カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

ワンダービートS 4話脚本:高屋敷氏の野球愛

ワンダービートSは、手塚治虫氏が企画や監修に携わったオリジナルアニメ。ミクロ化してヒトの体内に侵入し、害をなす異星人に対し、同じくミクロ化して戦う部隊・ホワイトペガサスの活躍を描く。
医学博士でもある手塚治虫氏の、医学解説コーナーもある。
監督は、前半が出崎哲氏、後半が有原誠治氏。
今回は、コンテが岩田六氏、演出が有原誠治氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

ホワイトペガサスのルーキー・ススム(主人公)と、彼のガールフレンド・マユミは、ある日、レイという野球少年と出会う。彼はレギュラーになるべく単独特訓をしていたが、ススム達も特訓に付き合うことにする。
そんなある日、レイは体調不良で倒れてしまう。原因は、ミクロ化して、レイの大静脈内に入り込んだビジュール星人だった。
ススムを含むホワイトペガサス隊は直ちにミクロ化して出動。
トラブルはあったものの、ススム達はビジュール星人が放ったモンスターを撃破。
すっかり元気になったレイは、野球を続けるのだった。

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本記事を含めた、ワンダービートSの記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%88S

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レギュラーになるべく単独特訓をしている野球少年・レイと出会ったススムは、レイのプレーの拙さに呆れ、「参ったね」と言うが、この「参ったねどうも」的なリアクションは、高屋敷氏の演出・脚本作ともに、割と多い。あしたのジョー2・忍者戦士飛影カイジ2期脚本と比較。

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ススムは、捕球についてレイに細かいアドバイスをするのだが、「もっと腰をおろさないとダメだよ」「思いっきり突っ込んで両手でしっかり掴まなきゃ」など、かなり本格的。
それもそのはずで、高屋敷氏は高校で野球部に所属しており(遊撃手)、後に、脚本業の傍ら、高校野球の監督をしていたほどの、野球経験者。
詳しく調べたまとめはこちら:

https://twitter.com/i/moments/1021405713623482369

ど根性ガエル演出の初出が野球回だったほか、野球アニメであるワンナウツグラゼニのシリーズ構成・脚本に、情熱を感じるのにも納得。

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後日、ススムがバッティングについてレイにアドバイスする場面も、「もっと脇をしめて」など、具体的。本作だけでなく、これからも、「野球経験者としての高屋敷氏」は、作品を見る上で押さえておきたい。

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レイが所属するチームの試合日が目前に迫っていた時、レイは体調不良で倒れる。原因は、体内に入り込んだビジュール星人(地球側ではヒューと呼称)であった。

直ちにレイの体内に入ることにするホワイトペガサス隊であったが、レイは治療を不安がる。ススムは、そんなレイにボールを渡し、「試合の夢でも見てな」と励ます。
ここは、「手から手へ思いを伝える」という、高屋敷氏の大きな特徴が出ている。グラゼニあしたのジョー2・陽だまりの樹脚本と比較。

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ワンダービート号(ホワイトペガサス隊の出動艇)は、ミクロ化してレイの大静脈内に入る。分析ロボットのビオは、血液循環についてよく知らないススムに呆れ、解説を始める。ここのススムは幼く、「幼さ」を数々の作品で描写してきた、高屋敷氏らしさが出ている。

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ビジュール星人は、レイの大静脈を、モンスターを使って攻撃していた。モンスターを発見したホワイトペガサス隊は、攻撃を開始。その奥に、ビジュール星の艦を発見したススムは、単独で深追いしてしまう。
ビジュール星人は、宇宙探査に出たまま行方不明になったススムの父と、何らかの繋がりがあるためであった。

ビジュール星人達は、無策で飛び込んで来たススムに呆れる。このあたり、無策で直情的な義憤に懐疑的で、知略を巡らせた具体的な策を好む、高屋敷氏のポリシーを感じる。

陣頭指揮を執るビジュール星の姫・ビジュラは、幹部に対し、好きにするよう指示。それに従い、ビジュール星人達は、再度モンスターをホワイトペガサス隊に差し向ける。

間一髪でススムを回収したワンダービート号は、ビオを使ってモンスターを解析、生命コアを発見。酵素ミサイルでコアを攻撃し、何とか制限時間(40分を過ぎると、ヒトの体内で消滅してしまう)内にモンスターを倒す。そして、それを見届けたビジュール星人達はワープアウトする。

ドクター・ミヤ(ホワイトペガサスが属するフェニックス・タワー所長)に、単独行動について怒られるススムだったが、もっと父親を信じろと言われるのだった。

一方、レイの体調はすぐによくなり、野球ができるようになる。残念ながらレギュラーにはなれなかったが、野球ができるだけで嬉しい…と、レイは晴れやかに言う。その姿に、ススムは励まされるのだった。

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  • まとめ

ど根性ガエル演出と同じく、初出の仕事が野球回。前半監督の出崎哲氏(出崎統氏の兄)は、高屋敷氏と一緒に仕事をすることが多い。そう考えると、高屋敷氏が野球経験者であることを、出崎哲氏は知っていたのではないか?と少し思ったりした(人選はプロデューサーや制作デスクにかかっていることが多いが)。

とにもかくにも、最近、高屋敷氏が高校野球の監督をするほどの野球好き/経験者だと知り、驚いている。
野球アニメであるワンナウツグラゼニのシリーズ構成・脚本に、並々ならぬ情熱を感じるだけに、この情報は大収穫だった。

今回の話の締めくくりとして、レイは「(補欠でも)野球ができるだけで嬉しい」と言うが、この台詞を通しても、高屋敷氏が野球を純粋に好きなことが伝わってくる。

グラゼニ(シリーズ構成・全話脚本)では、(原作通りだが)怪我に泣かされプロ野球選手を早々に引退した人や、プロになれなかった人の話が出てくるのだが、非常に印象に残る話運びになっている。
その根底には、高屋敷氏の「野球を愛する心」があるからだと、強く感じる。

一方で、「無策の義憤」に対して懐疑的な、高屋敷氏のポリシーが窺える。
今回、ススムは勝手な単独行動で部隊全体を危険に晒すわけであるが、敵に呆れられた上、上司に怒られている(まだ13歳ではあるが…)。

カイジ(シリーズ構成・脚本)では、兵藤会長との対決の際、義憤をもって挑んだカイジが、失策の上、それを補う策を思いつかずに、オカルト的な神頼みに走ってしまった為、敗北する。それを激しく悔やむカイジが、非常に強調されている。

1980年版鉄腕アトム脚本でも、(ほぼ原作通りだが)挑発や煽りなどの「悪知恵」を持たないアトムが、直情的な義憤のみで戦い、ヒゲオヤジの作戦を滅茶苦茶にしてしまう様が描かれた(詳細→ http://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2017/10/16/134949 )。

このように、子供・大人向け問わず、具体的な策を持たない義憤を是としない、一貫した高屋敷氏の姿勢が見える。
それが何故なのかは謎ではあるが、この姿勢が、物語に深みを与え、カイジなどの、大人向け深夜アニメで花開いた感がある。

今回はまだまだ序盤ではあるが、本作では、高屋敷氏は最終回も担当しており、ビジュール星人との複雑な関係も、今後描かれそうである。

ともあれ今回は、高屋敷氏の野球経験を踏まえた上で見ると、面白さが増す回だった。