まんが世界昔ばなし35A話脚本:初期型原作クラッシュ
『まんが世界昔ばなし』は、1976年~1979年まで放映されたテレビアニメ。タイトル通り、世界の童話をアニメ化した作品。
今回は『ガリバー旅行記』。脚本が高屋敷英夫氏で、演出/コンテが川尻善昭氏。
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- 今回の話:
嵐で船が難破し、遭難したガリバーが打ち上げられた地は、小人の国だった。
小人達と色々交流するガリバーだったが、故郷に帰ることにする。
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冒頭、雷が映る。アカギ・花田少年史(脚本)も、序盤の雷が印象的。
これ以外にも、雷が効果的に使われるシチュエーションは、高屋敷氏担当作にしばしば見られる。
船が難破し、ガリバーが打ち上げられた地は、小人の国だった。彼は小人達に拘束されるが、自力でそれを解き、そっと小人国の大臣をつまみ上げる。小さいものを優しく持つのは、太陽の使者鉄人28号・ハローキティのおやゆびひめ(脚本)も記憶に残る。
ガリバーは、敵意がないこと、空腹であることを大臣に告げる。
それを受け、小人達は(自分達にとって)大量の食べ物をガリバーに与えるが、彼はそれをペロリと平らげる。
美味しそうに食事する場面は実に多い。
宝島(演出)、グラゼニ(脚本)と比較。
小人達は、ガリバーを王様のもとへ運ぶ。
王様はガリバーを大変珍しがり、早速彼の体に登る。王様が無邪気で可愛い。
高屋敷氏は可愛いおじさんを描写するのに長ける。元祖天才バカボン(演出/コンテ)、グラゼニ(脚本)と比較。
そこへ、にわか雨が降ってきて小人達は慌てる(彼等にとって雨は脅威)。
ガリバーは、王様と大臣を手で覆い、雨から守る。手で情を表す場面は数多ある。
おにいさまへ…(脚本)、宝島(演出)、チエちゃん奮戦記・マッドハウス版XMEN(脚本)と比較。
ガリバーは、すっかり小人達と打ち解ける。
そんなある日、隣国の艦隊が攻めてくる。それを受け大臣は焦る。ここも大臣が可愛い。とにかく可愛いおじさんは高屋敷氏担当作につきもの。ワンナウツ(脚本)、宝島(演出)、1980年版鉄腕アトム(脚本)と比較。
ガリバーは、隣国の艦隊と戦うことにする。隣国の兵(こちらも小人)達は驚き、矢を放つ。彼等も可愛い。
また、ハローキティのおやゆびひめ(脚本)でも、花の矢(無害)を放つ可愛い蜂が出てくる。
ガリバーは隣国の艦船を全て捕まえて勝利し、王様はじめ小人達は大喜び。
高屋敷氏は、演出作でも脚本作でも、キャラが喜ぶ姿を可愛く表現する。ワンナウツ(脚本)、宝島(演出)、グラゼニ(脚本)と比較。
祝勝会が開かれるが、王様はガリバーの食が進まないのを心配する。
食は心身にとって非常に重要であるとする主張は、あらゆる作品で前面に出る。
おにいさまへ…・ワンダービートS・カイジ2期・グラゼニ(脚本)と比較。
ガリバーは、自分がここにいては国の食糧を食いつくしてしまうから、故郷に帰りたいと王様達に告げる。
王様と大臣は寂しがって泣く。素直な泣き顔は、色々な作品に見られる。グラゼニ・カイジ2期(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。
王様は、ガリバーが帰るための船の材料を提供する事に。「寂しそうに、お城の中へ消えていく王様の後ろ姿を見送るガリバーの胸に、何か熱いものがこみあげて来ました」というナレーションが入るが、似た状況がグラゼニ(脚本)のアニメオリジナル場面にある。
その後、船が完成し、ガリバーは小人国をあとにする。
爽やかな別れの場面は、ガンバの冒険(脚本)などなど、印象的なものが多い。
ガリバーは商船に拾われ、故郷へ向かう。彼は小人達の温かさを胸に刻むのだった。ハローキティのおやゆびひめ(脚本)ラストでも、今まで会った者達に、おやゆびひめが感謝するモノローグがある。
どちらも、人への感謝を忘れるなというメッセージが感じられる。
- まとめ
ガリバー旅行記といえば、やりようによっては戦争に対する皮肉や、風刺などを描く事もあるが、全編通して可愛く温かい話になっているのは、可愛さや人情の表現に長ける高屋敷氏らしい話の組み立てだと思う。
原作では、かなりドロドロした理由でガリバーが小人国を去るが、今回の場合「食べものを食い尽くしてしまうから」が去る理由であり、小人達とも円満に別れる。
ここも「食」と「人情」への拘りが感じられる。
今回、高屋敷氏は脚本だが、やはり不思議なことに演出作と同じような「可愛さ」「食へのこだわり」「人情」が表出している。同氏と、今回演出の川尻善昭氏は、他作品でも連携がバッチリなので、それも関係しているかもしれない。
川尻善昭氏や出崎統氏は、高屋敷氏と馴染みなので、両氏が高屋敷氏の意図を拾えるのは納得なのだが、両氏以外の監督や演出家の作品でも、「脚本」の高屋敷氏の意図が映像に出たりするのは不思議なところ。
だが、ヒントはある。「ガリバーの胸に、何か熱いものがこみあげて来ました」というナレーションだ。これと似たような心情が、グラゼニ18話(脚本)終盤の、アニメオリジナル場面で描かれている(ナレーションはなし)。キャラの心情が伝わる文だから、映像にしやすいのかもしれない。
原作では色々ひどい事情でガリバーは小人国を去るのに、小人達の温かさを忘れないようにしようとガリバーが胸に刻むラストもまた、高屋敷氏らしいアレンジ。同氏の主張が前に出ている。
よく考えたら、今回は物凄い原作クラッシュが行われている。有名な原作クラッシャーである出崎統氏ゆずりなのか、高屋敷氏は原作クラッシュを、やる時はやる傾向がある。
今回の場合はダイレクトな原作クラッシュだが、じゃりン子チエ(高屋敷氏脚本参加)以降、高屋敷氏は、かなり計算しつくされた、巧妙な原作クラッシュ(しかもじわじわとした)の術を身につけた気がする。
一方、高屋敷氏渾身の作であるF-エフ-(シリーズ構成・全話脚本)では、「出崎統式」とも言える非常にアグレッシブな原作クラッシュが行われた。だが、アニメ版のキャラならこうする…といった、しっかりしたキャラの掘り下げができていた。
近年、特にグラゼニ(高屋敷氏シリーズ構成・全話脚本)になると、基本を原作通りとしながら、原作を補完する改変と、作品の根底を触るような改変が行われていたりする。つまり、年を経るごとに原作クラッシュが巧妙になっている。
本作のような、童話のアニメ化は原作クラッシュの見本市のようなもの。高屋敷氏の「実は恐ろしい原作クラッシュ能力」が、ここでも磨かれた感じがしている。
高屋敷氏方式の原作クラッシュの初期型が見られる、貴重な回だった。