ストロベリー・パニック25話脚本:驚異的な圧縮技
アニメ・Strawberry Panic(ストロベリー・パニック)は、公野櫻子氏を原作者とした電撃G's magazine読者参加企画のアニメ版(ここでは、アニメ版を扱う)。
女学園でのドラマが展開される。
監督は迫井政行氏で、シリーズ構成は浦畑達彦氏。
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本記事を含めた、ストロベリー・パニックに関する記事一覧:
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今回のコンテは高橋丈夫氏で、演出が長村伸治氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。
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- 今回の話:
天音(スピカ女学院の王子様的存在)は、記憶を取り戻して光莉(ひかり。天音と両思い)と愛を確かめ合う。一方、渚砂(なぎさ。主人公)は静馬(3つの学校の代表“エトワール”を務める)と最初で最後のダンスをする。
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スピカ女学院の王子様的存在・天音は、落馬して記憶が混乱し、光莉(ひかり。天音と両思い)の事を忘れてしまう。光莉は、天音の回復を祈る。ステンドグラスや礼拝堂を印象づけるのは、おにいさまへ…・あしたのジョー2(脚本)にもあった。
ミアトル女学園では、エトワール(3つの学校の代表)選に向け、渚砂(なぎさ。主人公)と玉青(たまお。渚砂のルームメイト)に厳しい指導をする静馬(しずま。現エトワール)を見て、水穂と瞳(静馬の取り巻き)が会話する。めぞん一刻・ワンナウツ(脚本)ほか、高屋敷氏は地味キャラの扱いが上手い。
天音は更衣室にて、(以前光莉に貰った)スカーフを見つめる。大切な物を持つ「手」のクローズアップは、色々な作品に見られる。F-エフ-・あしたのジョー2・MASTERキートン(脚本)と比較。
(静馬がよくいる)温室では、深雪(ミアトル女学園生徒会長)と静馬が会話。夕暮れの中、親交を深めるシチュエーションは多い。おにいさまへ…(脚本)、宝島(演出)と比較。
光莉は天音を探すが、姿が見えない。そこへ風が吹く。「意味のある」風の描写は、様々な作品に見られる。めぞん一刻(脚本)、宝島(演出)と比較。
光莉と天音が寮に帰っていないことを、夜々(光莉のルームメイト)と詩遠(スピカ生徒会長)は心配する。要(スピカ副会長)は、二人の会話を聞き付ける。意外なキャラを動かすため伏線を張るのは、1980年版鉄腕アトム・F-エフ-・おにいさまへ…(脚本)など数多い。
天音を探すうち、光莉は森に入り込む。ここでも風が吹く。家なき子(演出)、おにいさまへ…・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)などでも、風の表現が印象深い。
(自分があげた)天音のスカーフが落ちているのに気付いた光莉は、それを抱きしめる。大切な物/者を抱きしめる描写は、F-エフ-・ハローキティのおやゆびひめ(脚本)などでも確認できる。
そこへ天音が現れ、何故かはわからないけど大切なものだから、スカーフを探していたと光莉に言う。ここで、光莉側に月光が当たっているわけだが、「光」による強調は、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、おにいさまへ…・グラゼニ(脚本)ほか目を引く。
光莉と天音を探したが見つけられなかった夜々と詩遠は、寮の入り口で二人を待つ。そこへ、要が毛布を持って現れる。
ワンナウツ・グラゼニ(脚本)等、高屋敷氏は、キャラの意外な組み合わせをアニメオリジナルを交えて提示することがある。
詩遠は、スピカからエトワールを出すという夢を、天音に叶えてもらおうとしていた自分を省み、今も、天音を心配することしかできない自分の無力さに涙を流す。キャラの掘り下げは高屋敷氏の十八番で、F-エフ-・おにいさまへ…(脚本)などでも、それは発揮されている。
一方、光莉と天音は、小屋で暖を取る。ストーブの炎が映るが、こういった火の表現は要所要所にある。ベルサイユのばら(コンテ)、カイジ2期(脚本)、家なき子(演出)と比較。
天音を想う切ない気持ちが溢れ、光莉は涙を流す。天音は、その涙を優しく拭う。
手を使った感情表現は、あらゆる作品で頻出。めぞん一刻・カイジ・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。
いつしか雪が降ってきて、色々なキャラがそれを見つめる。
めぞん一刻(脚本)や元祖天才バカボン(演出/コンテ)ほか、雪がドラマを盛り上げる展開は多々ある。
光莉は、天音と心を通わせる切欠になった歌を口ずさむ。その歌を聞くうち、天音は記憶が戻り、光莉を見つめて頷く。
多くを語らず、頷き等で思いを伝えるのは、F-エフ-(脚本)ほか、記憶に残る場面が多い。
天音と光莉は抱き合い、そして愛し合う。雪の中愛し合う場面は、めぞん一刻・F-エフ-(脚本)にもあり、どれも情緒がある。
雪の代わりに、雨や雷が使われることもある。
朝になり、天音は「もう何も怖くない」と光莉に愛を語る。人を愛することで心が晴れやかになるのは、おにいさまへ…・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)などでも強く描かれている。
(乗馬部である)天音は、光莉と共に愛馬に乗って寮に帰る。恋人同士で馬に乗る場面は蒼天航路(脚本)でも強調されているほか、並木道は人生の暗喩として、多くの作品に出てくる。
詩遠と夜々は、天音と光莉を迎える。一歩下がった所から、要はそれを見る(スピカ書記の桃実と関係を持ちながらも、ずっと天音を想っていた経緯がある)。ふられキャラのかっこよさは、めぞん一刻・RAINBOW-二舎六房の七人-・おにいさまへ…(脚本)などでも前面に出ている。
天音は、自分の気持ちを光莉に告げたと皆に宣言する。自分の気持ちをはっきり表明することの重要性は、RAINBOW-二舎六房の七人-・おにいさまへ…・めぞん一刻(脚本)などでも強調されており、高屋敷氏のポリシーが窺える。
感極まった夜々(光莉を想っていたが封印した経緯がある)は光莉に抱きつく。
抱きつきやハグは多い。グラゼニ・おにいさまへ…・F-エフ-(脚本)と比較。
詩遠と天音は、微笑み合う。ここは、先に詩遠を掘り下げていたことで深みが増している。グラゼニ・F-エフ-(脚本)等でも、キャラの意外な組み合わせによって生まれるドラマの面白さが出ている。
要は、(天音への想いがばれたことで)関係がギクシャクしていた桃実に、自分の行くべき道を再確認できたので、復縁したいと告げる。F-エフ-(脚本)では、自分の思う通りに生きろというアニメオリジナルの名台詞があり、RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)では、自分の道を行くことの大切さが強調されている。
一方ミアトルでは、渚砂と玉青のダンス練習が続いていたが、うまく行かず。静馬は、試しに自分と踊ってみる事を渚砂に提案。二人は手を重ねる。
手と手による感情伝達は実に多く見られる。ワンナウツ・おにいさまへ…(脚本)と比較。
静馬と渚砂の、情感あふれるダンスを客席で見ていた深雪・水穂・瞳は感嘆する。
客席への切り替えの上手さは、RAINBOW-二舎六房の七人-・はじめの一歩3期(脚本)などでも(主にボクシング場面で)発揮されている。
愛した事を忘れないための、最初で最後のダンスだとして、渚砂と静馬は踊る。ベルサイユのばら(コンテ)では禁断の愛が、RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)では最初で最後の心身の重なりが、F-エフ-(脚本)では生死を超えた愛情が描かれ、重なるものがある。
静馬と渚砂の、ただならぬ雰囲気のダンスを、玉青は見つめる(玉青も渚砂が好き)。RAINBOW-二舎六房の七人-・おにいさまへ…・F-エフ-(脚本)などでも、失恋による心の機敏がしっかり拾われている。
ダンスが終わり、深雪・水穂・瞳は立ち上がって拍手する。
ここも、RAINBOW-二舎六房の七人-・はじめの一歩3期(脚本)などの客席描写に通じるものがある。
翌朝、渚砂と玉青は全校生徒の前で、誇りを持ってエトワール選への出馬を表明する。キャラの成長は、おにいさまへ…(脚本)や宝島(演出)など、前面に出ることが多い。
この出馬表明を受け、色々なキャラ達が拍手する。最終回またはシリーズ終盤で、今まで出たキャラが次々と映る展開は、グラゼニ・ワンナウツ(脚本)などでも見受けられる。
深雪は静馬の部屋にて、これで自分達の務めは全て終わったと静馬に語り、「これで良かった…そうよね?」と言うのだった。背中を向けるなど、表情を見せないようにする表現はグラゼニ・ワンナウツ(脚本)など多い。
- まとめ
本作における高屋敷氏脚本回は、これで最後となる。最終回手前の回だけに、ありとあらゆるキャラの掘り下げが行われ、数多くのプロットが捌かれており、その手腕の見事さに(毎度)驚かされる。
キャラを動かすための計算も、やはり手堅い。今回の場合は、要の動かし方が上手い。
短い尺の中で、彼女の抱えているものを解きほぐしていくあたりは流石。また、「道」についての概念が出たあたりも重要ポイントと言える。
ここにきて、詩遠のキャラを掘り下げているのにも驚かされる。以前の高屋敷氏脚本回では、詩遠のコメディチックな所作を取り上げていたが、今回はシリアスな一面を見せており、深みが増した。
約22分内に詰まっているのが信じられないと思える程の密度の濃さは、RAINBOW-二舎六房の七人-(シリーズ構成・脚本)にて、3キャラ分のドラマを詰め込んだ17話( https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2019/08/11/140022 )を彷彿とさせる。
高屋敷氏は、1980年版鉄腕アトム(脚本)でも、長い原作エピソードをアニメ用に圧縮するのが上手かったが、年を経るにつれ、その手腕が凄まじいものになっていく。
そのピークの一つが、RAINBOW-二舎六房の七人-17話(脚本)だと思う。
また、1話内のドラマの詰め込み具合の凄さは、おにいさまへ…最終回(脚本)でも発揮されており、複数キャラのドラマを描ききっていて圧巻(詳しくは: https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2019/06/16/135159 )。
そして、「愛」についても色々な形で描かれている。どうも高屋敷氏は「好きとハッキリ伝える」ことが好みのようで、それは担当作の端々に表れている。オリジナル要素が強い本作では、そのポリシーが色濃く出ており興味深い。
本作は、(同性・異性問わず)人を愛することの素晴らしさが、テーマの一つと考えられ、高屋敷氏もまた、それを表すことに一役買っている。脚本陣が監督やシリーズ構成の意向を確実に汲み取る大切さについても考えさせられる。
百合の王道の一つとも評される本作だが、単に「百合を提供する」だけに終始しているわけではなく、様々なキャラを掘り下げ、綿密なプロットを組むことで作品を成り立たせている。高屋敷氏の手腕が、それを大いに助けているのが感じられる作品だった。
ちなみに最終回について少しネタバレすると、エトワール選の結果発表中に静馬が乱入して渚砂に愛を告白する。
ストロベリー・パニック23話脚本:戦略的な伏線配置
アニメ・Strawberry Panic(ストロベリー・パニック)は、公野櫻子氏を原作者とした電撃G's magazine読者参加企画のアニメ版(ここでは、アニメ版を扱う)。
女学園でのドラマが展開される。
監督は迫井政行氏で、シリーズ構成は浦畑達彦氏。
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本記事を含めた、ストロベリー・パニックに関する記事一覧:
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今回のコンテは鈴木幸雄氏で、演出が岡嶋国敏氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。
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- 今回の話:
恋人を亡くした過去を持つ、静馬(しずま。3つの学校の代表“エトワール”を務める)の心の穴を、自分が埋められないことを悟った渚砂(なぎさ。主人公)は苦しむ。そんな中、彼女はエトワール選出馬を深雪(生徒会長)から要請される。
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冒頭、深雪(ミアトル女学園生徒会長)は、何としてもミアトルから次期“エトワール”(3つの学校の代表)選に出馬する生徒を出すべきだと決意する。キャラが窓辺に立つ場面は多い。ベルサイユのばら(コンテ)、グラゼニ(脚本)と比較。
深雪は玉青(たまお。主人公・渚砂のルームメイト)に、渚砂(なぎさ)と共にエトワール選に出て欲しいと頼み、エトワール選の重要性を説く。神像の「間」があるが、像が醸し出す「間」は度々出る。カイジ2期(脚本)と比較。
玉青は、エトワール選のことを一先ず自分だけの胸にしまい、渚砂と下校する。ここで、強い風が吹く。意味深な風の描写は結構出てくる。おにいさまへ…・MASTERキートン・めぞん一刻(脚本)と比較。
温室にて、深雪は静馬(しずま。現エトワール)に、玉青と渚砂をエトワール選に出馬させると話す。ジョウロと花が映る。このような、感情や状況と連動する花の表現は多々ある。おにいさまへ…(脚本)、宝島・空手バカ一代(演出)と比較。
一方、スピカ女学院からエトワール選に出ることにした天音(皆の王子様的存在)と光莉(ひかり。天音と両思い)は、思い出の場所で待ち合わせる約束を交わす。夕暮れの中で親交を深める状況は、要所要所で見られる。おにいさまへ…・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。
天音と光莉のエトワール選出馬に、ル・リム女学校生徒会長の千華留(ちかる)を慕う後輩・檸檬(れもん)と絆奈(きずな)は興奮。千華留は、ブタとパンダの人形でそれに受け答えする。ブタは元祖天才バカボン(演出/コンテ)、パンダはらんま1/2(脚本)に出ており、扱いが上手い。
一方深雪は、玉青と共にエトワール選に出るよう、渚砂を諭す。
渚砂は、玉青がかけがえのない親友である事は明言するが、エトワール選については困惑。
おにいさまへ…・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)等、友情は強調される。
玉青と渚砂をエトワール選に出させる事は、静馬も承知していると聞いた渚砂はショックを受け、部屋を飛び出す。
それを、偶然千華留が見かける。意外なキャラとキャラを絡ませるためのフラグ立ては、ど根性ガエル(演出)と重なるものがある。
玉青は深雪を非難し、渚砂を追いかける。
深雪は、憂いをおびた表情を浮かべる。影ながら、色々なキャラのサポートに奔走するキャラは、空手バカ一代(演出/コンテ)でも強調された。
玉青は渚砂を探すが見つからず、やむなく部屋で待つことにする。
当の渚砂は、木の下に佇む。ここでも風が吹く。意味のある風の表現は、様々な作品に見られる。めぞん一刻(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。
渚砂は、静馬がよくいる温室に足が向く。そこにいた静馬は、渚砂と玉青はエトワール選に出るべきだ言う。渚砂は、静馬を慕う気持ちを訴えるが、静馬はそれを受け流す。思い合っていても素直になれない状況は、めぞん一刻(脚本)でも印象的。
静馬は、渚砂が持ち出した別荘(渚砂が、静馬の心に真に入り込めないと自覚した場所)の鍵を返して欲しいと言い、渚砂は鍵を取り出す。静馬は渚砂の額にキスする。
大切な物を介したやりとりは、エースをねらえ!(演出)ほか色々ある。
なかなか鍵を手放さなかった渚砂だが、結局手を放し、鍵は静馬に渡る。
手による感情表現は、演出作でも脚本作でも頻出。RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)、宝島(演出)と比較。
渚砂が去った後、静馬はだらりと腕を下げて鍵を落とす。
ここも、手による感情表現。
ワンナウツ・おにいさまへ…(脚本)と比較。
月が映る。単なる時間経過描写でなく、意味を持ち、まるで意思を持つような月は、実に多く出てくる。
RAINBOW-二舎六房の七人-・ガンバの冒険(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。
水辺に佇む渚砂の顔が、水面に映る。水面反射描写は高屋敷氏担当作の初期からある(年が経るにつれ、意味合いが濃くなる)。
ど根性ガエル(演出)、おにいさまへ…・ガンバの冒険(脚本)と比較。
そこへ千華留が現れ、人形を使って渚砂を慰める。これは、寮を飛び出した渚砂を見かけた千華留の場面が伏線になっており、構成が上手い。また、ブタとパンダの人形のやりとりは可愛い。元祖天才バカボン(演出/コンテ)や、らんま1/2(脚本)でも、動物の扱いの上手さが見られる。
千華留の優しさに触れた渚砂は泣き出し、千華留は訳を聞かずにそれを受け止める。
一人ぼっちでいる人のもとに、仲間や友達が来てくれる展開は、ど根性ガエル(演出)ほか目を引く。
泣き疲れて眠った渚砂を膝枕しながら、千華留は人形を使って、渚砂が早く元気になって欲しい旨を口にする。
泣く人を膝枕で受け止めるのは、めぞん一刻(脚本)でも印象深い(めぞん一刻の五代が泣くのは、酒に酔った勢いだが)。
渚砂が心配で、夜通し部屋で待っていた玉青のもとに、千華留が渚砂を連れてやってくる。玉青は涙ながらに渚砂に抱きつき、千華留は人形で渚砂を励ましながら去る。あえて幼い事をして場を和らげるのは、ガンバの冒険(脚本)等にもある。
渚砂は、泣いてスッキリしたから、前向きに考えて玉青とエトワール選に出ると宣言。「前に行く」という概念は、F-エフ-(脚本)、家なき子(演出)、カイジ(脚本)などなど、重要な事として出てくる。
そんな渚砂を、玉青は後ろから抱きしめ、渚砂は玉青の手に手を重ねる。
ここも、手を介した感情の伝達。グラゼニ(脚本)、宝島(演出)と比較。
深雪から、玉青と渚砂がエトワール選に出馬する決意を固めた事を知らされた静馬は、渚砂から取り返した鍵を握りしめる。
ここでも、手による感情表現。
おにいさまへ…・グラゼニ(脚本)と比較。
一人になった静馬は、鍵を窓に投げつけ、部屋の色々な物に八つ当たりする。激情に駆られて物を壊すのは、おにいさまへ…(脚本)でも劇的に描写された。
凄まじい物音に駆けつけた深雪の呼びかけにも応じず、静馬は手から血を流してうなだれる。おにいさまへ…(脚本)にて、感情的になってバラの刺で手を傷つけた蕗子(学園の女王的存在)が重なる。
状況と連動するように、時計塔の鐘が鳴る。このような鐘の表現は、おにいさまへ…(脚本)にも、よく見られた。
一方、天音は馬に乗って光莉のもとへ急ぐ。本作は天音が乗馬部のため自然だが、高屋敷氏は馬に縁がある(アニメオリジナルでもよく出る)。あしたのジョー2・キャッツアイ・おにいさまへ…(脚本)と比較。同氏は馬が好きなのかもしれない。
天音は、まっすぐに光莉を愛する事で、気持ちが晴れやかになる。ここも、夕焼けの中での親愛描写。おにいさまへ…(脚本)と比較。
だが、悲劇は突然訪れる。光莉の目の前で、天音は落馬してしまうのだった。
夕焼けの悲劇は、おにいさまへ…(脚本)のショッキングな事故場面と重なる。
- まとめ
まず、計算的に色々張られた伏線と、その回収が上手い。とにかく高屋敷氏は技巧派で、誰がどこで何をした結果、何がどうなったかといった組み立てがしっかりしている。
今回は、特に千華留の動かし方が上手い。序盤の人形遊びが、終盤の温かい展開に繋がる構成には唸らせられる。
また、何故渚砂を慰めに来るのが千華留なのかといったことも、順序立てがきちんとしている。
16話の文化祭の話( https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2020/04/12/135124 )はじめ、高屋敷氏脚本回では、色々と千華留が目立っており、彼女は同氏のお気に入りキャラなのかもしれない。同氏は、好きなキャラを動かすのが上手い傾向がある。
他のキャラの掘り下げについても、ぬかりがない。深雪の苦労人気質と責任感の強さ、玉青の渚砂に対する想い、静馬と渚砂の苦しみ、千華留の優しさ、天音と光莉の絆など、とにかく細かく描かれている。
終盤の、静馬の激高には驚かされるが、16話( https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2020/04/12/135124 )の劇中劇(カルメン)では、静馬の嫉妬深く激情家な一面が描かれている。今回、それを視聴者に思い出させる作りになっており、やはり計算が緻密。
静馬と渚砂の、鍵を介した手と手のやりとりも、何ともインパクトがある。手による感情表現は、ありとあらゆる作品で目立つわけだが、つくづくこれを高屋敷氏が重視していることが窺える。
「手」がいかに重要であるかは、手の大切さを説いた、ワンダービートS20話(脚本)で如実に表れているので、以前書いたブログ記事を紹介する:
https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2018/09/26/184228
天音と光莉の絆の深さと、それを突然襲った悲劇については、おにいさまへ…(脚本)の経験が大いに活かされているのを感じる。展開が重なるのに加え、(脚本作なのに)絵面まで似てくる現象には、やはりゾクッとさせられる。
また、キャラとキャラの意外な組み合わせ(俗に言えばカップリング)を、高屋敷氏は色々な作品で、アニメオリジナルを交えて提示してくる。ワンナウツやグラゼニ(いずれもシリーズ構成・脚本)でも、それは顕著。
話の構成、キャラの掘り下げ、キャラとキャラの絡みなど、どれも唐突ではなく、要素が丁寧かつ精密に積み上げられているのは、本当に見事。戦略的でもある。同氏自身が、(戦略が必要な)高校野球部の監督だったことも活かされているのかもしれない。