新ど根性ガエル17A話脚本:金の使い所
『新・ど根性ガエル』は、吉沢やすみ氏の漫画をアニメ化した作品(アニメ第1作がある)。シャツの中で生きるカエル・ピョン吉と、シャツの持ち主・ひろしを軸にしたギャグ話。
今回の演出/コンテは山田みちしろ氏で、脚本が高屋敷英夫氏。
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当ブログの、(本記事を含む)新ど根性ガエルに関する記事一覧:
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- 今回の話:
年末(12/30)、部屋を綺麗にしなければ退去してもらう、と大家さんに怒られた南先生(数学/体育教師)は、ひろし達に大掃除を手伝ってもらおうとする。
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冒頭、南先生(数学/体育教師)の住むアパートの部屋の流しが映る。流しや皿洗いで「間」を作るのは、しばしば見られる。めぞん一刻・おにいさまへ…・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。
部屋が汚いのと、家賃の滞納とで、せめて部屋を綺麗にしなければ退去してもらうと大家さんに怒られた南先生は、掃除が捗らず途方にくれる。一人暮らしの独身男の虚しさは、めぞん一刻・カイジ・グラゼニ(脚本)でも生々しく描写されている。
そこで南先生は、おいしいものが食べ放題の忘年会を開くといって、ひろしとその仲間達を自宅に招く。怪物王女・F-エフ-(脚本)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、ガンバの冒険(脚本)など、キャラの食いしん坊描写は多い。
南先生の狙いが、大掃除の手伝いをさせることだとわかったひろし達は帰ろうとするが、掃除を手伝ったら予算2万円(南先生の現在の全財産)で忘年会を開くという南先生の提案に乗る。一旦シラケてからノるリアクションは、ガンバの冒険(脚本)にもある。
大掃除の手伝いが大変なので、ひろしは、通りがかった梅さん(寿司職人)を上手く誘い込んで手伝い要員にしようとする。アンパンマン(脚本)、元祖天才バカボン・ルパン三世2nd(演出/コンテ)、カイジ2期(脚本)など、頭を使うキャラは多い。
結局梅さんには逃げられたが、ひろし達は掃除を完了。約束を反故にしようとした南先生だったが、部屋を再び汚すとひろし達に脅され、2万円を出す。グラゼニ・カイジ(シリーズ構成・脚本)などなど、高屋敷氏は金が絡む話に縁がある。
その後、食材は揃ったものの酒が無いので、南先生は五郎(ひろしの後輩)に酒を買ってきて欲しいと頼む。五郎は、一旦意地悪な冗談を言うも、酒を南先生に渡す。MASTERキートン・カイジ2期・グラゼニ・陽だまりの樹(脚本)ほか、酒好き描写も多い。
そして、寄せ鍋の準備ができる。飯テロは高屋敷氏担当作の定番中の定番。グラゼニ・F-エフ-・チエちゃん奮戦記(脚本)と比較。
金を出したのは自分なのだからと、南先生は最初に箸をつける。
美味しそうに食べ物を食べる描写も頻出。
チエちゃん奮戦記・グラゼニ・カイジ2期(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。
そして皆も食べ始める。やはり美味しそうだと視聴者に感じさせる描写が上手い。
グラゼニ(脚本)、ガイキング(演出)、アンパンマン・カイジ2期(脚本)と比較。
そこへ梅さんが来る。最初は警戒する南先生だったが、梅さんが酒と寿司をちらつかせたので歓迎する。仲間や家族が集結して温かい空気になるのは、1作目ど根性ガエル(演出)、めぞん一刻(脚本)、元祖天才バカボン(演出/コンテ)、家なき子(演出)ほか多い。
そして宴は夜更けまで続く。
窓の灯りで温かさを出すのは、色々な作品で見られる。家なき子(演出)、めぞん一刻・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。
翌朝、再度散らかった部屋を大家さんに見られた南先生は、掃除を手伝わせるべく梅さんを追いかけまわすのだった(ひろし達は確保済)。大の男同士でバカをやる様は、めぞん一刻(脚本)でも強調されている。
- まとめ
キャリア初期の、1作目ど根性ガエル(演出)から、高屋敷氏は年末年始エピソードを多々手がけている。そして殆どの場合、仲間達や家族が共に温かな時間を過ごす展開になっている。
1作目ど根性ガエル13B話(演出)は、大晦日、蕎麦屋に客を取られ困っている梅さんのために、町の皆が梅さんの働く寿司屋にやってくるエピソード。今回は、その恩返しのように、梅さんが寿司と酒を持ってきてくれる。
1作目ど根性ガエル13B話(演出)も、今回も、孤独な人のもとに皆がやってきて盛り上がる作りであり、孤独は万病のもと、それを癒すのは人と食べ物だという高屋敷氏のポリシーが強く感じられる。
おにいさまへ…28話(脚本)でも、絶望の中にいるマリ子(ヒロイン・奈々子の友人)がホットドッグを食べるアニメオリジナル場面が印象的に描かれており、こちらも「人」と「食べ物」が孤独に対する「薬」となっている。
以前書いた、おにいさまへ…28話についてのブログ記事はこちら:
https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2019/05/19/135033
めぞん一刻(脚本・最終シリーズ構成)でも、隙あらばアパート・一刻館の住人達が五代(一刻館の住人であり主人公)の部屋で酒盛りをするが、これはこれで温かいものを感じさせる作りになっている。
カイジ2期(シリーズ構成・脚本)でも、一人寂しく暮らす坂崎と、そこへ転がりこんだカイジとの間に、いつしか温かい感情が芽生える。特に札幌の競馬場まで坂崎を追いかけてきたカイジの場面は情緒あるものになっている。
高屋敷氏は、孤独は最悪の場合「死」につながるものであり、そのためには家族だけでなく仲間が、人を「孤独にさせない」ようにするべきといったことを、あらゆる作品で強く訴えている。
そして、その恐ろしい「孤独」になるリスクが高いのは一人暮らしをする人である。思えば今回の南先生も、カイジ1期(シリーズ構成・脚本)序盤のカイジも、なかなかに鬱屈したものを抱えており、危うい状態と言える。
今回、なけなしの金で釣ったとはいえ、ひろし達や梅さんのお陰で、南先生は忘年会ができたし、カイジ1・2期(シリーズ構成・脚本)のカイジは長い長い激闘の末に、救った仲間と焼き肉パーティーができている。比べると面白い。
今回、(成り行きだが)孤独から脱け出すために、南先生は「正しく」金を使ったと言える(勿論それまでの人望あってこそだが)。カイジ2期(シリーズ構成・脚本)のカイジもまた、仲間を助ける為に全ての金を使った。こちらも比べると面白い。
高屋敷氏は、宝島(演出)、アカギ・カイジ・ワンナウツ・グラゼニ(シリーズ構成・脚本)ほか、「金」が絡む物語に縁があるわけだが、どれもドライなだけではなく、奥底にはウェットなものがある。その塩梅が、同氏は巧みと言える。
今回は、孤独から脱け出すこと、おいしいものを食べること、笑顔になること、そのために金をつかうこと―という高屋敷氏のポリシーがシンプルにまとまっており、同氏らしいコンセプトの回だった。