カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ストロベリー・パニック15話脚本:コメディの挿入

アニメ・Strawberry Panic(ストロベリー・パニック)は、公野櫻子氏を原作者とした電撃G's magazine読者参加企画のアニメ版(ここでは、アニメ版を扱う)。
女学園でのドラマが展開される。
監督は迫井政行氏で、シリーズ構成は浦畑達彦氏。

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本記事を含めた、ストロベリー・パニックに関する記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%99%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF

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今回のコンテは高橋丈夫氏で、演出が谷田部勝義氏。そして脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

文化祭の演目が玉青(たまお。渚砂のルームメイト)が企画したカルメンに決定。そして脚本も玉青が担当。一方、劇を巡って様々な人物の思いが錯綜する。

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開幕、文化祭の説明が玉青(たまお。主人公・渚砂のルームメイト)のナレーションで成される。季節を感じさせる表現を差し挟むのは、グラゼニ(脚本)ほか、色々な作品で見受けられる。

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玉青は、文化祭で行われる、ミアトル、スピカ、ル・リム3校合同の劇の企画書を書き上げる。
キャラを体現する物を映すのは、グラゼニ(脚本)ほか多々ある。

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一方、ミアトル、スピカ、ル・リム3校の生徒会員および静馬(しずま。3校の代表“エトワール”を務める)は、演劇祭の演目について会議する。話し合うだけで緊迫した雰囲気を出し、飽きさせない技術はグラゼニ(脚本)にも見られた。

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3校の色々な思惑が錯綜したものの、演目は玉青が企画したカルメンに決まり、玉青と渚砂(なぎさ。主人公)らは喜ぶ。だが、渚砂はカルメンが何か知らず。子供っぽい態度は、宝島(演出)や、めぞん一刻(脚本)ほか多い。

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玉青は、カルメンについて手短に説明する。高屋敷氏は話をまとめるのが上手く、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ/脚本で参加)や太陽の使者鉄人28号(脚本)でも、その手腕が遺憾なく発揮されていた。

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カルメンの筋の説明の最後に、バラのアップがあるのだが、花に意味を持たせるのは数々の作品にある。
おにいさまへ…あしたのジョー2(脚本)、空手バカ一代(演出)と比較。

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脚本も書く事になった玉青の部屋に、スピカ生徒会長・詩遠がクッキー持参で尋ねてきて、ホセ役に天音(スピカ女学院のボーイッシュな人気者)を推す。
クッキーを贈る展開は結構ある。おにいさまへ…マイメロディ赤ずきん(脚本)と比較。

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その後、玉青は脚本執筆に没頭。
クッキーの袋が開けられていない事で、玉青が詩遠のゴリ推しに屈していないのがわかる。
こういった「物」による表現は頻出。蒼天航路めぞん一刻グラゼニ(脚本)と比較。

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演目がカルメンに決まったことで、3校の生徒達は配役の話で持ちきりになる。
あんみつ姫カイジ2期(脚本)などなど、高屋敷氏は、生き生きとしたモブの会話を作るのに長ける。おにいさまへ…(脚本)では、モブの間で流行る怪談の話もあった。

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学校内のカフェで、渚砂や、隣室の千早・紀子とお茶する玉青は、配役は深雪(生徒会長)が決める事だと話す。千早と紀子は地味ながら目立ち、こういう立ち位置のキャラは、ワンナウツ・F-エフ-(脚本)など他作品でも目立つ。

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何としてもスピカから来期エトワールを出したい詩遠は、その足がかりとして天音をホセ役にしたい意向があり、天音本人にもホセ役をしてほしいと迫る。
高慢だがコミカルさを持つ彼女は、どこかカイジ2期(脚本)の一条を思わせる。

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一方、夜通し脚本を執筆する玉青を気遣い、渚砂はメッセージと共に温かい飲み物を置いておく。
物言わぬ「物」が語るのは、多くの作品にある。めぞん一刻・F-エフ-・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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ル・リムでは、衣装係を買って出た千華留(ちかる。ル・リム生徒会長)がデザイン画を起こすのに熱中。花瓶が映るが、花関連の「間」はしばしばある。めぞん一刻おにいさまへ…コボちゃん(脚本)と比較。

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千華留とつるんでいる後輩・絆奈(きずな)と檸檬(れもん)は、千華留こそ主演にふさわしいと言いながら指相撲する。宝島(演出)やガンバの冒険(脚本)など、高屋敷氏はキャラの幼さを引き出すのに秀でる。

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配役の行方はさておき、衣装係としてこれから忙しくなる、と千華留は絆奈と檸檬に宣言。
コミカルさで話を和ませるキャラ達は、グラゼニじゃりン子チエ(脚本)などでも上手く配置されていた。

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月の美しい夜、玉青に気を遣って庭に出た渚砂は、偶然静馬と会う。
静馬は、何らかの役に選ばれたら、渚砂に練習相手になって欲しいと言い、渚砂は快諾。
意味を持つ月は頻出。はじめの一歩3期・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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ついに脚本を書き上げた玉青は、その素晴らしい出来を深雪に褒められる。
まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)では、「お芝居を作る人」が出て来たりと、このあたりは創作者としての高屋敷氏の経験が活きている感じがする。

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配役は、大方の予想を裏切り、千華留がカルメン(衣装係も兼ねる)、静馬がホセ、天音がエスカミーリョとなった。この結果に喜ぶ絆奈と檸檬は抱き合う。ハグもよく出る。グラゼニ(脚本)、ど根性ガエル(演出)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。

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この結果に、詩遠は悔しがる。ちなみにスピカ生徒会は一枚岩ではなく、副会長の要と書記の桃実は、天音をエトワール選に出馬させないよう暗躍している。学校のトップグループの複雑なドラマは、おにいさまへ…(脚本)でも描かれた。

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早速、詩遠は深雪に抗議するが、メインキャストをスピカから3人も選んで調整したと、深雪にあしらわれる。
内に色々秘めた、緊迫した駆け引きは、カイジ2期(脚本)ほか、高屋敷氏の得意とするところ。

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一方、演劇祭における中等部の演目はロミオとジュリエットに決まる。そして早速、主演への立候補が多数出る。ど根性ガエル(演出)、ワンナウツ(脚本)ほか、集団での幼さを描写するのにも、高屋敷氏は長ける。

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配役をアミダやジャンケンで決めよう…と生徒達は「アミダ」や「ジャンケン」を連呼する。モブ達が団結して言葉の連呼を行うのは、カイジ2期(脚本)などでも目立つ。

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結局、指相撲トーナメントで配役を決めることになり、ロミオ役をかけて籠女(ル・リムの不思議系)と夜々(渚砂達と仲が良い、スピカの生徒)の一騎討ちとなる。
手による感情表現は頻出であり、宝島最終回(演出)の腕相撲を彷彿とさせる。

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結果、籠女の勝利となって夜々は崩れ落ちる。なんとなく、カイジ2期(脚本)にて、敗北して卒倒するカイジと比較すると面白い。

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一方、ジュリエット役はスピカの蕾(つぼみ。渚砂達と仲が良いツンデレ少女)に決まり、彼女は周りに拍手を強制する。一人対多人数のボケツッコミは、あんみつ姫(脚本)でも、よく見られた。

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夜になり、夜々は同室の光莉(ひかり。天音と両思い)が天音に会いに行ったことを察して憂う(夜々も光莉に恋しているが封印した)。
一人ぼっち描写は、ベルサイユのばら(コンテ)ほか、印象深い場面が多い。

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光莉は天音に、手伝いを買って出る。
要と桃実は、今後の策略を練る(二人は恋愛関係)。
渚砂は、静馬の演技の練習相手をする。渚砂達を見守る、とある人物の影があるが、見守りキャラの活躍はカイジ2期・ワンナウツグラゼニ(脚本)でも目立つ。

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渚砂の演技があまりに棒なので、静馬は堪えきれず笑い出す。
満面の笑顔は、あらゆる作品で印象深く、高屋敷氏が笑顔を重視しているのがわかる。
忍者戦士飛影あしたのジョー2(脚本)と比較。

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あらためて静馬は渚砂に礼を言い、二人は見つめ合うのだった。
二人単位での濃厚な心の触れ合いは、グラゼニワンナウツ(脚本)でも描かれ、高屋敷氏の、こういった表現の上手さが窺える。

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  • まとめ

政治的駆け引き、キャラの掘り下げ、コメディ要素の挿入、キャラの幼い所作など、高屋敷氏の得意とするものがバランスよく盛り込まれており、話の密度が濃い。

軸でシリアスなドラマを展開しつつ、コメディ要素で話を和らげるのは、演出作・脚本作ともに目を引く。コメディパートは、話のオアシス的な機能があり、これは高屋敷氏の初期作品でも強く出ている特徴。

幼い所作もまた、数々の作品で(初期から)突出しており、作品の面白さに貢献している。アカギやカイジワンナウツといった、グッと大人向けで大人が多い作品のシリーズ構成・脚本でも、これが発揮されているのも面白い。

10話(脚本)同様(詳細:
https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2020/03/29/135016 )、影のある静馬が満面の笑顔を渚砂の前で見せており、笑顔の重要性が感じられる。高屋敷氏がギャグやコメディも精力的にやるのは、この「笑顔重視」からかもしれないと思えてきた。

また、玉青の舞台企画についてだが、高屋敷氏は、飛べ!イサミ(脚本・シリーズ構成陣)の企画も起こしており、そういった経験も活きているのではないだろうか。

同じく、玉青の脚本執筆の苦労や、褒められた時の喜びなども、同氏の実体験を活かした可能性が大いにあり、興味深いところである。

2話(脚本)では、詩人としての玉青の一面が描かれており(詳細: https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2020/03/15/135232 )、今回の脚本の才も併せると、大分キャラの掘り下げが成されている。

千華留についても、キャラを一層掘り下げている。こちらも、コメディエンヌである一方で多才な人物として描かれ、6話(脚本)では裁縫の才を披露していた(詳細: https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2020/03/22/135618 )。

スピカ生徒会の政治劇を描きながら、詩遠のキャラを立てて少しコメディチックにしている手腕も光る。今までの話と比較しても、今回は彼女の奔走が目立っている。

色々なキャラを立たせながら、主軸の二人である渚砂と静馬のドラマもビシッと締めている。10話(脚本)に引き続き、愛情=笑顔を見せ合える事だという強いメッセージが感じられた回だった。