カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ガイキング11話演出:ロボットの「手」

大空魔竜ガイキング』は1976年放送のロボットアニメ。母星が危機のため地球征服を目論むゼーラ星人達と、それに対抗する地球人達との戦いを描く。シリーズ構成は丸山正雄氏で、監督は不在(各話演出に依る)。
今回の脚本は山崎晴哉氏、演出が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、当ブログのガイキングに関する記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0

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  • 今回の話:

地球を侵略するゼーラ星の銭ゲバな科学者・マドマッドは、地球の対ゼーラ星部隊・大空魔竜戦隊で可愛がられている少年・ハチローを懐柔して、大空魔竜の弱点を探り、そこを突く作戦に出る。

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開幕に太陽が映るが、これは高屋敷氏の演出作でも脚本作でも頻繁に出てくる描写。
空手バカ一代(演出/コンテ)、らんま1/2(脚本)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)と比較(どれも開幕場面)。

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地球を侵略するゼーラ星に対抗する部隊・大空魔竜戦隊で可愛がられている少年・ハチローは、大空魔竜(大空魔竜戦隊が擁する巨大戦艦)を模したラジコンで遊ぶ。所作が幼く、宝島(演出)のジムに似ている。高屋敷氏は幼い芝居付けが巧み(どちらも作監杉野昭夫氏)。

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そんなハチローを、サンシロー(主人公。主役ロボット・ガイキングパイロット)含む大空魔竜戦隊の皆はからかう。
元祖天才バカボン(演出/コンテ)、ガンバの冒険(脚本)ほか、皆で朗らかに笑う場面は色々な作品で印象に残る。

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一方暗黒ホラー軍団(ゼーラ星の地球侵略軍)側では、銭ゲバ科学者・マドマッドが、売り出し中の兵器マジックファイヤーボールを使い、光子力エネルギー研究所を破壊。
この一連場面の、木々の演出が忍者マン一平(監督/コンテ/脚本)や、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)に似ている。

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マドマッドは言動も所作もコミカル。対戦相手や敵役のコミカルなキャラ付けは、元祖天才バカボン(演出/コンテ)や忍者戦士飛影(脚本)など、高屋敷氏の得意とするところ。
ちなみにシリーズ構成の丸山正雄氏はマッドハウス設立者であり、マドマッドという名は楽屋ネタ的。

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光子力エネルギー研究所の破壊を受け、大空魔竜は緊急出撃する。
置いてけぼりを食らったハチローは、それを追いかけるが転ぶ。コミカルにずっこけるのは、宝島(演出)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)などにもあり、重なるものがある。

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大空魔竜のスクリーンでハチローの姿を見たサンシロー達は、少し気の毒に思いメッセージを投下することにする。ここもハチローの所作が幼く、宝島(演出)のジムに似ている。

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大空魔竜メンバーから、割と適当なメッセージを受け取ったハチローは、用紙を破って泣く。F-エフ-(脚本)やエースをねらえ!(演出)ほか、手紙はしばしば重要アイテムとして扱われる。

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一方マドマッドは、マジックファイヤーボールを大空魔竜の動力部にぶつければ、大空魔竜を破壊できると売り込み、大金を所望する。やっぱり所作がコミカルで愛嬌があり、まんが世界昔ばなしの演出/コンテや脚本と共通するものがある。

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暗黒ホラー軍団から地上に送られたマドマッドは、人間に化けて大空魔竜破壊を目指すことに。
太陽が映るが、太陽による「間」は色々な作品に見られる。宝島・エースをねらえ!(演出)、あしたのジョー2(脚本)と比較。

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ハチローは大空魔竜のラジコンでしばらく遊んでいたが、ふてくされて寝転ぶ。
やっぱり宝島・ど根性ガエル(演出)などと同じく、所作が幼い。

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ハチローを見かけたマドマッドは、自分は大文字博士(大空魔竜部隊のリーダー)の知人の科学者、間遠(まどい)だと言い、ハチローに接近。おじさんと少年/青年の交流は、チエちゃん奮戦記・カイジ2期(脚本)などでもクローズアップされている。

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マドマッドの口車に乗ったハチローは、大空魔竜のことなら何でも知っていると豪語する。ここも所作が十二分に子供らしい。
ど根性ガエル・宝島(演出)と比較。

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マドマッドはハチローを、秘密の家に招き入れ、大空魔竜の情報を聞き出す。二人のやりとりがコミカルで、やはり高屋敷氏は少年/青年とおじさんの組み合わせの描写が上手いと感じる。
チエちゃん奮戦記(脚本)、宝島(演出)と比較。

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ハチローはマドマッドに、自分専用のマシンを作ってほしいとせがむ。赤面で愛嬌を際立たせるのは、グラゼニ(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、カイジ2期(脚本)などにも見られる。

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マドマッドはハチローに、調子のいい事ばかり言う。ここも動作がコミカル。特に台詞と連動して、手や体がコミカルに動くのは、忍者マン一平(監督/コンテ/脚本)や、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)などでも特徴的。

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マドマッドは、自分用のマシンが欲しいというハチローの願いを聞き入れ、すぐにそれを制作すると言って地下室に降りる。
喜ぶハチローが幼く、やはり宝島(演出)のジムと所作が似ている。

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ハチロー用マシンが出来たとして、マドマッドはハチローを地下室に招く。窓の演出が、宝島(演出)と共通。
とにかく今回は、作監杉野昭夫氏が共通するのも合わさって、宝島とのシンクロ度が高い。

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ハチローは、出来上がった自分のマシンに歓声を上げる。やはりここもコミカルで、少年とおじさんのコンビネーション描写が上手い。じゃりン子チエ(脚本)と比較。

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実は家の正体は戦闘艇で、マドマッドは試験飛行だとハチローを騙して離陸する。

一方、大空魔竜は暗黒ホラー軍団におびきよせられ宇宙に出る。それを見たハチローは、皆を驚かそうとして単機出撃する。
ここも子供らしい所作が連続する。
ダンクーガ・キャッツアイ(脚本)、宝島(演出)と比較。とにかく年齢問わず幼いキャラ付けが巧み。

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自分のマシンのちゃちさにハチローが気付くと、マドマッドが正体を明かす。裏切られた時の描写は、宝島(演出)やカイジ(脚本)と重なるものがある。

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ハチローは自機のミサイルでマドマッドの戦闘艇(暗黒怪獣)を攻撃してみるが全く効かず泣き出す。幼く泣くのは、老若男女に適用される。まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、ど根性ガエル(演出)と比較。

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マドマッドは、マジックファイヤーボール(障害物をすりぬける事が可能)で大空魔竜の動力部を破壊するが、ガイキングには呆気なく敗北する。
敗北する姿がコミカルで可哀想なのは、カイジ2期(脚本)や、ど根性ガエル(演出)など、多くの作品で印象に残る。

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サンシローは、一人置いていかれたハチローの気持ちはわかるとして、ガイキングの両手でハチロー機を優しく包む。手での感情伝達は頻出。怪物王女・F-エフ-・あしたのジョー2・カイジ2期(脚本)と比較。

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そして太陽が映るが、最後の締めに太陽が用いられることも多々ある。空手バカ一代(演出/コンテ)、グラゼニ(脚本)と比較。どれも締めの場面。

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とにかく太陽・月は重要な存在として描かれる。

  • まとめ

子供であるハチローにスポットが当たっていることもあり、無邪気で幼いキャラ付けを得意とする高屋敷氏の持ち味が存分に出ている。なかなかのコメディ回なので、今までの雰囲気とガラッと変わっているのにも注目したい。

シリーズの雰囲気を、明るくコミカルに、または希望のあるものにガラッと変えるのは、エースをねらえ!家なき子、宝島の演出でも目立っていた。私が最初に気付いた高屋敷氏の特徴でもあり、それくらい突出している。

今回は特に、宝島の演出とのシンクロ度合いが凄い(宝島は本作より後)。両作とも作監杉野昭夫氏であることもあり、キャラの幼い/コミカルな芝居付けが共通している。ハチローの子供らしさは、はっきりと宝島の主人公・ジムに引き継がれている。

カイジ1・2期(シリーズ構成・脚本)にも見られる、少年/青年と中高年男性を上手く組み合わせる技術も発揮されている。
これも演出作・脚本作ともに見られる高屋敷氏の長所の一つだと思う。
絵に関与できない脚本作でも、演出作と絵面が似てくるのも不思議。

あと、マドマッドの銭ゲバぶりについてだが、「金」が話に大きく絡むカイジ1・2期、ワンナウツグラゼニのシリーズ構成・脚本を高屋敷氏が手がけているのを考えると運命的で面白い。

今回が高屋敷氏の個性と相性がいいのは、シリーズ構成がマッドハウス設立者の丸山正雄氏であること、監督不在のため各話演出の持つ役割が大きいことも関係しているのかもしれない。丸山氏は人選が上手いことでも知られている。

ところで、今回のコンテは出崎統氏ではないかという説がある。実際見たところ、出崎統氏と高屋敷氏の個性が混在しているので、高屋敷氏のコンテを出崎統氏が修正した、または出崎統氏のコンテを高屋敷氏が演出段階で改変した、のいずれかではないかと私は思う。

話を高屋敷氏に戻すと、同氏定番の、手を使った感情表現が、まさかロボットにも適用されるとは思わなかった。
だいぶ同氏の担当作を見てきた私としては、これは大収穫。この時代(1976年)からある特徴と考えると、現代の作品で見せる巧みさは納得。

ラストがサンシローの笑顔と太陽であることも、キャラの笑顔や太陽、月を重視する高屋敷氏の傾向が出ているのではないか?と感じる。これらも、ありとあらゆる同氏担当作で見られるポイント。

家なき子や宝島は、メインが今回と同じようなチームで形成されており(高屋敷氏含む)、その点では、これらの作品のアーキタイプとも取れる。まさかここまでシンクロしているとは思っていなかったので、こちらも収穫だった。

本作は、東映動画マッドハウスが手を組んだことでも知られる(今では考えられない)。そして今までは視聴するのが困難だったのに、現在、配信(有料)で見られるのは私にとって非常に幸運だった。
高屋敷氏の個性も大いに感じられたので、本当に視聴できてよかった。