カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

ワンナウツ1話脚本:「大人」の持論

アニメ・ONE OUTS(ワンナウツ)は、甲斐谷忍氏原作の漫画をアニメ化した作品。謎めいたピッチャー・渡久地東亜の活躍を描く。監督は、佐藤雄三氏(カイジ監督)で、シリーズ構成が高屋敷英夫氏。
今回のコンテは佐藤雄三氏で、演出は米田和博氏。そして脚本が高屋敷氏。

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本記事を含めた、当ブログのワンナウツ関連記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%83%84

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  • 今回の話:

リカオンズ(ライオンズがモデル?)の天才的プロ野球打者・児島は数々の実績があるが優勝経験がない。そんな彼は沖縄でミニキャンプを張る。
その最中、ワンナウツと呼ばれる賭博野球ゲームをする投手・渡久地東亜と、児島は勝負することに。

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天才かつ実績があるベテランプロ野球打者・児島は、優勝経験が無いことを憂い、沖縄でミニキャンプを張って練習に励む。
開幕、太陽が映る。開幕太陽は頻出。らんま1/2(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。

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ミニキャンプ中、児島の練習相手の中根(二軍ピッチャー)が負傷してしまう。
代役を探す木野崎(トレーナー)と中根は、謎の外国人女性(通称ビッグママ)に、とある球場に誘われる。
ランプが映るが、ランプ描写は非常に多い。エースをねらえ!(演出)、グラゼニおにいさまへ…(脚本)と比較。

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球場では、「ワンナウツ」(原作ではワンナウト)という、打者と投手で行う野球ゲームによる賭博が行われていた。
高屋敷氏は、地下競技や賭博描写に縁があるし、上手い。
空手バカ一代(演出/コンテ)、カイジ(脚本)と比較。

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ワンナウツ賭博をやってみないかとビッグママに誘われた中根は、(賭け金は千円単位だと思って)打者に賭ける。
そんな彼は原作より少々幼い。高屋敷氏は、老若男女に「幼さ」を付与するのに長ける。おにいさまへ…じゃりン子チエ(脚本)と比較。

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客も参加者も殆どが米兵である中、投手は日本人(渡久地東亜)。
渡久地を見くびる中根は、打者に賭け続けるが悉く賭けに負け、顔に手をやる。この仕草はよく出る(不思議だが脚本作でも出る)。あしたのジョー2・ルパン三世3期・ワンダービートS(脚本)と比較。

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木野崎と中根は、賭け金は円ではなく米ドルだとビッグママに言われ愕然。約40万円負けてしまった中根は、勝ったら負けを帳消しにする条件を出し、打者として渡久地に挑むと宣言。
渡久地は煙草に火をつける。煙草描写の強調は、よく見られる。カイジ・太陽の使者鉄人28号(脚本)と比較。

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渡久地は400万円を見せ、これを賭けた勝負なら受けると言い出す。しかも、ボールをバットに当てさえすれば打者の勝ちという、打者有利の条件。
この会話中、渡久地が煙草を捨てる。ここも意味深な煙草描写。太陽の使者鉄人28号・1980年版鉄腕アトムカイジ2期(脚本)と比較。

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条件を受け入れてバッターボックスに立った中根は、緊張してバットを握りしめる。
「手」による感情表現は、様々な作品にある。おにいさまへ…・RAINBOW-二舎六房の七人-・グラゼニ(脚本)と比較。

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1球目を見逃した中根を見たビッグママは、これは無駄な行為だと解説し、「待つ」というのは日本人の悪い癖だと言う。この間、赤信号が映る。状況や心情に連動する信号描写は、色々な作品で出現。F-エフ-・カイジ2期・グラゼニ(脚本)と比較。

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中根と渡久地の、緊迫した心理戦が続く(渡久地側の心理描写は無いが)。心理戦の描写の上手さは、同じ野球アニメのグラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)でも遺憾なく発揮された。

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ノーボール2ストライクに追い込まれた中根は、渡久地のボールの握り方から、フォークが来ると予測するが、それはフェイク。ストレートを外角低めに叩き込まれ、中根は敗北(一先、有り金全部取られる)。
ビッグママは、無敗の渡久地の凄さを解説。
ボールが映るが、ボールの意味深描写はよくある。グラゼニ・F-エフ-(脚本)と比較。

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そして数日後も、ワンナウツゲームは開催されていた。飛行機描写があるが、こういった表現はよくある。おにいさまへ…ガンバの冒険・太陽の使者鉄人28号(脚本)と比較。もともと、高屋敷氏と長年一緒に仕事した出崎統氏が得意としていた演出。
このうち、ガンバの冒険おにいさまへ…の監督は出崎統氏。

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そこへ、(中根から話を聞きつけた)児島が現れ、強引にワンナウツゲームに参加する。彼は強烈な打撃を連発。
ビッグママは、煙草の煙を鼻から勢いよく出し、訝しむ。これも、煙草描写の強調。
F-エフ-・MASTERキートン(脚本)と比較。

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投手から負け金を差し出された児島は、それを払いのけて賭博を非難。
手による感情表現(ここは原作通りだが、強調されている)は高屋敷氏の担当作に実によく見られる。F-エフ-・あんみつ姫(脚本)と比較。どれも、手で怒りを表している。

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そこへ渡久地が現れ、随分かっこいい事をする…と児島に言う。高屋敷氏は、善か悪かのラインを明確に引かない事が多い。その姿勢は、宝島(演出)や蒼天航路(脚本)でも色濃い。

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児島は渡久地に勝負を申し込み、結果40万ドルを賭けての勝負となる。

自分にとって野球は神聖なものであるとして、児島は渡久地達を激しく罵倒する。
バットを握る児島の描写があるが、これも「手」による感情表現。RAINBOW-二舎六房の七人-・グラゼニおにいさまへ…(脚本)と比較。

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児島を探す木野崎は現場に駆けつけるが、40万ドル勝負と聞き驚く。
ビッグママは、これは男と男の真剣勝負だから、止めてはいけないと言う。
エースをねらえ!(演出)にて、闇試合を公平に仕切る蘭子が思い出される。

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かくして、渡久地と児島の勝負の幕は切って落とされた。二人で行われる真剣勝負は、数々の作品で見受けられる。
ど根性ガエルエースをねらえ!(演出)、グラゼニ(脚本)と比較。

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  • まとめ

高屋敷氏は元高校球児で、高校野球部の監督を務めたほどの野球好き。
そういった経緯なのか、同氏は野球回や野球アニメを担当する事が多い。
画像は、ど根性ガエル(演出)、ワンダービートS(脚本)、ワンナウツグラゼニ(シリーズ構成・脚本)。

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詳しくは、以前書いたこちらを参照:

https://min.togetter.com/iUQxCbe

また、今回のワンナウツゲームは闇野球であるが、エースをねらえ!(演出)の闇試合が思い出され、比べると面白い。高屋敷氏だけでなく、マッドハウス創設者の丸山正雄氏も、両作に参加している(エースをねらえ!は文芸、ワンナウツはP)。

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今回の構成であるが、かなり原作消化が速く、どこを削って、どこを追加・改変するかのセンスが良い。区切り方も上手く、このあたりの高屋敷氏の技術は目を見張るものがある。

また、アニメとして今回強調したいことも明確に出ている。それは、「善悪のラインをはっきり引かない」こと(高屋敷氏のポリシーの一つ)。中根・木野崎・ビッグママ・児島・渡久地それぞれに責任や持論があり、絶対正義や絶対悪は無い。

このあたりは、本作のシリーズ全体に関わってくるテーマの一つ。一見汚いやり口が、主人公側・敵側ともに多く出てくるが、やはりそれを「絶対悪」と断じてはいない。

今回、木野崎や中根は被害者に見えるが、渡久地やビッグママは二人に切欠を与えただけで、勝負を挑んだのは中根の意志。
渡久地は純粋に強すぎるので、イカサマもしていない(実際それを、ビッグママや渡久地が指摘している)。

児島がワンナウツ賭博を激しく非難するのも、彼の立場(一流プロ野球選手)を考えれば頷けるものなのだが、渡久地は渡久地で「(児島の)言うことはかっこいいけど(この場での)信用はゼロ」と冷静に言う。
こちらもまた、双方に持論がある。

そうなると、確固たる持論を持つ児島と渡久地が真剣勝負をする流れは自然。
こういう風に、スルスルと話が頭に入って来るのは、高屋敷氏の脚本技術の凄さの一つではないだろうか。

また、「確固たる持論」があるということは、突き詰めれば「確固たる自我」を持っているということ。「自分とは何か」は高屋敷氏のテーマの一つ。
1話にして、渡久地・児島が「自分とは何か」をある程度知る「大人」であることがわかる。

高屋敷氏は、少年/青年が「自分とは何か」を突き詰め成長するストーリーを構成する事に長けるわけだが、アカギ(シリーズ構成・脚本)や本作のような「最初から最強」な主人公の場合、善悪入り乱れるドラマを展開させることが多い。

本作は、心理戦やトリック、金を巡る攻防などが楽しめる。それだけでなく、「大人」の持論や哲学に注目していくのも一考だと思うし、ここに高屋敷氏の意向が働いていると考えているので、以降も、このあたりを注視していきたい。