カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

宝島12話演出:優しくすべき人

アニメ・宝島は、スティーブンスンの原作小説を、大幅に改変してアニメ化した作品。監督は出崎統氏。高屋敷英夫氏は、偶数回の演出を務める(表記はディレクター)。
今回の脚本は山崎晴哉氏で、コンテが今切洗氏(誰かの変名)、演出が高屋敷英夫氏。

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本記事を含めた、宝島の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E5%AE%9D%E5%B3%B6

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  • 今回の話:

宝島の財宝を巡り、ヒスパニオラ号の乗組員達は、スモレット船長派と、元フリント海賊団幹部・シルバー派に分裂。そんな中、ジムは島で独り生活していた元海賊、ベン・ガンと出会う。
一方、寡黙だが有能な船員・グレーがスモレット船長派に加わる。
そして両派は、島の砦の争奪戦に突入する。

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ジムがシルバー派に追われる中、虹のかかった滝が出てくる。滝は出崎兄弟が好んで出し、高屋敷氏は、虹をよく出す。特に演出作に多い。脚本作の場合は、出す意味が、より重要になっている。
ベルサイユのばら(コンテ)、エースをねらえ!(演出)、F-エフ-(脚本)と比較。

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シルバー派の追手を何とかまいたジムは、島に独り住み着いている元フリント海賊団の一味、ベン・ガンと出会う。孤独救済は、高屋敷氏が強く打ち出すテーマの一つ。空手バカ一代(演出)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)、はだしのゲン2(脚本)と比較。

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ベン・ガンは、海賊はもううんざりだとして、ジムに助けを求める。ジムは、後で船長にかけあってみる事を約束する。中高年の人に優しい/弱いキャラクターは多い。
ルパン三世2nd(演出/コンテ)も、MASTERキートン(脚本)も、老人の願いを聞く主人公が描かれている。

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一方ヒスパニオラ号では、船員達の動向をうかがいながら、シルバー派のハンズ(舵取り係)が博打(コインの裏・表を当てる)をする。「語る」ような手のアップ・芝居付けは、演出作・脚本作ともに頻出。F-エフ-・カイジ2期(脚本)と比較。

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ハンズは、寡黙な船員・グレーを煽って博打に誘うが、グレーは無視。なんとなく、カイジ2期(脚本)にて、大槻がカイジを挑発してチンチロリン博打に誘い、(それが想定内である)カイジが、冷静にそれを受ける場面が重なってくる。

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場面が転じる所で、太陽の意味深なアップ・間がある。こちらも、あらゆる高屋敷氏担当作で確認できる。画像は太陽+鳥。F-エフ-(脚本)、家なき子(演出)、コボちゃん(脚本)と比較。特にコボちゃんは、鳥を中心にしたドラマがあり、それを太陽が見守るコンセプトになっている。

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スモレット船長達は、ハンズ達シルバー派に銃を向けるが、隙をつかれ、レッドルース(船のオーナー・トレローニの執事)を人質に取られてしまう。だが、それをグレーが救う。ここも、中高年の人への優しさが描かれる。
F-エフ-・カイジ2期・MASTERキートンはだしのゲン2(脚本)も同様。

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グレーは中立だったが、負け犬側に付く性分だとして、スモレット船長派に加わる。
カイジ2期(脚本)にて、負け組の中の負け組を率いて、大槻に立ち向かうカイジに通じるものがある。グレーもカイジも、魅力的に描写されている。

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島では、ベン・ガンがジムに、フリント海賊団の事を話す。その中で、不吉な日食の話が出てくるが、太陽や月が不吉を告げる表現は沢山出てくる。F-エフ-・マッドハウス版XMEN・蒼天航路(脚本)と比較。

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ベン・ガンは当時、島に宝を埋めに行ったフリント船長に、消えた船員達の行方を聞いたところ、機嫌を損ねた彼に、海に突き落とされたのだという(それから島で生活している)。上司の理不尽さは、カイジ(脚本)でも描かれる。

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そして、島への上陸を図るスモレット船長達と、船室に閉じ込められるも脱出したハンズ達とで戦闘になる。その中で、射撃に秀でるトレローニ(船のオーナー)が、その腕を見せる。ルパン三世2nd(脚本)でも、見かけはとぼけているが、射撃に秀でるおじさんが出る。

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戦闘の最中、レッドルースが海に落ちるが、スモレット船長達と合流したジムが彼を救出する。ここも、中高年の人への優しさが表れている。忍者マン一平(監督)、カイジ(脚本)と比較。特にカイジ(画像2段目)の方は、カイジの優しさが前面に出ている重要場面。

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そして、スモレット派とシルバー派の本格的な戦いが始まるのだった。

  • まとめ

高屋敷氏の好む「虹」は、様々な作品で見られ、興味深いところ。今回は絵面を美しくする用途であるが、人と人をつなぐ架け橋として描写されることが多々ある。太陽、月、天候など、「お天道様」に重要な役を課す高屋敷氏の特徴の一環かもしれない。

今回も太陽の意味深な「間」が出るほか、不吉な日食の描写もあり、高屋敷氏が太陽や月を、全知全能的なものとして扱っていることが(いつもながら)窺い知れる。
何故なのかは謎だが、同氏は「自然」そのものへ敬意を払う傾向があることと関係がありそうだ。

そして今回、前面に出ているのが、中高年の人への優しさ。これまた何故なのかは謎だが(多分プライベートな何かが起因?)、高屋敷氏は、中高年の人に優しいキャラクターを非常に魅力的に描く(特に、今回の場合はグレー)。場合・作品によっては感動的な場面に発展することもある。そこも面白いところ。

高屋敷氏の場合、ど根性ガエルの演出をしていた20代の頃から、中高年の人への優しさが出ており、自身が年を取ったから優しくして欲しいといった願望が原因ではないのもユニーク。同氏の生い立ちなども関係しているのかもしれない。

高屋敷氏がシリーズ構成・脚本を担当したワンナウツでは、女性が殆ど出ない中で、中高年男性達の愛嬌が目立った。
今回の場合、人質になったり、ピンチになったりと、老人であるレッドルースがヒロインポジションになっている。こういったところも個性的。

あと、10年も独りで生活していたベン・ガンを通して、高屋敷氏のポリシーの一つ、孤独救済が出ている。こちらも、作品によっては感動的な場面に繋がる要素。
カイジ(脚本・シリーズ構成)でも、構成の柱(原作にもある要素)となっており、孤独に呑まれそうになったカイジと佐原の心の交流は胸を打つ。

中高年の人に優しく、孤独な人を救済するキャラクターを、高屋敷氏は強調するが(原作つきであっても、そういう性格に改変することもある)、それがキャラクターの魅力に繋がっている。カイジの脚本・シリーズ構成でも、この技術は使われている。
カイジの魅力の一因も感じられた回だった。

ちなみにコンテの「今切洗」という名前は、どう見ても誰かの変名で、本作と元祖天才バカボンにしか出ない。高屋敷氏かもしれないし、複数名を束ねたものかもしれない。或いは、作画畑の誰か、の線もある。こればかりは、どれも推測の域を出ない。