カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

ルパン三世2nd43話脚本:金の奥の「生」

ルパン三世2ndは、アニメ・ルパン三世の第2シリーズ。ルパンのジャケットが赤いのが目印。今回のコンテは石黒昇氏で、演出が三家本泰美氏。そして脚本が高屋敷英夫氏(毛利蘭名義)。

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本記事を含めた、当ブログにおけるルパン三世の関連記事一覧:
https://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E3%83%AB%E3%83%91%E3%83%B3%E4%B8%89%E4%B8%96

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  • 今回の話:

アニメオリジナルエピソード。香港を舞台に、ルパンらが北京原人の骨をめぐる争奪戦を繰り広げる。

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今回の舞台は香港。太陽の使者鉄人28号(脚本)、空手バカ一代(演出)も香港が舞台となっている。

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香港の人気奇術師である陳東南は、見事なパフォーマンスで観客を沸かせる。
中華系で、何らかの達人というキャラは、空手バカ一代(演出)、アンパンマン(脚本)でも出てくる。

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そこへ不二子(女泥棒)がファンを装って近付き、陳のメガネを盗聴機つきのメガネとすりかえる。
高屋敷氏は、カイジ(脚本)など、イカサマや騙しのテクニックを使う話に縁がある。今回のようなアニメオリジナルも多い。

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一方、香港に来ていたルパンは銭形(ルパンを追う警察官)に追われ、陳のステージに逃げ込む。「男同士はイヤ」とルパンが銭形に言うが、おにいさまへ…グラゼニ(脚本)ほか、同性同士のイチャイチャは目立つ。

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陳は、奇術を使い銭形をまく。そしてルパンに、香蘭という女性を探して欲しいと依頼する。
途中、陳の本名が洪秀全だと、ルパンは偶然耳にする。本気モードだと豹変するのは、カイジ2期・MASTERキートン(脚本)などでも目立つ。

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洪秀全という名前に聞き覚えがあったルパンだったが、結局思い出せず。おまけに美女に財布をスられてしまう。
ルパンはホテルでビールを飲み、その事を嘆く。ビールテロは頻出。カイジ2期・MASTERキートン(脚本)と比較。

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そしてルパンは、偶然不二子を見かける。ルパンはボーイを使って不二子を離席させ、その間に、不二子が陳を盗聴している事を知る。アンパンマン・新ど根性ガエル(脚本)ほか、咄嗟の悪知恵が働くキャラは多くの作品に出る。

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陳(洪秀全)によれば、過去に盗み出した北京原人の骨を、香蘭の夫の遺骨と偽り、香蘭に管理させていたのだという。
ルパンは不二子が戻ってくる前に、盗聴先を銭形に変えるイタズラをする。ここも、元祖天才バカボン(演出/コンテ)やアンパンマン(脚本)等と同様、悪知恵が働く。

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さらにルパンは不二子に、一人で陳(洪秀全)と接触するのは危ない、というメモを残す。
宝島(演出)やF-エフ-(脚本)など、手紙が重要な役割を担う場面は多い。

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戦中戦後の混乱で行方不明になっていた北京原人の骨をコレクションにしたいと、仲間である次元や五ェ門に説くルパンだったが、次元は興味が無く酒を飲む。MASTERキートングラゼニ・チエちゃん奮戦記・陽だまりの樹(脚本)ほか、酒好き描写は多い。

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もともと香港にはバカンスに来たのだとして、次元も五ェ門もルパンの話に乗らない。ルパンはへそを曲げ、単独でやることにする。ルパンの所作が子供っぽい。
宝島(演出)、陽だまりの樹(脚本)ほか、キャラの幼い所作は(年齢問わず)多く出てくる。

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念のため不二子は、ルパンの背中に特殊な液体金属を付着させ、それを探知できる装置を使ってルパンの動向を探ることにする。
まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)、忍者戦士飛影(脚本)ほか、慎重で狡猾なキャラは結構出る。

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屋台で食事中、銭形は偶然ルパンを見かけて追いかける。チエちゃん奮戦記・ストロベリーパニック(脚本)、ど根性ガエル(演出)ほか、食いしん坊描写は頻出。

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袋小路に追い詰められたルパンだったが、先頃会った女スリに助けられ、一緒に逃げることに。中国拳法を使うキャラは、太陽の使者鉄人28号アンパンマン(脚本)、空手バカ一代(演出)にも出る。

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女スリの名前は春蘭。ルパンの財布に入っていた、(陳から渡された)香蘭の写真について尋ねたいことがあり助けたという。
太陽の使者鉄人28号(脚本)にも、春蘭という名前のキャラがいる。

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春蘭とルパンは、春蘭宅で話す。春蘭は、香蘭と二番目の夫との間の子で、香蘭は既に鬼籍。そこでルパンは、春蘭から納骨証明書を受け取る。そこへ銭形が乱入するが、ルパンは鮮やかに逃亡。ど根性ガエル(演出)や元祖天才バカボン(演出/コンテ)ほか、手際が見事なキャラは結構出る。

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一方、不二子は陳(洪秀全)にルパンの位置情報を見せ、手を組まないかと持ちかける。陳はそれを承諾。「ルパンはコレクションを金に換えない」と不二子は言うが、高屋敷氏の考えるルパン像かもしれない。

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納骨堂に来た所で、陳(洪秀全)は不二子を裏切る。また、部下を使い、一足先に来ていたルパンから骨壺を奪う。
そこへ五ェ門と次元が来て、ルパンと不二子を助ける。グラゼニカイジ2期(脚本)ほか、仲間愛は強調されることが多い。

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銭形も絡んで、大アクションの末、何とか骨壷をゲットしてホテルに戻ったルパンは上機嫌で、ボーイに高額のチップをはずむ。めぞん一刻らんま1/2(脚本)ほか、存在感のあるモブが出る作品は多い。

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ホテルでルパンを待っていた皆によれば、数年前に納骨堂は火事にあい、いま骨壷に入っているのは北京原人の骨ではないという(銭形の乱入で春蘭が言いそびれた)。まさに骨折り損で、ルパンは落胆。骨折り損な顛末は、新ど根性ガエルカイジ(脚本)も印象深い。

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  • まとめ

正直に言うと、話も作画も今一なため、一旦特集をスキップした回なのだが、やはりコンプリートを目指したいので特集することにした。今見てみると、面白い点も多々ある。

先述の通り、空手バカ一代(演出)、アンパンマン・太陽の使者鉄人28号(脚本)でも、何らかの達人である中華系キャラが出てきているのが面白い。“陳”(空手バカ一代)や“春蘭”(太陽の使者鉄人28号)といった名前も共通している。

今回の話が今一と感じてしまうのは、所々ガバガバなのと、カタルシスの無さなのだが、後にこれをベースに、太陽の使者鉄人28号アンパンマン(脚本)のエピソードが出来ているのに気付くと、俄然面白くなってくる。

また、ど根性ガエル(演出)や元祖天才バカボン(演出/コンテ/脚本参加)は、本作より前の作品だが、ど根性ガエルのひろしや、元祖天才バカボンのパパの、頭の回転の速さや悪知恵が働く所が、ルパンに継がれていると感じられる。

一方、アンパンマン(脚本)は本作より後の作品だが、ばいきんまんの狡猾さは、本作のルパンや不二子などを彷彿とさせる。
このように、作品が時代を経て繋がっていくのが面白い。

あと、ど根性ガエルっぽさがあるのは、演出の三家本泰美氏、コンテの石黒昇氏、脚本の高屋敷氏が、ど根性ガエルのスタッフだったため自然な流れと言える。

そして高屋敷氏は、キャラを掘り下げることに長けるのであるが、短いながらも「ルパンはコレクションを金に換えない」という事を主張したいのが感じられる。原作のルパン像はミステリアスなので、各スタッフそれぞれのルパン像があり、興味深い。

本作の高屋敷氏の、他の脚本回(132話)でも、ルパンが自分のコレクションにこだわっていた。同氏は、アカギ・カイジワンナウツグラゼニ(シリーズ構成・脚本)と、「金」が絡む話に携わっているので、一見意外に見えるが、注目したい点である。

以前書いた、ルパン三世2nd132話についてのブログ記事はこちら:

https://makimogpfb2.hatenablog.com/entry/2018/02/25/140244

アカギ・カイジワンナウツグラゼニ(シリーズ構成・脚本)では、物語の中で「金」を扱いつつも、その奥底にある「生」が描かれているのが、シリーズ全体を見るとわかる作りになっている。「金」は重要だが、決してそれだけの話にはなっていない。

高屋敷氏の主張したい「コレクションを金に換えない」ルパン像もまた、(同氏なりに考えた)ルパンの生きざまのようなものを感じさせる。同氏の、キャラを掘り下げる手腕は、やはりこの頃から光るものがあるし、拘りが感じられる。

そう考えていくと今回は、(全体的には今一でも)重要な「キャラの掘り下げ」がさりげなく出たり、後の作品のベースになっていたりと、高屋敷氏の作風を探る上では欠かせないものになっている回だった。