カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

陽だまりの樹11話脚本:テイストの違い

アニメ『陽だまりの樹』は、手塚治虫氏の漫画をアニメ化した作品。激動の幕末期を生きた、武士の万二郎と、蘭方医の良庵の物語。監督は杉井ギサブロー氏、シリーズ構成は浦畑達彦氏。

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  • 今回の話:

サブタイトル:「将軍謁見」

コンテ: くずおかひろし(葛岡博)氏、演出:郷敏治氏、脚本:高屋敷英夫氏。

アメリ使節のハリスが、将軍・家定に謁見することに。病弱で気弱な家定のため、からくりを使った作戦が遂行される。
また、良庵が結婚。

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開幕、安政4年の秋を告げるナレーションがアニメオリジナルで入る。
グラゼニRIDEBACKおにいさまへ…カイジ2期(脚本)ほか、高屋敷氏は季節の情緒を大切にする。

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周囲に急かされ縁談が進む中、酒を飲んだ良庵は、万二郎とバッタリ会う。良庵は万二郎に酒臭い息を吹きかける。息を吹きかける悪戯はアニメオリジナル。
F-エフ-・ダンクーガ(脚本)ほか、高屋敷氏は子供っぽい掛け合いが得意。

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良庵から縁談の話を聞いた万二郎は、今までの(女好きな性分の)報いだと笑い転げ、おせき(良庵と万二郎の想い人)は自分が幸せにすると宣言。
原作では、おせきに関して万二郎の歯切れが悪いが、アニメでは変更。高屋敷氏は素直さを好む傾向がある。

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帰宅した良庵は、お中(良庵の母)から、おつね(良庵の許嫁)が観光に行ったこと、良仙(良庵の父)が伊東玄朴(蘭方医)宅で自分を待っていることを知らされる。
原作では、おつねの観光に良庵が付き合わされるが、アニメではカット。話の展開が速い。

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良庵が伊東宅へ赴くと、そこには万二郎、良仙、伊東がいた。
アメリカ特使のハリスが、将軍・家定に謁見するが、家定が病弱なのが問題になっているのだと伊東は話す。
伊東がこの場にいるのはアニメオリジナル。ここも話の展開がスピーディー。

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アニメオリジナルで、蝋燭の火が映る。意味深な火の表現は多い。
あんみつ姫蒼天航路おにいさまへ…(脚本)と比較。

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また、(普段蘭方医と対立している)多紀元迫(奥医師の一人)から、この問題について相談を受けたことを伊東は話す。
アニメオリジナルで、鹿威しの音が入る。ベタではあるが、鹿威し表現は時折ある。RAINBOW-二舎六房の七人-・めぞん一刻(脚本)と比較。

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もし、いい対策案を蘭方医側から出せれば、またとない好機になるので、悪知恵の働く良庵と、(護衛に就いていたため)ハリス達に詳しい万二郎とで、何か案を考えて欲しいと良仙は言う。ここも、原作をよくまとめており、テンポよくなっている。

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その後、良庵と万二郎は、飲み屋で策を練ることにするが、良庵は酔って眠りこけてしまう。ほぼ原作通りだが、高屋敷氏は酔っ払い描写に縁がある。
ガンバの冒険(脚本)、ど根性ガエル・宝島(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。

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万二郎に起こされて目覚めた良庵は、妙案を思い付いたと、店を飛び出す。
ここもほぼ原作通りだが、愛嬌ある酔っ払い描写。ど根性ガエル(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。

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その後、ハリスと、通訳のヒュースケンは、家定に謁見すべく下田から江戸に向かう。
道中、ハリスは富士山に感動する。原作では、その前にハリスが不機嫌になる下りがあるがカットされ、展開が速くなっている。

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江戸では、(良庵の提案をもとに)家定の合図で、床下にいる者が家定の代わりに喋る、からくりが作られる。ほぼ原作通りだが、高屋敷氏は、ルパン三世2nd(演出/コンテ)、カイジ2期(脚本)ほか、凝ったギミックに縁がある。

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多紀元迫は、からくり作戦について、一抹の不安を伊東に吐露するが、伊東は賭けるしかないと言い、成功の暁には、自分を奥医師に推薦するよう持ちかける。ここは原作をまとめ、簡潔にする工夫が成されている。

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一方、外国に反感を持つ一派は、浪人を集めてハリス一行を襲撃する計画を立てる。
浪人・山犬(本名は丑久保陶兵衛)は、一行の中に(自分と因縁のある)万二郎がいるのを確認し、仕事を受ける。ここも原作圧縮の技術が光る。

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帰宅した山犬は、お品(万二郎を慕うが、山犬に手込めにされた)に、異人と万二郎を斬ると告げる。お品は、万二郎を斬らないで欲しいと必死に訴え、山犬は、斬る気が失せたとして仕事を断ることにする。仕事を断るのはアニメオリジナル。アニメに合わせた調整が巧み。

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江戸城では、堀田(老中首座)が家定に、からくりの説明をする。家定は、からくりを気に入り、どうせなら影武者も立ててはどうかと提案するが却下される。ここも、原作をコンパクトにまとめている。

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一方、良庵は、おつねと祝言をあげる。
高屋敷氏は、結婚話に縁がある。おにいさまへ…めぞん一刻あしたのジョー2・グラゼニ(脚本)と比較。

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宴の中、ふと物思いに耽りたくなり、良庵は外に出る。すると、お紺(良庵の知り合いの夜鷹)が現れ、良庵を祝福する。
原作では、良庵の女癖の悪さを、お紺が辛辣に指摘するが、アニメの彼女は、おつねの幸福を願う。ここは(素直さを好む)高屋敷氏の意向だろうか?

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お紺が立ち去るのと入れ替わりに、良仙が来て、宴に戻るよう良庵を促す。また、お紺を目にして「いい女だな」と言う。原作では、「うさんくさい女」だが、アニメは、良仙の女好きが、よく表れている。

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そして、ハリスが家定に謁見する日になる。原作では連携に手間取り、アニメでは家定が緊張しすぎて、からくり発動にモタつく。どちらも緊迫感がよく出ている。

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家定は、ようやく合図(足を軽く踏み鳴らす)を思い出して(アニメオリジナル)、からくりを発動。
そして無事に謁見が終わり、一息ついた堀田は、緊張が解けて笑い出す。
ここも、色々と原作圧縮やアレンジが秀逸。

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一方、良庵は宴で酒を飲み過ぎ、初夜なのに爆睡。おつねは嘆くのだった。ここはアニメオリジナル。
無邪気に眠る場面はよく出る。カイジ2期・F-エフ-・ストロベリーパニックハローキティのおやゆびひめ(脚本)と比較。

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  • まとめ

 アニメでは、平助(万二郎を勝手に慕う猟師で、戦闘力が高い)が出て来ないので、その部分の整合性を取るため、山犬がハリス一行への襲撃を事前にやめる。アニメは、アニメなりの話の進行に合わせた調整が見事。

 今回も、原作をアニメに落とし込むための細かい調整、カット、アレンジが流石。とにかく高屋敷氏の「ただ原作をなぞるだけでは、いいアニメにならない」という強い意向は、どの原作つき担当作にも出ていて、唸らされる。

 また、ギミックを使った作戦を展開する面白さと緊張感については、ルパン三世シリーズ(高屋敷氏は2ndで演出/コンテ/脚本参加、3期で脚本参加)やカイジ2期(同氏シリーズ構成・脚本)の沼編と比較すると面白い。やはり高屋敷氏の好む所なのではないだろうか。

 あと興味深いのは、アニメにおける、お紺の台詞改変。原作では、お紺は、良庵は女癖が悪いから結婚がうまくいかないと指摘するが、アニメでは、おつねを幸せにしろと良庵を祝う。ここは、「素直」を好む高屋敷氏の意志を感じる。

 どの高屋敷氏担当作にも、「素直」を好む同氏の意向は端々に出ていて、めぞん一刻(同氏脚本・最終シリーズ構成)では、「素直が一番」という趣旨が直球で強調されているエピソードがある。

 そして今回も、22分前後の尺に収まっているのが信じられないくらい、話の密度が濃い。それでいて、ハリスの将軍謁見、良庵の結婚を軸に、わかりやすくまとまっている。

 高屋敷氏の、演出時代からある特徴の一つに、作品の雰囲気をマイルドで可愛らしくするというものがある。これは、一見ハードボイルドな、(高屋敷氏が長年一緒に仕事した)出崎統氏の監督作品の中で目立った。それが今回も発揮されている。

 そのため、家定や堀田、おつねなどのキャラがどこか原作より可愛らしくなっており、今回は、緊迫した全体の話の流れから少し独立した、微笑ましい(?)雰囲気のエピソードとしてまとまっている。そして、そのための計算や工夫は凄まじい。

 例えば、良庵と万二郎の会話の子供っぽさを強調したり、ハリスと日本側の一悶着を原作から削ったり、山犬を(アニメオリジナル展開で)どこかツンデレにしたり、堀田と家定のやりとりを可愛くしたり、良庵夫婦の初夜を(アニメオリジナルで)微笑ましくしたりといった具合だ。

 このような調整・工夫・追加により、視聴者は「今回はどこか微笑ましい話だったなあ」となる。これは並大抵の技術ではなく、やはり高屋敷氏の技術と才能が遺憾なく発揮されている。

 今回の話は、原作からのピックアップを変えて、全然違うテイストにすることもできたであろうが(平助がいる・いないも大きい)、高屋敷氏の好みや意向が垣間見えるのが興味深い。原作つきアニメは、人によって雰囲気が変わるという好例だと思う。