カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

F-エフ-10話脚本:若さゆえの焦燥

アニメ・F-エフ-は、六田登氏の漫画をアニメ化した作品。破天荒だが天才的なドライビングテクニックを持つ青年・赤木軍馬が、様々なドラマを経てレーサーとなり、数々の勝負を繰り広げていく姿を描く。
監督は真下耕一氏で、高屋敷氏はシリーズ構成・全話脚本を務める。
今回は、コンテ/演出が古川順康氏、脚本が高屋敷英夫氏。

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  • 今回の話:

筑波サーキットでの練習走行時に、鼻持ちならない上位ランカー・砂井と乱闘した軍馬。聖(後の軍馬のライバル)は、色々とサーキット関係者に話をつけて、軍馬の起こしたトラブルの解決に奔走。全ては、タモツ(軍馬の親友で、メカニック)の才能に惚れ込んだためであった。その事を、軍馬はまだ知らない…

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本記事を含めた、当ブログにおけるF-エフ-の記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23F-%E3%82%A8%E3%83%95-

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開幕、高屋敷氏の大きな特徴、「物」の意味深アップ。暗いのでわかりにくいが、聖(軍馬の後のライバル)がボールをお手玉している。画像は、「物」の意味深アップ集。今回、めぞん一刻・チエちゃん奮戦記・DAYS脚本。

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聖は、タモツ(軍馬の親友で、メカニック)の腕に惚れ込み、色々と根回しする。このシーンは、アニメオリジナル。聖は、恋人のルイ子に「興味があるのはマシン」と言うが、後の展開を考えると、色々考えさせられる。本作のオリジナル部分は、伏線の宝庫。

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森岡モータース(軍馬とタモツのバイト先)の店長・森岡は、筑波サーキットでの軍馬の大暴れの顛末をタモツから聞いて驚き、軍馬と色々話し合った方がいいと助言。森岡の煙草描写が丁寧な所に、高屋敷氏の特徴が出ている。カイジ・アカギ・めぞん一刻脚本と比較。

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一方軍馬は、前回怪我した左足を病院で診てもらう。幸い、骨折はなし。
どさくさに紛れて純子(同じアパートの住人)を口説こうとする軍馬だったが、純子はそれを回避(アニメオリジナル)。なんとなく、ルパン三世2nd演出/コンテと比較。どちらも男性が、女性にいなされる。

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原作では、軍馬は女医を口説き、純子を怒らせていたが、アニメでは、あくまで純子を口説いている。「男の純粋さ」を貫く節のある、高屋敷氏らしい改変。
どのみち純子は怒り、軍馬を病院に置き去りにするが、アニメでは、岸田(軍馬を慕うインテリ青年)が、軍馬を拾う。

さらにアニメオリジナル展開は続き、岸田と軍馬は喫茶店で話す。
軍馬が片手で豪快にパフェを食べており、高屋敷氏特徴の、食いしん坊描写が出ている。元祖天才バカボン演出/コンテ、ルパン三世3期・チエちゃん奮戦記脚本と比較。

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岸田から、もうすぐFJ1600のレースがあることを聞いた軍馬は、自分もエントリーしたいから、金を貸してくれと岸田に迫る。金持ちの岸田は、最終的に金を貸す。
カイジ2期脚本にて、原作通りだが、遠藤から大金を借りるカイジが思い出される。軍馬もカイジも、人たらしな面がある。

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エントリーに行く途中、軍馬と岸田は、砂井(鼻持ちならない上位ランカー)に遭遇。この展開もオリジナル。
対峙する二人だったが、砂井は軍馬の杖を引っ張るなど、咄嗟の悪知恵を働かせる。悪知恵が冴えるキャラは、高屋敷氏の担当作には、実に多い。

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これ以上トラブルを起こすな、と聖に釘を刺されている砂井は、その場を去ろうとするが、軍馬は杖を砂井の車に投げつける。そして結局、乱闘へ。後の軍馬の談によれば、軍馬が勝ったようで、意外な結果。アニメでは、軍馬に少し華を持たせたのかもしれない(原作では、軍馬の乱闘の勝率は悪い)。

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夕刻、タモツがアパート(小森荘)に帰宅すると、聖が待ち構えていた。聖は、筑波サーキットにおける軍馬と砂井の乱闘の件について、軍馬が一筆書けば丸く収まるよう、サーキット関係者に話をつけてくれていた。だが軍馬は、乱闘は自分だけの責任ではないとして反発。ここの軍馬は、原作もアニメも幼い。

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砂井にも一筆書かせろと、軍馬はペンを聖の方に転がす。聖はそれを了解し、軍馬の方へペンを転がし返す。この演出はアニメオリジナルで、「手+物」の意味深な表現にこだわる、高屋敷氏らしい。
画像は「手+物」の意味深表現集。
今回、めぞん一刻・チエちゃん奮戦記脚本。

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軍馬は、頼みもしないのに、妙に親切で恩着せがましいと、聖を怪しむ。軍馬は本能的に、聖に何か魂胆があることだけは当てる。カイジ脚本では、さらに複雑な腹の探り合いが展開されていく。高屋敷氏は、多くの作品にて、心理戦を描写/強調している。

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軍馬の推理は半分当たったものの、ターゲットがタモツであることまでは見抜けず。そして、聖が買っているのは自分なのだと、軍馬は自画自賛し始める。聖は内心苦笑しながら、それを肯定。
気を良くした軍馬は、謝罪文を一筆書く。

軍馬は聖に、近々行われるレースに、自分も出ると宣戦布告。タモツは驚き、そして、軍馬が岸田にエントリー料を借りたことを知って愕然とする。
軍馬は、ガタガタ言うなと、タモツを突き飛ばす(アニメオリジナル展開)。
それを目にしながら、聖は小森荘を後にする。

タモツは真剣な顔つきになり、「何をそんなに焦ってるんだよ」と軍馬に問う。
軍馬は、「あ、焦ってなんかねーぜ!俺はな、お前みたいにつまんねーことでウジウジしたかねえんだよ」と返し、そっぽを向く。この会話もアニメオリジナル。高屋敷氏は、若者の感情のぶつけ合いを描くのが上手いと思う。

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一旦頭を冷やすため外に出たタモツに、聖が声をかける。聖は、タモツのメカニックの腕を褒め、友達になりたいと言い残して去る。
アニメオリジナルで、タモツと軍馬の口論を差し挟んだのが効いている。タモツと軍馬の間に、聖が入り込める隙を作っており、意義のあるオリジナルと言える。

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後日、聖はタモツに電話をかけ、あらためてタモツの才能を買っていることを告げ、今度ヨーロッパから来る、新しいマシンを見に来ないか…と誘う。
タモツを口説いている間、意味深にボールを持つ手が映る。「思いを込めた物を持つ手」のアップ・間は、高屋敷氏の作品に頻出。グラゼニMASTERキートンあしたのジョー2脚本と比較。

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聖は、風呂上がりのルイ子に向かい、彼(タモツ)は本物だ、と断言。ルイ子は、そんな聖に抱きつき、その拍子にバスタオルが落ちる(アニメオリジナル描写)。ここも、高屋敷氏の特徴である、意味深な「物」の描写。めぞん一刻あしたのジョー2・コボちゃん脚本と比較。

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一方軍馬は、病院に行く途中、ゲームセンターに立ち寄ってレースゲームをする。これもアニメオリジナル。ここでの軍馬の幼さは、ルイ子とのアダルトな関係を匂わせる聖と対照的。長年「幼さ」を描いて来た高屋敷氏の才が発揮されている。

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  • まとめ

タモツと軍馬の関係に、歪みやねじれが生じて来るわけだが、アニメオリジナルで岸田を投入したことが、うまく効いている。
岸田を絡めて発生した、軍馬とタモツのイザコザは、二人の間に聖が入り込む隙を作っている。こういった「意義のあるオリジナル」は本作に多く、感心する。

そして、オリジナル会話である、「何をそんなに焦ってるんだよ」「お前みたいにつまんねーことでウジウジしたかねえんだよ」―このあたりの感情のぶつかりあいは、実に「若さ」が出ていて良い。「幼さ」を描くのに長ける高屋敷氏は、「若さ」の表現も上手い、ということか。

最近、検索で知って驚いたのだが、高屋敷氏は高校の野球部の監督をしていた時期があったそうだ:

http://blog.livedoor.jp/yomei713/archives/51020566.html

そういった経験も、「若さ・幼さ」の表現の巧みさに繋がっているのかもしれない。

原作では、何でもいいから勝ちたくて、軍馬は病院の帰りにパチンコを打つのだが(結果、景品はゲットしている)、アニメでは岸田を絡ませ、砂井との喧嘩に勝つ流れになっている。複雑かつ上手い代替案だと思う。

軍馬は、若さゆえの焦燥を常に抱えており、それは聖の存在により、更に強まる。
その聖が目の前に現れたのだから、軍馬の焦燥感はピークに。タモツの言う、「何をそんなに焦ってるんだよ」は的を射ている。

高屋敷氏は、人間の心理、特に心の病について鋭い視点を持っていて驚かされるのだが、「若さゆえの、心の葛藤」についても、描写が上手いのだと感じた。
本作は、原作からして、「存在理由」や「父親越え」などの、心理系の要素が入っており、高屋敷氏との相性は良い。

相性が良いというより、高屋敷氏が得意とする要素を、原作から上手く引き出していると言うべきだろうか。
アニメにて、何を強調し、何を伝えていくべきか。原作つきアニメでは、ここが重要な点であり、難しい点でもある。高屋敷氏は、「アニメ版のテーマ」の仕込みが上手く、シリーズ構成作品では、それが更に巧妙。

本作にて、軍馬が原作より多少「幼く」なっているのは、やはり何らかの構成上の「仕掛け」を感じずにはいられない。ゲームセンターで遊ぶ軍馬と、聖・ルイ子の大人な関係の対比は、そのうちの1つであるのは明らか。

幼さ・若さ…そういった表現の巧みさの果てに、何が描かれるのだろうか。高屋敷氏の作品は、それが終盤になると怒涛のように明らかになる場合が多い。それを踏まえて、今後も見ていきたい。