カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。ツイッターアカウントは@makimogpfbです。

陽だまりの樹15話脚本:物語の裏側

アニメ『陽だまりの樹』は、手塚治虫氏の漫画をアニメ化した作品。激動の幕末期を生きた、武士の万二郎と、蘭方医の良庵の物語。監督は杉井ギサブロー氏、シリーズ構成は浦畑達彦氏。

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  • 今回の話:

サブタイトル:「投獄」

コンテ・演出:渕上真氏、脚本:高屋敷英夫氏。

安政の大獄に巻き込まれて万二郎は投獄され、藩にも見捨てられてしまう。
そんな万二郎を救うべく、良庵が動く。

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開幕、安政5年の夏の終わりを告げるナレーションがアニメオリジナルで入る。高屋敷氏は季節感を大切にする。グラゼニおにいさまへ…カイジ2期(脚本)と比較。

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万二郎は突然、奉行所に呼び出される。
万二郎を見送ったとね(万二郎の母)は、下駄の鼻緒が切れて不安になる(アニメオリジナル)。
不吉を知らせる描写は、しばしば見られる。
おにいさまへ…蒼天航路(脚本)と比較。

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奉行所に着くと、万二郎は捕えられてしまう。奉行の吉田によれば、万二郎には倒幕を企てた容疑がかかっているという。
原作では、万二郎が捕えられるまでの複雑な過程があるが、アニメに出ないキャラの関係で、かなり調整されている。

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吉田は佐伯(府中潘江戸詰家老)を呼び、万二郎は府中藩の武士かと確認を取るが、佐伯は、万二郎は脱藩扱いになっているとシラを切る。万二郎は絶望。
原作とシチュエーションが異なっており、過程がスピーディーになっている。

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一方とねは、万二郎が帰って来ないことを良庵に相談。そこへ府中藩の使いが来て、万二郎は脱藩扱いになったと告げる。ここで良庵は、万二郎が奉行により捕えられたと知る。
ここはアニメオリジナル。原作に描かれなかった、良庵側の状況が見られ面白い。

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これを受け、とねは、万二郎の剣の師匠で友人・山岡鉄太郎を頼ることにする。アニメでは山岡の出番がかなり削られているため、良庵との接点が薄く、良庵は、とねから山岡に関する説明を受ける。
ここもアニメ側の細かな調整が見られる。

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その後良庵は、南町の同心である保谷と、岡引の伝吉に呼び出され、万二郎は幕府の派閥争いに巻き込まれただけで無実である可能性が高いと知らされる(アニメオリジナル)。
夕焼けがドラマを盛り上げるのは多い。RIDEBACKおにいさまへ…(脚本)と比較。

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一方、万二郎は酷い拷問を受ける。
その後彼は、牢医の堂玄の診察を受ける。万二郎は、堂玄の無口さを訝しむ。
ここは色々原作をカットし、展開のテンポが重視されている。

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どんなに拷問を受けても罪を認めない万二郎を持て余した吉田は、佐伯に相談する。佐伯は、万二郎は本当に何も知らないのではないかと言う。
それを聞いた保谷は、良庵に報告。
ここもアニメオリジナル。事件の良庵側が上手く描かれている。

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そして万二郎が投獄されている所に、橋本左内(一橋派の福井藩士)が入獄。橋本は万二郎に、幕府で行われている派閥争い(井伊直弼による安政の大獄)を説明する。それを聞いた万二郎は、こんな所で朽ちたくないと嘆く。ここも、原作をうまく簡潔にしている。

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再び堂玄の診察を受けた万二郎は、薬の包み紙に書かれた文に気づく。そこには、助かるにはコレラにかかるしかないと書かれていた。意味を理解した万二郎は、意を決し薬を飲む。
原作では、万二郎は先に薬を飲んでから文を読み慌てるが、アニメでは万二郎の武士らしさが出ている。 

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部下と堂玄から、万二郎がコレラにかかったとの報告を受けた吉田は慌て、直ちに万二郎を牢から出すよう命じる。こうして、コレラ死扱いになった万二郎は牢から運び出される。橋本左内がそれを見守るのはアニメオリジナル。橋本は後に処刑されるため、哀悼の意があるのだろうか。

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棺に詰められ運ばれた万二郎を、良庵が出迎える。
全ては良庵の策であり、堂玄は良仙(良庵の父)の友人で協力者。良庵の軽口はアニメのアレンジも入り軽妙。新ど根性ガエル(脚本)の寿司職人・梅さんの軽口を思わせる。

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コレラと似た症状を出すためとはいえ、大量の虫下しを飲まされたことに万二郎は腹を立てるが、衰弱しているため転ぶ。
高屋敷氏は、子供っぽいやりとりが得意。
F-エフ-・新ど根性ガエル(脚本)と比較。

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転んだ万二郎を、とねが優しく迎える。優しい手の表現は、色々な作品に見られる。蒼天航路(脚本)、家なき子(演出)と比較。

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万二郎が運び込まれたのは山岡の家であり、山岡・保谷・伝吉が万二郎に状況を説明。アニメでは、保谷が、不当な投獄に疑問を持つ、気持ちのいい人物であることが強調されている。

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ひとまず入浴した万二郎は、とねから、家を差し押さえられて山岡の世話にならなければならない旨を伝えられる。原作の万二郎は、これを山岡の妻から聞く。
アニメでは、とねの出番が増やされている。

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その後万二郎は、山岡や保谷から、水戸に行って助けを請うよう勧められる。
とねの促しもあり、万二郎は水戸行きを決心する。アニメでは、井伊直弼汚職疑惑の一連がカットされた分、展開が速い。

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そして山岡、良庵、とねに見送られ、万二郎は水戸へと出発するのだった。アニメではロケーションが、町の目印の大樹の下に変更されている。意味深な木の描写は、RAINBOW-二舎六房の七人-・じゃりン子チエ(脚本)などにも見られる。

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  • まとめ

 アニメでは平助(万二郎を慕う猟師で、戦闘力が高い)が出ないため、彼が関わるエピソードをごっそり削り、その穴を埋める必要があるのだが、それが上手くできており唸らされる。

 またアニメでは、投獄された万二郎を救うべく奔走する良庵側の描写が見られるのが面白い。
しかもそのアニメオリジナルが、まるで原作にあるかのように自然で驚かされる。

 おにいさまへ…(高屋敷氏脚本・シリーズ構成陣)でも、蕗子(学園の女王様的キャラ)を掘り下げるために完全アニメオリジナル3連エピソードがあるが、その脚本を高屋敷氏が書いている。
やるとなると、同氏は強力なアニメオリジナルを出してくるのが凄い。

 高屋敷氏の書くアニメオリジナルは、原作がある場合は原作をよく噛み砕いているのが特徴。
それは、まるで原作にもあると思わせるほどのレベルで秀逸なのが(いい意味で)恐ろしい。
決して自己満足のためにやっているのではないのがわかる。

 原作クラッシャーとして有名な出崎統氏と長年仕事した高屋敷氏は、その影響も受け、アニメオリジナルを炸裂させる時は炸裂させるが、「アニメではこう描写してきたから、アニメのキャラはこう動くのだ」という強い意志と、そのための計算が見られる。

 まず自分のカラーに全体を大胆に染める出崎統氏とは違い、高屋敷氏は、アニメにするに際して改変と追加が必要な所を分析し、細かな調整を行う傾向が見られる。これは、原作に忠実なのにスタッフの個性が輝く、じゃりン子チエの脚本を同氏が多数書いたのが大きいと思っている。

 何回か書いているが、じゃりン子チエ監督の高畑勲氏は、原作に忠実なのにアニメスタッフの個性を出すことが出来るという不思議な力と技術を持っていた。その強い影響も受けた高屋敷氏が、同じような力を持つことは不思議ではない。

 出崎統氏の、「アニメオリジナルに乗せる強い自分の意志」と、高畑勲氏が持つ「原作に忠実なのにスタッフの主張をじわじわ出す」能力。
高屋敷氏は、これらを使い分けるか、両方使うことができるのが凄まじいところ。

 出崎統氏、高畑勲氏という巨匠の技術を使って、漫画の神様である手塚治虫氏の原作を改変し、アニメオリジナルを入れる。
本作において高屋敷氏が振るう技は、やはり非常に高度だと感じた。