カイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんの軌跡

アニメカイジのシリーズ構成・高屋敷英夫さんに興味を持って調べてみたら、膨大な量の担当作があることがわかりましたので、出来る限り同氏担当作を追跡しています。discordアカウントは、まきも#3872 です。

柔道讃歌8話コンテ:画面に出る経験

アニメ『柔道讃歌』は、梶原一騎氏原作、貝塚ひろし氏画の漫画をアニメ化した作品。小柄な巴突進太が、柔の道を突き進む話。監督は吉田茂承氏。今回の脚本は伊東恒久氏で、コンテが高屋敷英夫氏、演出が石川輝夫氏。

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  • 今回の話:

利鎌(柔道部特別コーチ)が課した地獄の特訓をクリアした突進太だったが、県大会へのメンバーには補欠として選出される。
何としても試合に出るべく、突進太は密かに特訓するのだが…

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前回のおさらい後、朝陽が映る。開幕に太陽が出るのは、高屋敷氏担当作の定番。
まんが世界昔ばなし・空手バカ一代元祖天才バカボン(演出/コンテ)と比較。いずれも開幕場面。

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前日に地獄の特訓をクリアした突進太は眠りこける。無邪気に眠る姿は、よく強調されるし、アニメオリジナルも多い。ハローキティのおやゆびひめ・ストロベリーパニック(脚本)、宝島(演出)と比較。

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起きた突進太は、母・輝子(元は名柔道家。現在は漁業従事者)の作った朝食をもりもり食べる。おいしそうな食事場面や飯テロは、非常に多い。F-エフ-・グラゼニ(脚本)、宝島(演出)、カイジ2期(脚本)と比較。

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また、母子の微笑ましい朝食場面は、ど根性ガエル(演出)でもよく出ており、絵面的にも重なるものがある。ど根性ガエルの経験を活かしているのではないだろうか。

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県大会へ向けて自信満々の突進太を見て、輝子は吹き出す。
高屋敷氏は、ニュアンスがある笑顔を出す傾向があり、アニメオリジナルで追加する場合もある。グラゼニ・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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輝子は、まず出場メンバーに選ばれる必要があると説き、「しっかりおやり」と言う。少年の背中を押すタイプの母親は、F-エフ-(脚本)や宝島(演出)でも前面に出ている。

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そして県大会出場メンバーが発表されるが、突進太は補欠。悔しさと怒りで、突進太は手を震わせる。手による感情表現は頻出。RAINBOW-二舎六房の七人-・グラゼニ(脚本)、宝島(演出)、ワンナウツ(脚本)と比較。

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突進太は道場を飛び出し、その後、自宅近くの浜辺で怒りをぶちまける。物や自然に八つ当たりする場面は、ストロベリーパニックカイジ(脚本)にもあり、重なるものがある。

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そこへ輝子が通りかかり、突進太は躊躇しながらも、レギュラーではなく補欠として選出された事を輝子に打ち明ける。ここの突進太は子供っぽい。高屋敷氏は、(年齢問わず)キャラの幼い描写に長ける。ワンナウツダンクーガ(脚本)と比較。

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更に突進太の子供っぽい所作は続き、輝子に背中を向ける。背中を向けたまま話す場面は、しばしば見られる。ワンナウツグラゼニ(脚本)と比較。

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突進太の話を聞いた輝子は笑い出す。キャラの満面の笑顔もまた、よく出てくる。意外なものも多い。
ワンナウツ蒼天航路(脚本)と比較。

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輝子は、補欠であっても選出された事はめでたい事で、試合に出れるように実力を見せればいいと、拾った突進太の鞄を彼に渡しながら励ます。手から手への感情伝達はよくある。MASTERキートンワンダービートS(脚本)と比較。

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輝子は、お祝いに、突進太の好きなカツオのたたきと赤飯を作ると言う。RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)、ど根性ガエル(演出)、花田少年史(脚本)ほか、おいしいごはんを作ってくれる母親の愛は強調される。

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突進太は、海に向かって自分の決意を叫ぶ。絵面が宝島(演出)と似ている。
時代順は本作→宝島であり、ここの何らかが宝島に継承されているのを感じる。

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張り切る突進太は、学校が終わると急いで下校する。テンション高く下校する場面は、ど根性ガエル(演出)にもあり、ここも過去作品の経験を活用しているのが窺える。

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大東坊(柔道部主将)は、道場に来ずに何をやっているのか突進太に問うが、突進太はそれを軽くかわす。ここはなんとなく、大東坊の所作がルパン三世2ndの高屋敷氏演出/コンテ回の銭形っぽい。

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大東坊は利鎌(柔道部特別コーチ)に、突進太が気になると力説。それを受け利鎌は、突進太が信用に足る男か見極めろと彼に命ずる。ここも、背中で語る。
RAINBOW-二舎六房の七人-・ワンナウツグラゼニ(脚本)、宝島(演出)と比較。

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突進太は一人、砂俵で巴投げの特訓をする。真剣な場面だが、ここでも、どこか所作が幼い。高屋敷氏の担当作は、とにかくキャラの所作が可愛くなる。ガンバの冒険(脚本)、まんが世界昔ばなし(演出/コンテ)と比較。

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突進太は何度も砂俵に押し潰されるが、めげずに起き上がる。ここも、手による感情表現が出ている。おにいさまへ…ワンナウツ・F-エフ-(脚本)と比較。

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一方、大東坊は、父親が交通事故で怪我をしたと聞き、病院に駆けつける。
ここは絵面や雰囲気が、ど根性ガエル(演出)に似る。状況がそうさせるのだが、高屋敷氏は色々と、病院場面に縁がある。

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翌日、突進太は、授業中に眠そうにしていることを利鎌にとがめられるが(彼は突進太の特訓を見通している)、寝ていないと主張。ここも幼い。宝島(演出)、ストロベリーパニック(脚本)と比較。

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引き続き、突進太は秘密特訓をするが、大東坊が現れて、砂俵が相手では意味が無いとして、練習台になってくれる(それを密かに利鎌も見守る)。
海の描写は、どこか宝島(演出)を思わせる。

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そこへ、大東坊の父の容態が急変したという知らせが入る。大東坊はそれを突進太には話さず、車に飛び乗る。ここの、大東坊の父の部下は味がある。おにいさまへ…めぞん一刻(脚本)、空手バカ一代(演出/コンテ)ほか、高屋敷氏は地味キャラに深みを持たせる。

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その後、突進太は輝子から、大東坊の父が輸血を必要としていることを知らされる。状況と連動する鳥は、色々な作品に出る。
ベルサイユのばら(コンテ)、F-エフ-(脚本)と比較。

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突進太は、血液型が同じなため、自分の血を大東坊の父に提供。大東坊の父の容態は安定する。医師の優しそうな所作が印象に残る。
宝島(演出)、ベルサイユのばら(コンテ)、F-エフ-(脚本)など、個性的な中高年キャラは数多の作品で目立つ。

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大東坊は突進太に感謝し、ふらつく突進太を抱き上げてベッドに乗せる。
ここも身長差を使った可愛さがあり、同様の効果が、ど根性ガエル(演出)にも見られる。

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大東坊が窓を開けると、朝陽が昇る(県大会の日になる)。全てを見ているような太陽の描写は頻出。おにいさまへ…・RAINBOW-二舎六房の七人-(脚本)と比較。

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県大会にて、利鎌は突進太に一番手を命じる。そして苦戦しながらも、突進太は巴投げで勝利。照明を効果的に使った構図は、空手バカ一代(演出/コンテ)と共通する。

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大東坊は、突進太の勝利を祝福するのだった。紙吹雪描写は、グラゼニ(脚本)にも出て来ており(紙吹雪はアニメオリジナル)、時代を超えたものを感じさせる。また、グラゼニの方は、効果的な心理描写にもなっている。

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  • まとめ

今回はコンテなので、キャラや状況の絵面を中心に見ていく。
初っぱなから、おいしそうに食事する場面があるのが、何とも(飯テロが得意な)高屋敷氏らしい。

あと、ど根性ガエルの演出経験が、ふんだんに取り入れられているのも感じられる。高屋敷氏は、自身の経験を存分に、その時その時の担当作に取り入れるので、現代の作品ともなると、本当に色々な作品と重なってきて面白い。

演出作でも脚本作でも、高屋敷氏はキャラの幼さ・可愛さを出すのに非常に長けるが、今回もそれが炸裂。特に突進太と輝子の会話場面は、突進太が実年齢より一回り幼く見えるし、そのための動作づけも凝っている。

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こういった、キャラの幼さ・可愛さを引き出すため、高屋敷氏の演出作では、短い手足をバタバタさせる工夫が見られるのだが、今回もそれが出ている。突進太は小柄なので、そういった演出が自然に見える。

また、手を使った感情表現は、今回のような70年代作品でも出ているのが確認できる。脚本作でも頻出するのは不思議だが、実際多いし、ワンダービートS(脚本)では「手」そのものの役割の話があるほどである。

鳥を使った演出も、効果的に使われている。コンテ作や演出作同士で絵面が似るのはわかるのだが、脚本作も画が重なってくるのもまた、不思議な所ではあるが面白い。

太陽についても、相変わらず強調が見られる。特に、県大会の日を告げる朝陽は印象的で、太陽や月に特別な意味持たせているのが、今回もわかる。
これも、70年代から現代に至るまで見られる特徴なので、高屋敷氏の思い入れが窺える。

照明を使った描写が凝っているのも、今回見受けられる。ランプや照明を効果的に使うのも、現代の高屋敷氏担当作に受け継がれており、数十年に渡る拘りを感じさせる。

高屋敷氏が長年一緒に仕事した出崎統氏は、コンテを作品の要としていたわけだが、高屋敷氏は途中(80年代初期)で、脚本に完全転向する。だが脚本作も、演出やコンテ作の経験が活きているのがわかる。

柔道讃歌における高屋敷氏の参加は、今回のみ。それでも、現代でも活用されている要素を沢山確認できた回だった。
ちなみに本作は、荒木伸吾氏や川尻善昭氏などが作画参加しており、その点でも貴重な作品。