カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

F-エフ-21話脚本:サーキットでは一人きり

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、コンテ/演出が澤井幸次氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

タモツ(軍馬の親友)が聖(軍馬のライバル)のメカニックになってしまい、メカニック不在に陥った軍馬達は、オネエ系メカニック・根本を雇う。
そして参戦3回目の筑波FJ1600レースが開始されるが、軍馬はメンタル不調で出遅れてしまう…。

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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

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開幕、太陽のアップ・間があり、鳥が飛ぶ。こういった表現は、高屋敷氏の担当作に実に多い。
画像は開幕太陽集。空手バカ一代演出/コンテ、らんま脚本、元祖天才バカボン演出/コンテ、チエちゃん奮戦記脚本との比較。
出崎兄弟ゆずりの鳥演出も頻出。

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ボート遊びをする軍馬と岸田(軍馬を慕うインテリ青年)は、聖(軍馬のライバル)とタモツ(軍馬の親友だが、現在は聖のメカニック)が参戦するF3について話す。
この状況設定はアニメオリジナルで、会話のテンポがいい。

岸田は、F3に上がるには3千万円以上の資金または、FJ1600の実績が必要と説く(原作では、軍馬の雇用主で後援者の森岡が、これを説明)。
岸田に激励され、軍馬はFJ1600で勝ちまくる事を決意。この時、(釣りの)浮きの意味深描写がある。「物」が状況と連動して動くのも、高屋敷氏の作品によくある。
コボちゃんあしたのジョー2脚本と比較。

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鈴鹿では聖が、F3レースを前に練習走行をする日々を送っていた。
聖の恋人・ルイ子は、煙草に火をつける。煙草描写の強調も、高屋敷氏は多くの作品で行う。
カイジ・アカギ・忍者戦士飛影脚本と比較。

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聖は、病による発作を時折起こすが、練習を続行。

聖のメカニックチームは、長引く合宿に疲れ気味。アニメオリジナルで、吸殻のアップ・間があり、ここでも、状況と連動する「物」が描写される。アカギ・DAYS・めぞん一刻脚本と比較。

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タモツは、チームの先輩達から冷遇されるも、チーフからは優しくされる。優しいチーフの存在はアニメオリジナルで、「孤独救済」を多くの作品で行う、高屋敷氏のポリシーが出ている。

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その頃軍馬は、雨の中ランニングをしていた。雨という状況を強調してドラマを盛り上げるのも、高屋敷氏はよくやる。
空手バカ一代演出/コンテ、めぞん一刻はだしのゲン2脚本と比較。

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また、状況と連動する信号機が出てくる。これも高屋敷氏の作品に多い。画像は、状況の停滞を表す赤信号集。
カイジ2期脚本(20話)・グラゼニ脚本・カイジ2期脚本(1話)と比較。

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森岡は、タモツを失った軍馬が、不安の塊になっていると解説。

参戦3回目のレースを目前に、軍馬達はマシンの整備に取り掛かるが、タモツがいないため難航。森岡に頼ろうとする軍馬であったが、さゆり(軍馬の住むアパートの大家)に、自分達の力で何とかしろと説教される(アニメオリジナル)。
高屋敷氏は、助言や説教をする老人を出す事が多い。めぞん一刻蒼天航路じゃりン子チエ脚本と比較。

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軍馬は、自分がクラッシュして怪我したり死んだりしても、皆にとってはレジャーなのかと言う。原作では、これを純子(ヒロインの一人)にのみ話す。軍馬がスパナを片手お手玉しているが(アニメオリジナル)、片手お手玉もよく出る。ベルサイユのばらコンテ、ルパン三世2nd演出/コンテと比較。

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苛つく軍馬は転び、偶然通りかかったスクーターに轢かれそうになる(アニメオリジナル)。
スクーターに乗っていたのは、根本というオネエ系メカニック。
ワンダービートS脚本でも、あわやバイク事故を起こしそうになってゲストキャラと知り合う回がある。

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根本と軍馬は罵り合う。アニメオリジナルの会話が、「ウスラトンカチ」など幼い。年齢問わず幼さを出すのは、高屋敷氏の得意分野。

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ツンケンしながらも、根本はマシンの問題点を次々と指摘。
そこで、軍馬達は彼を雇うことに。

カニックなのにオイルアレルギーだったり、自称「おメカの天才」で「掘るのは得意」(アニメオリジナル)だったりと、根本は強烈なキャラクター。声は、めぞん一刻の五代役等の二又一成氏で、怪演が光る。
原作からして際どいのに、アニメで更に際どくしており、アニメ側の、攻めの姿勢を感じる。

一方タモツは、メカニックの才を遺憾なく発揮し、チーフメカニックや聖は感心。

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原作では、聖達の様子が描かれるのは、軍馬達のレース後。
アニメでは、聖達と軍馬達の様子を交互に見せて対比させている。
時系列操作が上手い、高屋敷氏らしい改変。

軍馬はというと、マシンに慣れることが出来ず、予選でのタイムが伸びない。
そんな軍馬に、砂井(軍馬と確執のある上位ランカー)は、ドライバーが「好み」ではない場合、マシンが壊れるようセッティングするという、根本に関する不穏な噂を伝える。
原作通りだが、カイジはじめ、高屋敷氏は心理戦を強調する。

更に砂井は、密かにクーラントを軍馬のマシンの下に撒き、益々軍馬をナーバスにさせる。
そこへ根本が来てギャラ(10万円)を要求。疑心暗鬼になった軍馬は、10万円をマシンに貼り、レースが無事に終わったら払うと宣言。ここは、カイジ2期脚本とシンクロ現象を起こしており、画像比較すると面白い。

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軍馬は根本に、「オレ、お前の好みか?」と尋ねる。根本は「愛してるわよ」と答える。

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原作では「大嫌いよ」であり、アニメは真逆。だが、この「愛してるわよ」により、軍馬は更に疑心暗鬼になる。ここも、腹の探り合いを好む、高屋敷氏らしい改変。

決勝開始直前になっても、疑念や雑念が止まらぬ軍馬は、周りが見えなくなってしまう。カイジ2期脚本にて、追いつめられて周りが見えなくなってしまう一条と重なる。

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ここで信号の「アップ・間」がある。この「何か訴えるような、静物のアップ」を、演出でも脚本でも、高屋敷氏は出してくる。相変わらず、「脚本」からの「出力」が不思議だが、実際多いのは確か。カイジ2期・らんま・コボちゃん「脚本」と比較。

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そして、思考が止まらぬ軍馬は、スタートの合図に気付かず出遅れてしまうのだった。

  • まとめ

タモツに去られた軍馬の「孤独」が描かれる。こればかりは、軍馬とタモツの特別な関係があるため、周りに仲間達がいても、彼の孤独を真に「救済」することはできない。長年「孤独」に関して、色々描いてきた高屋敷氏の手腕が光る。

軍馬が、自分が死んでも皆にとってはレジャーなのか、と、皆の前で言ってしまうよう改変したのも、高屋敷氏のこだわりを感じる。
これは益々自分を孤独に追い込む言動であり、孤独な時ほどこうなってしまうのを、リアルに描いている。

更に根本の「噂」の一件で、軍馬は、命を預けるマシンやメカニックすら信じられなくなってしまう。
森岡曰く、今までタモツを「神様より信頼していた」軍馬にとっては、これは非常にきつい状況。
ここも、メンタル問題に長年取り組んできた高屋敷氏と、原作の相性が良い。

「オレ、お前の好みか」という軍馬の問いに対し、根本が「愛してるわよ」と返すよう改変したのも上手い。
「真の愛」は孤独を救うものであるが、どう見ても根本の言葉は真意ではなく、まだ「大嫌いよ」の方がいい。これもまた、どんどん軍馬を孤独に追い込む。

終盤では、軍馬は遂に周りが見えなくなってしまう。ここが、カイジ2期脚本において、周りが見えなくなる一条とシンクロするのは、本当に驚いた。カイジ2期(20話)の方も、過去の出来事によって一条の性格が歪み、真に人を信じる/愛することが出来ずに孤立していく様子が描かれる。

こういった「孤独」が救済されなければ、破滅に進んでしまう事も、高屋敷氏は多く描くが、果たして軍馬はどうなるのか。原作では、軍馬のこういった「危うさ」「影」が度々描かれ、アニメも、それに追随する形になっている。
それが、OPに浮かぶ文字の一部「はかなさ…」に表れている。

いかに「孤独」を克服するか/または周囲が救済するかは次回へ持ち越しとなるが、これもまた、成長するための試練の一つ。
高屋敷氏が演出参加したエースをねらえ!でも、コートでは一人きりであることが描かれ、かつまた、メンタル問題を扱っている。メンタル問題に取り組む、同氏の歴史の長さを感じた回だった。

ちなみに、次回からOP/EDが変わるので、EDについて書いておきたい。
原作によれば、冒頭の人形は、過去に総一郎(軍馬の父)が拾い、静江(軍馬の母)にあげたもの。後に再会した二人が愛し合った結果、軍馬が誕生した。それを踏まえ、軍馬が現在を、そして未来を駆けるという構成。

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アニメスタッフが、かなり原作を読み込んでいる事が窺える。