カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

マイメロディの赤ずきん脚本:作家性を探る鍵

  • 作品概要:

マイメロディ赤ずきん』は、1989年公開の劇場アニメ(サンリオアニメフェスティバルの一編)。サンリオキャラであるマイメロディが、赤ずきんを演ずる。
総監督:波多正美氏、監督:窪秀巳氏、コンテ:石川康夫氏で、脚本が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、サンリオアニメフェスティバルに関する当ブログ記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%82%AA

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本作は、サンリオキャラがお芝居をするというコンセプト。司会のサム(サンリオキャラ)がリングアナ風な言い方をして「プロレスか」とつっこまれるが、リングアナといえば、はじめの一歩3期・あしたのジョー2(脚本)が想起される(こちらはボクシング)。

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赤ずきんの芝居が始まると、まずは旅をする狼がミュージカル風に歌いながら登場し、歌い終わると「腹がへった」と嘆く。
あしたのジョー2(脚本)では放浪する少年期の丈が描写されたほか、F-エフ-(脚本)では実家へ旅する軍馬が、自分を狼だと例えた。
カイジ2期(脚本)ではカイジが根なし草。

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マイメロディ(サンリオキャラ)扮する赤ずきんの家が映ると、小鳥が飛ぶ。長年一緒に仕事した出崎統氏は鳥演出を好むが、そのためか高屋敷氏担当作にも、鳥はよく出る。おにいさまへ…ガンバの冒険(脚本)と比較。どちらも監督は出崎統氏。

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赤ずきんは、お母さんと一緒にクッキーを作る。クッキー作りはコボちゃん(脚本)にもあり、おにいさまへ…(脚本)では、先輩(蕗子)への誕生日プレゼントとして奈々子(ヒロイン)がクッキーを焼いている(アニメオリジナル)。

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赤ずきん”という、あだ名の由来として本作では、おばあさんがくれた赤ずきんを気に入ってずっと着けている女の子だから…としている。高屋敷氏は可愛い中高年キャラの描写に長け、ベルサイユのばら(コンテ)やF-エフ-(脚本)でも、それは見られる。

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クッキーが焼き上がると、お母さんはフライングして味見し、おいしいと喜ぶ。
おいしそうな食べ物は、高屋敷氏担当作に実によく出る。おにいさまへ…・怪物くん(脚本)と比較。

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そこへ猟師が訪ねてきて、猟犬が赤ずきんをなめる。なめることで親愛の情を表すのは、宝島(演出)、めぞん一刻はだしのゲン2(脚本)でも見られた。
他の作品でも、ペロペロなめる仕草は見られる。

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猟師は、狼が出没していること、おばあさんが風邪をひいたことを赤ずきん達に告げる。この猟師も愛嬌がある。可愛い中高年キャラは実に多い。
ワンナウツMASTERキートングラゼニ(脚本)、宝島(演出)と比較。

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一方、狼は小川で水を飲む。滝が映るが、出崎統氏が滝を好む影響か、高屋敷氏担当作にも多々見られる。宝島・空手バカ一代(演出)、おにいさまへ…(脚本)と比較。比較対象のいずれも、監督は出崎統氏。

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狼は観客に向かって、一人旅の苦労を語る。いわゆるヒールにも色々な事情があるのは、はじめの一歩3期(脚本)や宝島(演出)でも強く描かれた。宝島のシルバーが善悪問えないキャラである他、高屋敷氏は善悪のラインを明確にしない傾向がある。

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トロールする猟師を見かけた狼は、慌てて身を隠す。猟師は、いざとなればズドンと狼に弾を当てるのだと、銃をかまえる。愛嬌あるおじさんが実は銃の名手なのは、宝島(演出)やルパン三世2nd(脚本)にもあった。

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猟師をやりすごした狼は、手ごろな洞穴を寝ぐらにすることに決める。
あしたのジョー2(脚本)でも、少年期の丈の一人旅での寝ぐらが印象に残るほか、空手バカ一代・宝島(演出)では、洞穴に一人で住むキャラが出てくる。

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狼は荷物から鏡を出して毛をとかし、自分で自分に見とれる。状況や真実/現実を映すものとして、鏡は結構出てくる。ルパン三世2nd(演出/コンテ)、じゃりン子チエ(脚本)と比較。

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赤ずきんの家では、おばあさんの見舞いに行く事になった赤ずきんに、お母さんがクッキーを持たせる。
ここも飯テロ。コボちゃんおにいさまへ…(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。特にコボちゃんは、ホワイトデー用の手作りクッキーで、共通する所がある。

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さらに、お母さんは葡萄酒と、おいしいチーズを赤ずきんに持たせる。「体がぽかぽかになる」葡萄酒や、「おいしい」チーズなど、台詞上でも美味しそうな食べ物の描写が続く。とにかく飯テロ。F-エフ-・グラゼニ(脚本)と比較。

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おばあさんの家へと向かう赤ずきんは、リスに話しかける。基本、言葉が通じない動物と親しげにする場面は、ルパン三世2nd(演出/コンテ)やガンバの冒険(脚本)、宝島(演出)にも見られた。

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赤ずきんを見かけた狼は、おいしそうだと思い接触を試みる。はじめの一歩3期(脚本)では、対戦相手を美味しい肉に例える沢村が、一歩を「おいしく」頂こうと執拗に攻める。比較して見ると面白い。

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狼のサングラスに、赤ずきんが映る。ここも真実/状況を映す鏡描写。カイジ2期・グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。

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画像が用意できなかったが、高屋敷氏が演出参加したエースをねらえ!にも、似たようなサングラス描写がある(竹内啓雄氏演出回)。

狼は、赤ずきんを使った色々な料理を想像する。ここも飯テロ。
元祖天才バカボン(演出/コンテ)、カイジ2期・おにいさまへ…グラゼニ(脚本)と比較。

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狼は紳士的なふりをしつつ、隙を見て赤ずきんを食べようとするが、偶然が重なり失敗する。
はじめの一歩3期(脚本)で、まだゴングも鳴っていないのに沢村が一歩を襲おうとする場面と比べると面白い。

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狼は、花畑があると言って赤ずきんを誘う。赤ずきんを見ながら、狼は舌なめずりする。ここも、はじめの一歩3期(脚本)で、一歩をおいしい肉に見立てる沢村と比較すると、重なるものがある。

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人気のない所まで誘導して赤ずきんを食べる算段をしていた狼だったが、石が積まれた山の向こうに本当に花畑があり、赤ずきんは大喜び。喜ぶ姿が可愛いのは、数多くの作品に見られる。宝島(演出)、あんみつ姫(脚本)と比較。

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赤ずきんは、おばあさんのために花を摘む。花の描写は、高屋敷氏担当作に様々あり、意味深な事も多い。F-エフ-・おにいさまへ…(脚本)と比較。

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狼は作戦変更し、おばあさんの家へ先回りする。台詞にもあるが、おばあさんの家は風車小屋の隣。画像が用意できなかったが、高屋敷氏が演出参加した家なき子にも風車小屋はよく出ていた。また、カイジ2期(脚本)にも風車のイメージが出るので縁を感じる。

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狼は赤ずきんのふりをして、おばあさんの家に入る。
赤ずきんの姿を見たくて、おばあさんは老眼鏡をかける。
ワンナウツ(脚本)や宝島(演出)にも、老眼鏡がチャームポイントな可愛い中高年キャラがいる。

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「この世に狼がいる限り、狼の仕事はただ一つ」と言って狼はおばあさんを食べる。
この「~限り」という言い回し、ワンダービートS最終回(脚本)では「この宇宙がある限り」、グラゼニ最終回(脚本)では「プロ野球選手である限り」(アニメオリジナルモノローグ)など、重要な場面で出てくるので興味深い。

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おばあさんを捕食後、「ちょっとばかり筋があったが、年寄りだからしょうがないか」と狼は感想を漏らす。
ここも、はじめの一歩3期(脚本)で、「まだ美味しそうに見えねえな」と一歩を品定めする沢村が重なってくる。

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そして、おばあさんに変装した狼は、訪ねてきた赤ずきんをベッドに招き入れる。
はだしのゲン2(脚本)にて、母親の布団に入り込むゲンが思い出される。

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(定番通り)赤ずきんは狼の手を取り、おばあさんの手はこんなに大きかった?と問う。ワンダービートSおにいさまへ…・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)などなど、高屋敷氏は手による感情表現を非常に重視する。

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定番通り、(口が大きいのは、お前を食べるためだと言って)狼は赤ずきんを食べる。
そして、満腹の狼は眠りこける。眠る姿が無邪気なのは、陽だまりの樹カイジ2期(脚本)などにも見られる。

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巡回のついでに、おばあさんの家を訪ねた猟師は、様子がおかしいので家の中に入る。
狼を発見した猟師は驚き、ロウソクに火をつける。火による「間」は、よく見られる。コボちゃんおにいさまへ…(脚本)と比較。

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猟師はナイフを取り出して狼の腹を割き、赤ずきんと、おばあさんを救出する。愛嬌だけでなく有能でもある中高年キャラも少なくない。F-エフ-・陽だまりの樹(脚本)でも印象に残る。ちなみに陽だまりの樹のキャラは医者が多く、手術場面も多い。

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おばあさんは、狼をこらしめようと提案して、石ころを集める。なんとなく、はだしのゲン2(脚本)にて、金になるジャンクを集めるゲン達が重なってくる。

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おばあさんは、石を狼の腹に詰めて縫い閉じる。糸巻きの「間」があるが、こういった「物」による「間」は色々な作品で見られる。蒼天航路グラゼニ(脚本)と比較。

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ここまでされても狼は眠り続け、寝ぼけて猟師の銃をくわえる。
前述の通り、無邪気に眠りこけるシチュエーションは様々な作品にある。F-エフ-・ワンダービートS(脚本)と比較。

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猟師の声でようやく起きた狼は、腹に入れられた石のせいで七転八倒しながら逃走。
それを見ながら赤ずきん達は笑う。
やはり、喜び方が可愛い(高屋敷氏のリアルな野球経験から来ている可能性あり)。怪物くん・太陽の使者鉄人28号(脚本)と比較。

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狼に風邪がうつったおかげで、おばあさんはすっかり元気になる。赤ずきんと、おばあさんは笑い合うのだった。
はじめの一歩3期(脚本)にて、苦戦の末に沢村を破り、鴨川会長と勝利を喜ぶ一歩と比較。どちらも老人との絆が描かれている。

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夜になり、月が映る。全てを見ているような月は頻出。高屋敷氏は、月や太陽に重要な役を課すことが多い。
はじめの一歩3期・F-エフ-(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。

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腹に石を詰められ(自分自身は、赤ずきん達の消化が悪いと思っている)、おばあさんから風邪をうつされた狼は、へとへとになりながら旅立つ。死んだとも旅立ったとも取れる、あしたのジョー2最終回(脚本)や、F-エフ-最終回(脚本)で、世界へ旅立つことが示唆された軍馬を思わせる。

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お芝居終了後の舞台挨拶では狼が出て来て、無事な事を披露して「お芝居も楽じゃないよ」とこぼし、マイメロディとも和気あいあいとする。
はじめの一歩3期(脚本)で、一歩に敗れ大怪我するも、千堂に見舞われた(孤独ではない)沢村と比較すると面白い。

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  • まとめ

先に述べた通り、はじめの一歩3期(脚本)の沢村戦(11・12・13話)と比べると非常に面白く、沢村が狼に、一歩が赤ずきんに重なって見えてしょうがなくなる。

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一見可愛らしげで、狙われる(食べられる)立場の者が、最後に襲う(食べる)側を、かなり残酷な形で(老人と共に)打ち負かす構成も、はじめの一歩3期(脚本)と共通するものがある。

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これは本作の総監督である波多正美氏が、はじめの一歩3期11・12話の演出に参加している事も関係あるかもしれない。とにもかくにも、この両作のシンクロは楽しい。
ちなみに波多正美氏・高屋敷氏とも、あしたのジョー1スタッフであり、両氏揃っての、はじめの一歩3期参加は感慨深い。

また、狼が言う「この世に狼がいる限り、狼の仕事はただ一つ」という台詞は、グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)の、夏之介のアニメオリジナルモノローグ「これが僕の仕事です」「僕は(グラウンドに埋まる銭を)掘り続けます。プロ野球選手である限り!」が重なり興味深い。

これは、どちらも「自分とは何か」をある程度掴んでいるから出る言葉だと思う。
「自分とは何か」は、高屋敷氏がよく提示してくるテーマで、人生の経験値が高いキャラほど「何か」が何か、わかるようになっている。

劇中で狼が、何故か真っ先に鏡を取り出し自分の姿を映すのも、「自分とは何か」を狼がわかっている表れの一つなのかもしれない。
狼にせよ、グラゼニの夏之介にせよ、「自分とは何か」をある程度掴んでいるからこその「悟りと誇り」が見られる。

そして本編ラスト、(その後の狼を見た人がいないとしながらも)「またどこか旅をしてるんでしょうか」と結ぶナレーション。
ここに、あしたのジョー2最終回(脚本)の、高屋敷氏なりの解釈(丈は死なずに旅に出た)を感じる。本作以外にも、そういった要素は散見される。

あと、高屋敷氏は狼にシンパシーを感じているようで、まんが世界昔ばなしにて『三びきの子ぶた』(演出/コンテ)ではコミカルな狼を、『きつねのさいばん』(脚本)では正義感の強い狼を描いている。
本作でも、少し狼に対し共感したり同情したりできる構成。

本作の狼が絶対悪でもないのをはじめ、高屋敷氏はとにかく、善悪のラインを明確に引かず、人間の色々な側面を描写する。
このような要素は、アカギ・カイジカイジ2期・ワンナウツ(シリーズ構成・脚本)にも大いに活かされている。

高屋敷氏が参加した、まんが世界昔ばなしでもそうだったが、童話をモチーフにした作品は、スタッフの作家性が剥き出しになる。そういった意味でも、非常に貴重な作品だった。
リマスターDVDがセル/レンタルともに出ているのもありがたい。