カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

ストロベリー・パニック23話脚本:戦略的な伏線配置

アニメ・Strawberry Panic(ストロベリー・パニック)は、公野櫻子氏を原作者とした電撃G's magazine読者参加企画のアニメ版(ここでは、アニメ版を扱う)。
女学園でのドラマが展開される。
監督は迫井政行氏で、シリーズ構成は浦畑達彦氏。

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本記事を含めた、ストロベリー・パニックに関する記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%99%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF

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今回のコンテは鈴木幸雄氏で、演出が岡嶋国敏氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

恋人を亡くした過去を持つ、静馬(しずま。3つの学校の代表“エトワール”を務める)の心の穴を、自分が埋められないことを悟った渚砂(なぎさ。主人公)は苦しむ。そんな中、彼女はエトワール選出馬を深雪(生徒会長)から要請される。

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冒頭、深雪(ミアトル女学園生徒会長)は、何としてもミアトルから次期“エトワール”(3つの学校の代表)選に出馬する生徒を出すべきだと決意する。キャラが窓辺に立つ場面は多い。ベルサイユのばら(コンテ)、グラゼニ(脚本)と比較。

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深雪は玉青(たまお。主人公・渚砂のルームメイト)に、渚砂(なぎさ)と共にエトワール選に出て欲しいと頼み、エトワール選の重要性を説く。神像の「間」があるが、像が醸し出す「間」は度々出る。カイジ2期(脚本)と比較。

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玉青は、エトワール選のことを一先ず自分だけの胸にしまい、渚砂と下校する。ここで、強い風が吹く。意味深な風の描写は結構出てくる。おにいさまへ…MASTERキートンめぞん一刻(脚本)と比較。

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温室にて、深雪は静馬(しずま。現エトワール)に、玉青と渚砂をエトワール選に出馬させると話す。ジョウロと花が映る。このような、感情や状況と連動する花の表現は多々ある。おにいさまへ…(脚本)、宝島・空手バカ一代(演出)と比較。

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一方、スピカ女学院からエトワール選に出ることにした天音(皆の王子様的存在)と光莉(ひかり。天音と両思い)は、思い出の場所で待ち合わせる約束を交わす。夕暮れの中で親交を深める状況は、要所要所で見られる。おにいさまへ…・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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天音と光莉のエトワール選出馬に、ル・リム女学校生徒会長の千華留(ちかる)を慕う後輩・檸檬(れもん)と絆奈(きずな)は興奮。千華留は、ブタとパンダの人形でそれに受け答えする。ブタは元祖天才バカボン(演出/コンテ)、パンダはらんま1/2(脚本)に出ており、扱いが上手い。

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一方深雪は、玉青と共にエトワール選に出るよう、渚砂を諭す。
渚砂は、玉青がかけがえのない親友である事は明言するが、エトワール選については困惑。
おにいさまへ…・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)等、友情は強調される。

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玉青と渚砂をエトワール選に出させる事は、静馬も承知していると聞いた渚砂はショックを受け、部屋を飛び出す。
それを、偶然千華留が見かける。意外なキャラとキャラを絡ませるためのフラグ立ては、ど根性ガエル(演出)と重なるものがある。

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玉青は深雪を非難し、渚砂を追いかける。
深雪は、憂いをおびた表情を浮かべる。影ながら、色々なキャラのサポートに奔走するキャラは、空手バカ一代(演出/コンテ)でも強調された。

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玉青は渚砂を探すが見つからず、やむなく部屋で待つことにする。
当の渚砂は、木の下に佇む。ここでも風が吹く。意味のある風の表現は、様々な作品に見られる。めぞん一刻(脚本)、ベルサイユのばら(コンテ)と比較。

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渚砂は、静馬がよくいる温室に足が向く。そこにいた静馬は、渚砂と玉青はエトワール選に出るべきだ言う。渚砂は、静馬を慕う気持ちを訴えるが、静馬はそれを受け流す。思い合っていても素直になれない状況は、めぞん一刻(脚本)でも印象的。

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静馬は、渚砂が持ち出した別荘(渚砂が、静馬の心に真に入り込めないと自覚した場所)の鍵を返して欲しいと言い、渚砂は鍵を取り出す。静馬は渚砂の額にキスする。
大切な物を介したやりとりは、エースをねらえ!(演出)ほか色々ある。

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なかなか鍵を手放さなかった渚砂だが、結局手を放し、鍵は静馬に渡る。
手による感情表現は、演出作でも脚本作でも頻出。RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)、宝島(演出)と比較。

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渚砂が去った後、静馬はだらりと腕を下げて鍵を落とす。
ここも、手による感情表現。
ワンナウツおにいさまへ…(脚本)と比較。

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月が映る。単なる時間経過描写でなく、意味を持ち、まるで意思を持つような月は、実に多く出てくる。
RAINBOW-二舎六房の七人-・ガンバの冒険(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)と比較。

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水辺に佇む渚砂の顔が、水面に映る。水面反射描写は高屋敷氏担当作の初期からある(年が経るにつれ、意味合いが濃くなる)。
ど根性ガエル(演出)、おにいさまへ…ガンバの冒険(脚本)と比較。

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そこへ千華留が現れ、人形を使って渚砂を慰める。これは、寮を飛び出した渚砂を見かけた千華留の場面が伏線になっており、構成が上手い。また、ブタとパンダの人形のやりとりは可愛い。元祖天才バカボン(演出/コンテ)や、らんま1/2(脚本)でも、動物の扱いの上手さが見られる。

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千華留の優しさに触れた渚砂は泣き出し、千華留は訳を聞かずにそれを受け止める。
一人ぼっちでいる人のもとに、仲間や友達が来てくれる展開は、ど根性ガエル(演出)ほか目を引く。

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泣き疲れて眠った渚砂を膝枕しながら、千華留は人形を使って、渚砂が早く元気になって欲しい旨を口にする。
泣く人を膝枕で受け止めるのは、めぞん一刻(脚本)でも印象深い(めぞん一刻の五代が泣くのは、酒に酔った勢いだが)。

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渚砂が心配で、夜通し部屋で待っていた玉青のもとに、千華留が渚砂を連れてやってくる。玉青は涙ながらに渚砂に抱きつき、千華留は人形で渚砂を励ましながら去る。あえて幼い事をして場を和らげるのは、ガンバの冒険(脚本)等にもある。

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渚砂は、泣いてスッキリしたから、前向きに考えて玉青とエトワール選に出ると宣言。「前に行く」という概念は、F-エフ-(脚本)、家なき子(演出)、カイジ(脚本)などなど、重要な事として出てくる。

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そんな渚砂を、玉青は後ろから抱きしめ、渚砂は玉青の手に手を重ねる。
ここも、手を介した感情の伝達。グラゼニ(脚本)、宝島(演出)と比較。

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深雪から、玉青と渚砂がエトワール選に出馬する決意を固めた事を知らされた静馬は、渚砂から取り返した鍵を握りしめる。
ここでも、手による感情表現。
おにいさまへ…グラゼニ(脚本)と比較。

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一人になった静馬は、鍵を窓に投げつけ、部屋の色々な物に八つ当たりする。激情に駆られて物を壊すのは、おにいさまへ…(脚本)でも劇的に描写された。

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凄まじい物音に駆けつけた深雪の呼びかけにも応じず、静馬は手から血を流してうなだれる。おにいさまへ…(脚本)にて、感情的になってバラの刺で手を傷つけた蕗子(学園の女王的存在)が重なる。

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状況と連動するように、時計塔の鐘が鳴る。このような鐘の表現は、おにいさまへ…(脚本)にも、よく見られた。

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一方、天音は馬に乗って光莉のもとへ急ぐ。本作は天音が乗馬部のため自然だが、高屋敷氏は馬に縁がある(アニメオリジナルでもよく出る)。あしたのジョー2・キャッツアイ・おにいさまへ…(脚本)と比較。同氏は馬が好きなのかもしれない。

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天音は、まっすぐに光莉を愛する事で、気持ちが晴れやかになる。ここも、夕焼けの中での親愛描写。おにいさまへ…(脚本)と比較。

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だが、悲劇は突然訪れる。光莉の目の前で、天音は落馬してしまうのだった。
夕焼けの悲劇は、おにいさまへ…(脚本)のショッキングな事故場面と重なる。

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  • まとめ

まず、計算的に色々張られた伏線と、その回収が上手い。とにかく高屋敷氏は技巧派で、誰がどこで何をした結果、何がどうなったかといった組み立てがしっかりしている。

今回は、特に千華留の動かし方が上手い。序盤の人形遊びが、終盤の温かい展開に繋がる構成には唸らせられる。
また、何故渚砂を慰めに来るのが千華留なのかといったことも、順序立てがきちんとしている。

16話の文化祭の話( https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2020/04/12/135124 )はじめ、高屋敷氏脚本回では、色々と千華留が目立っており、彼女は同氏のお気に入りキャラなのかもしれない。同氏は、好きなキャラを動かすのが上手い傾向がある。

他のキャラの掘り下げについても、ぬかりがない。深雪の苦労人気質と責任感の強さ、玉青の渚砂に対する想い、静馬と渚砂の苦しみ、千華留の優しさ、天音と光莉の絆など、とにかく細かく描かれている。

終盤の、静馬の激高には驚かされるが、16話( https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2020/04/12/135124 )の劇中劇(カルメン)では、静馬の嫉妬深く激情家な一面が描かれている。今回、それを視聴者に思い出させる作りになっており、やはり計算が緻密。

静馬と渚砂の、鍵を介した手と手のやりとりも、何ともインパクトがある。手による感情表現は、ありとあらゆる作品で目立つわけだが、つくづくこれを高屋敷氏が重視していることが窺える。

「手」がいかに重要であるかは、手の大切さを説いた、ワンダービートS20話(脚本)で如実に表れているので、以前書いたブログ記事を紹介する:
https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2018/09/26/184228

天音と光莉の絆の深さと、それを突然襲った悲劇については、おにいさまへ…(脚本)の経験が大いに活かされているのを感じる。展開が重なるのに加え、(脚本作なのに)絵面まで似てくる現象には、やはりゾクッとさせられる。

また、キャラとキャラの意外な組み合わせ(俗に言えばカップリング)を、高屋敷氏は色々な作品で、アニメオリジナルを交えて提示してくる。ワンナウツグラゼニ(いずれもシリーズ構成・脚本)でも、それは顕著。

話の構成、キャラの掘り下げ、キャラとキャラの絡みなど、どれも唐突ではなく、要素が丁寧かつ精密に積み上げられているのは、本当に見事。戦略的でもある。同氏自身が、(戦略が必要な)高校野球部の監督だったことも活かされているのかもしれない。