まんが世界昔ばなし41A話演出/コンテ:作品の重大要素
『まんが世界昔ばなし』は、1976年~1979年まで放映されたテレビアニメ。タイトル通り、世界の童話をアニメ化した作品。
今回は『三びきの子ぶた』。脚本が首藤剛志氏で、演出/コンテが高屋敷英夫氏。
───
本記事を含めた、まんが世界昔ばなしの記事一覧:
───
- 今回の話:
今回は『三びきの子ぶた』。子豚の三兄弟がそれぞれ建てた家を、狼が襲う。
一番頑丈なレンガの家を建てた三男は、兄達をかくまった上、狼を撃退する。
───
開幕に太陽が映るが、これは高屋敷氏担当作の定番。ワンナウツ・F-エフ-・らんま1/2(脚本)と比較。どれも開幕場面。
夏を表すセミが鳴く。季節表現へのこだわりは強めに見られ、それはナレーションなどでも表れることがある。
RAINBOW-二舎六房の七人-・チエちゃん奮戦記・めぞん一刻(脚本)と比較。
三匹の子豚のキャラ性が紹介される場面では、子豚それぞれが雲にイメージを膨らませる。ガンバの冒険(脚本)にも、雲を使った空想場面が見られる。
また、作画の大橋学氏も、雲表現に拘りがある。
更に三兄弟のキャラ性を表す場面が続き、それぞれの個性がわかるようになっている。高屋敷氏はキャラの掘り下げが上手く、ガンバの冒険・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)では、7キャラ分の個性を捌いている。
ある日三兄弟は、それぞれ家を作るよう母親から命じられる。しっかり者だったり、優しかったり、お茶目だったりと、高屋敷氏は母親キャラを際立たせる。
RAINBOW-二舎六房の七人-・マイメロディの赤ずきん(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。
長男は藁で家を作り、早速寝る。キャラが無邪気に眠りこける場面は、よく見られる。
ど根性ガエル(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。
続いて次男は板で家を完成させる。三男はレンガで家を作るが、冬になっても完成せず。
季節の移ろいが木で表現される。こういった「意味のある木」は結構出る。じゃりン子チエ・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。
次男は、家に友達を呼んで遊ぶ。友達同士の仲良しぶりは、強めに表現される。
グラゼニ・おにいさまへ…・めぞん一刻(脚本)と比較。
季節は春になり、鳥が囀ずる。ここも木を使った季節表現。また、鳥を使った表現は数多ある。
マイメロディの赤ずきん・ハローキティのおやゆびひめ(脚本)と比較。
春を表現するものとして、蝶が飛ぶ。
蝶もよく見られる。あんみつ姫・あしたのジョー2・おにいさまへ…(脚本)と比較。
そして遂に三男は(レンガで造られた)家を完成させ、大喜びする。
喜ぶ姿が可愛い場面は多い。ガンバの冒険・DAYS(脚本)と比較。
そんな折、狼が来たことを知らせる鐘が鳴る。焦った長男と次男は正面衝突し、抱き合うような格好になる。
可愛いハグ場面は色々な作品にある。ストロベリーパニック・ガンバの冒険(脚本)と比較。
それぞれが家にひきこもったところに、狼がやってくる。狼はエチケットに拘り、紳士のような格好をしている。
マイメロディの赤ずきん(脚本)の狼も、独自の美学を持つ。
狼は長男の家を吹き飛ばし、長男は次男の家に避難。そこで狼は、次男の家に火をつける。高屋敷氏は、火にこだわる。
ベルサイユのばら(コンテ)、カイジ2期・F-エフ-(脚本)、ど根性ガエル(演出)と比較。
長男と次男は、三男の家に避難する。すると狼は地面を掘り、家の下に爆弾を仕掛けるが、三男の家は耐える。
絵面が、新ど根性ガエル(脚本)とシンクロを起こしている。
狼は、一旦退いて考えを巡らす。(食事をするための)椅子に座っているが、マイメロディの赤ずきん(脚本)でも、狼がディレクターチェアに座る場面がある。
狼は閃き、煙突からの侵入を試みる。ここも絵面が、新ど根性ガエル(脚本)とシンクロを起こしている。状況が似るからだろうが、かたや演出、かたや脚本なのが面白い。
子豚三兄弟は、暖炉で火を焚いて狼を迎撃し、熱がった狼は退散。ちょっと気の毒にも見えるのは、マイメロディの赤ずきん(脚本)の狼も同じ。
三兄弟は勝利を喜び、長男と次男は、三男を称える。ここも、喜ぶ姿が可愛い。あんみつ姫・太陽の使者鉄人28号(脚本)と比較。
兄達に褒められた三男は照れ、そんな彼を見た兄達は「かわいい~」と笑う。
皆に笑顔が広がる場面は、数々の作品で印象に残る。元祖天才バカボン(演出/コンテ)、RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)、宝島(演出)、おにいさまへ…(脚本)と比較。
三男を見習い、長男と次男も真面目に生きることにするのだった。
ラスト、夕陽が映る。夕陽もまた、高屋敷氏担当作の定番。宝島(演出)、あんみつ姫・F-エフ-(脚本)と比較。
- まとめ
まず、三兄弟のキャラを立たせるための演出が端々に見られる。前述の通り、高屋敷氏は多数のキャラを立てたり、多人数の動向を捌いたりすることに長ける。
次に、季節表現についても注目したい。一本の木にストーリーがあるような季節描写は、他の作品にも見られるので、「木」にこだわりがあるのかもしれない。
脚本作の場合、季節表現を言葉に乗せていることがある。例えば、グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)の「爽やかだった5月の風は、既に厳しい残暑の熱風に変わっている」という、(主人公による)ナレーションなど。相当に「季節」を意識している。
あと、狼のキャラが濃いのは、マイメロディの赤ずきん(脚本)の狼に継承されている気がする。
そしてマイメロディの赤ずきんでは、楽屋ネタで狼が救済されており、高屋敷氏の、狼へのシンパシーが感じられる。
ブタについてだが、元祖天才バカボン(演出/コンテ)に、ブタの惑星の話があり、そちらでもブタが可愛い。
キャラのキュートさを出すことに、高屋敷氏は非常に秀でる。不思議と、脚本作でもそれが色濃く出る。
いかに「キュートさ」を出すかといえば、演出側の場合は、短い手足をバタバタさせたり、笑顔にこだわったりする技術が見られ、脚本作の場合は、キャラが可愛くなる状況作り、話運び、言葉づかいの工夫が見られる。
脚本作でどのように「可愛さ」を出していくのかは、本作35A話『ガリバー旅行記』(脚本)にヒントがある。
「もう、大喜び!」というナレーションだ。こう書かれたら、演出・作画側も、可愛く大喜びする姿を描くほかないのではないだろうか。
『三匹の子豚』といえば、物事は慎重に進めよ、などの教訓が目立つのが普通だが、今回は三兄弟、特に三男の可愛さが印象深い。実際に長男と次男が「か~わいい~」と言うのも納得。
最後に三兄弟が笑うのも、なんとも温かい気持ちになる。これは本当に、色々な作品に出ている雰囲気であり、高屋敷氏が大切にしているものなのかもしれない。
前に書いたが、「孤独は万病のもと、笑顔は万能薬」的なポリシーが見られる。
個性的な狼といい、三兄弟の可愛さといい、とにかく説教臭さが無いのは特筆に値する。高屋敷氏が構築する世界には、やはり「笑顔」が不可欠なものなのだと思えた回だった。
あと、今回はコンテ修正を、作画の大橋学氏が行っており(大橋氏のツイートより)、同氏の個性もかなり出ている。特に冒頭のウサギ型の雲だが、大橋氏作画の宝島EDのウサギと同じタッチになっている。