ハローキティのおやゆびひめ脚本:表現のベース
『ハローキティのおやゆびひめ』は、1990年公開の劇場アニメ(サンリオアニメフェスティバルの一編)。サンリオキャラであるキティが、おやゆび姫を演ずる。話の大筋は、ほぼ(一般的な)原作通り。
総監督:波多正美氏、監督:窪秀巳氏、コンテ:鹿島典夫氏で、脚本が高屋敷英夫氏。
───
本記事を含めた、サンリオアニメフェスティバルに関する当ブログ記事一覧:
https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%82%AA
───
開幕、鳥のつがいが映る。とにかく、鳥はよく出る(高屋敷氏が長年一緒に仕事した出崎統氏も、よく鳥を出す)。はだしのゲン2(脚本)では、野鳥の卵がゲン達の貴重な栄養源となるほか、陽だまりの樹・おにいさまへ…(脚本)などでも鳥が印象深い。
とある独り暮らしの婦人が、子供を欲しいと神様に祈っていたところ、風が吹いて女神が現れる。ベルサイユのばら(コンテ)、めぞん一刻(脚本)ほか、意思を持つかのように風が吹く場面は多いが、それらに意図が乗っているのが、本作と比較するとわかる。
(願いを叶えると言った)女神から貰った種を、婦人は育てる。その最中、鳥のつがいが様子を見に来て、婦人は鳥達に話しかける。
カイジ・F-エフ-(脚本)ほか、意味深な鳥描写の元は、高屋敷氏が鳥を重視しているためなのが、ここを見ると実感できる。
そして、種は育って花を咲かせ、花の中から小さな女の子が生まれる。婦人は彼女を「おやゆび姫」と名付ける。小さいキャラの描写は、元祖天才バカボン(演出/コンテ)やガンバの冒険(脚本)の経験が活きていると感じられる。
春、おやゆび姫は蝶と遊ぶ。蝶も、出崎統氏がよく出すもので、高屋敷氏もよく出す。
おにいさまへ…・あしたのジョー2(脚本)と比較。比較対象は、いずれも監督が出崎統氏。
寝落ちするおやゆび姫を見て、婦人は和む。
眠りこけるキャラが、周りのキャラに優しくされる場面は、F-エフ-(脚本)や宝島(演出)にもあった。
おやゆび姫が一人立ちする日を思いながら、婦人はおやゆび姫を両手で包みこんで抱擁する。
手を使った感情表現は、あらゆる作品に見られる。
F-エフ-(脚本)と比較。
夜、おやゆび姫に目をつけていたカエル夫婦が、息子の嫁にすべく、おやゆび姫をさらう。息子は大喜びする。
喜び方が幼いのは、色々な作品に見られる。宝島(演出)、忍者戦士飛影・1980年版鉄腕アトム(脚本)と比較。
おやゆび姫は蓮の葉の上に隔離され、カエル(息子)に顔を舐められる。
何かを舐める仕草は多々ある。はだしのゲン2・新ど根性ガエル(脚本)、宝島(演出)と比較。
事の一部始終を見ていた魚達は、おやゆび姫に同情して彼女を逃がす。地味に目立ち、ファインプレーが光る脇役はカイジ・ワンナウツ(脚本)でもクローズアップされていた。
おやゆび姫の行く先には滝があったが、何とか助かる。滝は出崎統氏が好み、高屋敷氏もよく出す。おにいさまへ…(脚本)、空手バカ一代・エースをねらえ!(演出)と比較。比較対象のいずれも、監督は出崎統氏。
おやゆび姫に逃げられたカエル(息子)は泣き出し、両親に慰められる。年齢問わず泣き方が幼いのは、他の作品でも見られる。ルパン三世2nd(演出/コンテ)、1980年版鉄腕アトム(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。
蓮の葉に乗って川を下りながら、おやゆび姫はウサギやトンボに挨拶する。
このあたりを見ても、高屋敷氏が動物に色々な役割を積極的に課しているのが推測できる。画像は、宝島(演出)、蒼天航路(脚本)との比較。
コオロギが音楽を奏で、蛍が舞う美しい夜、女神がおやゆび姫の前に現れ、花の国へ向かえと告げる。ここも、高屋敷氏が自然を重視しているのが窺える。おにいさまへ…・めぞん一刻(脚本)ほか、自然の意味深描写は多い。
おやゆび姫は、南にある花の国を目指すことにする。事情を聞いた蝶は、おやゆび姫を手助けする。ここも、空手バカ一代(演出)やワンナウツ(脚本)といった他作品での蝶や蛾の意味深描写のベースを見ているようで面白い。
おやゆび姫を見かけたコガネムシのコンガは、おやゆび姫をさらう。コンガは陽気な流れ者で、音楽を嗜む。
お調子者キャラの配置の上手さは、宝島(演出)やあんみつ姫(脚本)なども記憶に残る。
周りのコガネムシ達は、コンガやおやゆび姫をからかう。意地悪なトリオは色々な作品にて前面に出ている。
なんとなく、カイジ2期(脚本)の大槻・沼川・石和トリオと比較すると面白い。
怒ったおやゆび姫は、コンガにあかんべーする。この動作は、宝島(演出)、めぞん一刻・おにいさまへ…(脚本)にもある。
前述の、舐める動作が多い事も含め、高屋敷氏のクセなのかもしれない。
おやゆび姫は、不運にも蜘蛛の巣の上に落ち、蜘蛛に食べられそうになる。蜘蛛はグルメなことが窺える。恐ろしいキャラがグルメであるのは、カイジ2期(脚本)でも強調された。
コンガは蜘蛛を丸め込んで、おやゆび姫を逃がし、蜘蛛とも仲良くする。
お調子者が場を和ませるのは、宝島(演出)でも目を引く。
旅を続けるおやゆび姫だったが、雪が降ってくる。彼女は雪を見て感動する。
めぞん一刻(脚本)でも雪がらみの情感ある描写があるほか、家なき子(演出)やF-エフ-(脚本)でも、雪の情緒がふんだんに使われていた。
積もった雪の上を、おやゆび姫は葉をソリのように使って滑走する。
ソリ遊びの描写は家なき子(演出)にもあるので、それが活きているのを感じる。
そして寒さが厳しくなり、おやゆび姫は行き倒れてしまうが、野ネズミに助けられる。
MASTERキートン(脚本)の、雪の中で老人を助けるキートンが重なるほか、(画像が用意できなかったが)家なき子(演出)でも、レミが雪の中行き倒れ、親切な人に助けられる。
野ネズミおばさんは、温めた蜜をおやゆび姫に飲ませる。
おいしそうな飲み物・食べ物の表現は、高屋敷氏の十八番。
はだしのゲン2(脚本)、ど根性ガエル(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。
おやゆび姫は、暖かくなるまで野ネズミおばさんの家に居候することに。
両者は楽しい時を凄す。
束の間だったが同居することで、濃厚な時を過ごした、カイジ2期(脚本)の坂崎とカイジを思わせる。
そんな折、近所の金持ちのモグラに気に入られたおやゆび姫は、パーティーに誘われる。このモグラ、宝島(演出)のトレローニに雰囲気と風貌が似ている。金持ちであり、どこか愛嬌があるのも共通。
モグラ邸に行く途中、おやゆび姫達は行き倒れのツバメに遭遇する。
ここでも鳥が重視されている。ルパン三世2nd(演出/コンテ)、おにいさまへ…・ガンバの冒険(脚本)と比較。一羽一羽がクローズアップされる事が多い。
ツバメの事が気になるおやゆび姫だったが、モグラのパーティーに参加する。ここも飯テロ。グラゼニ・おにいさまへ…(脚本)と比較。
おやゆび姫は、こっそりツバメを看病する。なんとなく、カイジ2期(脚本)の、介護当番中のカイジが重なる。
そんな日々の中、おやゆび姫はモグラからプロポーズされる。
本人の意向にそぐわない縁談は、RAINBOW-二舎六房の七人-・めぞん一刻(脚本)にもあり、重ねると面白い。
おやゆび姫は悩み、ツバメに相談する。ツバメは、春になったら一緒にここを出ようと提案する。
協力してくれる頼もしい鳥は、ガンバの冒険(脚本)でも目立つ。
だが、モグラとの縁談を進めたい野ネズミおばさんに、おやゆび姫は春まで軟禁され、モグラとの結婚式を迎える。
望まれない結婚式は、RAINBOW-二舎六房の七人-・あんみつ姫(脚本)でも描かれた。
そこへツバメが乱入し、おやゆび姫はツバメに乗って逃げる。
ルパン三世2nd(演出/コンテ)では、一羽の鳩が活躍しており、やはり高屋敷氏が鳥を重視しているのが見て取れる。
モグラは、おやゆび姫を潔く見送る。
金と容姿に恵まれ、性格も良くても恋に敗れた、めぞん一刻(脚本・最終シリーズ構成)の三鷹と重なるものがある(三鷹の場合、別の恋が成就するが)。
あらためて、おやゆび姫はツバメと共に花の国を目指す。道中、カモメの群れに会ったりと、やはり鳥が重視されている。
宝島(演出)、おにいさまへ…(脚本)と比較。
ツバメとおやゆび姫が花の国に入ると、ミツバチ達から花の矢を射られる(当たっても痛くはないが)。ミツバチ達は愛嬌があり、かわいく朗らかなモブを描写するのが上手い高屋敷氏の特徴が出ている。
はだしのゲン2(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。
女神からのお告げで、おやゆび姫を待っていたという花の国の王子の求婚を、おやゆび姫は受ける。幸せな結婚についての話も、高屋敷氏は多く担当している。めぞん一刻・グラゼニ・おにいさまへ…(脚本)と比較。
ツバメは北の国に行くべく、おやゆび姫に別れを告げる。
おやゆび姫は、育ての親である婦人に、自分は幸せに過ごしていると伝えて欲しいとツバメに頼み、感謝のキスをする。
ガンバの冒険(脚本)や宝島(演出)と同じく、やはり鳥が重要な役を担っている。
おやゆび姫は、今まで会った者達に感謝するのだった。
「皆がいるから自分がいる」「多くの人達の思いを背負う」「今まで会った人達が自分を見ている」といった境地は、エースをねらえ!(演出)、ワンナウツ・F-エフ-・カイジ(脚本)でも描かれた。
- まとめ
とにもかくにも、鳥の活躍が目立つ。鳥演出自体は、空手バカ一代(演出やコンテ)あたりから確認できるが、まんが世界昔ばなしの一編である幸福の王子(演出/コンテ)に出るツバメが強烈で、本作もそれの強い影響下にあると思う。
まんが世界昔ばなしの幸福の王子(演出/コンテ)では、最後に寒さに耐えられずツバメが死んでしまい、親友であるツバメを失った王子像も死ぬ(彼らの魂は天に昇る)。ひるがえって本作は、ツバメが瀕死から立ち直り活躍するので感慨深い。
鳥が死なずに活躍する展開は、ルパン三世2nd141話「1980モスクワ黙示録」(演出/コンテ)にもある。
こちらも、まんが世界昔ばなし幸福の王子(演出/コンテ)の影響が出ている。
詳しくは、以前書いたブログ記事参照:
https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2018/03/04/140243
あと、女神のお告げというガイドラインがあるものの、自分で自分の道を行けという、高屋敷氏がよく出すメッセージも込められている。モグラとの結婚式で、おやゆび姫が誓いの言葉をキッパリ拒否する場面に、それが表れている。
今まで会った者達に、おやゆび姫が感謝するラストも「皆がいるから自分がいる、自分がいるから皆がいる」という、高屋敷氏がよく掲げるテーマの表れと言える。高屋敷氏のシリーズ構成作の最終回に、今までの登場人物達が映るものが多い事にも繋がる。
高屋敷氏が演出/コンテや脚本で参加した、まんが世界昔ばなし(童話や民話がベース)は、各スタッフの作家性が剥き出しになっていて非常に貴重な作品だが、童話をベースにした本作も、やはり作家性が丸出しになっていて、そこを見るのも面白い。
そしてラストのナレーションが、童話にありがちな「幸せに暮らしました」ではなく「(今まで会った者達の事を思い出して)懐かしい気持ちでいっぱいになるのでした」であり、ラストのおやゆび姫の台詞が「みんなありがとう」な所に、レギュラーからモブに至るまでキャラを立たせる高屋敷氏らしさが出ている。
大分シンプルで原作通りではあるが、(花の国にあるという)幸せを求めて、おやゆび姫が旅をするコンセプトは、家なき子最終回(演出)で、幸せとは何なのかを考えるためレミ達が旅に出る展開が活かされていると思える。
高屋敷氏の担当作は、自然が織り成す「間」や、月や太陽、風や雨、雪等が出す情緒が多いわけだが、本作を見るに、やはり同氏はそれらを神秘的で意思を持ったものと捉え、重視していると思える。これも大きな収穫だった。
前回特集した、マイメロディの赤ずきん(脚本)でもそうだったが( https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2020/03/01/135924 )、高屋敷氏が担当した作品のキャラを投影すると面白い。同氏の経験の豊富さを、あらためて感じた作品だった。
本作は非常にレアであるものの、リマスターDVDがセル/レンタルリリースされているのがありがたい。アニメ史を探る上でも、貴重なものと言える。