カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

はじめの一歩3期12話脚本:エンタメの基本

アニメ『はじめの一歩 Rising』は、森川ジョージ氏原作の漫画『はじめの一歩』をアニメ化した作品の第3期。元は気弱だった幕の内一歩がボクシングに身を投じる様を描く。
(3期の)監督は宍戸淳氏と西村聡氏(22~25話)で、シリーズ構成は、ふでやすかずゆき氏。

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本記事を含む、当ブログの、はじめの一歩に関する記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%81%AF%E3%81%98%E3%82%81%E3%81%AE%E4%B8%80%E6%AD%A9

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  • 今回の話:

コンテ:青山弘氏、演出:波多正美氏、脚本:高屋敷英夫氏。

フェザー級日本チャンピオンの一歩に、名古屋・鬼槍留(キャリル)ジムの沢村竜平が挑むタイトルマッチの中盤戦が描かれる。

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開幕、天井のライトが映る。ライトやランプによる“間”は多い。ワンナウツRIDEBACKカイジ2期(脚本)と比較。

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第4ラウンドが始まり、一歩は積極的に攻める。前回同様、宮田(一歩のライバル)や鷹村(一歩の先輩で、ミドル日本/ジュニアミドル世界王者)ら観客席の場面切り替えが上手い。同じ技術は、あしたのジョー2・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)にも見られる。

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一歩の怒涛の攻撃に耐える沢村(一歩の対戦相手)は、一歩がデンプシーロール(一歩の必殺技)を出すと後退し、強烈なカウンターを食らわす。
鮮血と共に一歩のマウスピースが落ちる。
おにいさまへ…・F-エフ-(脚本)ほか、「物」による状況描写はよくある。

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大ダメージを受けた一歩を見て、鴨川(一歩の属するジムの会長)は拳を震わせる。手による感情表現は頻出。柔道讃歌(コンテ)、ワンナウツ・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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第4ラウンドが終了し、一歩はボロボロになりながらも、日本王者としての責任感を胸に闘志を燃やす。一旦顔を映さず、後に顔を映すと凄まじい形相になっている表現は、カイジ(脚本)にも見られた。

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第5ラウンドが始まると、沢村は一歩の肉体を叩きながら、子供の頃に母親と食べたステーキの味を思い出す。飯テロは実に多い。カイジ2期・チエちゃん奮戦記(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、コボちゃん(脚本)と比較。

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第5ラウンドが終了。鬼槍留(キャリル)ジム(沢村の属するジム)会長は、沢村の威風堂々たる姿を感慨深く見る。沢村の恩師である河辺も、それを見守る。
敵やライバルの描写は、ガイキング(演出)、ワンダービートS・F-エフ-(脚本)、宝島(演出)でも丁寧。

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第6ラウンド、再び一歩はデンプシーロールに合わせた沢村のカウンターを食らうが、仲間達や鴨川のことを思い出し、耐える。ここも、手による感情表現。カイジストロベリーパニックワンナウツおにいさまへ…(脚本)と比較。

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久美(一歩のガールフレンド)は、一歩が試合前から思い詰めていた様子だったことを思い出し、心配する。ここでも手の感情表現が出ているほか、ヒロインを目立たせる技術が、あしたのジョー2(脚本)と重なる。

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しぶとい一歩に業を煮やした沢村は、反則をして減点される。あしたのジョー2(脚本)でも、丈のしぶとさに錯乱したホセ(丈の対戦相手)が反則をする。どちらも原作通りだが、比較すると面白い。

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河辺は、このままでは沢村が、施設にいた時のまま、孤独を深めてしまうと危惧する。月が映るが、全てを見ているような月の描写は多い。ガンバの冒険・RAINBOW-二舎六房の七人-・マイメロディ赤ずきん(脚本)、エースをねらえ!(演出)と比較。

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観客から悪役認定されブーイングを浴びる沢村を、河辺が心苦しく見守る。
悪役は悪役なりの苦労があることは、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、マイメロディ赤ずきん(脚本)などでも強調されている。

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なおも一歩はデンプシーロールを繰り出すが、今度は発動途中でストップ。タイミングを狂わされた沢村は、一歩の渾身の一撃を顔面に食らう。主人公の反撃開始のカタルシスと、敵役の苦難は、アンパンマン(脚本)でも見られる。

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  • まとめ

前回に引き続き、原作からの台詞の取捨選択が上手く、アニメはアニメなりのテンポになっている。
再三書いていることだが、原作つきアニメは、原作を単になぞればいいだけではないことがわかる。

また、高屋敷氏は、原作を踏襲しながら、自身のテーマを(いつの間にか)前面に出すことに長ける。この技術は年を経るごとに研ぎ澄まされていくので、色々な作品と比べると面白い。

前回に引き続いて今回も、知らず知らずのうちに沢村にシンパシーを感じさせる作りになっており、彼の“孤独”にも焦点が当てられている。“孤独”は高屋敷氏が長年取り扱っているものであり、拘りが感じられる。

沢村へのシンパシーと同時に、反撃に転じる一歩にカタルシスを感じさせる手腕も見事。善悪をはっきり分けず、人間の色々な側面を描こうとする高屋敷氏のポリシーが色濃く出ている。

こういった技術に関しては、アンパンマン(脚本)がわかりやすい。悪役の苦労や悪知恵に感心しながら、主人公の一撃に胸踊る感覚を視聴者に与える作りは、いわば高屋敷氏式エンターテイメントの基本形と言える。

キッズアニメも多く担当してきた高屋敷氏は、そういった基本を、シリアスなアニメにも取り込んでいる。カイジ(シリーズ構成・脚本)も同様で、敵役にインパクトを持たせつつ、カイジの覚醒や逆転に感動できるコンセプトになっている。

敵役に色々な感情を抱かせる作りは、ともすれば複雑になりすぎる傾向があるが、敵側/主人公側の描写の切り替えが、高屋敷氏は鮮やか。やはり今回も、同氏の経験とセンスに感服させられた。