カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

陽だまりの樹22話脚本:高屋敷氏と巨匠達

アニメ『陽だまりの樹』は、手塚治虫氏の漫画をアニメ化した作品。激動の幕末期を生きた、武士の万二郎と、蘭方医の良庵の物語。監督は杉井ギサブロー氏、シリーズ構成は浦畑達彦氏。

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  • 今回の話:

サブタイトル:「暁の強襲」

コンテ:前田康成氏、演出:いわもとやすお氏、脚本:高屋敷英夫氏。

浪士集団・真忠組を討つため、万二郎は配下の陸軍部隊や、軍医に就いた良庵と共に九十九里へ向かう。
万二郎は夜明けに隊を真忠組本拠地に突入させる。

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時は文久3年の冬。季節をうまく表現したナレーションがアニメオリジナルで入る。高屋敷氏は、季節の情緒を重視する。
めぞん一刻(脚本)、家なき子(演出)、蒼天航路(脚本)と比較。

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浪士集団・真忠組を討つため、万二郎は配下の陸軍部隊や、軍医に就いた良庵と共に九十九里へ向かう。
万二郎の相変わらずの堅苦しさに、良庵は不満顔。
ダンクーガ(脚本)ほか、子供っぽい諍いは高屋敷氏の得意分野。

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万二郎達は、一旦昼休みをとる。ここで原作だと平助(万二郎を慕う、戦闘力の高い猟師)の話が出るが、彼はアニメに出ないので台詞が調整されている。
また、魚が映るが、魚による「間」はしばしばある。コボちゃんあんみつ姫(脚本)と比較。

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すると部下の隊員達が、通りがかりの旅の娘にちょっかいを出したため、万二郎はそれを叱り、その娘に謝る。
その際良庵が、万二郎と、旅の娘の会話に割って入るが、そこはアニメオリジナル。良庵の女好きがよく出ている。

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良庵は、万二郎が、旅の娘に魅了されたのを見抜き、彼女を見送った後、万二郎の奥手ぶりをからかう。ここのやりとりはアニメオリジナル多め。ここも子供っぽい関係性が強調されている。F-エフ-・DAYS(脚本)と比較。

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実は旅の娘は、綾という名であり、真忠組の中心人物となった楠音次郎(万二郎と因縁がある浪士)の妹。音次郎は、万二郎達の動向を綾に聞く。
アニメオリジナルで鳥の描写がある。こういった表現は多い。ベルサイユのばら(コンテ)、宝島(演出)と比較。

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音次郎は、綾から聞いた情報を真忠組幹部達に話す。相手は農民の寄せ集めだと一部の者が笑うのはアニメオリジナル。高屋敷氏はモブに存在感を持たせる。
また、原作ではこの場に綾がいるが、アニメではいない。そのため台詞の改変が結構ある。

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さらなる情報を求め、音次郎は綾に、再度万二郎達の動向を探るよう命じる。綾は真忠組に懐疑的で、江戸に戻ろうと音次郎に訴えるが、音次郎は譲らず。
ここもアニメオリジナルで鳥の描写がある。カイジ・F-エフ-(脚本)と比較。

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その際、アニメオリジナルで、真忠組の者たちが鳥に向かって銃を撃って遊ぶ。ここもアニメはアニメなりの暗喩表現が意味深。

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渋々ながら、綾は鳥追いに変装して、万二郎達のもとへ向かう。道中彼女が、子供の頃の優しかった音次郎を思い出すのはアニメオリジナル。高屋敷氏は、キャラの掘り下げが得意。

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一方万二郎は、隊を突入させる時刻について地元の軍使と議論。自分に任せてほしいとして、万二郎は、隊を休ませる必要を考慮し明け方を突入時刻と決める。
それを綾が密かに聞く。
アニメでは、色々原作を簡潔にまとめている。

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その後、綾は警護の者に捕えられる。万二郎は、綾を見て驚く。彼女が連行された後、万二郎の意味深な表情がアニメオリジナルで追加されているほか、原作であったヒョウタンツギのギャグが削られており、その調整のための改変が見られる。

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そこへ良庵が来て、綾が落としていった三味線を弾きながら、万二郎に話しかける。三味線を弾くのはアニメオリジナルで、良庵の粋な性分が出ている。
万二郎から、夜明けに突入すると聞いた良庵は、忙しくなるな、とぼやく。ここもアニメオリジナル。

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そして明け方、万二郎は作戦を開始する。号令をかけた後、万二郎が走って前に出るのは、原作の行間を埋めるアニメオリジナルで、やはりキャラの掘り下げが上手い。

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だが、いざ真忠組の浪士達を前にすると、農民の寄せ集め軍隊である万二郎の隊員達は怖がる。そんな彼らを万二郎は、訓練を思い出せ、自分が先行すると鼓舞する。ここはアニメオリジナルで、万二郎の魅力を引き出している。

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見事な指揮と、よく訓練された射撃力で、万二郎の隊は真忠組を圧倒していく。ほぼ原作通りだが、高屋敷氏は、ムーの白鯨(脚本)ほか理詰めの凝った作戦が好み(もっとも、厶ーの白鯨は敵側の作戦だが)。

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弓隊や入口の敵を討った万二郎達は、真忠組本陣の旅籠・大村屋に突入。
ここは万二郎の剣の腕の見せ所。ここも話をスピーディーにするため、アニメでは改変が見られ、テンポがいい。

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2階に進んだ万二郎は、音次郎と対峙し、父の仇を討つ時が来たとして名を名乗る。万二郎を思い出した音次郎は、面白いとして勝負を受ける。ここも、アニメでは話のテンポを重視した調整がある。

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綾はどうした、と音次郎は万二郎に尋ね、万二郎は、彼女は代官所に連行されたと答える。ここはアニメオリジナルで、妹を案じる音次郎がよく掘り下げられている。

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万二郎は音次郎に額を斬られピンチになるも金属製の鈍器で音次郎の刀を受け、その際音次郎の腹部を刺す。この時、音次郎が「綾」と口にするのはアニメオリジナル。ここもキャラの掘り下げ。

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綾はお前の何なのだと問う万二郎に、「俺の妹だ」と音次郎は答え(アニメオリジナル)、捨て身の反撃に出るが、万二郎に更に斬られて転落し死亡(原作だと首を斬られる)。アニメでは楠兄妹の悲劇性が増している。

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綾が音次郎の妹という事実にショックを受けつつ(アニメオリジナル)、万二郎は気絶。その後、万二郎は良庵に手当てされる。原作では平助が万二郎を良庵のもとに運ぶが、アニメでは部下達が彼を運んだ。ここも平助まわりの調整が丁寧。

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良庵が臨時の治療所として借りている飯屋の店主は万二郎を案じるが、命に別状はないと良庵から聞き安堵する(アニメオリジナル)。原作では、ここの店主の役回りは平助。ここも調整が上手いし、モブを大事にする高屋敷氏らしい。

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そこへ万二郎を慕う部下である辰蔵、権十、清吉が来て、自軍の大勝利を報告するが、「これだけ人を殺して、これだけ怪我人を出して、どこがめでたいんだ!」と良庵に一喝される。怒りの感情は、カイジあしたのジョー2(脚本)でも強調が凄い。

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意識が戻った万二郎は、素直に良庵に感謝し(アニメオリジナル)、良庵は、傷口が開くから喋らなくていいと返す。
原作では万二郎が平助に、逃げるよう促すが、アニメでは平助がいないぶん、良庵と万二郎の友情にスポットが当てられている。

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後日、万二郎は勝海舟から作戦成功を褒められる。原作だと万二郎の包帯が取れるまで大分かかるが、アニメでは短縮。また、アニメオリジナルで、幕府が新規導入を決めたスペンサー銃について解説が入るのが丁寧。

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そして勝海舟は、万二郎の大隊長昇格と昇給を告げる。
自宅に戻った万二郎は、母のとねと共に、仏壇の父に昇格を報告。万二郎は、幕府の支柱になろうと奮起するのだった。ここはアニメオリジナル。時代を説明するアニメオリジナルナレーションも上手い。

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  • まとめ

 今回も、アニメオリジナルの多さと、そのクオリティの高さに圧倒される。しかも、そのアニメオリジナルが、原作の雰囲気を全く損なっていない。原作未読なら、原作通りの部分とアニメオリジナル部分の見分けはまず不可能だろう。

 そして、ちょっとの隙間さえあればグッとキャラを掘り下げるアニメオリジナルを入れられる、高屋敷氏の才能と技術が炸裂している。メインからモブに至るまで、それが適用されているのが、また凄い。

 今回、特にアニメオリジナル多めで掘り下げられたのは、音次郎と綾である。アニメでは、音次郎が実は妹思いであるというのが前面に出ており、善悪のラインを明確にしない高屋敷氏のポリシーが出ている。

 また、RAINBOW-二舎六房の七人-(高屋敷氏シリーズ構成・脚本)では、アニメオリジナルで昇(メインキャラの一人)に妹がいたことになっていて、妹思いだった過去が付加されている。高屋敷氏自身の、家族に対する思いもあるのだろうか?

 あと、アニメオリジナルの、鳥の意味深描写も興味深い。あらゆる高屋敷氏担当作で、鳥は頻出。また、ルパン三世2ndの高屋敷氏演出/コンテ回には、鳥が重要な役割をするものがあり、面白いところ。

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 そもそも、まんが世界昔ばなしで高屋敷氏は、「幸福の王子」の演出/コンテを担当しており、鳥(ツバメ)の健気さと悲劇を描いている。とにかく同氏の、鳥に対する思い入れは強い。

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 もともと、高屋敷氏が長年一緒に仕事した出崎統氏が鳥を好むが、高屋敷氏はそれとも若干異なり、一羽一羽にドラマを持たせる傾向がある。そのこだわりは並々ならぬものがある。

 出崎統氏の影響を強く受けながらも、高屋敷氏は、自分の個性を発揮している所が凄い所で、それは出崎統氏の監督作品でも変わらないというか、出崎統氏もそれを推奨している所がある。

 じゃりン子チエ(高屋敷氏脚本陣)監督時の高畑勲氏もそうだが、独自色が強いと思われている巨匠は、意外とスタッフの個性の突出を容認している。そこも、監督以外に目を向ける(私の場合は高屋敷氏)と見えてくるのが面白いところ。

 本作監督の、杉井ギサブロー氏もそんな巨匠の一人。この年代(2000年代)では高屋敷氏もベテランの域だが、高屋敷氏を通じて見える巨匠達の姿もまた、新鮮な発見と言える。

 今回で、本作における高屋敷氏脚本回は最後。密度の濃い原作を圧縮しつつ、毎度秀逸なアニメオリジナルを入れ、キャラを掘り下げていく手腕は本当に見事だった。特にアニメオリジナルの多さに驚かされた。

 ちなみに今回描かれた、幕府主体の軍と真忠組の戦いは実際にあった出来事で、楠音次郎は実在の人物(綾は架空)。
ただし、陽だまりの樹の描写は原作・アニメとも結構史実とは異なっているので少し調べると(真忠組で検索)面白い。