カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

『あしたのジョー2』46話脚本:考察の手がかり

アニメ『あしたのジョー2』は、高森朝雄梶原一騎)氏原作、ちばてつや氏画の漫画をアニメ化した作品(第2作)。風来坊の青年・矢吹丈がボクシングに魂を燃やし尽くす様を描く。監督は出崎統氏。

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  • 今回の話:

コンテ:出崎統監督、演出:竹内啓雄氏・大賀俊二氏、脚本:高屋敷英夫氏。

ホセ(バンタム級世界王者)と丈との、バンタム級世界タイトルマッチの中盤が描かれる。

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右目が見えなくなったことが、逆に功を奏し、第6ラウンドは丈が概ね優勢。相変わらず実況が饒舌。監督作の忍者マン一平では、やたら実況するキャラがいるほか、グラゼニ(脚本)でも名実況が目立つ。

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第7ラウンド前のインターバルで、丈は少し眠り、亡きライバル・力石と対峙する夢を見る。ここは、作品世界を掘り下げる意味でも、よくできたアニメオリジナル場面だと思う。

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第7ラウンドが開始され、丈の一挙手一投足に、ドヤ街(丈の地元。東京の下町)の子供達は沸き立つ(アニメオリジナル)。忍者マン一平(監督)やハローキティのおやゆびひめ(脚本)など、高屋敷氏は子供の扱いに長ける。

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そして、次第に丈のパンチがホセ(バンタム世界王者)に当たらなくなる。ヤジを飛ばす観客に、ゴロマキ(丈の知人)が凄む。宝島(演出)ほか、高屋敷氏は、色々なキャラを、細かく視聴者に印象づけるのが上手い。

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セコンドにつく西(丈の旧友)も、必死に声を出す。原作ではこの場にいない西だが、アニメでは、ここにいる理由付けが丁寧になされ、扱いも上手い。F-エフ-(脚本)も、原作ではクライマックスにいなかったユキ(ヒロインの一人)の動かし方が秀逸。

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第8ラウンド、紀子(丈の元ガールフレンド)は、丈との会話を回想する(アニメオリジナル)。これも男女の微妙なズレを上手く捉えており秀逸。また、丈がドヤ街の皆を大切にしており、旅に出ても帰ってくるべき所だと思っていることが判明するのが重要ポイント。

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もし試合後、旅に出ることになっても必ずドヤ街に帰ってくる…と言っていた丈を、紀子は思い出すが、不安に駆られる。アニメオリジナルでヒロイン格をクライマックスで強く印象づける技術は、F-エフ-(脚本)でも強烈。

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ホセに打たれ意識朦朧の丈は、子供の頃の一人旅で食べた握り飯がおいしかった、また旅に出たいと思う(アニメオリジナル)。ガンバの冒険おにいさまへ…カイジ2期・チエちゃん奮戦記(脚本)ほか、とにかく高屋敷氏は“食”にこだわる。

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第8ラウンドが終わり、以前紀子に語ったように「真っ白に燃え尽きるまで」(ボクシングを)やりたいと、丈は段平(丈の属するジムの会長)に語るのだった。回想の入り方や、原作からの台詞の整理が上手い。また、「真っ白」は重要ワードなので、ここで最終回へと続く構成も良い。

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  • まとめ

最終回手前だけあり、伝説のラストを考察する上で重要な要素やキーワードが次々と出てくる。また、「アニメ版矢吹丈」というキャラの掘り下げの最終段階にも入っている。

高屋敷氏はキャラを掘り下げる技術に秀でるが、掘り下げる難易度が高く、今でも解釈が分かれる「矢吹丈」というキャラの掘り下げを同氏が行っているのは、色々と感慨深い。

今回、丈はドヤ街の人々に愛着があり、もしまた旅に出てもドヤ街に帰ってきたいと思っていることが強調されている。これはいきなり出てきた要素ではなく、アニメオリジナルを交えてドヤ街の人々と丈の結びつきを強化してきたことの集大成と言える。

あと、「また旅に出るのも悪くない」と丈が思う…というアニメオリジナルも、アニメ版ラストの解釈につながる重要な要素。アニメはアニメなりに「矢吹丈」というキャラを形成した結果なのではないだろうか。

原作では、ホセ戦の試合会場に西、紀子、ドヤ街の子供達の姿が無いのだが、アニメではキッチリ描きこまれている。前に書いたが、これもアニメで、彼等がその場にいる理由を丁寧に描いてきたからだと言える。

矢吹丈というキャラは、風来坊で孤高な面と、身近な仲間には義理堅く優しい面があり(他にも色々な面がある)、非常に複雑なキャラ。アニメでは、何とか後者の、人とのつながりを強化した丈を前面に出そうとしている。

このことは、高屋敷氏が「真の孤独」を非常に深刻なもの(最悪、死に繋がる)と捉えていること、それを数々の作品で訴えていることとも関係していると思う。
その証拠に、原作よりも、アニメの丈は少し人間関係の層が厚い。

おにいさまへ…(脚本・シリーズ構成陣)の、れいというキャラも、原作より孤独度が軽減されており、周囲との繋がりが強化されている。このあたりも、高屋敷氏が何とかキャラを孤独から救済しようとする試みが見られる。

そのくらい、キャラを洞察し、丁寧に動かしていることが、作品のクオリティにも大きく関わってきている。高屋敷氏は、キャラメイキングに秀でる作家であると、改めて思う。