カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

RAINBOW-二舎六房の七人10話脚本:想いと幸福

アニメRAINBOW-二舎六房の七人-は、安部譲二氏原作・柿崎正澄氏作画の漫画のアニメ化作品で、戦後間もない少年院に入所した七人の少年達のドラマ。監督は神志那弘志氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・脚本を務める。
今回のコンテは福田道生氏で、演出は細田雅弘・田中智也氏。そして脚本が高屋敷氏。

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当ブログの、RAINBOW-二舎六房の七人-に関する記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E4%BA%8C%E8%88%8E%E5%85%AD%E6%88%BF%E3%81%AE%E4%B8%83%E4%BA%BA

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  • 今回の話:

瀕死の六郎太(少年院の二舎六房の古株でリーダー)を連れ少年院から脱走した、二舎六房の真理雄(熱血漢)と昇(小柄)。金を掴むため、米軍基地でのボクシング試合に挑むも敗北した真理雄は、六郎太の指導を受けて再びリングに上がる。だが、不吉な影がちらつく…

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開幕、米軍基地でのボクシング試合で敗北し隠れ家に帰宅した、真理雄(少年院の二舎六房の熱血漢)と昇(二舎六房の一人。小柄)の靴が映る。こういった「物」の「間」はよく出る。チエちゃん奮戦記・めぞん一刻・F-エフ-(脚本)と比較。

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昇は、六郎太(二舎六房の古株でリーダー)に黙って試合に出た真理雄を叱らないで欲しいと訴える。
六郎太は叱るどころか、やられっぱなしは悔しいだろうとして、明日から稽古をつけると真理雄に言う。
真理雄は感極まり、拳に涙を落とす。この表現はアニメオリジナル。手による感情表現は頻出。めぞん一刻・F-エフ-(脚本)と比較。

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六郎太は真理雄に、右(故障している)をフェイントに使い、左を叩き込むことを徹底的に教える。トレーナーとボクサーの密接な関係は、あしたのジョー2・はじめの一歩3期(脚本)でも丁寧に描かれている。

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そこへ昇(米軍から仕入れた煙草を闇で売り捌く仕事をしている)が来て、次の試合が1月28日に決まったことを知らせる。なんとなく、あしたのジョー2(脚本)にて、試合の日を知らせに来る段平と被る。

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ここは、時系列が原作から変えられており、うまくまとめられている。高屋敷氏は、時系列操作が巧み。

一方少年院では、悲願だった自衛隊への入隊が決まった忠義(二舎六房の一人。いかつい)が、奇しくも真理雄の試合日と同日に出所することに。このことがスムーズにわかるよう、昇が試合日を真理雄達に伝える場面を、この直前にアニメオリジナルで作っている(前述)。この構成も上手い。

少年院の作業場にて、丈(二舎六房の一人。美形)は忠義に、(逃走中の)六郎太達の居場所を教えると申し出るが、忠義は、自分が下手に動いて居場所がばれたらまずいとして、それを断る。回転ノコギリが映るが、意味深な「物」の描写は数多い。おにいさまへ…花田少年史(脚本)と比較。

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六郎太らの隠れ家では、節子(看護婦。六郎太達を助ける)の家族写真の話題で、昇が不機嫌になり外出する(原爆で家族を失っている)。事情を知った節子は、皆で写真を撮ることを思い付く。お茶が映るが、こういった、飲み物の表現もよくある。グラゼニ・F-エフ-・めぞん一刻(脚本)と比較。

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節子は、「これからは、皆でいい思い出をいっぱい作るのよ」と言う(アニメオリジナル)。はだしのゲン2(脚本)で、ゲンと仲間達が、原爆体験を乗り越えて楽しい思い出を積み重ねていく場面が思い出される。

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節子が同僚からカメラを借りるのを見た佐々木(六郎太をつけ狙う、少年院の嘱託医師)は、節子が六郎太達を匿っていると察する。

そんなことは露知らず、節子達は写真を撮る。生き物のような機械の表現は結構ある。F-エフ-・1980年版鉄腕アトム(脚本)と比較。

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真理雄と昇のドタバタもあり、六郎太達は楽しく写真を撮る。
はだしのゲン2(脚本)にて、原爆で苦労しながらも笑顔が絶えない、ゲンと仲間達(殆どが原爆孤児)が重なる。

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佐々木からの連絡で、六郎太達の隠れ家を突き止めた石原(少年院の凶悪な看守)は、佐々木と陰謀を巡らす。

同じ頃、真理雄と昇は、節子と六郎太を二人きりにする為外出。

月が映る。全てを見ているような月は頻出。あんみつ姫・F-エフ-・めぞん一刻・チエちゃん奮戦記(脚本)と比較。

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二人きりになった六郎太と節子は話し込む。節子は、幸せだと言って六郎太に寄り添う(原作では抱擁)。めぞん一刻(脚本)の一場面が思い出される。

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家の明かりが消える(アニメならではの表現)。こちらも、めぞん一刻と重なる。

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試合前日、六郎太は真理雄の胸に拳をつけて激励する(アニメオリジナル)。手によるコミュニケーションは、色々な作品に見られる。宝島(演出)、F-エフ-・グラゼニ(脚本)と比較。

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そして試合当日、節子は六郎太に弁当を持たせる。弁当はアニメオリジナルで、めぞん一刻(脚本)を彷彿とさせる。
また、高屋敷氏は食べ物に非常にこだわる。

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勝った場合の祝勝会の足しにと、昇は煙草を売りに行くが、石原のタレコミにより警察に捕まってしまう。

一方、雨を見ながら、真理雄は六郎太に、節子をどう思うか問い、六郎太は、彼女を幸せにしてやりたいと答える(原作の、かなり後半の回想場面の会話内容をここに持ってきている)。めぞん一刻(脚本)で、結婚の決意を語る五代が重なる。

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昇が警察に確保された一方、忠義は仲間に祝福されながら出所。

茶店では、佐々木が石原に銃を渡す。

警察署での取り調べ中、昇は石原が動いていることを知り、電話を貸せと騒ぐ。

このあたりも、時系列がうまくアニメ向きに整理されており、脚本技術の高さが光る。

試合直前、リリィ(米軍将校の愛人)は、昇が捕まったこと、彼が電話してきていることを六郎太と真理雄に知らせる。
真理雄は、拳を六郎太の胸に当て(アニメオリジナル)、自分は大丈夫だから、電話に出て欲しいと言う。ここも、手による意思伝達。ルパン三世3期・DAYS(脚本)と比較。

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「勝つんだぞ」と言う六郎太と、「たりめーだ」と答える真理雄は、力強く手を合わせる。

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ここは(ほぼ)原作に忠実で、その前の、アニメオリジナル場面(真理雄が六郎太の胸に拳を当てる)が、これを盛り立てている。このような、原作とアニメオリジナルの組み合わせも上手い。

同じ雨の下、節子は写真館で、出来上がった皆の写真を得る。

佐々木は、巧みな嘘で警察を焚き付け、石原の事も売り、口元に笑みを浮かべる。カイジ2期(脚本)の、大槻班長の邪悪な笑みと被る。

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試合が始まったリングの上で真理雄は、「1ラウンド目は耐えろ」という六郎太の教えを守ってガードに徹する。試合の緊迫感は、あしたのジョー2(脚本)の経験が生きているのを感じる。

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  • まとめ

圧巻なのは、終盤の畳み掛けるような展開と、複雑な時系列操作。
あと、連載漫画ならではの、原作の時系列シャッフルを、アニメ向けの時系列に改変している。
このような技術は、じゃりン子チエおにいさまへ…グラゼニの脚本でも目立つ。

そして、22分前後内でテンポの良い組み立てをするために、原作のどこをまとめ、削り、どこにアニメオリジナルを追加するかが綿密に計算されている印象を受ける。
いつもながら思うことだが、高屋敷氏の計算力の高さが凄い。

また、試合前の真理雄と六郎太の会話が、節子についての話になっている(原作では、試合前の緊張や、仲間愛について話す)のは興味深い。
後々の展開を考慮したものと考えられる。ここも高屋敷氏の「シリーズ構成計算」の一環かもしれない。

今回、めぞん一刻とのシンクロも目立った。六郎太と節子の恋愛が軸の一つとなっているためだからと思うが、このような箇所を見つけるのも、高屋敷氏の担当作を追う楽しみの一つ。

節子の言う「幸せ」と、六郎太が真理雄に語る「(節子を)幸せにしてやりたい」も、うまく繋がっており、「幸せ」や「愛」について視聴者に考えさせようとする強い意志が出ている。

幸福や愛といえば、はだしのゲン2(脚本)との共通点が見えてくる。
はだしのゲン2では、原爆という大きな苦しみを経験したゲンが逞しく生き、仲間と共に楽しい思い出も作っていく。
今回は、原爆で家族を失った昇のため、いい思い出をいっぱい作ろうと節子が提案。この重なりは感慨深い。

高屋敷氏のテーマの一つに、「孤独というものの恐ろしさ」があるが、「幸せ=孤独ではないこと」という図式も大切にしているのではないだろうか。今回もまた、それぞれが、それぞれを想い、それが束の間の幸福につながっている。

仲間の大切さを、高屋敷氏は数々の作品を通し強く打ち出す。本作にもそれは出ていて、更に「幸せとは何か」とも絡めている。奇しくも同氏は、まんが世界昔ばなしで「幸福の王子」の演出/コンテをしている。同氏の「幸福論」について、今後も注目していきたい。