飛べ!イサミ6話脚本:ハイブリッドな魅力
オリジナルテレビアニメ『飛べ!イサミ』は、新撰組の子孫であるイサミが、先祖が遺した、光る剣で悪と戦う活劇。総監督は杉井ギサブロー氏、監督は佐藤竜雄氏、シリーズ構成は高屋敷英夫・金春智子氏。
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- 今回の話:
サブタイトル:「RX95の秘密」
脚本:高屋敷英夫氏、コンテ/演出:福本潔氏。
エネルギー研究所から盗んだ人工危険物質RX95をロボットのおもちゃに隠し、犯罪組織が取引を図るが、それを偶然ケイ(イサミの同級生で新撰組の子孫・トシの弟)が手にしてしまう。
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冒頭、悪の組織・黒天狗党は、エネルギー研究所が開発した新人口物質RX95を入手するべく会議を行う。
蝋燭の炎が映るが、火による「間」は多い。陽だまりの樹・F-エフ-・カイジ2期(脚本)と比較。
研究所のRX95を現金と取引すべく、黒コートの男は公衆電話で取引相手と話すが、途中、警官が通りかかり慎重になる。だが、警官はくしゃみをして通り過ぎる。味のあるモブ警官は、怪物王女(脚本)や家なき子(演出)など目立つ。
日曜、イサミ、トシ・ソウシ(イサミの同級生で新撰組の子孫)、ケイ(トシの弟)、はるか(イサミ達のクラスの担任)は動物公園に行く。
ソウシは、はるかに恋人がいないという情報を上手く引き出す。
口が上手いキャラは、陽だまりの樹(脚本)や家なき子(演出)など多数。
動物公園のある駅前では、ガンバロボ(劇中の人気ロボット)のおもちゃに隠されたRX95をゴミ箱に入れ取引するべく、犯罪者達が準備する。
交渉劇が好きなのか、高屋敷氏は、交渉が話のキーとなるワンナウツやグラゼニのシリーズ構成・脚本を手掛けている。
RX95と現金を、ゴミ箱を使い犯罪者達が交換しようとする直前、数馬(イサミの叔父で刑事)のパトカーが止まり、犯罪者達は動揺する。
警察官キャラの関わりは、ルパン三世2nd・じゃりン子チエ(脚本)でも上手く使われる。
偶然を装い、数馬は、はるか目当てに、イサミ達と動物公園に行く流れに。
数馬が、はるかにベタ惚れなのは、ど根性ガエル(演出)の、梅さん(寿司職人)が、よし子先生(英語教師)にベタ惚れなのと重なる。ちなみに高屋敷氏は、梅さんが、よし子先生に出会う回の演出担当。
実はソウシと数馬は裏取引し、ソウシが、数馬と、はるかのデートをお膳立てした形。ついでにソウシは、はるかがフリーなことも数馬に教える。
有償・無償様々だが、家なき子(演出)、あしたのジョー2(脚本)ほか、恋のアシストは色々な作品で印象的。
ケイは、食べていたポテトチップがなくなり、袋をゴミ箱に捨てる際、RX95が入ったガンバロボを見つけ、拾ってしまう。
高屋敷氏の脚本は5W1Hがしっかりしており、キャリア初期のガンバの冒険の脚本でも、その傾向が見られる。
イサミ達が動物公園に向かった後、RX95をめぐる面々は一同に会しパニックになるが、とにかくイサミ達を追うことに。
反社や悪役でも愛嬌があるのは、チエちゃん奮戦記・トンデケマン(脚本)ほか色々な作品で強調されている。
ソウシは、恋の手伝いの返礼として、アイスを子供達に奢るよう数馬に要求し、泣く泣く数馬は現金をソウシに渡す。
金にシビアなのは、家なき子(演出)や、オヨネコぶ~にゃん(脚本)など、かなり見られる要素。
そこに、上司から、エネルギー研究所からRX95が盗まれたという電話があり、数馬は現場に行くことに。
泣くあたり、元祖天才バカボン(演出/コンテ)や、ど根性ガエル(演出)と重なってくる。
RX95は、少しの衝撃で高温の竜巻を発生させてしまう危険があり、それが入ったガンバロボを振り回すケイを見て、犯罪者達は肝を冷やす。
ここも悪役の愛嬌。MASTERキートン(脚本)、宝島(演出)と比較。
さらにケイは、ガンバロボを放り投げ、犯罪者達はビビり散らすが、幸い、トシがガンバロボをキャッチする。
忍者戦士飛影(脚本)、ガイキング(演出)など、リアクションがコミカルな悪役も結構見られる。
トシは、ガンバロボの腕の中に隠されたRX95を見つけ、「Rかける引く95」と読み、イサミにツッコまれる。
おバカネタは、オヨネコぶ~にゃん(脚本)、忍者マン一平(監督/脚本/コンテ)ほか、しばしばある。
その後ケイは、犯罪者達から、やりとりの末に10万円でガンバロボを売ってくれと言われるが、金を持ってるように見えないと言って、ケイはそれを断る。
しっかりした子供の活躍は、じゃりン子チエ・めぞん一刻(脚本)など色々ある。
犯罪者達は、こうなったらとケイを捕まえようとするが、ケイは逃げ、それを見たイサミ達も追う。
犯罪者達とのチェイスは、家なき子(演出)も印象的。
ケイは関係者専用の建物内に逃げ込むが、その建物はワニの展示場に繋がっており、追ってきた犯罪者達は散々な目に遭う(ケイはドアにつかまり無事)。
ワニは、あんみつ姫(脚本)や、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)でも出てくる。
イサミ達はケイと合流し、ケイからガンバロボが狙われていることを聞く。
それをよそに、はるかはナマケモノに見入る。
動物による「間」は、家なき子(演出)やRIDEBACK(脚本)ほか様々な作品に見られる。
あと、滝が映るが、滝は高屋敷氏の演出作・脚本作ともに多々見られ興味深い。そもそも、高屋敷氏が長年一緒に仕事した出崎統監督も滝を好む。
宝島(演出)、おにいさまへ…(脚本)、エースをねらえ!(演出)と比較。
ともあれ、イサミ達は食事をとることに。数馬から貰った金を有効利用すべく、トシはハンバーガーを沢山食べる。
飯テロは頻出。RIDEBACK・F-エフ-(脚本)と比較。
店内のテレビの野球中継に、トシは喜ぶ。
高屋敷氏は野球経験者で、無類の野球好き。グラゼニやワンナウツといった野球アニメのシリーズ構成・脚本を務め、他でも野球ネタが数多い。
しかし、野球中継が中断されてニュースが始まる。
トシとイサミは少し言い争いになるが、ソウシが止める。
素直になれない関係は、F-エフ-(脚本)ほか時折クローズアップされる。
イサミ達は、ニュースでRX95の件を知り慌てるが、いつの間にかケイがいない。
単独行動したケイは、犯罪者達に見つかってしまう。
サングラスの表現は、F-エフ-・マイメロディの赤ずきん(脚本)ほかにもある。また、高屋敷氏が演出参加したエースをねらえ!にもある。
ケイは咄嗟に、警察が来たと嘘をつき逃げる。
咄嗟の知恵は、アンパンマン(脚本)のばいきんまんや、はじめの一歩3期(脚本)の沢村(一歩の対戦相手)ほか、上手いものが多い。
イサミは数馬に、RX95の件とケイの危機を電話する。数馬は驚き、何よりも、はるかの安否を心配する。
あしたのジョー2・おにいさまへ…・RIDEBACK・グラゼニ(脚本)ほか、高屋敷氏は電話を割と重視する。
動物公園に警官隊と共に舞い戻った数馬は、園内アナウンスで、はるかと来園者全員に避難を呼びかける。
アナウンスは、ど根性ガエル(演出)や、らんま1/2(脚本)などでも効果的に使われる。
マイクを取られ困惑する動物公園スタッフに、数馬はRX95の危険性を訴えるが、それが園内にも流れたためパニックに。ソウシは呆れる。
顔に手をやって呆れるのは、ワンダービートS・ルパン三世3期(脚本)ほか割とある。
ケイは木に登るが、追ってきた犯罪者の重みで枝は折れる寸前。下にはライオンがいるというピンチに陥る。
二重三重のピンチは、家なき子(演出)でもうまく演出されている。
とうとう枝が折れるが、犯罪者がケイを足でつかむ。残りの犯罪者と、駆けつけたイサミ達は、ケイを足でつかんでいる犯罪者を応援する。
落下のピンチは、新ど根性ガエル(脚本)などにも見られる。
落ちそうな犯罪者とケイを救うべく、皆は一致団結する。
質が悪かったり、かなり悪どいはずのキャラの憎めない面は、宝島(演出)や陽だまりの樹(脚本)ほか、強く描写される。
なんとかケイと犯罪者の救出に成功した皆は、握手して喜び合う。
握手ほか、手による感情表現は頻出。オヨネコぶ~にゃん・ルパン三世2nd(脚本)と比較。
それはそれとして、RX95を渡せと、犯罪者達はイサミ達に銃を向ける。
ソウシは一旦、ガンバロボを叩きつけると脅すが、命が惜しいからと、ガンバロボを犯罪者達に投げる。
大人を翻弄する子供は、じゃりン子チエ・新ど根性ガエル(脚本)ほか多い。
お前達はロクな大人にならないと捨て台詞を残し、ガンバロボをキャッチした犯罪者達は去る。だが、ソウシは既にRX95をガンバロボから抜き取っていた。
出し抜きトリックは、アンパンマン・ワンナウツ(脚本)ほか描写が巧み。
一方数馬は、長々とナマケモノに見入ったままのはるかに、避難を勧告し、RX95を探す。
マイペースキャラに翻弄されるのは、ルパン三世2nd(演出/コンテ)ほかにも見られる。
ようやくガンバロボにRX95が入っていないのに気付いた犯罪者達は怒り狂って、イサミ達のもとに戻ってくる。
怒りの発砲は、ルパン三世2nd・元祖天才バカボン(演出/コンテ)などにもある。
それが想定内だったイサミ達は、トラップを仕掛けていたが、トラップの音がした位置を正確に撃つ犯罪者リーダーを評価する。
意外に射撃が上手いおじさんは、ルパン三世2nd(脚本)や宝島(演出)などにも出る。
イサミ達は、自分達しんせん組の決め台詞を言いつつ姿を見せるが、決め台詞は所々間違う。
トリオのコミカルなやりとりは、じゃりン子チエ・ルパン三世2nd(脚本)ほか上手い。
対峙する犯罪者リーダーと、(新撰組が遺した)光る剣を発動させたイサミだったが、犯罪者リーダーの銃がジャムを起こし、その間にイサミが彼らを剣の力で痺れさせ倒す。
不可抗力で悪役が敗北するのは、アンパンマン(脚本)などにもある。
駆けつけた数馬ら警察に、犯罪者達とRX95は確保され、名を残した、(イサミら)しんせん組のお手柄が報じられる。
その後数馬はイサミ達と、はるかにラーメンを奢るが、はるかだけ豪華。
ここも飯テロ。コボちゃん・グラゼニ(脚本)と比較。
はるかだけ優遇されることをイサミ達に抗議された数馬は、好きな物を頼んでいいと開き直るが、結局餃子一皿追加にとどまり皆を脱力させる。
独身男性のケチさネタは、新ど根性ガエル(脚本)などにもある。
黒天狗党は、RX95盗難の裏に自分達がいることが警察に知られていないことを確認しつつ、しんせん組の正体を引き続き探るのだった。
ここも火の描写。おにいさまへ…・コボちゃん(脚本)と比較。
- まとめ
相変わらず、一話内に入っている情報量が多い。特にRX95の争奪戦にイサミ達が巻き込まれる過程や、ソウシが数馬に、はるかとのデートをセッティングしてあげる工程などが実に細かく丁寧。
また先述の通り、ど根性ガエルの、梅さん(寿司職人)が、よし子先生(英語教師)に一目惚れする回の演出が高屋敷氏なわけで、そのネタが本作(飛べ!イサミ)に活かされているのが面白い。
恋愛模様もさることながら、犯罪者達とイサミ達のチェイスも色々と二転三転し面白い。ケイ救出に敵味方一致団結するのも、善悪の境界を明確にしない高屋敷氏のポリシーが色濃く出ている。
高屋敷氏が演出陣である宝島では、宝をめぐって色々な勢力の複雑な関係と戦いが描かれる。その経験も、同氏の中には相当にあるのではないだろうか。
そもそも高屋敷氏のキャリアの始まりである、あしたのジョー1(演出や脚本の手伝いや、制作進行)はボクシングもので、対戦相手やライバルの心理描写は複雑。リング上では善悪より、ボクシングの強さだけが全てだ。
それもあってか、高屋敷氏は主人公以外のキャラ、敵役からモブに至るまで、思い入れが強いというか、その内面を際立たせる。同氏はキャラの掘り下げが非常に上手いが、それとも関係してくる。
あと、再三書いているが、高屋敷氏は5W1Hがしっかりした話作りをする。
今回のケイのポテトチップのくだりあたりもだが、何がどうなってどうなるかの筋道が巧み。
複数プロットを捌いてそれらを合流させ、多段オチまで用意する余裕すらある構成もやはり流石。
それを彩るコミカルなやりとりも秀逸で、筆のノリの良さが感じられる。
これらの高屋敷氏の技術は、度々書いているが、じゃりン子チエの脚本で磨かれたのが大きい。
じゃりン子チエの同氏脚本担当本数は20本以上で、同氏キャリアの中でも屈指の多さ。
高屋敷氏の最多担当本数はシリーズ構成・全話脚本のF-エフ-(31本)だが、その前が、じゃりン子チエの脚本担当本数の多さになる。
じゃりン子チエの高畑勲監督こそ、理論と思考と技術と計算の権化で、その下で脚本を書いた高屋敷氏が何を研ぎ澄ましたか想像に難くなく、それほどまでに、じゃりン子チエは高度な技術の塊だ。
極論を言えば、じゃりン子チエがなければ、高屋敷氏がアカギ・カイジ・ワンナウツといった、複雑なプロットと知略だらけのアニメのシリーズ構成・脚本を務めることもなかった。
もともと、じゃりン子チエ以前も高屋敷氏は綿密に練られシステマチックな脚本を書く傾向があったが、この同氏の持ち味が鍛えられ磨かれたのが、じゃりン子チエと言える。
様々なキャラにドラマがある、あしたのジョーのスピリッツと、じゃりン子チエの高畑監督の非凡な論理的思考は、高屋敷氏の中で見事に融合している。
同氏のハイブリッドさも、追っていくと興味が尽きない。