カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

新ど根性ガエル1A話脚本:第1話の密度

『新・ど根性ガエル』は、吉沢やすみ氏の漫画をアニメ化した作品(アニメ第1作がある)。シャツの中で生きるカエル・ピョン吉と、シャツの持ち主・ひろしを軸にしたギャグ話。
今回の演出/コンテはF.H.キノミヤ(=年配の方の小林治)氏で、脚本が高屋敷英夫氏。

───

当ブログの、(本記事を含む)新ど根性ガエルに関する記事一覧:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E6%96%B0%E3%81%A9%E6%A0%B9%E6%80%A7%E3%82%AC%E3%82%A8%E3%83%AB

───

  • 今回の話:

遅刻魔のひろし(主人公)は、今度遅刻したら落第だと脅され、学校への最短ルートを探ることにする。

───

脚本とは関係ないのだが、サブタイトルコールのアニメは、ひろし(主人公)と五郎(ひろしの後輩)のジャンケン。
高屋敷氏は、家なき子最終回(演出)、カイジ(脚本)、本作…とジャンケンに縁があって面白い。

f:id:makimogpfb:20201101130548j:image

開幕は、ひろしが朝食を食べる所から始まる。おいしそうに物を食べるシーンは頻出。柔道讃歌(コンテ)、F-エフ-・カイジ2期・グラゼニ(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20201101130613j:image

ひろしが、お椀を舐めるのだが、何かを舐めたり舌を出したりする場面は結構ある。
はだしのゲン2(脚本)、ど根性ガエル・宝島(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20201101130641j:image

ひろしの母は、どんなに遅刻しそうでも朝食をしっかり食べるひろしに、半ば呆れる。優しく、しっかり者で、男子の心を理解してくれる母親像は、柔道讃歌(コンテ)や宝島(演出)などでも見られる。高屋敷氏が理想とする母親像かもしれない。

f:id:makimogpfb:20201101130712j:image

ひろしの母は、洗濯物を干す。こういった場面は、めぞん一刻・F-エフ-・あしたのジョー2(脚本)ほか、しばしば見られる。
ちなみに、高屋敷氏が長年一緒に仕事した出崎統氏も、物干し場演出を好む(あしたのジョー2の監督は出崎統氏)。

f:id:makimogpfb:20201101130738j:image

遅刻しそうで走るひろしを、梅さん(寿司職人)は「8時半の男」とからかう。
かなり短い時間で、梅さんの職業・性格・ひろしとの関係が、わかりやすく描写されている。RAINBOW-二舎六房の七人-・ガンバの冒険(脚本)でも、複数のキャラ立てを上手く行っている。

f:id:makimogpfb:20201101130818j:image

ひろしは近道するも転び、結局遅刻。南先生(数学/体育教師)に、出席簿でどつかれる。家なき子(演出)、ルパン三世2nd(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)ほか、フルスイングで人をどつく場面は数々の作品にある。

f:id:makimogpfb:20201101130851j:image

今度遅刻したら落第させると怒り散らす南先生をなだめようとして、ひろしは肘で南先生を小突く。人を肘で小突くのは、宝島(演出)にも見られ、重なるものがある。

f:id:makimogpfb:20201101130942j:image

結果、ひろしは南先生に更にどつかれる。ひろしは、南先生は暴力教師だとクラスメイトに訴えるが、クラスメイトは知らんぷりする。皆が知らんぷりするギャグは、ガンバの冒険(脚本)にも見られた。

f:id:makimogpfb:20201101131005j:image

放課後、先生達は、今度ひろしが遅刻したら落第させようと話す。実はこれは、窓から覗いているひろしに聞こえるよう打った芝居。実は優しい心根で子供を導く大人の姿は、空手バカ一代(演出/コンテ)やF-エフ-(脚本)ほか印象深いものが多い。

f:id:makimogpfb:20201101131040j:image

先生達の芝居とも知らず、落第の話を信じたひろしは落ち込み、とぼとぼ歩く。美しい背景を映して情感ある「間」を作るのは、演出作でも、(不思議なことに)脚本作でも見られる高屋敷氏の特徴。めぞん一刻・F-エフ-(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20201101131104j:image

五郎と京子(ひろしのガールフレンド)は、ひろしに声をかける。落ち込む人の傍に友達がいてくれる展開は、F-エフ-・陽だまりの樹(脚本)ほか、数々の作品にある。

f:id:makimogpfb:20201101131127j:image

ひろしは、学校まで一直線で行ける経路を、五郎と共に探ることにし、早速行動を起こす。二人を見送る京子は呆れる。
ダンクーガ(脚本)でも、子供っぽい男性陣に、紅一点の沙羅が呆れる場面がある。

f:id:makimogpfb:20201101131152j:image

学校まで直線で行く経路は、一般家屋を通りぬけねばならない。
複雑でトリッキーな地形の描写は、アンパンマン(脚本)にも見られる。

f:id:makimogpfb:20201101131218j:image

家屋から家屋へと通り抜ける際、着替え中の女性を見てしまった五郎とひろしは、笑い合う。
おにいさまへ…グラゼニ・F-エフ-(脚本)などなど、高屋敷氏は友達同士の仲良し描写が上手い。

f:id:makimogpfb:20201101131243j:image

家屋を抜けて広場に出たひろしは、石につまづき転ぶ。奇しくもそれは、朝につまづいた石と同じであった。
ずっこけ描写は、宝島(演出)やルパン三世2nd(演出/コンテ)ほか、様々な作品で見られる。

f:id:makimogpfb:20201101131311j:image

ひろしは、つまづいた石が、かつてピョン吉(ひろしのシャツで生きているカエル)が自分のシャツに貼り付く原因になった石だと気付く。ピョン吉とひろしは、それを懐かしむ。夕暮れの中の友情描写は多い。おにいさまへ…・F-エフ-(脚本)と比較。

f:id:makimogpfb:20201101131336j:image

学校への直通地下道を掘ることを思いついた五郎とひろしは、翌朝早起きし、枯れ井戸から地下に入って地下道を掘る。
地下での作業といえば、カイジ2期(脚本)の地下労働が重なる。画像を用意できなかったが、家なき子(演出)にも地下労働(炭鉱)が出る。

f:id:makimogpfb:20201101131402j:image

ひろし達は地下道を掘り進めるが、大きな石に阻まれる。
まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)でも、地下を掘り進む作戦が出ており、絵面含めて重なってくる。

f:id:makimogpfb:20201101131423j:image

地下にある大きな石の先端は、ひろしとピョン吉の出会いの発端になったものだった。ピョン吉は涙ながらに、ひろしが遅刻しないために(上から掘って)石を取り除く事を承諾。宝島(演出)やカイジ2期(脚本)など、キャラの泣き顔は印象に残る。

f:id:makimogpfb:20201101131452j:image

ひろし達が地面を掘り進めている間、カラスが映るが、状況や心情と連動するカラス描写は多い。F-エフ-・カイジ(脚本)、宝島(演出)と比較。

f:id:makimogpfb:20201101131520j:image

通りかかった梅さんも加わり、ひろし達は石を取り除こうとするが、石の巨大さと、地下の構造に気付く。地形の複雑な構造を使う話の構成は、やはりアンパンマン(脚本)を彷彿とさせる。

f:id:makimogpfb:20201101131606j:image

ひろしと五郎は、顔を見合わせる。ここも二人の仲良しさの描写がかわいい。
F-エフ-・グラゼニおにいさまへ…(脚本)ほか、かわいい友情描写は、高屋敷氏担当作で目立つ。

f:id:makimogpfb:20201101131633j:image

ひろし・五郎・梅さんは、精根尽き果てる。3人組単位での仲良しぶりも、よく出る。グラゼニおにいさまへ…(脚本)では、原作を改変してまで(原作には無い組み合わせを作って)、仲良し3人組の描写を増やし、友情を前面に出している。

f:id:makimogpfb:20201101131657j:image

一方、南先生と、宝寿司の大将(梅さんの上司)は、カンカンに怒っていたのだった。
怒りのリアクションが、ルパン三世2nd(演出/コンテ)や、キャッツアイ(脚本)と重なってくる。傾向として、単語の連呼や、身ぶり手ぶりの子供っぽさがある。

f:id:makimogpfb:20201101131718j:image

  • まとめ

初代ど根性ガエル(アニメ)にも、ピョン吉とひろしが出会った切欠の石の話がある。実は巨大な石というのは同じだが、初代の方は大がかりな土木工事に発展し、本作の方は、ひろし達が掘るも断念。どちらも話の組み立てが凝っている。

今回は1話ということで、ある程度のキャラ紹介や、作品世界の設定を見せる必要がある。それをこなしつつ、学校への近道を探るという日常(?)回を見せていく構成は、システマチックな脚本を書く高屋敷氏らしいと言える。

学校への近道を探るというコンセプトで、ひろし達の住む町の設定を見せていくのも上手い。本作の美術監督である水谷利春氏は、知る人ぞ知る名手で、同氏の技術を最大限に生かした話作りにもなっている。

30分内2話構成で、尺が約10分しかないのに、情感ある「間」を形成したり、1話内に走らせるエピソードが複数あったり(キャラ・作品設定の紹介、日常、町の紹介、遅刻防止作戦、過去回想、オチほか)するのも凄い。高屋敷氏の技巧が感じられる。

学校への直通地下道を掘るという大作戦に発展するのも、凝っていて回りくどい作戦を好む高屋敷氏らしい。アンパンマンの同氏脚本回でも、ばいきんまんが凝った回りくどい作戦を立てまくる。こういった癖を見ていくのも面白い。

地下道を掘る作戦は、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)にも出るわけであるが、高屋敷氏は色々な作品に映画のパロディーやオマージュを入れる傾向にある。そこから推測するに、地下道ネタは映画『大脱走』が元になっているのかもしれない。

高屋敷氏の大きな特徴である、大人達や仲間達の温かさについても、しっかりと出ている。母や先生といった大人達は、内心ではひろしを温かく見守っているし、仲間達は、落ち込むひろしを放置しない。こういった人々の繋がりの大切さは強く出ている。

こういった「人々の温かさ」の表現については、カイジ(シリーズ構成・脚本)でも如実に表れている。原作からどこを強調するかは個人によって異なることが、高屋敷氏の担当作を見ていくとわかってきて、興味深い。

今回も、相変わらず凝った構成の話作りや、一貫したテーマの強調が見られるわけであるが、比較的初期の担当作である、ガンバの冒険(脚本)にも、その傾向は見られる。70年代~現代まで、この技巧を保ち、研ぎすましているのは、やはり凄まじい。

ちなみに、今回の演出/コンテの“F.H.キノミヤ”は、小林治氏(年配の方。同姓同名のアニメ演出家がいるが別人)の変名であることが、数年前の同氏の個展で明らかにされた。最近の同氏の変名は“ススキダトシオ”。参考までに記しておく。