カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

RAINBOW-二舎六房の七人7話脚本:決意の拳

アニメRAINBOW-二舎六房の七人-は、安部譲二氏原作・柿崎正澄氏作画の漫画のアニメ化作品で、戦後間もない少年院に入所した七人の少年達のドラマ。監督は神志那弘志氏で、高屋敷英夫氏はシリーズ構成・脚本を務める。
今回の演出/コンテは矢嶋哲生氏。そして脚本が高屋敷氏。

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当ブログの、RAINBOW-二舎六房の七人-に関する記事一覧:

http://makimogpfb2.hatenablog.com/archive/category/%23%E4%BA%8C%E8%88%8E%E5%85%AD%E6%88%BF%E3%81%AE%E4%B8%83%E4%BA%BA

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  • 今回の話:

石原(凶悪な看守)と佐々木(少年院の医師)は、二人の悪事を知っている六郎太(少年院の二舎六房の古株でリーダー)を刑期満了前に抹殺しようと次々と手を打ち、遂には、六郎太達を助けてくれていた看守・熊谷を殺害。
二舎六房の熱血漢・真理雄は、皆で六郎太を院から逃がそうと提案する。

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石原(凶悪な看守)と佐々木(少年院の医師)は、二人の悪事を知る六郎太(少年院の二舎六房の古株でリーダー)を刑期満了前に抹殺すべく、独房で餓死させようとするが、六郎太は耐える。飢えによる苦しみは、あしたのジョー2(脚本)と重なる。

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石原の息のかかった入所者達に右拳を粉砕され入院中の真理雄(二舎六房の一人で、熱血漢)は、温厚な看守・熊谷から状況を聞き、憤る。
熊谷は「誰も死なせない」と誓う。カイジ2期・太陽の使者鉄人28号(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)など、若者に優しい大人は、色々な作品で印象深い。

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真理雄が入院中の病院には佐々木も務めており危険なので、熊谷は彼の早期退院を提案し、一旦、少年院へ戻る。

熊谷は密かに、六郎太の独房に食べ物を運ぶ。「生きるための食」は強く表現される。カイジ2期・蒼天航路陽だまりの樹(脚本)と比較。

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六郎太の反応が無いので独房を開けた熊谷は、体を拘束された状態でホースから水をかけられ続けている彼を見て愕然とする。佐々木の考えた仕掛けであった。助けようとする熊谷の背後には、いつの間にか石原が迫り…

夜、月が映る。全てを見ているような月は頻出。空手バカ一代(演出/コンテ)、はじめの一歩3期・F-エフ-(脚本)と比較。

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病院には、熊谷の代わりに石原が来て、熊谷が「事故死」したと真理雄と節子(看護婦)に告げる。彼が石原に殺されたことは明白であった。

節子は、真理雄の包帯を取り替えたいと機転をきかせ、彼と二人きりで話す時間を作る。

真理雄の包帯を替えながら、節子は涙を流す。手から手への意思伝達は多い。F-エフ-・ワンダービートSカイジ2期・おにいさまへ…(脚本)と比較。

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真理雄は、節子が六郎太を想っていることを悟り、六郎太を死なせないから、刑期を終えた彼を出迎えて欲しいと彼女に頼む。

右拳のアップがあるが(アニメの追加)、これも「手」による意思表示。グラゼニ・F-エフ-・おにいさまへ…カイジ2期(脚本)と比較。

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少年院へと戻る車の中、必ず六郎太を助けると決意する真理雄は自分の手を見つめ、握る(アニメオリジナル)。これもまた、「手」が「語って」いる。
はじめの一歩3期・グラゼニカイジ(脚本)と比較。

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真理雄は二舎六房へと戻り、房の皆から歓迎される。
このあたりで、布団の「間」がある。こういった「物言わぬ物の間」は、数々の作品に見受けられる。DAYS・グラゼニ・F-エフ-・花田少年史(脚本)と比較。

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房の皆は、真理雄から事情を聞く(アニメでは、台詞が色々追加されている)。なんとなく、やりとりも絵面も、カイジ2期(脚本)の45組と重なってくる。あと、今回の演出/コンテの矢嶋哲生氏は、カイジ2期にも演出やコンテで参加している。

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真理雄は立ち上がって拳を握る(原作通りだが、構図は異なる)。このあたりも、「手」による感情表現。おにいさまへ…(脚本)、宝島(演出)、グラゼニ(脚本)と比較。

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彼は、六郎太をここから逃がそうと提案。皆は賛成し、龍次(眼鏡の頭脳派)は計画を立てる準備をする。

一方佐々木は、熊谷を殺したのは浅はかだったと石原を殴り飛ばし、自分の言う通りに動けと凄む。豹変ぶりが、やはりカイジ2期(脚本)の大槻班長と重なってくる。

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石原は錯乱し、六郎太は必ず出所前に死ぬという佐々木の言葉を反芻して鏡を見つめる。鏡を見るのはアニメオリジナル。
真実や状況を映す鏡は、高屋敷氏の担当作によく出てくる。おにいさまへ…・F-エフ-(脚本)、ルパン三世2nd(演出/コンテ)と比較。

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二舎六房の皆は、龍次が隠し持っていた煙草を吸うことにする。
だが真理雄は煙草を見つめ、これは六郎太の分にすると言う。それを聞いた他の面々も、彼に倣う。
大切な物を持つ「手」のクローズアップも、数々の作品に見られる。カイジMASTERキートンあしたのジョー2・F-エフ-・チエちゃん奮戦記(脚本)と比較。

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結局、皆は1本の煙草を回し吸いすることに。ランプが映るが、状況や心情と連動するランプの表現は非常に多い。あんみつ姫おにいさまへ…RIDEBACK(脚本)と比較。

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六郎太と会えたことの尊さを噛みしめ、皆は一致団結する。
仲間愛は、他の高屋敷氏担当作でも前面に出される。カイジ2期・はだしのゲン2・DAYS(脚本)と比較。

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真理雄は、六郎太を逃がす計画を胸に、前へと足を踏み出すのだった。
「前へ進め」は高屋敷氏のテーマの一つで、踏み出す足の強調は、しばしば見られる。カイジ2期・グラゼニはだしのゲン2(脚本)と比較。

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  • まとめ

全編にわたって印象深いのは、「手」による感情表現。何度か書いているが、ワンダービートS20話(脚本)には「手は第二の脳と言われている」という台詞があり、いかに高屋敷氏が「手」を大事にしているかがわかる。

特に、節子の手の加減で、(六郎太を想う)節子の心情を真理雄が察する改変場面は、手と手のコミュニケーションを重視してきた高屋敷氏の姿勢が感じられる。
おにいさまへ…38話(脚本)では、愛する人=最期に手を握っていてくれる人という概念が出るほどに、「手」の役割は重い。

錯乱した石原が、鏡にその身を映すことで心を静めようとする場面も目を引く。前述の通り、鏡は多くの作品に出て来ており、今回も、わざわざ改変してまで鏡を出しており、興味深い。

手・物・鏡・ランプ・月などなど、高屋敷氏の担当作は「物言わぬもの」による表現が多いのだが、今回も目立つ。演出作だけでなく、(絵を管理できない)脚本作にも表れる特徴なのが不思議だが、台詞だけに頼らないという、強い姿勢が窺える。

あと、熊谷の優しさについてだが、アニメでは所々強調が見られる。
原作には、「(私は)熊谷のような看守には、ひとりも巡り会えなかったのだ」という安部氏の述懐が書かれているが、高屋敷氏も、優しい大人に対して、何か個人的な思い入れがあるから、数々の作品で強く表現しているのかもしれない。

仲間の絆も、多くの担当作品でテーマに深く絡んでいる。
「皆がいるから自分がいる、自分がいるから皆がいる」という思いは、(高校の野球部の監督をするほどに)高屋敷氏が愛する野球がルーツとも考えられる。

勿論、「皆がいるから自分がいる、自分がいるから皆がいる」という考えの根幹には、高屋敷氏のテーマの一つ「自分とは何か」も大きく関わってくる。他者から見た自分、自分から見た他者…というものもまた、多くの担当作品で同氏は描く。

六郎太がいなければ、ほかの6人は「人間としての自己」に気付けなかった…とも言える。
だからこそ、大きなリスクがあっても彼等は六郎太を助けようとするし、六郎太もまた、皆を想うことで生きる気力を絞り出す。この関係が「絆」なのだと感じられた回だった。