カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

F-エフ-8話脚本:二人を繋げる合言葉

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、演出/コンテが澤井幸次氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

B・A級ライセンスを取得した軍馬は、FJ1600レースの練習走行のため、筑波サーキットへ。軍馬はそこで、岸田というインテリ青年に出会い、そして、聖(軍馬の後のライバル)と再会する。

聖に触発され、軍馬は他人のバイクでサーキットを走り、コースの感覚を確かめる。当然、バイクの持ち主に怒られ、その際、軍馬は左足を痛めてしまう。練習走行が始まるも、左足が痛くてクラッチが切れない軍馬は、ローギアのまま走らざるを得ない状況に…

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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

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B・A級ライセンスを取得し、ついにサーキットを走れることになった軍馬は、マシンを乗せたトラックを軽快に走らす。

それを見ながら、ヒロシ(同じアパートの住人)は、軍馬なら、レース事故で死んだ、純子(ヒロインの1人)の恋人である龍二が最期に見ていた、「何か」を見せてくれるかもしれない…と話す(6話参照)。

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6話に続き、死者の影がちらつく重さが出ている。あしたのジョー2脚本での力石(丈のライバル)の死や、めぞん一刻脚本での、惣一郎(ヒロイン・響子の夫)の死についての扱いが思い出される。

軍馬は、タモツ(軍馬の親友で、メカニック)から、モータースポーツでは人間関係やマナーが大事だと釘を刺され、軍馬もそれに同意はする。

筑波サーキットに到着し、タモツが手続きに出ている間、軍馬は、岸田というインテリ青年に出会う(専攻は心理学)。軍馬を熟練レーサーと勘違いした岸田は、軍馬を慕う。
なんとなく、ど根性ガエル(高屋敷氏演出参加)の、ひろしとゴロー(ひろしの後輩で、親友)の関係を彷彿とさせる。

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軍馬は、岸田に食事をおごってもらうことに。高屋敷氏の特徴として、山ほど出てくる飯テロが、ここでも出ており、原作より強調されている。
ミラクル☆ガールズ・DAYS・コボちゃんカイジ脚本と比較。

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岸田と話しているうちに、嘘八百がバレそうになる軍馬であったが、そこへ、聖と砂井(上位ランカー)がやってくる。
岸田は二人を見て舞い上がるが、軍馬は、「サーキットじゃな、お前より速い奴はゴマンといるんだぜ」と聖に言う。これは、1話で聖が軍馬に言った言葉。そしてこの展開は、アニメオリジナル。うまい改変だと思う。

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更にアニメオリジナル会話は続き、聖と軍馬は、互いをよく覚えていることになっている。これまで、アニメオリジナルで聖をちょくちょく登場させておいたことが効いている。また、「サーキットじゃな、お前より速いやつは…」は今後もアニメで重要な台詞になってくるようなので、覚えておきたい。

軍馬はついでに、砂井を挑発(ここからは原作通り)。機嫌を損ねた砂井は軍馬を殴り、軍馬も殴り返そうとする。
そこへ聖が割って入り、「吠えるのはエンジンだけにしておくんだな」と軍馬を牽制。

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やたらと尖る軍馬と、紳士的な聖の図式はやはり、高屋敷氏が脚本参加した、あしたのジョー1や2の、丈と力石・ホセ(丈のライバル)が重なってくる。

聖にイラつく軍馬は、空き缶を蹴る。カイジ2期1話脚本にて、(普通の)パチンコに負けて空き缶を蹴るカイジと被ってくる。今回のは原作通りだが、カイジ2期の方は、アニメオリジナル。

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軍馬は、一刻も早くコースを覚えようと焦り、他人のバイクを強引に拝借してサーキットを走る。それを見てざわめくモブが、結構存在感がある。高屋敷氏の演出・脚本作ともに、モブは優秀。カイジ2期脚本でも、モブは優秀だった。

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バイクの持ち主は、わざわざ新潟から来たのに…と軍馬に怒る。「新潟から来た」はアニメオリジナル台詞で、モブに存在感を与えようとする、高屋敷氏の意図が見える。

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揉み合いになった際、軍馬はバイクの下敷きになるも、駆けつけたタモツや純子らに呆れられる。

FJ1600の練習走行開始前、軍馬は、聖に楯突いた男として、周囲から白い目で見られるが、軍馬は「一番速いやつが一番偉いって聞いたぜ」と、更に皆を挑発する。

そうこうするうち、練習走行が開始されるが、軍馬は、バイクの下敷きになった際に左足を負傷したことに気付く。

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軍馬はクラッチを切れず、ローギアのまま走らざるを得なくなってしまう…という所で次回へ。

  • まとめ

今回の肝は、聖と軍馬の再会。1話の出会いから大分経っているものの、これまでの回で、聖を何度となくアニメオリジナルで登場させていたことが効き、二人が互いを意識していたことがわかるようになっている。

そして、「サーキットじゃな、お前より速いやつはゴマンといるんだぜ」という台詞。アニメでは、聖と軍馬をつなぐ言葉として意味を持ち始めている。この言葉は、終盤で、更に重い意味を持つようになるようだ。どこの時点でこれを意識するようになったかは不明だが、高屋敷氏の、シリーズ構成力の高さが出ている。

一つの台詞や言葉が、シリーズ全体で重要な意味を持つよう構成されているのは、高屋敷氏の他のシリーズ構成作品でも見られる。カイジ1期では「前へ」が、2期では「勝つ」が、シリーズ全体で強調されている。特にカイジ1期では、船・足・心が「前へ」進んで行く構成になっているのが印象的。演出参加の、家なき子のテーマの一つ、「前へ進め」ともかかっているのが感慨深い。

カイジ1~2期の根幹に流れる言葉として、「未来は僕らの手の中」があるのにも注目したい。1期開始時、「未来は僕らの手の中」の色紙が意味深に傾くが、2期ラストシーンでは、その色紙が、しっかりと映る。2期最終話のサブタイトルも、「未来は僕らの…」である。

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そう思うと、F-エフ-における、「サーキットじゃな、お前より速いやつはゴマンといるんだぜ」も、カイジにおける「未来は僕らの手の中」のような「重要な役割」を担っているのではないだろうか。
こういった、しっかりとしたテーマ設計があるのには、毎回驚かされる。

原作ものアニメでも、いや、原作ものアニメだからこそ、アニメ独自のテーマというのは重要になって来ると思う。高屋敷氏は、じゃりン子チエ脚本をはじめ、原作に沿いながら、独自テーマを上乗せするのが巧み。めぞん一刻最終シリーズ構成でも、「男の成長」を、原作とは違ったアプローチで強調していて驚いた(こちらを参照)。

今回は、軍馬と聖の再会のために設置した伏線が回収された回とも言える。二人の劇的な運命を考える上でも、「シリーズ構成」を考察する上でも、おそらく重要になってくる回と考えられるので、しっかりと覚えておきたい。