脚本)、空手バカ一代(演出)、おにいさまへ…(脚本)ほか、孤独を危険なものとし、人を一人にさせないポリシーが、高屋敷氏にはある。
ホセは、折れたメダルを丈に投げよこして去る。「何かの象徴である物」を持つ「手」のクローズアップは多い。MASTERキートン・めぞん一刻・カイジ・ワンダービートS(脚本)と比較。
翌日、帰国の途につく丈は、葉子から、ゴメスが死んだと告げられるのだった。
おにいさまへ…(脚本)、宝島(演出)、F-エフ-・カイジ(脚本)などなど、人の死が重くのしかかるコンセプトの作品は多い。
- まとめ
アニメオリジナル話なのに、あたかも原作にあるかのような話運びが上手い。こういった感覚は、同じくアニメオリジナル話が多かった、おにいさまへ…(脚本・シリーズ構成陣)でもおぼえた。
このように、アニメオリジナル話が薄っぺらく見えないのは、キャラを意欲的に掘り下げているからだと思う。
モブからレギュラーまで、高屋敷氏はキャラを掘り下げるのがつくづく上手い。
今回も、神田からホセにいたるまで、キャラの掘り下げに余念がない。
特にホセが抱える孤独と闇を浮き彫りにした終盤は、非常にインパクトがある。
「孤独」といえば、高屋敷氏が長年取り組んでいることでもある。同氏はあらゆる作品で、人を死や病、破滅に追いやることもある「孤独」の恐ろしさについて訴えている。
「孤独」に対する応急処置として、「人を一人にさせない」ことの大切さが説かれることも多い。友達や家族、ライバルなどが、「孤独」な人の傍らにいる展開は、色々な作品で印象に残る。
丈もホセも、強いが故に、またボクサーであるが故に抱える孤独がある。その共通する部分が、言葉の壁を越えて通じ合うのは、悲しいながらも美しいものがある。
本作は、原作が終了してから大分経ってのアニメ化なので、丈の最後の相手がホセであることが、多くの人に知られている。
それを見越して、アニメオリジナルでホセを掘り下げているのではないだろうか。
今回のホセは、原作を読んでいても、結末を知っていても、新鮮でショッキングに映る。原作つきアニメの「アニメオリジナル」というものの効果を十二分に引き出していると思う。
この話の追加により、丈とホセが、物語の最後に闘うことの意味がグッと深くなったと思う(丈のモチベーションも一層強くなった)。
「アニメオリジナル回はこう使うのだ」という気概が感じられる回だった。