カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

1980年版鉄腕アトム13話脚本:「悪い心」の欠如

Togetterのバックアップです。修正や追加などで再構成しています。)

1980年版鉄腕アトムは、白黒の初代の後、1980年に制作された第二作目。
監督は、後にマクロス監督となる石黒昇氏。

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ロボット展覧会の目玉であるロボット・電光は、偏光で照らさない限り、透明で姿が見えない仕様の美しいロボット。
高屋敷氏特徴・「意思を持つ“物”が人知れず様々な事象を見ている」にマッチした設定。 

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そんな電光を、スカンクが狙う。煙草演出が渋い(特徴)。カイジ2期脚本と比較。色々な作品で、煙草が原作より目立つ。今回のはアニオリ。

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スカンクは、電光を盗むことに成功する。

そしてスカンクは電光に次々と悪事をさせる。原作では悪事の描写が長いが、映像で見せることで大幅に短縮。文字演出も使い、大胆に省略している。ジョー1脚本疑惑・アカギ・カイジ2期脚本と比較。

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更にスカンクは、ヒゲオヤジに電話をかけ挑発。そこで、ヒゲオヤジはスカンクを挑発し返す(特徴:知略)。逆上したスカンクは、電光を見せると言ってヒゲオヤジと待ち合わせの約束をする。煽りの上手いカイジ(脚本)に重なる。 

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ヒゲオヤジはスカンクとの待ち合わせ場所周辺に警官隊を配置。そこへスカンク一味と電光がやってくる。だが、作戦を知らないアトムが直情的にスカンク一味を攻撃し、作戦は台無し。直情的な義憤では勝てない…というメッセージは高屋敷氏の作品に多く出る。

作戦を台無しにしてヒゲオヤジに叱られたアトムは、自室にて落ち込む。そこへ、電光が訪ねてくる。先程戦った時に、アトムが人間と違うことに気付いたためだ。

アトムは、電光を街へ連れ出し、善悪の区別を教えようとする。街がクリスマス仕様なのはアニオリ。

電光は、アトムの指示で善行をする。帽子を拾ってかけ直すのは、ジョー1脚本疑惑・赤ルパン脚本に、男にしつこく絡まれる女性を助けるのは、ど根性ガエル演出に出てくる。この善行内容はアニオリ。
悲しいことに、人々は電光が透明なので恐がる。

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それでもアトムは電光をクリスマスパーティーに誘う。
パーティーに来た電光にアトムは、位置を確認するためのパーティーハットをあげる(特徴:その人に必要な贈り物)。監督作忍者マン一平でも、仲間を救う為に髪を失った一平にサンタが帽子をくれる。

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アトムから、電光がパーティーに来ることを聞いていたヒゲオヤジは、サンタに扮して発信機入りのペンダントをプレゼントし、電光にカラースプレーをかけ、何とか足だけは視認できるようにする(特徴:知略)。発信機作戦はルパン脚本にも出る。

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スプレーを嫌がった電光は逃走、スカンクの元へ戻る。
スカンクは、視認できるようになった電光を用無しと判断。時限爆弾を持たせ、ヒゲオヤジの元に向かえと命令する。爆弾を気に入った電光は爆弾を人に渡すのを嫌がるが、結局命令に従う(特徴:無邪気)。

一方、発信機によりスカンクのアジトを突き止めたアトム達は、スカンク一味を捕らえる。
その直後、お茶の水博士から、電光が爆弾を持ってアトム宅に現れたが逃走したという連絡が入る。
発信機はスカンクにより外されてしまったため、捜索は難航。

大々的な捜索の末、電光は筑波山麓にいると判明。
吹雪の中さまよう電光の姿が、家なき子演出や、じゃりん子チエ・MASTERキートン脚本と重なる。

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電光の進行方向には病院があり、このままでは大惨事を招くとして、警官隊はやむを得ず電光を電磁分解砲で破壊する。

電光は、雪山の中死んでしまうが、MASTERキートン脚本では、雪山の中、狙撃されたセミョーノフが生き残っている。

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アトムは「誰も恨みません…」と言うも、せっかく友達になれたのに…と悲しむ。
そして夜空に星が輝くのだった(特徴:一キャラクターとしての“天“。また、ここはアニオリ)。元祖天才バカボン演出と比較。

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  • まとめ

高屋敷氏特徴である、「無邪気さ」が、今回は悲劇を招く。
また、善悪の判断がつかない電光は、原作通りの設定ながら、同氏のテーマの一つ「善悪の区別は単純ではない」を色濃く押し出しやすいキャラクターとなっている。

元祖天才バカボンにおける高屋敷氏の演出や脚本では、パパの無邪気さが大惨事を招くことが多い。元祖天才バカボンはギャグで済むが、今回は深刻で、最悪の結果を招いてしまう。
無邪気さとは何なのかも考えさせられる作りになっている。

また、同氏がよく作品に込めるメッセージである「直情的な義憤だけでは勝てない。理も必要」が、今回も、アトムの義憤がヒゲオヤジの作戦を台無しにしてしまうという流れを印象づける事により出ている。

ヒゲオヤジがサンタに扮して電光に発信機をつけ、足に塗料を付着させる場面はアニオリ。
原作では、スカンクのアジトを見つけるのも、電光の足に塗料を塗るのもアトム。
アニメではヒゲオヤジにこれをさせる事で、大人と子供の差別化を図っている。

ヒゲオヤジは今回、挑発や煽り、知略、騙しテクニックなど、大人かつ人間ならではの策を使う。
対して、子供の心を持つアトムにはそれができない…ということが招く悲劇とも取れるように、今回の話は設計されているのではないだろうか。

勝負に勝つには義憤だけでなく知略や悪知恵も必要…という高屋敷氏のテーマは、ど根性ガエル演出、まんが世界昔ばなし脚本「きつねのさいばん」からアカギ・ワンナウツカイジ脚本&シリ構まで強く発せられているが、アトムには備わっていない機能。

原作序盤でも、スカンクが「アトムは完全じゃないぜ。なぜなら、わるい心を持たねえからな」と言っている。
高屋敷氏はこれを話の焦点にしているように見える。上記のスカンクの台詞は、アニメには無いが、話全体でそれが解る作り。

人間的な悪知恵や知略を使う事をヒゲオヤジに担当させる事により、アトムに備わっていないもの…すなわち「わるい心」が浮き彫りになっている。
そして、「人間とロボット」「大人と子供」の差が淡々と描かれている。どちらが悪いとも言わず…。

それを受けての、アトムの終盤台詞「誰も恨みません…」なのではないだろうか。原作通りだが、直後のお茶の水博士の台詞、「スカンクが悪いと思いたまえ」がアニメには無い。これにより、「善悪の区別は単純ではない」という高屋敷氏のテーマを出せている。

ちなみに、電光の声は菅谷政子さんで、エースをねらえ!のマキや、家なき子のレミと同じ声。エースをねらえ!家なき子も、高屋敷氏演出参加作。それも手伝い、今回の話が「保護者がいない場合のレミ死亡ルート」にも見える。

1980年版アトムは、原作の長い話を、超圧縮して1話で完結させるスタイル。
今回、幸いな事に原作との比較ができたが、「どこを省略し、どこを強調させるか」が見えた。それにより、同氏の提示するテーマが益々見えた回だった。