カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

まんが世界昔ばなし4A話演出/コンテ:愛嬌の効果

『まんが世界昔ばなし』は、1976年~1979年まで放映されたテレビアニメ。タイトル通り、世界の童話をアニメ化した作品。
今回は『ジャックとまめの木』。脚本が朝倉千筆氏で、演出/コンテが高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、まんが世界昔ばなしの記事一覧:
https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%BE%E3%82%93%E3%81%8C%E4%B8%96%E7%95%8C%E6%98%94%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%81%97

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  • 今回の話:

今回はイギリスの童話『ジャックとまめの木』。少年・ジャックは老人と取引し、豆と(乳の出なくなった)雌牛を交換する。彼の母はそれに怒って豆を外に投げ捨てるが、豆は一晩で、天に届くまでに育つ。それに登ったジャックは、人食い鬼の屋敷に入り込んでしまうが、鬼の宝をくすねて命からがら生還する。

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開幕、太陽が映る。演出作でも脚本作でも、開幕に太陽を出すのは頻出。元祖天才バカボン空手バカ一代(演出/コンテ)、らんま1/2ワンナウツ・F-エフ-(脚本)と比較。

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主人公である貧しい牛乳売りの少年・ジャックは、少年という割に非常に幼い。高屋敷氏は、演出作・脚本作とも幼い所作の表現が上手い。
画像は、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、宝島(演出)、マイメロディ赤ずきんハローキティのおやゆびひめ(脚本)との比較。

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ジャックは老人と出会い、乳の出なくなった雌牛と、不思議な豆を交換。
豆は一晩で天に届くまでに成長し、それに登ったジャックは巨大な屋敷に入り込む。大小のスケールを感じさせる演出は、宝島(演出)や元祖天才バカボン(演出/コンテ)にもあった。

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屋敷は、人食い鬼(子供が好物)のものだった。慌てたジャックは、壺の中に隠れる。このような構図は出崎統氏が得意としており、出崎氏と共に仕事した高屋敷氏も使う。宝島(演出)はともかく(出崎統氏がコンテ)、カイジ2期や、じゃりン子チエといった脚本作にも出るのは不思議(演出が出崎系統になりがちだからか)。

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鬼は、食事をし始める。高屋敷氏は、食べ物や食事に非常にこだわる。
おいしそうな食事の描写は数多い。宝島(演出)、チエちゃん奮戦記・カイジ2期・グラゼニ(脚本)と比較。

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食後、鬼は自分の宝物を取り出して愛でる。その姿は愛嬌がある。
色々な作品にて、悪人や敵役の可愛さは目立つ。
宝島(演出)、カイジ2期(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)、ワンナウツ(脚本)と比較。

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鬼の宝物の一つ、竪琴(意思を持ち、自動演奏する)の美しい音色に聞き入り、鬼は寝入る。
愛嬌のある寝顔は、様々な作品で強調される(アニメオリジナルも多い)。F-エフ-・ワンダービートS陽だまりの樹カイジ2期(脚本)と比較。

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鬼が眠っている隙に、ジャックは鬼の宝物をくすねる。すると、竪琴が鬼に助けを求める。おおよその原典通りだが、空手バカ一代・宝島(演出)、おにいさまへ…ワンナウツグラゼニ(脚本)ほか、魂を持つような「物」の演出は色々見られる。

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宝物が失くなっていることに気付いた鬼は泣き出す。老若男女、(幼く)泣くキャラは印象に残る。
宝島(演出)、カイジ2期・あんみつ姫(脚本)と比較。

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鬼から宝を盗るなんて鬼だ…と正論を言いながら、鬼はジャックを追いかける。このくだりで橋が出るのだが、ベルサイユのばら(コンテ)にも似たような画がある。高屋敷氏の癖が窺えて面白い。

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ジャックが豆の木を降りていくのを見た鬼は、ジャックを追跡可能とみて喜ぶ。
喜ぶ姿が可愛いのは、演出作でも、(不思議なことに)脚本作でも見受けられる。
宝島(演出)、グラゼニワンナウツ(脚本)と比較。

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ジャックを追って豆の木を降りようとする鬼だが、地上へと続く穴が若干小さくて詰まってしまう。ここも愛嬌がある。
カイジ2期(脚本)、空手バカ一代(演出)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)ほか、やはり高屋敷氏は、悪人や敵役の愛嬌を出すのに長ける。

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なんとか一足先に地上に降りたジャックは、斧で木を倒す。鬼は木から転落。ここも、動作や表情が可愛い。ど根性ガエル・宝島(演出)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)と比較。

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鬼は死に、ジャックは母親と共に、持ち帰った宝物で幸せに暮らすのだった。
ラストは月で締められるが、月は頻出で、太陽と同じく、全てを見ているような役割が課されることもある。
蒼天航路・RAINBOW-二舎六房の七人-・ガンバの冒険(脚本)と比較。

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  • まとめ

とにかくキャラが可愛い。本作は実質監督不在で、各話演出の自由度が高いわけだが、「かわいさ」に拘る高屋敷氏の好みが出ている。キャラクターデザインは、リアル系を得意とする川尻善昭氏だが、高屋敷氏の好みを汲み取っている感じがする。

ジャックと豆の木』の派生作品の中には、後日談として、宝物が機能しなくなり、ジャックが再び真面目に働くというものがあるが、本作ではそういうフォローがないバージョンで、どうにもジャックの酷さが目立つ作りになっている。

他の高屋敷氏の担当作でも、何が善で何が悪かは断定できないといったメッセージが発せられていることがある。
今回の場合は、鬼を可愛く描くことで、それが強調されている。

また、魂が宿ったような物・自然・太陽・月についても、原点が見える。
竪琴が喋るほか、豆の木も喋る。
マイメロディの赤ずきんハローキティのおやゆびひめ(脚本)もそうだが、童話アニメはスタッフの作家性が色濃く出る。

高屋敷氏の演出の特徴として、やはり所作の可愛さがある。演出の場合は、短い手足をバタバタさせたり、子供っぽい感情表現を多用したりして、それを表現する傾向が見られる。

今回の場合は演出だが、何故脚本作でもキャラの所作が可愛くなるのかといえば、演出側が可愛い画を想像できるような脚本であるのかもしれない。または、話全体の流れなどでそうなっていく…等も考えられる。

高屋敷氏の担当作を数多く見て来たが、キャラの幼さ・可愛さは確実に高屋敷氏の持ち味と言える。シリーズものの場合は、それを応用して、キャラの成長した姿とのギャップを際立たせる作りとなっている。

このような「愛嬌を演出する技術」のルーツは高屋敷氏の野球経験(元球児、高校野球部監督経験あり)にありそうだとは思い始めているが、もともと持っている才能である線もある。

その才能が、演出にしろ脚本にしろ、存分に活かされていると思う。
高屋敷氏の脚本作は、確実に過去の演出経験が活かされているのも面白い。特に、台詞に頼りすぎずに暗喩や情緒を駆使しているのは、やはり演出経験があってこそと言える。

本作は、短い尺の中に高屋敷氏の原点が詰まっており、他の担当作との比較が面白い。同氏の根本的な特色を探る上では、非常に貴重なので、これからも注視していきたい。